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第07話 「天 稟」

 寝不足気味で冴えない頭から重たい体に指示をだし、今日も冒険者ギルドへと向かう。


 今日は雑用依頼を請けよう。森に出て体に無理をさせるわけにはいかないからな。決して魔物が怖いわけではない。怖いわけではないのだ。


 雑用依頼のコーナーで適当な依頼を探していると、視線が集まっていることに気がついた。ひそひそと話す声も聞こえてくる。


「あいつが?」

「まだガキじゃねぇか!」

「何かの間違いだろ……」

「いや、俺はこの目で見たぜ!」

「俺も見た。どこからともなくあの大猪を取り出したんだ。度肝を抜かれたぜ!」

「あら、なかなか可愛いじゃない」

「カツアゲしようとしたグレーズ達はあっという間に叩きのめされたらしい……」

「下らないトリックだな」


 昨日の今日だというのに、もう噂になっていたようで注目を浴びていた。

 人の噂に上る事など今まで無かった為恥ずかしくなり、適当な依頼書をはがして相変わらず人気のないロングさんの所へと逃げるように駆け込んだ。


「お、おはようございます」


「おはようございます、エルさん。大分噂になってるようですね」


「そうみたいで……お恥ずかしい限りです」


「いやいや、冒険者は有名になってこそじゃないですか! その第一歩ですよ。これからも期待してますよ」


 禿げたおっさんじゃなく可愛い女の子に期待されたいなぁ、という思いは胸にしまって依頼を請ける。


「今日も依頼を請けるのですか? 昨日大変な思いをされたのですから、偶にはお休みになられては?」


「あ、週休二日制を採用してるので、明日明後日は休みますよ」


 そう、この世界でも曜日はあったのだ。しかも日曜から土曜までと全く同じである。さらに月日も同じだ。1年は12ヶ月で、1ヶ月は30日前後。便利だがファンタジー感がない。ここにも何者かの意思が働いているとしか思えない。


「初めて聞く制度ですね。まあ、ちゃんと休まれるのであれば結構です。では、今日も頑張ってください」



 午前中に2件の雑用依頼を終えて、昼食を食べに夢幻の冠亭へと戻ると、食堂はなかなか繁盛していた。ハンバーグがちょっとした噂になっているらしい。

 そんな中もう実現されていたハンバーガーセットを食べて腹を膨らませる。コーラが無いのが悔やまれるが、こればっかりはどうしようもないと諦めて、午後の仕事に向かった。



 冒険者ギルドに入り、また雑用依頼のコーナーに向かうが、なにやら騒がしい。


「お願いします! 一生懸命頑張りますから!」

「ダメだ! 俺達はてめえみたいなガキに構ってらんねーんだよ!」

「そうそう、俺たちゃ忙しいんだよ」

「絶対役に立ちますから! 力仕事なら得意なんです! 加護もあるんです!」

「うるせえな、適当なこと言ってんじゃねー! あっち行け!」

「そこをなんとか!」

「しつこいんだよ! たたっ切るぞ!」


 どうやら冒険者の男達に少年が絡んでいるようだ。状況が良く分からないが野次馬根性が騒ぐ。ならば困った時のロングさんだ。


「ロングさん、あれどうしたんですか?」


「ああ、あの少年は彼らに保証人になってもらおうと交渉していたんですよ」


「ほ、保証人? 借金かなんかですか?」


「いえ、借金ではありませんが……いい機会ですのでそのあたりの話をしましょうか。

 冒険者ギルドでは、10歳以上から冒険者登録を可能としています。これはオロクルが登録を受付ける年齢が10歳以上だからです。

 しかしシルバリバ帝国を始めその他の国々では15歳以上を成人、つまり個人で責任を負える者、納税の義務が発生する者としています。

 そこで、10歳以上の未成年が冒険者登録をする場合は、成人の冒険者を保証人として必要とし、その者が成人するまではその保証人が一切の責任を負う、という事になりました。また、未成年の冒険者は単独で依頼を請ける事はできないため、保証人とクランを組むか、保証人の所属するクランに入る必要があります。

 なので、未成年の彼は保証人を探しているという訳です。

 まあ、大体は冒険者の親が子供を冒険者にする場合ぐらいですね。保証人になるというのは。

 全くの他人の責任を好んで負おうなんて人はそうそういませんし、クランの人数が増えればそれだけ利益も減るという事ですので、あのように頼み込んでも断られるのは当然です。ちなみに、クランの人数が増えればランクの上昇も遅くなるという説もあります」


「そんなルールが。俺ギリギリだったんですね……」


 もし転生体エディットで10歳になっていたら、と思うと恐怖を感じずにはいられない。

 現状に感謝しつつ、あのポイントは分散される仕組みらしい等と考えながらまた別のグループに懲りずに絡んでいく少年を見ていた。




 --------------------

 人間:人族

 性別:♂

 固有名:ヴォルクリッド

 職業:無職

 年齢:11

 状態:健康

 才能:剣術Lv3、槍術Lv2、棒術Lv2、斧術Lv2

    体術Lv2、投擲Lv2、弓術Lv2、盾Lv2

    戦術Lv2、戦略Lv1、韋駄天、剛力

 特殊能力:不撓不屈、ユーディルの加護

 --------------------




「ブッ!!」


 おいおい、なんだコイツ!! 天才か! 才能の塊や! Lv1見てホッとしちゃうってなんか違うだろ!

 それにしても戦闘系ばかりだな。戦う為に生まれてきたような……まさに武神というべきか。俺のボーナスが可愛く見えるよ。


「どうしたんですか? 突然吹き出して」


「す、すいません。道でお婆ちゃんがお腹痛くて……」


 ロングさんになにか突っ込まれた気がするが、ひどく動揺していたため適当に返事をしつつ、より詳しくあの少年を見た。




 <韋駄天>

 分類:才能

 走れば走るほど速くなる。

 速さが足りなくなることは無い。

 あまりに速いその速さは、いずれ音を置き去りにするだろう。



 <剛力>

 分類:才能

 神は筋肉を与えられた。

 筋肉を敬い、筋肉を信じ、筋肉を愛したまへ。

 いずれその拳は岩を砕き、鉄をも破り、天にも届くだろう。



 <不撓不屈>

 分類:特殊能力

 その強い意志は何事をも成し遂げる。

 諦めないから試合は終わらない。

 私負けへん! へこたれへん!



 <ユーディルの加護>

 分類:特殊能力

 戦いの神ユーディルより与えられし加護。

 その肉体は常に成長し、限界を知ることは無い。

 武芸の習熟も早く、数多の技も一見にて得るだろう。




 もう馬鹿。鬼だ鬼。チートってこいつの事だろ。どんな理由でこれだけのものを与えられたのか……。


 驚きを通り越し、もはや呆れた目でまた袖にされて落胆する件の少年を見ていると、目が合ってしまった。


 すると少年は、悲壮感に溢れていたその銀灰色の瞳に希望を宿し、墨色の髪を揺らしながら駆け寄ってきた。

 年相応の背丈は、俺の肩を越す程度だろうか。子供らしい丸い顔で俺を見上げ、まだ声変わりのしていない明るい透き通った声で話しかけてきた。


「あの、僕はヴォルクリッドっていいます。冒険者になりたいんです! いきなりこんな事を言われても困るかと思うのですが……ほ、保証人になってもらえませんか?

 えっと、力仕事は得意ですし……か、加護も……」


「いいよ」


「え?」

「え?」


 話を遮るほどの即答に、お願いをしてきた本人と傍にいたロングさんの驚きの声が重なる。


「保証人でしょ? いいよ」


「い、いいんですか!?」


「エルさん、そんな簡単に……」


「いや、いろいろ条件はありますよ。なんで……ちょっと話をしてきます。

 あー、ヴォルクリッド君、もう昼は食べた?」


「あ、ま、まだです」


「そうか。じゃあ昼飯でも食べながらちょっと話を聞かせてよ」



 最初、あの才能を見て自分から近づいていくのは卑怯だ、俺の矜持が許さない。なんか負けた気がする。と思い、接触はしないと決めていた。

 しかし、向こうから来たのなら話は変わる。全く持って変わるのだ。


 という訳で、また夢幻の冠亭の食堂にやってきた。ここしか食べる所を知らないからだ。

 相変わらず繁盛している。ヴォルクリッド君は匂いに釣られたのかその目をキョロキョロさせている。

 適当に空いてる席を探し、話を始めることにした。


「まあ、座ってよ」


「は、はい」


「まずは……あ、おばちゃんハンバーグセット1つ」


「あれ? エルちゃん、もうお腹空いたのかい?」


「いや、この子の分ですよ」


「そうかい。ちょっと待ってな。すぐに美味しいハンバーグを食べさせてやるよ!」


 そう言うないなや、スザンヌおばちゃんはヴォルクリッド君の頭をくしゃくしゃっと撫でて、厨房へと飛んでいった。


「あのおばちゃんはいつもああなんだ。元気だろ?」


「は、はい」


「さて……改めて自己紹介をしよう。俺はエルザム・ラインフォード。15歳。エルでいいよ」


「あ、ヴォルクリッドです。みんなにはヴォルクって呼ばれてました。えっと、11歳です。

 ……あの、本当に保証人になってもらえるんですか?」


「ああ、そのつもりだけど、その前にいくつか聞きたいことがある。

 まず、ヴォルクはなんで冒険者になろうと思ったんだ?」


「それは…………あの、僕はここからずっと南にある海岸沿いの村に住んでたんですが、その村が1月程前魔族に襲われて……その時に両親も……。

 特に何も無い村でしたが、平和で……いい人達ばかりでした。

 何人かは生き残りましたが、村はボロボロで、みなそれぞれの伝を頼りに散り散りに別れました。

 僕には伝が無かったので、大きな街に行けば仕事があると思ってここまでなんとか来たんです。でも……こんな子供を雇ってくれる所は無くて、そんな時に思い出したのが……冒険者だったんです。

 父がよく言ってたんです。冒険者は自由で夢がある。実力があれば金も女も欲しいままだ! って。それで良く母には怒られてましたけど……。

 それに……」


 重い! なんか聞いたことあるような話しだけど、実際聞くとやっぱ重いよ! 大変だったんじゃねーか。素直に同情しちゃうわ。んで、魔族って何よ? ヴォルクには聞きづらいから聞かないけど。


「なるほど。それで冒険者にね。随分と大変だったんだな」


「はい……」


 辛い思い出と現状に、ヴォルクは落ち込んだ様子で俯いてしまった。


「はい、ハンバーグセットお待ち!」


 タイミングよく元気なスザンヌおばちゃんが食事を持ってきてくれた。ありがたい。


「ほら、遠慮なく食え。俺の驕りだから」


「え、でも……」


「いいから、食え。冷めちゃうぞ」


「……分かりました。いただきます。 ……お、おいしい!」


 余程空腹だったのか、ガツガツと食べてあっという間に平らげてしまった。


「す、凄く美味しかったです。こんなに美味しいもの……初めて食べました……それに……こんなにっうっ……うぅっ……」


 突然泣き出してしまったヴォルク。しっかりしてるように見えるが、まだ11歳だ。頼れる人もなく、辛かったんだろう。


「おいおい、泣くなよ。これからも美味しいもの食べれるから」


「だって! だって……もう駄目だと……思ってたんです……。うっぐ……お金も無くて……働けなくて……冒険者になろうとしても……みんな、みんな……断られてばっかで……。

 でも……エルさんが、いいよって言ってくれて! 嬉しくて! しかも、ごはんまでぇ……ううぅあぁぁ……」


 優しくされたのが余程嬉しかったらしく、本格的に泣き出してしまった。周囲の目も憚らずわんわんと泣いている。すっかり注目の的である。

 しばらくヴォルクの頭をガシガシと撫で続けていると、ようやく落ち着いたようだ。

 その後も、色々と話を聞き今後のことを話した。



「ヴォルク、保証人の話は引き受けよう」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


「ただ、それで冒険者になるにしても、お前は特に武器を扱った経験が無いようだから、剣術なりなんなりを身に着けたほうがいいだろう。

 街の外の依頼はそれからだな。それまでは俺と一緒に雑用依頼だ。

 んで住む所も無いようだから、この宿で部屋を借りようか」


「でも、それじゃお金が……」


「金の心配はしなくていい。いくらかあるし、稼ぐ方法はある」


「……わかりました。実はもう、お金もほとんど無かったんです。ほ、本当に……ありがとうございます!」


「よし、そうと決まればまずはシャンさんの所だな」


 今後の展望が見え、やや明るい表情となったヴォルクを連れて、シャンさんの所へと向かう。



「シャンさん、部屋ってまだ空いてます? 一人分しばらくお願いしたいんですが」


「あるにはあるが、その子か?」


「はい、ヴォルクリッドです。なんというか、冒険者登録の為の保証人になる事になりまして。まあ家族みたいなものなので、よろしくお願いします」


「保証人? まあ、とやかく言うつもりはないが……家族ってなら、2人部屋にしたらどうだ? そうすりゃ例の約束でただで良いぞ。もちろん飯もだす」


「いいんですか!?」


「ああ、ハンバーグが思ったよりも好評でな! もっと盛り上がりそうなんだよ」


「ヴォルクはそれでいいか?」


「は、はい! 部屋を使わせてもらえるだけでありがたいです! でも、エルさんはいいんですか? 僕なんかと一緒の部屋で……」


「ああ、俺は構わないよ。

 じゃあシャンさん、そういうことで、またお言葉に甘えます」


「おう。鍵はこれだ。4階の402号室だ。荷物を移動したら前の部屋の鍵を持ってきてくれ」


「ありがとうございます! お礼に明日あたり新しいメニュー教えますよ」


「本当か! そいつはありがてえ!」


「ええ、期待しててください。

 それじゃ、行くぞヴォルク」


「あ、えーっと、シャンさん。ありがとうございます。あと、これからよろしくおねがいします!」


「はっはっは、いい子じゃないか。頑張れよ!」



 新しい部屋は、前の部屋のほぼ真上にあり、その造りもほとんど変わりは無かった。ただ、面積は前より広くなっており、ベッドが2つに椅子も2つある。

 これをただにしてくれるとは、だいぶ期待されているようだ。


「広くて立派な部屋ですね……僕なんかがこんな所に住んでいいんでしょうか?」


「いいんだよ。子供は大人に甘えとけ」


 恐縮しているヴォルクを尻目に、前の部屋から持ってきた絵を壁に掛け、位置を調整する。


「ヴォルクは荷物無いのか?」


「はい、これだけです。」


 ほぼ着の身着のままだったようだ。


「そうか。じゃあ身の回りのものも揃えていかないとな。俺もだけど。

 明日買い物に行くか。

 あとヴォルクの師匠探しも必要だな。俺は武器なんて扱えないし」


「ありがとうございます。でも、仕事はいいんですか? 僕お金なんてほとんど無いですよ」


「いいんだ。明日と明後日は休み。

 そうだ。いいか! これは良く覚えておけ。基本的に月曜から金曜が仕事で土日が休み。

 俺はこの週休二日制を採っている。よって、被保護者であるヴォルクもこれに従ってもらう!」


「は、はい! 兄さん!」


「!!!? に、兄さんはやめろ! やめてくれ。何なんだ急に! 気持ち悪いだろ」


「うっ…………でも……さっき家族みたいなものって言ってくれたじゃないですか! 嬉しかったんです。僕にはもう家族はいないですし……それに、一人っ子だったから……兄や姉って憧れてたんです」


 抵抗を見せるヴォルクを睨みつけたが、その銀灰色の瞳には強い意志が溢れていた。その意志が俺に折れるはずも無いので、渋々諦める事にする。あんな呼び方をされたらムズ痒くて仕方ないというのに。


「むう、仕方ない、諦めよう。

 ……ま、俺にも家族はいないし、友人や知り合いも殆ど居ないからな。一人くらい家族と呼べるやつがいてもいいだろ。

 その代わり、約束して欲しいことがある。

 兄と言うからには、ヴォルクが成人するまでは俺の言うことを良く聞くように」


「分かりました、兄さん!」


 やっぱ気持ち悪いな……。



「よし、荷物も片付いたし、冒険者登録をしに行こうと思うんだが、その前に言っておくことがある。

 俺が冒険者としてヴォルクに教えられる事ははっきり言ってほぼ無い」


「ど、どうして?!」


「それは……まだ冒険者になって5日目だからだ」


「ええ!!」


「そういうことだ。よし、行こう」


「え……ちょ、ちょっと待ってよぉ!」


 動揺するヴォルクを置き、さっさと部屋をでて冒険者ギルドに向かった。



「ヴォルク、ここが冒険者ギルドだ」


「知ってますよ……」


「俺も知ってる。さあ、登録しに行こうか」


 俺の適当な性格を理解し始めたヴォルクは、呆れながらも後ろを付いて来ている。


「ロングさん、冒険者登録お願いします」


「エルさん、いいんですか? 何かあった場合あなたが責任を負うことになるんですよ?」


「大丈夫です。ちょっと事情があるみたいでね……弟って事で」


「そうですか……。では、弟さん、こちらにどうぞ」


「あ、はい」


 返事をするとヴォルクはおどおどしながら受付の前に進んだ。


「私はここの職員のロングと申します。よろしくお願いします」


「ヴォルク、ロングさんはこう見えて凄く頼りになるんだ。敬意を払って接するように」


「…………早速登録手続きにまいりましょうか。

 登録金はどうされますか?」


「あ、俺が払います」


 腰の袋から財布を取り出し、半目でじとっとこちらを見るロングさんに10,000円を支払う。

 ちょっと余計な事を言ってしまったらしい。


「えー、確かに。ではこのオロクルに手を置き、名前を言ってください。あなたの情報が記録されますので」


「はい。えっと、ヴォルクリッド、です」


 その後、特に何事も無く登録は完了した。

 ヴォルクはオロクルの輝きに感動していたようだ。


「では、エルさん。クランの登録はどうされますか?」


「あー、忘れてましたね。登録するのに何か必要だったりしますか?」


「必要なのはクラン名だけですよ」


「クラン名か……ヴォルク、なんかいい案はあるか?」


「クラン名ですか? だったら強そうなのがいいですよね! ……うーん……黒龍の咆哮」


「明日、また来ますね」


 これはマズイと思い、アレを発症するにはやや早い気もするヴォルクを連れて冒険者ギルドを後にした。



 自室に戻り、クラン名について改めて相談することにした。相手に不安はあるが。


「クラン名についてなんだが、みんなどんな名前なんだろうな。何か知ってる?」


「有名なクランはいくつか聞いたことがあります。

 例えば、大天使や赤色槍騎兵隊、ドラゴンスターズ、風精霊騎士団、白い三連星とかですね」


 どこかで聞いたことがあるような無いような……しかし、どうやらみんなそっち系らしい。郷に入っては郷に従えってことか……。


「ヴォルク、いくつか考えてみてくれ。

 俺もいくつか考えるから、出た中から決める事にしよう」


「はい! 頑張って強そうでかっこいいのを考えますね!」


 ……非常に不安である。



「よし、まずは俺から発表しよう。

 クロガネ、特殊戦技教導隊、イングレッサ・ミリシャ、ウィルゲム、ローラ・ローラ。

 思いついたのはこのへんだ」


 どうもセンスが無いらしく、いい名前が浮かばない為、自分の名前関連から引っ張ってきた。どれも名乗りたくは無いが。


「……兄さん、全然駄目ですよ。なんですかローラ・ローラって。

 しょうがないですね。僕に期待してください!

 まずは、漆黒の翼! どうですか? かっこいいですよね!?」


「かませ犬の臭いがする。却下」


「えー!……じゃあ、黒の騎士団! これはどうですか? 服装を黒で統一するんです!」


「黒好きだね……。でも俺は騎士じゃ無いし、変な仮面つけなきゃいけない気がするから却下」


「仮面ってなんですか。意味が分からないですよ……。じゃあ、これはどうです? 僕の自信作です!

 尾を噛む蛇……いいでしょう!?」


「尾を噛む蛇、か……ウロボロスねぇ……」


「うろぼろす? なんですかそれ? 昔村で見た蛇が尻尾を噛んでたんですよ。それを言葉にしてみたら、なんかかっこよかったんです!」


「そ、そうか。蛇っていうのは、死や再生等の象徴とされてるんだが、その蛇が自らの尾を噛むことで、始まりも終わりも無い完全なものっていう象徴的な意味を持つ、と聞いたことがある」


「そんな意味があったんですか! 凄いです。これにしましょう! 尾を噛む蛇!」


「うーん……じゃあそれで」


 何も知らない人からすれば、普通の言葉だろうと思い、それにすることにしたのだが、自信作に決まったのが余程嬉しかったのだろう。

 ヴォルクは、明日でいいじゃんという俺を冒険者ギルドに強引に引っ張って行き、クランの登録を行った。

 ロングさんにはどんな意味があるのか聞かれたが、ヴォルクが得意げにさっきの知識を語っていたのが微笑ましかった。



 夕食を食べ、自室に戻るとヴォルクはすぐにベッドに入り寝てしまった。


 寝ちゃったか。精神的に疲れてたんだろうな。この年で家族を失って、一人でここまで来て、生きる為に一生懸命になって。明るく元気に振舞って……。俺なら耐えられないな。無理してんのかもしれないけど、凄い子だよ。

 しかも、俺みたいな得体の知れない奴をすっかり信用しちゃってさ。

 ……その信用に応えられるように、家族として頼られるように、俺も頑張りますかね。

 兄さんと呼ばれるのは、やっぱり気持ち悪いけど。


「……うーん…………オメガ……ストライク…………」


 ……夢の中でも調子がいいようだ。



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