最終章
最終章
次の日。
ひどいことをされたというのに、麗華さんは明るかった。
昼休みにやってきて、いつもよりも、よくしゃべる麗華さんは、無理に明るく振舞っているように見えた。
なんとか、黒田を懲らしめる方法はないだろうか?
放課後、僕と麗華さんは大堀公園に行って、撮影を楽しんだ。
麗華さんが、少しでも気が紛れるなら、何時間でも僕は付き合うよ。
夕方になり、そろそろ帰ろうかとしていると、公園の南側の入口付近に、フェラーリが止まっているのが見えた。
黒田は、僕たちの姿を見つけると車を降りてきた。
麗華さんは、びくんと体を震わせ、その場に立ちすくむ。
僕は、麗華さんをその場に残し、黒田の方へと近付く。
途中の舗装工事の場所に、つるはしが置いてあった。
僕はつるはしの先を足の間にいれ、肩に担いで、黒田のもとに向かう。
黒田は、サングラスを掛けているが、顔は青タンだらけだ。どんな目にあったか知らないが、形のいい鼻まで折られたみたいだ。ははは。いい気味だ。
「君、麗華さんの知り合いだろ? 彼女を呼んできてくれないか?」
黒田は、歯がおられている。ハンサムが台無しだ。
「麗華さんに、何か用ですか?」
「そんなことは、君に関係ないだろう? いいから、早く呼んでこいよ」
ふーん。これがメッキが剥がれるってことなんだな。ホテルグループの御曹司が聞いて呆れる。
僕は、黒田がイライラするように、なるべく緩慢な動作をする。
「うわー。これ、フェラーリですか? こんな近くで初めてみるなあ」
「君、触らないでくれるか? これ、高いんだから」
僕は構わず、べたべたと触る。
「ちょっと! 汚い手で触るんじゃない」
「すいませーん。手で触っちゃダメでした?」
「当たり前じゃないか! いいから、麗華さんを呼んでこいって!」
僕は麗華さんを呼んだ。
「麗華さーん。こっちにきて!」
麗華さんは、顔をこわばらせ、立ち尽くしている。
「いいから、おいでって。大丈夫だから」
母さん、ごめんね。僕はたぶん退学になるよ。警察にもご厄介になるだろう。
でも、僕はこんなことしか、やるべきことが浮かばないんだ。
麗華さんは、顔をこわばらせながら、近付いて来た。
ごめんね。フェラーリ。お前には、罪はないんだけど。
僕はつるはしを振りかぶると、フェラーリのドアを思い切り叩いた。
ゴガンという音がして、ボディがへこむ。
残念、穴は上手いことあかないや。まあ、いい。これからだ。
「な、なにやってんだ君はー!! う、訴えてやる! 僕は弁護士なんだ! 訴えてやるぞ!」
僕は、黒田を睨んで一喝する。
「訴えろよ! 女子校生を強姦しようとしたくせしやがって! 俺も捕まるがな、お前もタダじゃすまんぞ!」
僕は、一心腐乱に、フェラーリを叩きまくる。
フェンダー、ボンネット、フロントウィンドー、ヘッドライト。
黒田は、僕を止めようとしたが、僕がつるはしを振りかぶって睨むと、少し離れたところで、震えて見ているだけだった。
ひとしきり叩き続け、フェラーリが、ボコボコになったところで、僕は黒田を再び睨んた。
「麗華さんに二度と近づくな! 近づいたら、お前もこの車と同じにしてやるぞ!!」
黒田は、小さくひっと悲鳴を上げる。
「わかったら、さっさと消えろ!」
黒田は、ボコボコになったフェラーリに乗り込むと、急発進させて消えて行った。
さすがフェラーリだ。あんなにボコボコでもちゃんと走るんだなあ。やっぱ高級車はできが違う。
頭をかきながら、麗華さんの方を向く。麗華さんの顔がまともにみれないや。
「ごめんね。びっくりしただろ?」
「ううん。なんか、スッとした。ありがとね」
声が明るい。よかった。少し気が晴れたのか。
「あーあ。やっちゃったなあ。これで、障害者で高校中退か。ま、いいけどさ」
僕がニコリと笑顔を作ると、麗華さんは、くすりと笑う。
「まったくもう。いきなり、あんなことするんだもん。私、びっくりしちゃったよ。でも、大丈夫。あいつが秀夫くんを訴えるっていったら、わたしもあいつのしたこと警察にいうもん。世間体を気にする奴だから、絶対大丈夫よ」
「あははは。麗華さんもワルだなあ」
「それはお互い様でしょ? フェラーリを壊した悪人さん」
「あはは。違いないや」
よかった。いつもの笑顔に戻ってる。麗華さん、君は笑っている時が一番素敵だよ。
「じゃ、ワル同士、ラーメンでも食べてく?」
「いいねー。行きましょう!」
麗華さんの笑顔を取り戻せた喜びで、僕の胸は一杯だった。
12月24日。
麗華さんの家で、クリスマスパーティーをすることになっていた。
琢磨、さやかは食料の買い出し担当、石飛とゆいちゃんは、飲み物、僕と麗華さんは、ケーキとクリスマスツリーの飾りを買った。
麗華さんの家に着くと、浦田太郎と、お母さんもいた。
大物政治家の登場に、みなの顔に緊張が走る。
「みんな、集まってくれてありがとう。私は、仕事の関係で、もう少ししたら、出ないといけない。麗子に送ってもらうから、羽をのぼして、楽しんでくれたまえ。もっとも、高校生でお酒を飲むというのは感心せんがな。まあ、今日はクリスマスだ。目を瞑ることにしよう」
スパークリングワインを買ってきていた石飛がガッツポーズをする。
「さすが、民事党の浦田太郎っすね! 俺、絶対今度の選挙で民事党にいれますよ!」
ゆいちゃんが、石飛の頭を叩く。
「あんたは、まだ選挙権ないでしょ? なに言ってんの?」
ゆいちゃんと石飛のやり取りに、みなが笑顔になる。
なんか、いいなあ。こういうの。みんながいて、美味しい料理があって、なんといっても麗華さんが一緒だ。
最高のクリスマスになるなあ。
みんなが、グラスにおもいおもいの飲み物を入れ、乾杯しようかとしている時に、別室にいっていた浦田太郎が顔をだし、僕を呼んだ。
「山野くんだったかな? ちょっと、話をしたいんだが、来てもらえるか?」
僕に話? いったいなんだ? 麗華さんを襲った黒田は、あれから散々な目にあっているようだ。
ホテルクロダは、メインバンクが手を引き、倒産の危機にあるという。
そんなことができる浦田太郎が僕に話? 娘に付きまとうなとか言われたらどうしよう。
僕が浦田太郎のあとについて、別室に向かうと心配して、麗華さんがついてきた。
「麗華、お前は向こうに行ってなさい」
「だって……」
「いいから、向こうへ行きなさい。すぐすむ」
麗華さんは、浦田太郎に言われしぶしぶリビングに戻る。
僕は、8畳程の空間に、浦田太郎と二人きりになった。緊張で、喉が渇く。
「麗華が世話になってるみたいだね。ありがとう」
よかった。怒られるわけじゃないみたいだ。僕はほっと胸を撫で下ろす。
「いえ、世話になんてそんな」
「君と付き合うようになって、麗華は明るくなったよ。会うとよく君の話を聞かされる」
へー。そうなんだ。どういう風に僕のことを言ってるんだろう。
なんか照れるな。
「麗華には、随分さびしい思いをさせたからね。政治家なんてやってるせいで、自由になる時間がなかなか取れなくてね。小学生の時なんか、運動会になぜ来てくれないんだと、ごねられたもんだよ」
麗華さんの小学生のときかー。可愛かったんだろうなあ。
「母親に似て、あれも綺麗な顔をしてると思うんだが、なぜだか友達を作るのが下手でね。これからも友達でいてやってくれよ。
話はこれだけだ。さあ、パーティーを楽しんでくれ」
友達を作るのが下手? 何を言ってるんだ? 麗華さんは、ずっと愛人の子だって、引け目を感じて友達が作れなかったんだぞ?
父親のあんたが何を言ってるんだ?
「なぜ、麗華さんが友達を作らなかったのか、ご存知ないんですか?」
「どういうことだね?」
いけない。僕は部外者だ。こんなこと言っちゃいけない。でもでも……。
「失礼を承知で言わせていただきます。麗華さんは、ずっと愛人の子だって、悩んでたんです。
さびしいと思っても、引け目を感じてずっと友達が作れなかったんです。
どうしてなんですか? どうして、奥さんがいるのに麗華さんのお母さんとそういうことになったんですか?
どうして、ちゃんとしなかったんですか? どうして、離婚して、麗華さんのお母さんと一緒にならなかったんですか? 麗華さんは、ずっと悩んできたんですよ。ずっと……」
浦田太郎が、僕を鋭い目で睨む。僕もその目を真っ直ぐに見る。
数秒間が、数時間に感じられ、背中にじっとりと嫌な汗が吹き出す。
浦田太郎の鋭い視線が、ふっと緩んだ。
「ふー。君は、真っ直ぐな人間だな。私は、いろんな人間を見てきたから、わかるよ。ちょっと、私の話を聞いてもらえるかな?」
僕はこくりと頷く。
「私はね、今の家内と結婚して、もう40年になるよ。でもね、会話したこともほとんどなければ、体の関係をもったことは一度もない」
「え?」
「ははは。そんなこと信じられないって顔してるね。誓っていうが、これは本当のことだ。今だって、家内がどんな生活しているか、私は知らないよ。なんで、そんな女と結婚したと思う? 家内の父が、大物政治家の鈴木先生だったからさ。当時、1年生議員だった私は、先生の後ろ盾が欲しくて、結婚したってわけだ。家内にしたって、私を好きだったわけでもない。結婚式の日まで顔を合わせたこともなかったぐらいだからね。
政治なんて、綺麗事じゃできない。自分のやりたいことをやるためには、先生の後ろ盾が必要だったんだよ。
でも、そんな生活もやはり、虚しくてね。そんな時、選挙のウグイス嬢のバイトで来た麗華の母親、麗子にあったんだ。
年がえらく離れていたからね。最初は娘に接するような感じだったよ。でも、彼女に会うたびに、どんどん好きになっていった。
父親を早くになくしていた麗子にしたら、父親の代わりが欲しかったんだろうなあ。告白された時は、驚いたが、断るほど、私の理性は強くなかった。
自分の気持ちに嘘はつけなかったんだ。男女の仲になるのに、そんなに時間はかからなかったよ。
私は、離婚して正式に麗子と結婚したかったんだが、彼女はそれはダメだっていって、私の前から消えてしまったんだ。ほうぼう手を尽くして探したら、彼女は福岡で、一人麗華を産み。育てていた」
「そ、そうだったんですか……。そんな事情も知らずに僕は……」
「いやいや、いいんだよ。傍からみたら、君の言ったとおりなんだから。それにね、私は来年の4月に政治家を引退するつもりなんだ。
消費税率アップの法案が施行されたら、そのタイミングでね。そうしたら、家内と結婚している意味はない。
この間、判子をついた離婚届を渡したら、笑顔で判子ついて返してきたぐらいだからね。家内にしても私と別れたかったんだと思うよ。
そうそう、この家、君は私が建てたと思ってるだろう?
麗子はあれで、商才があってね。エステ店や小物雑貨の店を何軒も経営してる実業家なんだ。ここにあるものは、全部彼女が自分の稼ぎで買ったものさ。私は、引退後は紐ってわけだ。わはははは」
豪快に笑う浦田太郎を見て、僕もつられて笑った。よかった。麗華さんの両親は、本当に愛し合ってたんだ。
体だけの関係じゃなく、愛し合ってたんだ。世間一般の常識だと、それは不倫ということになるかもしれない。
でも、僕は麗華さんの両親に関しては、不倫じゃないと思う。
「話が長くなってしまったね。さ、パーティーを楽しんでくれ」
「はい! 話をしていただいてありがとうございます!」
僕が部屋から出ようとすると、声をかけられた。
「あ、それと」
「はい?」
「いや、こんなことを聞くのは悪いんだが、二人はどこまで進んでいるんだい? その、父親としてどうしても気になってしまってね。いや、答えたくなければ、答えなくていいんだが……」
「どこまでも何も、僕たちは付き合ってませんから」
「え? そうかい? てっきり麗華の口ぶりから、彼氏かと思っていたよ。何にせよ、あれは母親に似て、気が強いところがある。よろしく頼むよ」
「はい!」
僕は晴れやかな気分で、リビングに戻った。
ソファに座る麗華さんを見て、驚いた。
石飛と琢磨を正座させ、ソファに腰掛け足を組んでいる。
ミニスカートから覗く、黒いストッキングを履いた足が色っぽい。
顔が赤く、目が座っている。
「聞いてるの? だいたいあなたたちはね~。ヒック! あ~、酒がはいってないろ! 酒がぁ~」
黙って座っているさやかに聞く。
「ど、どうしたの? 麗華さん、えらく酔ってない?」
「ヒデくん、もう大変なんだから。最初の乾杯だけっていって、みんなでシャンパン少し飲んだの。
そしたら、麗華がすごく酔っ払っちゃって、おもしろがってタッくんと、石橋くんがワインとか飲ませたらさ、彼女絡み酒みたいで、みんなに説教するのよ。いまは、二人に言ってるとこ」
「うわー。まいったなあ」
ゆいちゃんが、僕のそばにやってくる。
「そうなんですよー。山野せんぱーい。私たちじゃダメだから、先輩なんとかしてください」
「なんとかって言われても」
麗華さんは、僕に気付き手招きをする。
「秀夫くん、あんたもこっちに来なさい。早く!」
これは逆らわない方が良さそうだ。僕は、黙って近付く。
「何してんの? 私の横にこいって言ってんの!」
「は、はい!」
僕は車椅子から、ソファに移る。麗華さんから甘い匂いとアルコールの匂いがする。 首も顔も桜色に染まり、薄化粧とあわさって色っぽい。
麗華さんは、僕の肩に手を回そうとするが、肩幅が広い僕の肩には、手が届かない。
麗華さんの胸が、肩に当たる。うはー。柔らけー。クリスマス万歳!
誰だよ、日本にクリスマスを持ち込んだのは? 手を合わせて拝みたいぐらいだ。
「秀夫くん、なんでこんなに体が大きいの? ねえ、ねえー?」
麗華さんは、僕の胸をガッと掴む。うひー。今日はなんていい日だ。
麗華さんは、そのまま数回、僕の胸を揉むと、自分の胸を触り、首を傾げる。
「なんで、女の私より胸が大きいの? ねえ、なんで?」
「さ、さあ? なんでだろうね?」
「あん? 私の言うことちゃんと聞いてる? ねえ、聞いてんの?」
「聞いてるよ。ちゃんと」
麗華さんは、僕の鼻先まで顔を近付けてくる。
「ふーん。嘘ばっかし。私の気持ちなんて、知りたいとも思ってないくせに」
思ってるよ。いつも君が気になって仕方ない。
「そ、そんなことないよ。僕たち親友だろ?」
「親友? 親友ってなんなのよう?」
「え? そりゃ、仲のいい友達のことだよ」
「はん? 秀夫くんには親友がいるわけー?」
「い、いるよ。琢磨やさやか、石飛にゆいちゃんは、僕の大事な友達さ。それに、麗華さんのことも大事な友達だと思ってるよ」
僕は君のことをいつも考えているよ。恋人になれなくたっていい。こうして、一緒に居られるだけで、僕は幸せなんだよ。
「ふーん。ここにいるみんなは、親友同士なんだ?」
「うん。そうだよ。みんな大切な仲間さ」
「じゃあさ、親友ってキスするものなの?」
「え? なにいってんだよ?」
「琢磨くんとさやかは、キスしてるでしょ? それに、石飛とゆいちゃんだって。それって、親友なの?」
「は? なにいってんだよ。琢磨とさやかは恋人じゃん。石飛とゆいちゃんだってそうだよ」
「さっきは、親友同士って言ったじゃん! 嘘ばっかし!!」
麗華さんは、テーブルに置いていたワインを一気にあおる。
うわー、麗華さんって酒乱なんだな。
「まったく、こんな美人がファーストキスもまだだっていうのに、いちゃいちゃしちゃってさ。やんなるわ。秀夫くんねー。私もてるんだよ? 知ってる? ラブレターなんて、いーぱい貰うんだから」
「ははは。知ってるよ。麗華さんはモテるよね。相手は選び放題じゃない。うらやましいよ」
「はぁー? わかってないなあ。やっぱり秀夫くんは! 女の子にとって、ファーストキスは特別なの! 好きな相手とするもんなの! 100人に告白されたって、好きな人が振り向いてくれなきゃ意味ないの!」
麗華さんの好きな人って誰だろ。チェッ。そいつが羨ましいよ。
「まったく、わかった? 話わかった?」
「う、うん。わかったよ」
「ふーん。本当かなあ?」
麗華さんは、横目で僕を見る。わかってるよ。僕だってそれぐらい。
麗華さんだって、僕の気もしらないで、そんな話するなんてひどいや。
麗華さんは、僕の顔を覗き込んでくる。
「あ、秀夫くんまつげが抜けてるよ。取ってあげる」
「え? ほんと?」
僕が自分の手で目を触ろうとすると、その手を麗華さんが掴む。
柔らかいな。なんで、この人の手は、こんなに柔らかいんだろう。
「もう、私が取ってあげるっていってるでしょ? ほら、目を瞑って」
「うん」
僕が言われた通りに、目を瞑ると口から、暖かく柔らかい感触が伝わってきた。
目を開けると、目を瞑った麗華さんの顔があった。
キスしている。僕は麗華さんとキスしている。
「きゃっ。麗華、大胆……」
「おほー! ヒデやったなあ! おい!」
「デカパイ女! なんてはしたないの!」
「山野先輩よー、やったじゃんよー!」
麗華さんは、僕から口を放すと、涙をポロポロと流す。
「れ、麗華さん……」
「秀夫くん、ごめんなさい。私、あなたが好き。どうしようもないくらい、あなたが好きなの」
僕は麗華さんの肩を掴む。彼女への愛が僕の胸から溢れてくる。
熱いものが胸からこみあげてくる。
「麗華さん、僕も君が好きだ。美人で知的で、真が強くて、活動的で、傷つき易く、思いやりがある君が好きだ。
麗華さん、僕はこの通りの障害者だ。君にはふさわしくないかもしれない。でも、君が好きだ。君とずっと一緒にいたい」
僕は麗華さんを強く抱きしめた。麗華さんの暖かい涙が、僕の頬を濡らす。
「秀夫くん。うれしい。うれしいよ……。なんでだろうね? 嬉しいのに涙が止まらないよ」
「麗華さん、僕は君を離さないよ。これからもずっと一緒だ」
「あー、ごほん。ごほん」
わざとらしい咳払いに、僕が顔を向けると琢磨がお手上げのポーズを取る。
「おいおい。そういうことは、二人きりの時にやってもらいたいもんだなあ。ま、お前にしちゃ上出来だけどな」
さやかが、麗華さんに抱きつく。
「よかったね。よかったね。麗華……」
ゆいちゃんが、腕組みして、見下ろす。
「ま、デカパイ女に山野先輩は任せることにして、わたしはこのデカ物で我慢するわ」
「お、おい、デカ物はねえだろう? 彼氏に向かってよう」
「なに? 文句あるわけ? もう、デートしてやんないぞ?」
「ゆいー。そりゃねえよー」
僕たちは、心ゆくまでクリスマスのパーティーを楽しんだ。
元旦、西の丘に三脚を立て、麗華と僕は初日の出を待っていた。
「あ、秀夫くん、もう上がってきたよ!」
「よしきた!」
僕はファインダーから、初日の出を狙う。
これからも、このファインダーで、麗華のいろんな表情を見ることだろう。
140CMの高さのファインダーに、これからもいろんな思い出を捕らえていくことだろう。
僕は、カメラから顔を離すと、麗華と口づけを交わした。




