来店 霊障系女性 4
悪夢の大掃除は予定通り、3日で終わり日常が帰ってきました。あの後オーナーは本当に滝行に行ったらしく、どこの滝行スポットに言ったのか聞いてみたいような、聞きたくないような気持ちです。自分でも調べてみたのですがなにやら宗教色がうっすらと見え隠れしているので、毎週日曜のお祈りでいいような気もします。
そして重大ニュース。
『石屋ガーデン、塩の販売始めました』
まずは会員さんにお試し売りからですが、販売目的は石の浄化、浄化とか使いたくない言葉ですね。石の喜ぶ第2の方法、と言い換えようと思います。第1の方法は水浴びです。
塩といっても種類が豊富にある事をしりました。悪夢の日に使ったのはDラウンジ産食用の特級塩、らしいです。請求書をみてびっくりしました。いつも俺が買っている博○の塩とは桁が違います。手触りも違います。家に常備してる塩で塩モミしたら赤くなり塩モミは封印しました。塩入風呂は継続中。
そう、塩の種類です。オーナーまたしても外国から商品を輸入です。世界一高い山を含む例の山脈から白・ピンク・黒と分類される3色。形状は粉状・粒状・塊加工品・塊未加工品の4種類。食用としては扱ってませんので食べられません。
チリーン
今回俺は初めて社割りという制度を使用しました。男だしアクセサリーには興味はない。そして石は更に興味ない。4種類の中で1番安いピンク色の塩、粉状1キロを購入したわけです。風呂に大匙3杯の塩入浴、肌はこころなしかつるつるして来ました。調子もいいです。
ふっと来店したお客様を見ます。細いジーンズのすらっとした女性です。爽やかなかっこよさを感じます。童話の世界にでもありそうな籠が多いガーデンではあまり見かけない客層です。もちろんシンプルなものからカッコイイ、かもしれないデザインもありますが。
「あのっ、すいません」
「いらっしゃいませ」
日課の磨き作業の手を止めて、カウンター越しに営業スマイル。
「先日は申し訳ありませんでしたっ」
ぺっこり頭をさげて戻ってこない女性。
先日?俺は首を少しかしげてまじまじと女性を見つめます。年は20代だろうか、黒髪のストレートは頭上にわっかを描くサラサラっぷり。というか、見かけない客層なので覚えていると思う。ようやく頭を上げた顔はナチュラルメイク、前髪がパッツンで若い印象を受ける。
「先日といっても、2週間以上前の話で、それで・・・すみません・・・コレ・・・」
握り締めたこぶしをあけるとそこには透明の石の入った籠、そしてチェーンの塊。
『ヒッ』
声に出さなかった俺を褒めて欲しい。
「本当に申し訳ありませんでした。その・・・代金を今お支払いさせていただきたくて・・・」
「あ~・・・と」
反射的に会員限定の販売塩、粉状、価格低を開封。磨いていた水籠台にのせるガラスコップに半分ほど注ぎ込みカウンターに差し出す。
「この中へ入れていただいてもいいでしょうか」
「あ・・・はい」
心臓が全力疾走した後のように脈うちます。石が籠ごとコップに入ったのは注意できません。触りたくないんです。
「オーナーより代金は受け取らないで良いと言われています」
1ヶ月以内に来ればそう対応するように、と。ちなみに1ヶ月以上たった場合のコメントはない。深く追求するべからず、の法則で聞いてもいない。
「しかし・・それでは・・・こちらも商売をなさっているわけで・・・」
「でわコチラ、最近会員限定で販売を始めた岩塩そしてその器。こちらをぜひお買い上げいただきまして」
磨き終わっていない台座をセットさせる。
「このような感じで浄化をしていただけると石の輝きが一層増します」
お客さんに対して浄化と言い切って言葉を使うのは初めてだ・・・。
「そして満月の日には塩ではなくて、水を入れていただいて1時間ほどおいていただきますと更に効果が」
満月表を取り出し、さらに銀製品のお手入れ方法の案内、今月のガーデンチラシをカウンターの上に繰り広げる。
「こちらのアクセサリーは銀製品ですので、当店ではこのようなお手入れ方法をご案内しています。銀製品の手入れ方法はいくつかありますが、当店アイテムは細工が細かい物が多いのでコチラになります。重曹を使う方法やシルバークリーナー液などもありますが、当店では重曹もクリーナー液もご用意しておりません。ご自宅にあるもので十分綺麗になります。こちらは今月の情報誌、新商品に関するチラシなのでご興味がありましたらお読みください」
「シルバーについては大丈夫です。満月の日に水につけるんですか・・・?」
「はい。中の石はアクセサリーから外れるように出来ています。水は・・・できれば湧き水が出る神社などは近所にはありませんか?」
「はぁ・・・」
「水道水・ペットボトル天然水・井戸水などでも代用は可能です」
でてくるでてくる普段完全否定している最上級を使った営業トーク。
「水晶ではないのですか?」
「当店では透明な石と呼んでいますが、二酸化ケイ素が結晶でできた鉱物、無色透明なものなので水晶と呼ばれるものであっています」
「はぁ」
貴方のもっているのは3万円の品です。うちの石選びの場合個人接客になるので人件費、そして石は輸入ですから輸送代金なはずが、3万円。ぼった・・・いえ・・・直径2センチの球体、内包物のない大変希少なレアアイテム・・・でもぼ・・、考えるのやめよう。
「あの・・・」
「はい」
「本当に代金は・・・」
「オーナーがそのように、と指示していますので。実はですね当店で石を販売する際は完全予約制の上、あちらの部屋で気に入るまで存分に石を選んでいただける方式をとっているのです」
大体は1時間内で石の喜ぶ方法1まで伝授して終わる。だが、この人が石を選んだのは3分もない。しかも予約すらしていない。
「え・・・」
「他のお客様には内緒にしておいてください」
その後女性は通常の販売ルートである予約を行い、俺が熱心に勧めた商品2点。水用にと水籠を追加し、塩3点色別を買い求めてお帰りになりました。
今日の風呂の塩、気持ち多めに入れよう。