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1話 生真面目生徒会長との出会い

 青々と晴れた空に太陽が心地よい日差しを当ててくる。日差しにほんのり暖められたアスファルトに座り、落下防止のためにつけられた金網に背を預けぼーっとする。まさに絶好のサボり日和だった。

 学校はつまらないものだ。今でもそう思うし17年生きてきて過去そう思わなかったことはない。

 テストの点数に普段の態度。くだらない生徒間のグループ、教師に気に入られた奴こそが正義といわんばかりの場所。

 学校とは金太郎飴生産所みたいなものでしかない。


 だからこそこの変化は理解できない。

 なぜここにいるはずのない女子が授業をサボって学校の屋上にいる俺のところにいるのか。

 身長は俺の7割程度、150cmに届かないくらいだろうか。ほっそりとしたスレンダーな体に制服のブレザーを着込み、肩先まで揃えた髪に凛とした目、赤ぶち眼鏡をかけた女子。

 俺が通う北島高校の生徒会長がそこにはいた。

秋口の少し肌寒くも暖かな午後。彼女は当然のようにそこにいて俺に向かってこう言った。


「私は君が好きになった。だから私が君を更生させてみせよう!」


 めんどくさいことになった。そう思いながら眼鏡の奥から覗く彼女の真っ直ぐな瞳から俺は目を逸らし、買ってきた缶コーヒーに口をつけながらどうしてこんなことになったのか考えることにした。



 ふと思い出した。

 昨日いつも通り教師に授業態度を注意され学校から帰る途中、公園から下品な声とくぐもった声が聞こえたのが始まりだった。

 暗がりで顔はよく見えなかったが、見たことのある女子の制服と3人がかりで暴れる女子を押さえつける男が見えた。見てしまったものは仕方が無い。警察に通報したところで女子が乱暴されてしまうのは理解できた。


「お前ら何してんだ。」


 ドスの利いた声を3人組にかける。相手は肩をビクリと震わせたがこちらが一人と分かると、下品な声の連中は「お楽しみ」を邪魔されたのが気に障ったのか、こちらに振り向いた一人がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらこちらを見上げながら近づいてきた。


「俺らこれから楽しいことするんでさっさと消えてくんね? ウドの大木君」


 ヤニくさい息がかかり、不快指数が一気に溜まっていく。

 ため息一つ。これは面倒なことになると心の中で思いつつも、見過ごせなかった。


「見逃してやるからさっさと消えろ。犬だって自分の縄張りを理解するぞ。犬以下かお前ら」


「調子のんなや! やんのかこら! あ?!」


 先手必勝。近づいてきたやつの襟を掴んで鼻めがけて頭突きをお見舞いする。

ゴキャと嫌な音が耳に響きニヤついた男が一人声を上げてのた打ち回る。またやってしまったと思いながらも残る二人に向き合う。


「次はどっちだ。人の縄張り荒らして無事で帰れると思うなよ」


「てめぇ! ふざけんじゃねーぞ!」


「俺らを誰だと思ってんだ!」


「お前らが誰かなんてしらねーよっと!」


 猪のように突っ込んできた片方にカウンター気味に腹部に拳をめり込ませ、汚い茶髪を掴んで顔面に勢いよく膝をぶつけるとゴキリという音が鳴り赤い染みが膝にできる。

二人片付けたところでもう一度警告する。


「もう一度だけ言うぞ? 見逃してやるからさっさと消えろ」


「お、覚えてろよ! 顔は覚えたからな!?」


 相手の戦意は折れたのか仲間を連れて正反対の方向へ逃げ出していった。


「ふん……おい。大丈夫か?」


 近づいて声をかける。暗がりでうっすらとしか見えなかったが、スラっとした華奢な体に腰まで届く長い髪、ブラウスから白い下着が見えていたので、慌てて着ていた学ランを女子に被せ背を向けて自宅に出る道へ足を向けた。


「この辺は変なのがたまに沸くからな。今度から気をつけろ。んじゃな」


「あ……」


………

……


 思い当たることと言えばこの程度だが、髪の長さが違う。女の髪は命と等しいと聞いたことがあるが、なぜ切ってしまったのだろうか。等と取り留めないことを思ってしまう。


 いつの間にか横に座り生徒手帳とは別のウサギのシールが張られた手帳を開き饒舌に喋りだす生徒会長。


「君の事はある程度調べさせてもらったよ米倉啓次君。我が北島高校の2-B出席番号30番。身長210cm体重98kg、授業態度など素行に問題有り。ただし学力は入試テストから判断するに当校の学生の平均以上、父母共に海外に出張中のため現在父方の祖父母と3人暮らし。将来の夢は正義の味方。さらに高校から自宅の商店街までの通学距離が縄張りとなっており……」


 腹から声を出しているとでも言えばいいのだろうか。決して大きな声ではないのだが、耳にすんなりと入ってくる声色だった。しかしよく調べ上げたものだ。学校の生徒会長ともなると、生徒の個人情報まで見れるものなのだろうか。

 だがこれは確実にめんどくさい流れだ。とっとと話切ってしまおう。


「あぁ、そりゃよく調べましたね生徒会長さん。んでさっさと本題に入ってくれませんかね。」


「縄張りは他校の生徒からも不干渉地帯と…… うん。そうだな。先ほど言ったとおりだ。私は君のことが好きになった。だから君を更生する」


 肩先程度で切り揃えた黒髪にほっそりとした睫毛に切れ目の瞳、赤ぶち眼鏡をかけているために切れ目の瞳と合わさっていかにもな「デキる女」らしい印象を感じた。

そんなデキる女が俺を更生するとドヤ顔で言い放っている。

缶コーヒーを傾けてこう言い放った。


「いや、意味が分からん。何で俺を更生するっていう話になるんだ?」


 簡単に帰ってくれそうもない生徒会長さまに向き合い、少なくとも話は聞いてやるというスタンスで動くことにした。いつまでも居座れては迷惑だ。

 ふむ。と右手をアゴにあて考え込む生徒会長。美人は何をしても絵になるというがあながち間違いではないようだ。


「簡単に言えば、だ」


「簡単に言えば?」


「周りの騒音を無くすためだな」

 言葉を選ぶように生徒会長が話し出す。


「君は良くも悪くも周囲に影響を与える。だからこそ教師陣も君の扱いに困っているし、風紀委員も対処に困っている」


「校内での具体的な問題行動と言えば、こうやって授業を抜け出していることくらいだ。それどころか校外では他校との揉め事解決や周辺住民を助けていると聞く」


 もちろん諸手を挙げて歓迎できる解決方法ではないがね。と付け加えてくる。当然だ。俺がやったことは大抵気に入らないから殴っているだけだ。


「何度か教師陣から生徒会、正確には風紀委員に名指しこそされてないものの問題行動を起こす生徒を取り締まるように突き上げを食らっている」


「だが、複数の生徒からも嘆願書という形で君の処罰を待って欲しいという投書が来ている。問題解決の方法は置いておくとして他校からのちょっかいを処理してくれているのは間違いない」


「私は生徒会長だ。当然教師陣の意向も汲み取らなければならないし、生徒の代表として上がってきた嘆願にも目を通さなければならない」


 ペラリペラリと手帳をめくっていく。


「嘆願書の内容は、カツアゲされそうになっていたところを助けてもらった。しつこいナンパを撃退してもらった、揉め事を解決してもらったなど色々あるな。皆示し合わせたかのように君の処分を保留にしてほしいと一筆入れているよ。君の体一つでよくまぁこれだけ解決して回れるものだ。感心するよ」


「一方教師からは授業態度、テストでのカンニング疑惑、当校生徒に暴力を振るっているなどがあるな。一つ目は何とも反論しがたいが、カンニング疑惑と暴力に関しては教師陣の誤解だろうな。君は不正をするようには見えないからな」


 調べた事を言い尽くしたのかパタンとウサギシール付きの手帳を閉じ、視線を合わせる。


「確かにウサ晴らしにうちの奴が絡まれているから助けたことは何度かあったが……何とも過分な評価をどうも。まぁ生徒会長さんの言いたいことは分かった。答えはNOだ」


 立ち上がって飲みきった缶コーヒーを握り潰して設置されたゴミ箱に投げ捨て出口に向かう。カランカランとゴミ箱の中から音が響きお互い言葉を出さない。


「……ふむ。なぜNOなのか聞かせてもらってもいいかな?」


出口に差し掛かり生徒会長は再び声をかけた。


「俺は気に入らないやつを殴っただけで感謝されるつもりはない。ついでに言えば更生するつもりもない。誰が何と言おうと俺が俺であるためにこのスタンスを変えるつもりはない」


「そうか……ならますます君を更生させなければならないな!」


 ついこけそうになる。何を言っているんだこいつは。


「どうしてそうなる!?」


「君が君であるためにスタンスを変えないと言うなら、私も私であるためにスタンスを変えるつもりはない。必ず君を更生させて卒業させてみせよう。それに……」


 胸に右手をあて決心したように生徒会長が声を出す。


「第一まだ返事を貰っていない。私は君のことを好きになったと言っただろう。さぁ、返事をくれたまえ」


「そっちにも返事したつもりだったけどな。そちらの返事もNOだ。俺といたところで面倒事しか起きないし生徒会長さんの評判を落とすだけだ」


「そうか。ならYESと言われるまでアプローチを続けよう」


「……お前よく人の話を聞かないとか言われないか?」


昼休みを告げるチャイムが鳴る。購買に向かう時間だ。

「ま、好きにしてくれ。俺の返事は変わらん」


「あぁ、好きにさせてもらうさ……言質は取ったからね」

風に乗って聞こえたその声に一抹の不安を覚えながらも俺は購買へ向かっていった。


購買から戻って茶を貰おうと保健室に入ったらそいつはいた。せっかく買ってきた購買の焼きそばパンとカツサンドを落として頭を抱えたくなる。


「何でここにいる」


そこにはいかにも女子といったサイズの弁当を広げ生徒会長が待ち構えていた。


「好きにしていいと言ったのは君の方ではないか」


真顔で返された。こいつ冗談や皮肉が通じないタイプだ。

埒があかないと思い、保健室に常駐してる教師に声をかける。


「おい。久賀沼さんよ。何でこいつがここにいるんだ」


「昼間になると平然と茶飲みにくるお前さんが言う言葉でもないだろうに……」


俺たちの会話を聞いていた老齢の教諭軽く眉間に指を当て愚痴をこぼす。


「軽い人生相談みたいなものさね。意中の人を落とすにはどうしたらいい。と言われてね。いやはや万年冬にも春が来るなんてねぇ……世の中何があるか分からないもんだ」


頭が痛くなる。何だか外堀を埋められている気分だ。


「さぁ、米倉君。食事をしようじゃないか」


空気の読まない生徒会長さまはそう言い放ち、なし崩しに昼食を食べることになってしまった。


「で、五十嵐よ。何でまたこんな辺鄙なやつを好きになったんだい?」


保健室の主である久賀沼教諭が人数分のお茶を出して席に座る。そこには有無を言わせぬ迫力のある目があった。


「うん? 助けてもらった恩もあるが……いや一目惚れだな。惚れた好いたは本の中だけだと思っていたが、いやはやなんとも自分がそういう感情を抱くとは思いもしなかったよ」

 卵焼きをパクついていた五十嵐が照れる様子を見せずに答えてくる。


「ほうほう。詳しく聞きたいところだねぇ……」


「そういうのは本人のいないところでやってくれねぇか……」


カツサンドを食べながらげんなりとするしかなかった。


「ところで米倉君。君はいつもそんなご飯なのかね?」


「あぁ、自炊してもいいんだが面倒だからな」


「なら私が君にお弁当を作ろうじゃ……」


「断る」


「まだ全て言っていないんだが……人の言葉を遮るのはよくないと思うんだがね?」


ジト目で睨まれた。鉄皮面だと思っていたが意外と表情豊かだなこいつ。と口には出さずに残ったカツサンドを口の中に入れ茶をすする。


「ごちそうさんでした。さて、食うもん食ったことだし、久賀沼さんベッド借りるぞ」


「いやいや、生徒会長の目の前で堂々とサボり宣言しないでくれたまえよ」


「断ったところで別のところで寝るだろお前さんは。まったく……急病人が来たらちゃんと退いておくれよ。あぁ五十嵐はちゃんと授業に出るように。生徒会長が2限もサボるなんてのはよろしくないからね」


適当に返事をして備え付けられたベッドに横になる。すぐに眠気がやってきた。

「今日は酷い日だ……」

タオルケットを被り直し一人ゴチる。

まったく本当に面倒なことになった。



0話を消して1話に統合。

その他気になった箇所を修正しました。

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