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乙女ゲー学園のヒロイン、傍観する。

作者: 遊鳥

前作を読まれた方はご存知でしょうが、このヒロイン、とても喋り方が幼いです。苦手な方はご注意を!



 ゾフィー先輩は素敵だ。


 腰まである銀髪と菫色の瞳を持つ、たおやかな容姿は妖精さんみたいだし、いつも落ち着いていて穏やかで優しい。

 だけど、あたしにとって学園の女王、生徒会長ゾフィーアはトラウマの象徴なんだ。

 先輩自身が、ではない。


 この世界は前世で大好きだった乙女ゲームの世界。

 そして、なんでだかあたしはそのヒロインとして生まれた。


 あたしが日本で生きていた当時乙女ゲーは最盛期で、新作はどんどん出るし、ブームの最初の方に出た名作ゲームは何度も何度も焼き直しされて新装販売されていた。あたしが夢中になったのはその焼き直しの一つだった。

 選択肢を選ぶだけで、少女漫画のヒロインの立場が味わえる素敵なゲーム。

 ヒロインの明るさや前向きさで周りを魅了するストーリーはうっとりするし、剣と魔法の世界だったのもあたしのツボだった。


 現在のふわふわで膝くらいまであるピンクの髪の毛も、柔らかくって真っ白な肌と桜色の頬も、ローズクォーツが濃くなったような色の瞳も、華奢で小さな身体も、あたしが前世で憧れてやまなかった『ヒロイン』のものだ。

 前世ではいっつも空想の中で、あたしは『ヒロイン』になって、素敵な攻略対象に囲まれながら、時には学園の女王ゾフィーアと戦って、楽しい学園生活を(時には攻略キャラとのラブラブなその後を)送っていたもの。


 だけど、何故か願いが叶って実際にこのゲームの世界に『ヒロイン』として転生した時に真っ先に思い浮かんだのは、王立学園に君臨するゲームの敵役・絶望の女王であるゾフィーアがヒロインに行った非道の数々だった。

 ある時は精神的に、またある時は肉体的にヒロインを追い詰めるそれはトラウマになっちゃうくらい怖くて、ヒロインに感情移入するタイプのあたしはゲームなのに本気で何度も泣いた。ゾフィーアイベントがあった日は夜も怖くて眠れなかったくらい。


 そのゲームを思い出して怖くなったあたしは、何度も突然泣いて、その度に幼馴染のロディが側にいてくれたり、一緒に夜に眠ってくれていたっけ。

 ロディに勇気をもらったあたしは、魔道具師としての才能のある彼と一緒に魔女王ゾフィーア対策を練ることにした。ほんの少しの未来(ゲーム知識)を彼に伝えて。

 彼と一緒に身体も鍛えたから、あたしもちょっとは戦えるようになったんだよ。

 思い出すゾフィーアは怖かったけれど、しだいに魔道具作りにも、一緒に頑張ってくれるロディにも夢中になって、そのままの勢いで、ロディとセットで超有名魔道具師に弟子入りをした。

 その頃にはもう恋愛ゲームに対する思い入れより、ロディと魔女王怖いと言いながらもワイワイ過ごし、魔道具作りを頑張る毎日の方が楽しかった。


 そして、運命のゲーム初日であるあたし達の入学式。


 『殺られる前に殺れ』と思ったあたしは長年考えた最高の装備でゾフィーアを先に倒しておこうと行動した。

 結果は、ゾフィーア……様も同じ転生者で、彼女の優しさと美しさにめろめろになったあたしは、挑んだ後にちゃんと謝って仲良くしてもらう事に成功したのだ!


 今では『ゾフィー先輩』と呼ぶ事を許してもらった。

 親しく『ゾフィー』と呼ぶ周りの人以外は、『ゾフィーア様』や『生徒会長様』、『女王様』と周りは呼んでいるので、これは破格の扱いだよね。これはちょっと自慢。



 最初は中身が違うと分かっていても、ゾフィー先輩の姿を見る度に長年のトラウマが発動してびくっとしてしまうあたしだったけれど、ある日ゾフィー先輩は腰まであった綺麗な銀髪をバッサリと肩の上で切った。

 銀色の前髪も同じように伸ばしているので妖精妖精していた彼女の容姿が、今度は知的美人さんみたいになった。いや、本当に知的美人なんだよっ。

「これで怖くないわよね」とあたしに向かって微笑んでくれた時には、先輩の優しさが嬉しすぎて抱きついて泣いちゃったよ。

 その時の周りの視線がちょう怖かったけどね!




「副会長さんはなんでゾフィー先輩の前でメガネを外しているんですか?」


 ゲームとしては中盤のある日、勇者に選ばれたマインラート王子を特訓して鍛えているゾフィー先輩やその婚約者さんを尻目に、あたしは副会長さんと優雅にお茶会をしていた。

 目の前の副会長さんはゾフィー先輩の前にいる時と違って、メガネをかけている。ちょっとメガネ萌え属性のあるあたしとしては非常に嬉しい光景だ。

「思春期の頃からの癖ですかね」

 メガネをくいっと上げながら少し恥ずかしそうに言う生徒会副会長さん。

 なんでも、少しでもゾフィー先輩に男性として意識してもらえるように、先輩の前ではよく周りの人に褒められるお顔を強調してメガネを外しているらしい。

 普段大人びて色気のある彼がそんな事を言うから、心がほわーんとしたけれど、副会長さんは何も分かってない!

 副会長さんはメガネキャラが売りなんだよ!!?

 自分でその売りを取っちゃってどうするの?


 紅茶をすすりながら、前にゾフィー先輩が「どのキャラクターも面変わりしてしまって残念だわ」とこぼしていたのを思い出す。

 あのゲームで一番人気だった先輩の婚約者さんは、もともと細面のイケメン剣士で学園の女王の婚約者という立場なのにヒロインの子に惹かれちゃって葛藤する憂いの表情が人気だった。

 だけど、実際に入学して見た婚約者さんは筋肉質になっちゃってて爽やかな笑顔が眩しいお兄さん系になっていた。

 もちろん、顔が良いのは変わらないけれど、学園のファンが女生徒ではなく男子生徒を中心になっているのでその変わりっぷりがよく分かる。

 婚約者さんは「ガキの頃からゾフィーは魔法の天才だったからな。少しでも釣り合うように、俺は自分の得意な剣術を磨いたんだ」と恥ずかしそうに言っていた。

 そうなると、婚約者さんもゾフィー先輩の側に居るために頑張った結果がああなっちゃったんだろうな。全力で先輩の好みから真逆を走っている。


 肝心のゾフィー先輩と言えば、多分自分が敵キャラだった事と攻略対象でもあった婚約者さんや副会長さんがゲームとかけ離れちゃったので、彼らを恋愛対象としては見ていないらしい。

 仕方ないよね。原作の『絶望の女王・ゾフィーア』が居ると、本性を知る人は緊張を強いられたし、作中に切羽詰まった空気とか悲壮な感じとかがあってどのキャラも憂いを帯びていた。だけど、穏やかで優しい現ゾフィー先輩の周りには優しくっていい匂いの空気が流れているもん。

 色々と残念だ。残念すぎるよ!


 目の前の副会長さんと婚約者さんにアドバイスをしたいけれど出来ないのがもどかしいっ!



 攻略対象と言えば、最近ゾフィー先輩はゲームファンの間ではヘタレ王子で通っている末の王子、マインラート様の育成で忙しい。

 色々あってあたしたちも魔女王討伐に参加すると決めたからだ。

 本来の乙女ゲームでは『ヒロイン』は討伐の期間中、教会で討伐に参加した対象キャラ達の無事を祈って待っているだけだったけれど、『私』はRPGも大好きだったもんね。幼馴染兼恋人の、大好きなロディと一緒に旅を出来るのはワクワクする。

 あたし達に引く様子が無いのを見て、ゾフィー先輩は諦めたように討伐の準備をしてくれるようになった。ゲームでは神様の加護を高める為とか魔女王の姿が実在化しないと戦えないとか色々理由があって、一年間の準備期間があるのだ。


 王子様が勇者だって告げられる前からゾフィー先輩はマインラート様を強化しようと、常に気にかけていた。

 周りの皆さんはそれをよく思っていなかったっぽいし、当の王子様に至っては美しい先輩に特別に声を掛けてもらっていたのでのぼせ上がっていた。


 だけど、ヘタレ王子は原作のように逃げようとしない。ゾフィー先輩の応援に応えようと、逃げずに精一杯頑張っている。

 これもまた、原作のキャラから大きく離れちゃったけれど、あたしはこれはこれでアリかなって思っているんだ。


 いつの間にか、チャラくて面倒見のいいお兄さんな先生キャラの攻略対象も、寡黙とクールさが売りのあたしの同級生(普通科)の攻略キャラも加わって、ゾフィー先輩の周りでは原作とは大きくかけ離れた『魔女王討伐作戦本部』が出来上がっていた。


 どのキャラも恋愛がテーマだったゲームのキャラからは遠ざかって、RPGの戦闘要員っぽくなっている。

 ゲーマーだった時の目線で考えると、『ヒロイン』相手ではなく、『現在の生徒会長ゾフィーア』相手だと考えると今の彼らの方が似合っている気もするかな。

 ゾフィー先輩は乙女ゲーの素敵キャラからかけ離れた彼らに嘆いているけれどね。



「私達も一緒にお茶をしてもいいかしら?」

 少しして、特訓していた先輩達がこちらに来た。

「ええ、休憩ですか?」

 言いながらもスマートな仕草で先輩を椅子にエスコートする副会長さん。悲しいことにメガネはゾフィー先輩がこっちに向かっているのを確認した時に外している。

「そうなの。適度な休憩は必要だものね」

 そう言って微笑むゾフィー先輩は、気品のある仕草も含めてぜんぶっ! 本当に綺麗だ。笑顔もゲームの時のスチルみたいな怖ろしい美しさって感じじゃなくって、優しい笑顔や、イキイキとした笑顔も見せてくれる。


 ゾフィー先輩が来た事で『魔女王討伐作戦本部』のメンバーも集まってきて、あたしと副会長さんだけだったお茶会が、あっという間に大人数のお茶会に変わった。

 おいしい紅茶やクッキー、スコーンを手に、見目麗しい皆さんが話すのは魔女王討伐の旅について。


 うーん。これは、案外早く魔女王を退治出来ちゃうんじゃない? ゲームの趣旨も主人公も変わっちゃっているけれど。

 ゾフィー先輩の周りで真剣に戦略を練りながらも牽制しあっている彼らを見てそう思う。


「でもでもっ! この(乙女ゲーの)世界でロディが一番格好良いですもんっ!」


 ちょっとさみしくなったあたしは勢い良く席を立ってそう言ってしまった。

 あちゃー! やっちゃった! あたしの突然の言葉に周りの人達はビックリしている。

 だけど、そうでもしなくっちゃヒロインのはずのあたしが本筋から大きく離れて、主要キャラがゾフィー先輩に夢中な現実を受け入れられそうになかったから……。

 今はロディとラブラブでちょう幸せだけど、それとこれとは話が別だよ!


 誰が悪いって話でも無い事で、少ししんみりしているとゾフィー先輩が爆弾を落とした。


「それは認めるわ。確かにロディは誰よりも素敵ね」


 ピシーンって音を立てて周りの空気が凍りついた!


「ゾッ! ゾフィーはあんなやわっちいのが好きなのか!!?」

「年齢が離れすぎてはいませんか? もしや貴女は……」

「今はまだ未熟ですが、私はっ……」

「んー。君にはもっと大人の男の方がふさわしいと思うよ。例えば僕とか」

「……『ロディ』か。……調べてみる必要があるな…………」


 勢い良くゾフィー先輩に詰め寄る攻略キャラの皆さん。

 会話内容はちょっと残念だけど、見目麗しい皆さんが絶対的な女王であったゾフィー先輩を囲む姿はスチルになっていないのが勿体無いくらい素敵だ。

 ゾフィー先輩はなんでこんな空気になったのかが分からないようで、困惑している。


 あー、あたし。ロディの笑顔が見たくなっちゃった。

 よ~し! ロディに会って思いっきり甘えちゃおう! これは彼女であるあたしの特権だもんねっ!

 華奢な見た目だけど、抱きつくとたくましいロディの胸板を思い出したあたしは顔を火照らせながらもにやつく。


 思い立ったあたしは、修羅場になりつつあるこの場所からそろそろと逃げ出した。


 ゾフィー先輩。攻略対象の皆さんすっごく怒ってるけれど、頑張ってね~!


 最後にもう一度、素敵なスチルを心に焼き付けるために振り返ると、あたしの自慢のピンクの髪の毛が風にふんわりと揺れた。




前作を書いている時に、あまりにもゾフィーとヒロインの精神年齢に開きがあったので(多分二十歳くらい?)、『ヒロインは古いゲームが復刻して出来た若いファン』かなと思って出来た作品です。

この娘はアホの子だけど、作中一番の勝ち組かと……。

いくら前世で好きだったゲームの世界に行けても、自分の影響でキャラが萌えから逆走して変わってしまったら残念すぎるし……。


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・───・───・───・


前作・乙女ゲー学園の女王、絶望する。

― 新着の感想 ―
[一言] ゾフィーア達にもニヤニヤしたけど、個人的にはヒロインとロディが特に好きだったり。 両者とも一途で純朴なカップルとか大好きです。 相手に見合うために自身を鍛えたりして頑張っているところにもとき…
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