4話 厄介事1
小さい頃正義の味方に憧れた。
テレビの中の彼らはどんな苦難にもめげず、どんな強敵とも戦い、勝利した。
自身の矜持に従い、命を懸け、人を助け、弱者を助け、悪を挫く。
テレビの中の彼らはどうしようもなく英雄でヒーローで正義の味方だった。
正義の味方にはなれない。歳を数える事になれないことに気づいてしまった。
理想は理想。現実は現実。
悲しいくらいに現実は残酷で正義の味方は望まれていなかった。
だがせめて手の届く範囲では正義の味方でありたいと願った。
生徒会長と別れた後駅前のスーパーで牛乳とコーヒーを買い自宅への道を歩いているとそいつは現れた。
どこからか視線を感じる。
「米倉さんおつかれさまです」
声のした方へ視線だけ投げる。声のした方の電柱からいかつい顔をした男が現れた。
スキンヘッドに、睨めつけられたら泣いている子供がますます泣き叫ぶであろう鋭い眼をした男、名前は同田吉春。南越高校の番長であり、自称俺の舎弟。
「なんだ同田か」
「なんだとはご挨拶っすね。携帯でお伝えしてもよかったんですが、ちょっかい出してた1年坊の粛清終わりやした」
「おう、悪いな」
「米倉さんが頭になってくれれば、この手の厄介事も少なくなるんですがね。どうですか。今からでも俺らの頭を張ってくれやせんか?」
「勘弁してくれ。俺は人を従えるような器じゃねぇよ。そういうのは得意なやつがやるもんだ。第一お前は南高。俺は北高だ。従えようにも地域が違いすぎるわ」
男は最初から答えが分かっていたであろうに、残念です。とだけ答え横を歩く。
「まだ何かあるのか?」
「へい。少々お耳に入れておきたいことがありまして……東の頭が変わったみたいで同盟を破棄してきやした」
無視できない情報であった。同盟といっても口約束みたいな物のためいつか破られるだろうと思っていたが半年か……思っていた以上に早かったな。
「北は不干渉が俺らの総意でしたが、頭が変わってそれが変わったようです。まだ北には影響はないようですが、先に南に縄張りを広げてきたのかこっちでは小競り合いが起きてやす」
「そうか…東のはどうなってる?」
「右足と左腕を複雑骨折、肋骨も3本ほど折られて意識不明の状態でやす。おそらく集団でやられたものかと」
ため息しか出てこない。聞けば聞くほど面倒な事だと感じさせられる。
「また厄介なことになりそうだな……同田の方で動かせるのは何人だ?」
「多く見積もっても……80人がいいところっすね」
順調に戦力を増やしているようだ、以前は50人くらいだったと思ったが。しかし北より南を先に行くとは……何か理由があるのだろうか。
「……30、いや15人でいいか。悪いが東の方に伏せといてくれ」
「ご迷惑おかけしやす。3人1組で動けるように回しておきやす。日時は明日で?」
「ま、こういうのは早い方がいいだろ。悪いな」
「俺を含めて北高の不良は米倉さんに救われたんす。このくらい反吐でもないっすよ」
「そんな大したことはした覚えはないんだけどな。俺がやらなかったら同田がやっていただろう」
な? と同意を求めたら曖昧な返事で濁された。難しいことなんて何もないと思うんだがなぁ……
「では、すいやせんがよろしくお願いしやす」
「精々怪我しないように立ち回るわ。余り期待はしないでくれ」
じゃあなと手を振り、自宅への道を歩いていく。
頭では明日どう面倒事を片付けるかという事に染まっていく。なるべく穏便に。なるべく面倒事が起きないように。
手を出すのは最後の手段にしたいところだ。
………
……
…
Side同田
「同田さん。あの人が例の?」
米倉さんと別れてから南へ戻る道に舎弟たちがいた。
バカだが可愛い俺の後輩たちだ。
「あぁ、一触即発の俺らをただ一人で止めたすげぇ人だよ」
「ぱっと見タッパのある人にしか見えませんがね。本当にあんなのが同田さんを止められたんすか? あんなん俺でも倒せそうな気がしますよ」
シュッシュとシャドーボクシングの真似事をしながら俺に言ってくる。
「1回目だから見逃してやるが、次あの人を侮辱してみろ。喋れねぇように歯全部叩き折っぞ」
後輩の髪を掴み睨みつける。
「す、すみません……」
「まぁ、俺も最初はお前と同じ印象だったがな。覇気らしい物はまったくない。タッパがあるだけでとてもじゃないが強そうには見えない。だが、あの人は誰とも組まず力で南西東全ての頭を平伏させたんだ。俺なんかじゃ足元にも及ばねぇよ。正直二度とやりあいたくねぇ……」
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