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第29話 「誰が為に」


 俺の魔法により大の字の様な格好で床に押し付けられたエリシア様は、甲高い声でアレコレ喚きながら起き上がろうと身体を動かしている。といっても、魔法の圧力に全く抵抗できないようで、モゾモゾしているだけに見えるが。

 俺はそんな様子を見降ろしていたが、やはり可哀想なのでそろそろいいかなと思い魔法を解くと、エリシア様はすぐさま立ち上がり、涙を溜めた青い目で俺を一睨みして部屋を飛び出して行った。

 「バーカ!」という単純明快な捨て台詞をちゃんと残していくあたり、流石だなぁと思ってしまったが、そのまま放っておく訳にもいかない為、俺も部屋を出て廊下を走るエリシア様を追いかけた。普通に歩いて。というのも、エリシア様の走る速さが尋常ではなく遅かったのだ。早歩きに毛が生えた様なレベルである。走り方が悪いのだろうが、大きく腕を振りドッタバッタと一生懸命に走る姿はとても可愛らしかったので、俺はそれを眺めながら悠々と後を付いて行った。




「お父様っ! なんなのよコイツ?!

 言う事は聞かないし、口のきき方もなってないし、しかも私をつぶそうとしたのよ?! ぺっちゃんこにっ!! あやうく世界で一番可愛いじゅうたんになってしまう所だったわ!

 あんな奴、早くブタにしちゃってよ! こーんなブヨブヨのやつに」


 エリシア様が駆け込んだのは公爵の部屋だったようで、公爵の腹を豚に見立ててタプタプとさすりながら俺の所業を懸命に訴えている。ナチュラルに失礼な事をしているなぁと思いつつも、俺は公爵の部屋に入ってすぐのドアの傍に立ち、事の成り行きを見守っていた。

 エリシア様はそんな俺を指差し、まだ豚にしろと騒いでいるが、ひょっとして魔法とかで出来るのだろうか? だとするとちょっと怖い。

 とはいえ、公爵からは力技も認められているので、おそらく大事にはならないと思うが。


「おうおう、可哀想なエリシア! そんな酷い仕打ちを受けるとは! 全くとんでもない男だ!

 ……しかしだな、エリシア。残念ながら私ではエルザムを止めることは出来ない……。

 あいつは1000を越すゴブリンの大群を一瞬で叩き潰したという噂もあるんだ。そんな魔族の様に恐ろしい男に、逆らったらこの屋敷をペチャンコに潰すと、私は脅されている。始めはどうにかしようと動いたのだが、エリシアは勿論、バッハやこの屋敷にいる皆の事を考えると、屈するしかなかった……。こんな……こんな非力な父を許しておくれ……」


 おいおい……このおっさんは何を言ってるんだ。無駄に芝居がかったトークしやがって。俺が完全に悪役じゃないか。つーかそれで通る訳ないだろう……。


「な、なんてこと!? これはブラウンシュガー家の危機ね……って、そうだ! 団長達にやっつけてもらえばいいのよ! 彼らにかかればこんなへなちょこイチコロよっ! ねぇ、お父様?」


「おお! それは名案だな。流石は私の娘だ! 可愛いだけでなく頭も良い! よーし、チュッチュしてあげよう」


「……さっそくバッハに言ってくるわ! これでもう安心よ、お父様!」


 公爵のチュウをサッとかわしたエリシア様は、そのままドタドタと駆け出し部屋を出て行った。またもや捨て台詞を残して。


「フフン! あなたもこれでおしまいね! 泣いてあやまっても許さないんだからっ!」




 なにやら勝手に話は進んでいるようだが、その展開に付いていけず、走り去るエリシア様の姿をぼーっと見送っていると、後ろから話しかけられた。


「エルザム、さっそくすまないな。しかし、私の願いをしっかりと聞いてくれた様で安心したよ。今までの貴族の教師等は公爵令嬢という立場に遠慮してまるでダメだったからな。これからもこの調子で頼む」


「ええ、それはまぁ…………しかし、この後私はどうなるのでしょうか? エリシア様は団長がどうのって言ってましたが……」


「ああ、それか。そなたには我が公爵軍が誇る四騎士団の団長達と模擬戦をしてもらいたい。既に手筈は整っている。こうなる予想はしていたからな」


 模擬戦か……面倒だけど、娘の護衛等を任せる人物の力量を直接見たいと思うのは当然だよな。まあ、魔法を使える限り負ける事は無いだろうし、団長っていうくらいの肩書なら大したことは無さそうな気がする。


「分かりました。

 しかし、予想していたというよりも、エリシア様を誘導したように見えたのですが……」


「ハッハッハ! そう見えたか。まあ、どちらでもいい事だ。

 それよりも、模擬戦を頑張ってくれよ。そなたもブレイブス殿から中々にやると聞いてはいるが、団長達も帝国では指折りの実力者達だからな。一筋縄ではいくまい。楽しみに……いや、期待しているぞ」


 ……舐めてました。団長っていう響きを。応援団の団長とか想像してた俺は馬鹿だね。帝国でも指折りって……やばいだろ。

 チート魔法のおかげでちょっとした実力者みたいになってるけど……俺、この世界に来てまだ半年ですよ。それまで喧嘩すらろくにしたことの無い事なかれ主義の日本人……。まあ、最近は元帝国最強の男と頻繁に模擬戦してたから多少は対人戦にも慣れてきたけどさ。それでも80歳近い老いぼれですよ。現役の帝国トップクラスとは比べるべくも無いだろう。……びびって漏らしたりしたらどうしようかな……。






 時刻は昼過ぎ。俺は今、20メートル四方の石造りの舞台の上に立ち、冬の寒さも吹き飛ばす熱気溢れる男達に囲まれていた。


「団長ー!」

「だーんちょー! そんな小僧軽く叩きのめしちまってくださーい!」

「小僧ー、死ぬなよー!」

「ちょっとは逃げ回って楽しませてくれよー!」

「あいつは何メートル飛ぶかな?」

「軽く10は行くんじゃないか?」

「いや、俺は15メートル位吹っ飛ばされた事があるからな。あの小僧じゃ20は行くだろ!」

「そりゃ、お前が飛びすぎだ! ガハハハ!」

「行け行け団長! 押せ押せ団長!」

「我らフントリッターの凄さを見せつけて下さい、レオナルド団長ぉー!」

「♪レーオーレーオーレオレオー レーオーレーオーレオレオー レオ! レオ! レオ!」


 ここは練兵場の一角にある模擬戦用の舞台で、観戦している多くの兵士が応援やら野次やらを飛ばしている。公爵やエリシア様も観戦用のスペースでこちらを見て楽しそうにしており、その傍には3人の男達が立っていた。おそらく、これから戦う団長達なのだろう。大勢の観戦者がいる舞台の上でガチガチに緊張している俺とは反対に、余裕そうな表情でこちらを見ている。圧倒的な経験の違いがあるので当たり前だが、妙に腹立たしい。


「それでは只今より、フントリッター団長レオナルド・シュークリム殿と冒険者エルザム・ラインフォード殿の模擬戦を行います。

 両者、準備はよろしいですか?」


 バッハさんが立会人となり、舞台に立つ俺と、対峙しているもう一人の男に確認をしてきた。俺はこういう正式な立合いをした事が無かった為、恐る恐る了承の返事を返したが、相手は言葉を発する事は無く、顎鬚を撫でながら観察する様な目でこちらを見つつ深く頷いただけだった。

 その相手のレオナルド・シュークリムとやらは身長2メートルはあろうかという20代の大男で、全長1メートル程もある大きな両刃の斧を片手で軽々と担いでいる。上半身は分厚い金属の胸当てでしっかりと覆われており、それらを合計した重量は相当なものだろう。見るからにパワータイプだ。模擬戦という事で刃は金属のカバーの様な物で覆われているが、刃の有無に関わらずあんな大きな斧の一撃をまともにくらえば即死に違いない。

 ちなみに、その禍々しいまでに巨大な斧には、何故かデフォルメされた可愛らしいワンちゃんのマークが彫られている。ギャップ萌えというやつかもしれない。

 そんなギャップを誘うかの様な厳めしい表情や纏う空気からも歴戦の強者を思わせ、公爵の言葉通り一筋縄ではいかない相手だろう。少しでも情報を得ようと思った俺は、手で顔を隠し、指の隙間から相手の情報を見た。



 --------------------

 人間:人族

 性別:♂

 固有名:レオナルド・シュークリム

 職業:騎士団長

 年齢:26

 状態:健康

 才能:斧術Lv1、大力

 特殊能力:大艦巨砲主義

 --------------------



 <大艦巨砲主義>

 分類:特殊能力

 巨大な一撃にロマンを感じ、拘りを持った男の証。

 その渾身の一撃には魂が宿るだろう。



 見事に才能とマッチしたスタイルじゃないか……。<大艦巨砲主義>ってのの効果の程は良く分からないが、流石は騎士団長というべきか。


「レオー! そんなやつ、プチッとつぶしてしまいなさーい!! とっておきのごほうびをあげるわよー!」


「ッ!!! ……と、とっておきの……ご褒美!! エ、エリシア様の……ご褒美だとぉ!?

 …………ぬおぉぉーー! エルザムといったな?! 悪いが早々に終わらせて貰う! 死んでも……恨むなよ!」


 先程まで厳しい目つきで俺を見据え、戦場の男っぽさを漂わせていたレオナルドさんはエリシア様の言葉を聞くや否や、一転して鼻を膨らませて興奮し、目を血走らせ、闘争心を剥き出しにしてきた。


 ……コイツ、そっち系の人間だったか。つーか殺す気かよ! ご褒美に釣られすぎだろ。


「では、始めっ!」


 相手の変貌ぶりに戸惑っている俺を差し置いて、バッハさんは開始の合図を発した。


「さあ、戦争の時間だ!」


 開始してすぐ、そう叫んだ絶賛大興奮中のレオナルドさんは振りかぶった斧と共にその巨体を感じさせない程の速さで迫ると、真直ぐに巨大な斧を振り下ろしてきた。


――ガズンッ!!


 レオナルドさんの渾身の一撃は石造りの舞台を叩き割る程に豪快なものだったが、その速度はクソジジイの一撃には程遠く、一歩横にずれることで意外にもすんなりと避けることができた。

 避けられた事に驚いたのか、大ぶりの一撃の後だからかは分からないが、俺は隙が出来たのを見逃さず、すぐさま反撃に出た。がら空きの上半身にこの拳を叩き込む為に。

 その動きに気付いたレオナルドさんはニヤリと笑う。武器も持たないひょろっとした小僧の一撃など臆する事等ないというのだろう。

 素早くレオナルドさんの懐に潜り込んだ俺は、胸当てにも刻まれているワンちゃんのマークめがけ、体に馴染みつつある型通りの左の掌底を繰り出した。


「ダァッ!」


――ズドンッ!


 巨大な鈍器で殴られたような音と共に、レオナルドさんの巨体は遥か後方の観戦している兵士達の群れへと吹っ飛んで行った。砕けた胸当ての破片をパラパラと撒き散らしながら。


 あ、ヤバイ。掌底に見せかけてショックの魔法を叩き込んだんだけど、やりすぎたかも……。し、死んでないよね?


 遂に人を殺めてしまったかもと動揺していると、俺の不安を煽るかのように静まり返っていた観衆が、突如ざわざわしだした。

 白目を剥いたレオナルドさんが観戦者達をかき分けヨロヨロと舞台に向かって近づいてきたのだ。生きていた事にホッと安堵したが、レオナルドさんの意識はハッキリとしているとは思えず、なにやらブツブツと言葉を発している。


「エ、エリシ……マイラブ……キ……ーテンダー……ホールド……タイト……フォ、フォ、フォ……」


 その言葉は最後まで発される事無く、レオナルドさんはドサリと倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。


「しょ、勝者エルザム・ラインフォード殿っ!!」


「ウォー!!」

「スゲー! なんだあいつはー!?」

「ば、馬鹿な? 一撃だとッ!?」

「だい……丈夫なのか? 団長は……」

「団長ぉー! 立って下さーい!」

「……そんな……」

「さ、30は飛んだかな……」

「……飛んだな」

「だだだだだんちょー!!」


 バッハさんにより勝利を告げられると、観衆からはドッと歓声や悲鳴が湧き上がった。


「レ、レオぉーー! レぇーオぉーー!!」


 エリシア様は悲鳴の様な大きな声を上げながらレオナルドさんに駆け寄って行ったが、横にいた他の団長達は何やらこそこそ話し合っている。


「レオナルドがやられたようだな……」

「ククク……奴は四騎士団長の中でも最弱……」

「冒険者ごときに負けるとは、騎士団長の面汚しよ……」


 等と言っているに違いない。ここからは聞こえないから想像だけど。






「続いて、ベーアリッター団長マントン・ワッフェルマ殿と冒険者エルザム・ラインフォード殿の模擬戦を行います」


 どうやら連戦するらしいのだが、次に俺の前に立ったのは白髪のイケメンだ。しかし、このイケメンは只のイケメンではないだろう。自身の身長よりも大きいとても頑丈そうな盾を片手で扱っている。もう片手には槍を持っているので守り中心の戦い方をすると思われる。素人的に考えて。


「マントン! マントン! マントン!」

「マントン! マントン! マントン!」

「マントン団長ー!! レオナルド団長の仇をうってくださーい!」

「キャー、マントン様ー!」

「ステキー!」

「おい、あの盾はまさか!」

「知ってるのか、ダイレン?!」

「ああ、あれはミスリル製のタワーシールドで、世界最高の鍛冶師ドムレイが手掛けたって噂だ。大砲は勿論、上級の魔法すらも防いだとかなんとか」

「そんなのを持ち出されちゃ、あの小僧に勝ち目はないな……」

「我らベーアリッターの鉄壁の守りの前に敵はいないぞ!!」

「オオォォー!!」


 次は負けられないという思いからか、先程にも増して凄い歓声だ。どうやら女性兵もいたらしい。あの黄色い声援は羨ましいな。誰か一人くらい俺を応援してくれてもいいんじゃないかな。って無理か。アウェイ中のアウェイだもんな。


「エルザム殿、レオナルドへの一撃はお見事でした。力強さの中にも優美さと気品を失わない……いい冒険者ですね。まるでこのチューリップのように」


 柔らかな笑みを浮かべたマントンさんが、胸に刺していたチューリップを掲げながら俺に話しかけてきた。あたかもそれが神々しい物であるかの様に大切に扱いながら。

 俺はその独特の雰囲気にどう対応していいか分からずじっとしていると、エリシア様の声が飛んできた。


「マントーーン! ぜったい勝つのよ! もし負けたらそのチューリップは返してもらうわよっ!」


 その言葉を聞いたマントンさんから柔和な表情は消え去り、急に緊迫した雰囲気を漂わせた。それはレオナルドさんとは対照的にとても冷たく、鋭く感じられる。

 そして掲げていたチューリップを丁寧に胸に刺し戻すと、必勝の意思を俺に叩きつけてきた。


「私はこのエリシア様に頂いたチューリップに賭けて、あなたを倒す! エルザム殿!」


 ……マントン、お前もか。つーか団長って変なのしかいない訳? それともエリシア様がなんか特殊なの? 確かに一つ一つの動きが鈍臭くて可愛らしかったけどさ。……俺もいずれこうなっちゃったりして。


「両者、準備はよろしいですね? では、始め!」


 開始の合図と同時に、マントンさんは俺から素早く距離を取り、自慢の盾を前面に押し出し防御の姿勢を取った。盾の中央でニッコリと微笑むクマさんマークがちょっと可愛い。


「私はレオナルドの様に、正直に突っ込んだりはしませんよ。……逃げもしませんがね。

 さあ、どこからでもかかって来るといい。この鉄壁の守りで防いで見せよう!」


 余程守りに自信があるのだろう。その自信の程を知ろうと思った俺は、向こうから手を出して来ないのをいいことに<真理の眼>でマントンさんを見た。また顔を手で隠しながら、サングラスでもあればいいのになぁと思いつつ。



 --------------------

 人間:人族

 性別:♂

 固有名:マントン・ワッフェルマ

 職業:騎士団長

 年齢:29

 状態:健康

 才能:盾術Lv1、戦術Lv1、指揮Lv1

 特殊能力:

 --------------------



 なるほどね。守りに自信がある訳だ。じゃあ遠慮なくいかせて貰おう。


「それでは、遠慮なく……」


 俺はマントンさん自慢の盾にすっと右手を向け魔法を放った。


「ショック」


――ドンッ!


 この魔法による衝撃は、派手な衝突音とは裏腹にマントンさんを多少ずらすだけに留まり、盾はほんの僅かにへこんだだけだった。


 おお! 耐えた! レオナルドさんの時と同じ位の威力だったんだけどな……。流石鉄壁というだけはある。


「どうですか! まさか魔法を無詠唱で放ってくるとは思いませんでしたが、その程度の威力では……」

「ショック」


――ドンッ!!

「うおっ! ちょ……」


「も一つショック」


――ドゴンッ!!

「グッ! なんのぉ!!」


「はい、もういっちょー。ショック!」


――ドゴォンッ!!

「ぐおッ!! ま、まだまだぁ!!」


「じゃあちょっと大きめでー。ショック!」


――バガガァンッ!!

「ぬぁぁッ!!」


 徐々に威力を上げていったショックの魔法に耐え続けていたマントンさんだったが、ちょっと強めに放った5発目でひしゃげた盾諸共舞台の端まで吹っ飛んで行った。

 団長が二人も立続けに吹っ飛ばされるという事態に観衆は静まり返っている。そんな中、マントンさんは自身に覆いかぶさる大きな盾だった物から、ズルズルと這い出してきた。その様子は息も絶え絶えといった感じで、盾越しではあったが衝撃はそれなりに伝わっていた事が分かる。

 傍に転がる槍を支えに立ち上がったマントンさんはハァハァと息を切らしながらも、戦う意思を見せ、槍を構えた。


「ま……まだまだ……これしきでは……やられん。……こ、このマントン・ワッフェルマ……己の肉が骨から削ぎ取れるまで……戦う!」


 このマントンさんが見せた男気に観衆からはドッと声援が沸き起こり、負けムードで沈んでいた舞台に、熱いマントンコールが降り注いだ。マントンさんの後方に見えるエリシア様も、ノリノリで腕を振り上げて応援している。


「マントン! マントン! マントン! マントン!」

「マントン! マントン! マントン! マントン!」

「マントン! マントン! マントン! マントン!」

「マントン! マントン! マントン! マントン!」


 この沸きに沸いたマントンコールに思わず俺もグッときてしまったが、勝負は勝負である。

 右手をマントンさんへと向け、ポツリと呟き、容赦なくショックを放った。多少弱めに調節して。


「ショック」


――ドッ!


 マントンさんは放たれた衝撃に構えた槍を圧し折られ、鮮やかに宙を舞った。その無慈悲な鉄槌にマントンコールはピタリと止まり、お前空気読めよ的な視線が俺に集中している。

 この微妙な空気と静寂が支配する中、綺麗な放物線を描き、石の舞台へと落下したマントンさんは未だ意識があったようで、最後の力を振り絞り懸命に言葉を吐き出そうとしていた。


「エ、エリシア様……バン……ザ…………」


 最後まで言い切ることは出来ずにマントンさんは気を失ったが、その表情はどこか満足そうである。


「勝者エルザム・ラインフォード殿!」


 戦いの終了を告げられると、エリシア様はレオナルドさんの時同様に敗れたマントンさんへと泣きながら駆けて行った。本気で心配しているようで、意識の無いマントンさんの傍らで大丈夫かと頻りに声をかけている。

 急いで駆け付けた救護担当の兵達がマントンさんを担架に乗せて運び出すと、エリシア様は近くに落ちていた潰れたチューリップを拾い、マントンさんの手にギュッと握らせていた。



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