第04話 「フィーリング・オブ・パラノイア」
窓から注ぐ朝日の眩しさのおかげか、哀しいサラリーマンの習慣か、寝坊せずに目覚めることができた。時間は7時ちょいすぎ。
顔を洗って、食堂へと向かう。昨夜程人は見られないが、何人かの先客はいる。適当に空いてる席に座り、昨日のおばちゃんに声をかけた。
「あら、エルちゃんだね。おはよう! 待ってな。すぐに持ってきてあげるよ」
朝から元気なおばちゃんは言葉どおりすぐに朝食を持ってきてくれた。
食パンとサラダ、スクランブルエッグにベーコンのような肉。それとコップには白い液体。牛乳だろうか。
ビジネスホテルを思い出させる朝食に、また一つ現実を見せ付けられた。しかし、味はそれなりなので十分満足できたと言える。
部屋に戻り、有って無いような準備を終えて、受付へと向かう。ご主人にカギを返し、お礼を言って宿を出ようとすると、声をかけられた。
「今晩の宿はどうするんだ? まだレッドだろ。もし泊まる気があるなら同じ部屋を空けておいてやるが」
なんと! この人もまたいい人だ。是非、ご好意に甘えようと愛想良く返事をする。
「本当ですか! ありがとうございます。頑張って稼いで来ますので!」
満面の笑みを浮かべながら、右手の親指を立てグッと顔の前に押し出す。
ご主人は意味が分からなかったのか、戸惑う表情を見せたが、すぐに笑顔で同じように親指を立ててくれた。
サインを返してくれたことに嬉しくなって気合が入り、宿を出ると駆け足で冒険者ギルドに向かった。
あっという間に冒険者ギルドに着き、そのまま奥の受付に向かう。ロングさんが見えたからだ。
「おはようございます。ロングさん」
「これはラインフォードさん。おはようございます」
「あー、ラインフォードさんっていうのは堅苦しいので、エルでいいですよ。よくそう呼ばれるので」
朝から気分が良いからか、ロングさんにちょっと心を開いてみた。
「そうですか。では、エルさん。今日は依頼を請けに来たんですか?」
「はい。で、依頼なんですが、初心者にお勧めな依頼ってありますか? どれが危険かとかまだ分からないので」
「なるほど。若いのに意外としっかりしてらっしゃいますね。エルさんは。
冒険者になりたての若い方はよく討伐系の依頼を受けて怪我をして帰って来る事が多いんですよ。中には死んでしまう方もいます。
ですので、まずは採取系の依頼を請けるといいと思いますよ。雑用依頼というのもありますが、折角冒険者になったんだからちょっと違うことをしたい、という気持ちもあると思いますし」
「分かりました。じゃあ、採取系の依頼にしたいと思います」
「でしたら、こちらがお勧めですね」
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依頼内容:薬草の採取
ランク制限:2以下
契約金:なし
期限:5日以内
達成条件:【一日草】の葉30枚の納品
報酬:3,000円
依頼主:冒険者ギルド
-詳細-
ランドベック南西の森に生える一日草の葉を30枚取って来て欲しい。
※さらに10枚毎に1,000円の追加報酬有り。
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「ほー、この一日草っていうのが分からないんですが、どういう草ですか?」
するとロングさんはカウンターの下から本を出してペラペラと捲り、何やら絵の書いてあるページを見せてきた。
「これが一日草です。1株から数枚の葉が生えてまして、葉の大きさは大体10センチ程ですね。気を付けていただきたいのは、株ごと採取しないということです。
この草は葉だけを採取すると、不思議なことに次の日には完全に再生するんです。なので一日草と呼ばれています」
「なるほど。不思議な草もあるもんですね。この南西の森って、危険な魔物とかはいますか?」
「あの森に生息している魔物はクローラビットと、スモールフュトンですね。ずっと奥に行くと稀にストーンボアが出ますので、森の奥にはくれぐれも行かないようにしてください。……まず、これがクローラビットです」
よく分からないといった表情をしている事に気付いたロングさんは本を開きながら説明してくれた。
スモールフュトンとは1メートル~2メートルもある斑模様の蛇で、初心者が戦うには危険だそうだが、蛇にしては移動速度が遅い為、走って逃げれば大丈夫だそうだ。
ストーンボアは石や岩を食べる大きな猪で、皮膚は硬く、物凄い突進をしてくる危険な魔物とのこと。冒険者として一人前と言われるグリーンでも一人では危ないらしい。森の奥から出てくることは滅多に無いので、絶対に奥には行くなと念を押された。振りではない。
「分かりました。じゃあこの依頼を請けます」
「了解しました。ではオロクルに手を当ててください」
言われたとおり、カウンターに置かれたオロクルに手を当てると、ロングさんはいきなり俺の手の上にその年季の入った手を乗せて来た。ビックリした俺をロングさんは目で制し、何事かをブツブツ呟くとオロクルは淡い金色の光に包まれた。その後2,3秒経つとオロクルは一瞬赤い光を放ち、元の姿へと戻っていた。
「これで依頼の登録は完了です。採取依頼とはいえ、先程言った様な魔物と遭遇することがありますので、お気をつけて」
「ありがとうございました。じゃあ、行ってきます」
親切なロングさんへの感謝と、何故女性の受付に声をかけなかったのかという後悔が複雑に入り混じった微妙な笑顔でお礼を言い、冒険者ギルドを後にした。
まだまだ朝と呼べる時間帯だが、大通りは沢山の人が行き交っている。その活気の中に紛れ込み、この街の一員であるかのように流れに乗って南門へと向かう。
途中、額に角の生えた馬が引く豪華な馬車とすれ違い、また一つファンタジーに触れることができたと感動した。
南門に着き門番の様子を伺うが、ルッチさんでは無かった。今いるのかと思い尋ねるが、どうやら今日は午後かららしい。
なんだよ。大体いつもいるって言ってたのに。まあ、いいか。森を目指そう。
街を出て遠くに見える森を目指し歩き始める。目的の森は例の小屋があった森だ。そう遠くはないが、歩くのは面倒くさいから魔法で転移したい。しかし、ここから森まで障害物となる物は何も無く、門番や街を出入りしている人から丸見えだ。
この世界で空間魔法というものが、どのような位置づけにあるか分からない原状では、あまり大っぴらにするのは得策ではないだろう。
なら走れば良いじゃない!
天啓のような閃きに、後先考えず走り出した。
体は非常に軽く、跳ねる様に突き進み、もう鈍ったサラリーマンの体ではないという事を体感した。
万能感に包まれて只管走り続けた結果、歩いて街へ向かった昨日よりもずっと早く森に着いたが、その代償は大きかった。
息は切れ、体もすっかり重くなり、近くの木へともたれかかっている。
いやあ、調子に乗った。乗ってしまった。例の認識領域に魔物は引っかかってないから、しばらくここで休もう。ついでにその認識領域を広げる練習でもしてみるか。
荒い息を整えながら、体内の魔力を周囲に拡散させる。認識できる範囲は徐々に広がり、半径5メートルから7メートルへ。7メートルから10メートルへ。円形だったその範囲も、あっちの方を知りたいな、と思えばあっちに広がり、そっちも知りたいと思えば、そっちにも広がる。今はまるでアメーバのように自在に形を変えている。
初めは意識して行っていたが次第にその意識も薄れ、極自然と呼吸をするかのように認識領域を広げていた。
<魔法Lv3>の凄さに上機嫌になりながら、広げた領域からの処理しきれないはずの情報をすんなり受け入れ、周囲の様々な情報を手に入れている。一日草と思われる草も既に2株ほど発見した。クローラビットの姿もここから20メートル位の距離に1匹確認している。
動かなくても何でも分かっちゃうな。神かなんかになった気分だ。まずいね。ちゃんと足で捜査しないと、和久さんに怒られちゃうよ。
ある程度体力も回復したので、まだ若干重い腰を上げて森に入り、真直ぐ一日草と思われる草が生えている場所へと向かった。
すぐに見つけたそれを確認のためじっと見る。
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植物:一日草
性別:
固有名:
葉を失っても、一晩で再生するため一日草と呼ばれている。
人間には主に傷薬の調合に使われている。
再生の原理は至って簡単。葉を失うと、元の形に戻ろうとする根が、
地中にあるマナを吸収して魔力的資質を備えた葉の概念を作り出し、
その概念に月の光に含まれるブルー……
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急に複雑な解説が出てきたので無視するが、どうやらこれが一日草だ。
杓文字のような形をしたやや厚みのある葉を4枚、根元から採取した。
衛生面が気になるが、他に手段は無いので袋に入れる。
次の一日草へと向かい、今度は3枚の葉を採取できた。どうやら葉の枚数には個体差があるらしい。
先程見つけたクローラビットの元に向かおうかとも思ったが、採取を先に終わらせるため、森を歩き回ることにした。
しばらく魔物を避けて歩き回り、ようやく30枚に達した。太陽はもう真上で、お腹も空いてきた。昼食のことなど考えずに出てきたので、とりあえず帰ることにし、森の外へと足を進める。
少し歩くと前方25メートル位の位置に魔物の姿を認識した。クローラビットではなく、どうやらこいつがスモールフュトンらしい。実際に見てみようと思い、ゆっくり歩いて近づく。
実際に見えた姿はとても大きく、1.5メートルくらいある。胴体も太く、なかなかの威圧感だ。
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魔物:スモールフュトン(20P)
性別:♂
固有名:
年齢:5
状態:健康
特殊能力:
時代の流れに乗り小型化したフュトン。
動物だろうと魔物だろうと構わず食ってしまう魔物。
力は強く瞬発力はあるが、意外と鈍足である。
茶色い斑模様の皮は丈夫で、鈍らな刃物では傷つかない。
そのため皮は、主に革製品として利用されている。
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ロングさんが説明していた通り、それほど動きは早く無さそうだ。革製品になるならそれなりの値段で買取ってもらえる気がする。
金に目が眩み、すぐさま魔法を使って押しつぶす。身動きができない所を切断。必勝パターンである。
今回は喉元から流れる血を離れた場所に転移させるという小粋な技を使って、血で汚れないようにした。
ようやく血が出なくなった所で、ある問題に気付いた。皮の剥ぎ取りとかしたこと無いから、そのまま持っていくしかない。しかし、この蛇は果たして袋に入るのだろうか?
一日草を袋から取り出し、蛇をギュウギュウと押込むと、どうにか入ったようだ。一日草は隙間につめた。
この魔物がどれ位のお金になるのかワクワクしながら、重い袋をグッと背負い、街へ向かって歩き出す。
その姿は、パンパンのオモチャ袋を背負ったサンタのようだ。袋からにゅっとはみ出す蛇の頭はみんなをドキッとさせるチャームポイント。その口から力なく垂れる先の別れた舌に視線は釘付けだ。
街に着き、冒険者カードを呼出し、意気揚々と門をくぐろうとすると嘲笑うかのような声をかけられた。
「おい、ずいぶんと可笑しなもん背負ってるな、エル。流行りか?」
声のした方を向くと、フルフェイス型の兜をした門番がいた。この声と、人を馬鹿にしたような口調はルッチさんだろう。
「ルッチさん? これ流行ってるんですよ。知らないの? フュトンのバッグ」
「はっはっは! 確かに、そりゃフュトンのバッグだな。プレゼントすりゃ女もイチコロだ。さっさとギルドで買取って貰えよ」
なんかうまい事返された気がするが、適当に返事をしてさっさとギルドに向かう。俺だってこんな物いつまでも担いでいたくはない。道行く人の視線が痛いのだ。
ギルドに入ると、前を通った女性職員に怯えられてしまった。
先に買取を済ませようと受付へ行き、袋から蛇を引張り出してカウンターにベシッと置いた。
「買取お願いします」
「はい。しかし、また丸ごと持ってきましたね。重かったでしょう?
えー。スモールフュトンは皮が買取対象となっています。1匹分ですので、6,000円で買取ります」
昨日と同じイケメンの言葉から軽く馬鹿にしたような感じを受けたのはやはり被害妄想だろうか。
その言葉に無反応なのを見て取ると、イケメンは業務に戻り四角い銀貨を6枚渡してきた。昨日もそうだったが、もしや5,000円の硬貨は無いのだろうか。
しかし結構な金額になった。恥ずかしい思いをして持ってきた甲斐があったな。次は依頼の完了報告だ。
奥のカウンターに行き、ロングさんに話しかけ納品物を提示する。
「一日草の葉、30枚です。確認してください」
「おや、早かったですね。もっと時間がかかると思っていましたが。どれ……確かに。ちょっと蛇臭いですが、良しとしましょう。怪我も無さそうですし。次からはちゃんと準備して行くことをお勧めしますよ」
どうやら、スモールフュトンの買取を見られていたらしい。
「では、依頼登録時のようにオロクルに手を置いてください。完了登録をしますので」
しまった。またこうなるなら、ロングさんに話しかけなかったのに。……まあいいか。だからロングさんはいつも空いてるんだろうな。
オロクルに手を置くと、依頼登録時と同様の手順で完了登録は終了した。
「こちらが報酬の3,000円です。お疲れ様でした」
報酬を受け取ると、お礼を言ってカウンターを離れた。
ギルド内にある時計を見るとまだ昼過ぎだ。午後をどう過ごすか考えるため、そこらの椅子に腰掛ける。
所持金は11,000円。宿には2泊分は払いたい。そうすれば、あの部屋から堂々と転移ができる。
となると、残るは3,000円か。うーん、昼は我慢して、色々と道具を買いに行くか。ロングさんにも準備しろって言われたし。まあ、3,000円で何が買えるかは分からないけど。
よし、じゃあボリッシュさんの道具屋に行こう。でも場所が分からん。困ったときのロングさんだな。
目的を決定して席を立ち、ロングさんに話しかける。
「ロングさん。道具屋のアンデテネスってどこにあるか分かります?」
「あー、分かりますよ。あの店へはこのギルドをでて……」
ロングさんの説明に従い歩いていくと、道具屋アンデテネスの看板が見えた。店は1階建てで、それほど大きくはなく、何度か改修した跡が見られる。伝統はありそうだ。
小走りで店の前まで行くが、営業しているのかしていないのか良く分からない。少し様子を伺うが、誰も出入りする気配がないため、意を決しゆっくりとドアを開けた。
――カランコロン。
小気味のいい音が響き、店内からの光が漏れる。店内は小奇麗に整っており、外から見たイメージとは大分違った。
音に遅れて反応するように、正面のカウンターにいる金髪オールバックの男は振り返りこちらを見た。
「いらっしゃいませ。……って、昨日の少年じゃないか。えーっと……」
「エルザムです。エルザム・ラインフォード」
「ああ、そうだ。エルザム君ね。すまんすまん。で、恩返しにでも来たのかな?」
「ええ、少しばかりですが」
「ほお、若いのに感心だねぇ。それで、何が必要なんだい?」
「はい、財布ですとか、小物を入れる袋とかです。安物で構いませんので、何かありますか?」
「……あるよ。ちょっと待っていたまえ」
ボリッシュさんは何かを考えると、ある、と答えて店の奥に入っていった。
その間、店内を見て回ることにする。
やっぱ色々あるなー、ランプ、ナイフ、カバン、欲しいけどまだまだ先だな。ってこのカバン、フュトンのバッグって書いてあるよ。マジであったのか! そして高い! 52,000円って。皮は6,000円だったのに、この差は一体……。
斑模様が映える茶色いバッグを手に取って繁々と眺めていると、ロングさんが戻ってきたようだ。
「お待たせ。ん? フュトンのバッグか。彼女にでもプレゼントするのかな?」
「いやいや、とても手が出ないですよ。その日暮らしで精一杯なんですから」
「そうかそうか。さ、これが要望のものだ。どうだい?」
そう言ってボリッシュさんは、がま口の財布と腰に提げるのにちょうど良さそうな袋を見せてくれた。
「あ、いいですね。おいくらですか?」
「そうだな。財布が1,500円で、その小袋が1,000円だ。安いが両方革製だから、そこそこ丈夫だぞ」
「じゃあ、買います」
予算内でおさまったので、即決してお金を支払う。
「はい。お釣りだ」
渡されたのは2センチ程の丸い銀貨が5枚。これが100円だろう。500円の硬貨はやはり無いらしい。
早速買った財布にお金を入れ、やや肉付きのよくなったがま口に満足すると、お礼を言って店から出た。
その足で夢幻の冠亭に行き、カウンターのご主人に話しかける。
「稼いで来ました。2泊分でお願いします」
がま口から四角い銀貨を8枚取り出し、自慢げに差し出す。
「そのようだな。じゃあ、また名前を書いてくれ」
昨日と同様の手続きを終えて、部屋へと向かった。
部屋に着き、荷物を机の上に投げ出してベッドへと腰掛けた。寝床を確保できたことに安堵の息を吐くが、机の上の袋からはみ出した痩せたがま口が目に入り、焦燥を感じる。もう500円しか無いのだ。
心にゆとりが欲しいと思い、もう一仕事することに決定した。時刻は14時40分。日が暮れるまでまだまだ時間はある。
といっても、すぐに出発するわけにはいかない。今のままではあまり荷物を持てないからだ。チート魔法の出番である。
さっき買った革の袋に魔法を使って、袋の中を4次元空間へと繋いだ。4次元ポケットの完成である。
よし、これで兎だろうが、蛇だろうが、どんどんぶち込んでやるぜ。つーか何故これをさっきやらなかったんだろう? バカなの? まあ、過ぎてしまったことは仕方が無いな。
後悔をねじ伏せ、やる気を出して冒険者ギルドに向かった。朝と同じ採取依頼を請け、またすぐに宿に戻ってきた。部屋から森へ転移する為だ。
部屋に戻り、森へ転移した。これでかなり時間が短縮できただろう。
森へ着き、認識領域を広げながら一日草を探しつつ、魔物も積極的に倒していった。
危険な魔物にも遭遇することも無く、日が暮れる頃にはかなりの成果を上げることができた。大分暗くなり視界も悪くなってきた為、部屋へと転移した。
部屋に戻ると、もう夕食が始まっている時間だったので、そのまま食事をすることにして食堂へと向かう。昼食を抜いていた為、お腹はペコペコだ。
出された夕食はあっという間に平らげてしまった。しばし腹を落ち着かせてから、冒険者ギルドへと向かった。
外はすっかり暗くなっているが、街灯の明かりで照らされた通りは昼とはまた違う顔を見せている。あっちこっちに視線を持っていかれるが、視線だけに止めて、歩き去る。
冒険者ギルドに着き、まずは依頼の完了報告の為、奥のカウンターへと向かった。
ロングさんがいない為、手持ち無沙汰な受付のおじさんへと声をかけ、依頼の完了登録を行う。
腰の袋から一日草の葉をゴッソリ取り出しカウンターの上に置くと、おじさんは早速数え始めた。
7,000円の報酬を受け取り、今度は買取用の受付へと向かう。だんだん近づいてくる手荷物の無さそうな俺を不思議そうな顔で見る受付のお馴染みのイケメンに声をかけた。
「買取お願いします」
「はあ……しかし、何も持ってないようですが……」
解体もできないペーペーが何も持たずにここに来るのは100年早いんだよ! という言葉を裏に隠したような反応に、俺はニヤリと不適な笑みを浮かべた。
余裕の表情で腰の袋に手を突っ込み、クローラビットを引っ張り出してカウンターの上にドサッと置いた。
「うえっ!?」
驚いて声を上げ、目をまん丸に見開いたイケメンは、クローラビットと俺のドヤ顔を交互に見比べている。
ここで調子に乗ってさらなる追撃をかける。次々に袋から魔物を取り出し、カウンターに並べていく。
小さな袋からどんどん出される魔物の姿に、イケメンは混乱したかのように言葉にならない言葉を吐き出している。
その様子をみて満足した俺は、止めと言わんばかりにスモールフュトンを引っ張り出し、すっかり固まってしまったイケメンの首に、そっと巻いてあげた。
「今回も丸ごとです」