第20話 「ラインフォードの虜」
第19話にて描写が不足していた箇所があったため、また以前感想にて返信していた第1話についても加筆・修正しました。
両方とも大筋は全く変わっていませんので、気になった方は一読下さい。
皆様のお陰で、第20話まで来る事ができました。まだまだ継続していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
ゴブリンの一件から数日経過したが、特に大きな変化は無い。俺は今日も仕事に行くし、ヴォルクは道場に行った。
あ、ヴォルクに変化はあったな。いつもより早く道場に行くようになったのだ。朝練ってやつだ。才能もあって努力もしている。他の人からすれば堪ったもんじゃないだろうな。
それはさておき、そろそろ出かけますか。
俺は多少身なりを整えると、自室を後にし宿の階段を降りて行った。1階の受付にはいつもどおりシャンさんがいる。今は客の相手をしているようだ。
「だからぁ、本当に知り合いなんだって! 分かんねー親父だなぁー」
「ダメだ、ダメだ! こっちは客商売なんだ。信用が第一なんだよ。さっさと帰れ!」
なにやら面倒臭い客に絡まれているようなので、そのまま出て行こうとすると、こちらに気付いたその客がいきなり声を上げた。
「あー! ようやく見つけたっすよ、兄貴っ!」
兄貴? 俺にはこんなおっさんの弟はいないはず。それとも俺の知らない間にヴォルクはこんなに大きくなってしまったの? あんなに可愛かったヴォルクが、大きくなるとこんなしょぼくれたおっさんになってしまうの? お兄ちゃんそんなの嫌だよ!
……まあ、馬鹿な考えは置いておいて……こいつには見覚えがある。この灰色のローブにひょろっとした猿顔の男は、ゴブリンの大群を潰したときに言いがかりをつけてきた奴だ。何故こいつがここにいる? そして兄貴とはなんだ? 嫌な予感がする。
「人違いじゃないですか? 俺はこれから仕事に行くんで、それじゃあ……」
「ちょ、ちょっとぉ! 酷いっすよ、兄貴ぃ! 俺っちと兄貴の仲じゃないっすか!」
なんだかまずい事になりそうな気がした俺は、そそくさと宿を出ていこうとしたが、例の男にグッと手を掴まれて引き止められてしまった。
「そんな仲は知らないし、俺にこんな大きな弟はいない! さっさと手を離せ!」
「いいや、離さないっすよ! 苦節3日、雨の日も風の日も雪の日も、嵐の日だって探し続けて、ようやく兄貴を見つけたんすからっ!」
3日って……大した事ねーじゃん! それに最近はずっと晴れ続きだしっ!
「適当な事言ってんじゃねーよ! 嵐どころか雨すら降ってねーだろうが! ましてや雪なんか降るかっ! そして一日多いんだよ!
大体俺はお前の名前すら知らないんだ! 何なんだよ一体!?」
「細けえこたぁいいんすよ!
そして……何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情けっす。
俺っちは、偉大なるエルフ、エルウィンの孫にして誇り高き獣人サルバドの子、サルウィン・リトル・フィッシュ。
さあ兄貴、俺っち達の栄光の道はここからっすよ!」
「なんだよ、栄光の道って?! 猿だか魚だか知らないが、俺はお前とは関係ない! さっさとその手を離せ。また潰すぞ?」
「そんなぁ! あの優しかった兄貴は何処へいったんすか!?
傲慢で愚かだった俺っちを、心を痛めながらも諭してくれた兄貴は?
命の危険も顧みず、あのキング・ゴブリンとの間に勇敢に立ち塞がり、俺っちを救ってくれた兄貴は?
俺っちはそんな兄貴を慕ってここまで来たんすよっ!
どうか! どうかっ! 俺っちを兄貴の舎弟にぃ!」
サルウィンは俺に対する勘違いも甚だしい様な熱い思いを語ると、床に正座して姿勢を正し、その茶色い頭を地に擦り付けてまで嘆願してきた。所謂土下座である。
駄目だコイツ……、早くなんとかしないと……。
しかし、どうする? 勘違いとはいえここまでされたら袖にするのは難しい。ノーと言えない日本人的性格が邪魔をする。それにこいつはしつこく付き纏って来る気がするしなぁ。
「お願いするっす! 兄貴もご存知の通り……俺っちのクランは全滅しちまった…………。だから……俺っちにはもう兄貴しかいないんす! どうかぁ! この通りぃ!」
「……………………もういい。勝手にしろっ」
何度も頭を下げ、床にガンガンぶつけている姿に居た堪れなくなり、もうどうにでもなーれと思って勝手にさせることにした。それに、普段の俺の生活を見たら幻滅して去っていくかもしれないし。いつも大した事してないからね。
「ほ、本当っすか!? さすがは兄貴、器がデカイ! ありがとうございます! これからよろしくお願いするっすよ! 俺っちの事はサルとでも呼んでください!
おっと、兄貴はこれからギルドに行くんすよね? だったらこうしちゃいられないっすね! さあさあ行きましょう、行きましょう。ご一緒するっすよ!」
許しを得たサルは満面の笑みで感謝の言葉を口にするとすっくと立ち上がり、調子の良い口ぶりで俺をギルドへと促した。陽気に俺の先を歩き宿を出て行く姿には、思わず呆れてしまった。
宿を出る際の、がんばれよ、というシャンさんの小さな言葉は心に沁みた。
冒険者ギルドへの道中、サルはペラペラと自分の事について喋っていた。
自分にはエルフと猿の獣人の血が流れているんだとか、火と土の属性の魔法が使える優秀な魔法使いなんだとか。確かに猿顔だし、よく見れば耳が若干尖っている。しかし、真理の眼で見ると人族となっていた。
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人間:人族
性別:♂
固有名:サルウィン・リトル・フィッシュ
職業:冒険者
年齢:33
状態:健康
才能:魔法Lv0、火属性適正、土属性適正、口達者
特殊能力:
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最も血が濃い種族が表示されるのだろうか? 以前見たドワーフは亜人族だったし、猫の獣人は獣人族だった。よく分からないな。
それにしても中々に多才だ。<魔法Lv0>ではあるが、確かに2つの属性が使えるし、<口達者>というものまである。
まあ、トータルで見ると、冒険者として実用的とは言い難いかもしれないけど。
「そういえば、兄貴。今日はどんな依頼を請けるんすか?」
「特に決めてない。適当だよ、適当。つーか、お前性格変わりすぎじゃないか? この前はあんなに突っかかってきたのに」
「アッハハハ! あれは忘れてくださいよー。冒険者は舐められたらダメっすからね。強気で当たってたんす。グイグイっすよ!
でも、尊敬する兄貴には敬意を払って接するのが当たり前じゃないすか。態度も変わるってもんすよ」
「そういうもんか」
「そういうもんっす」
冒険者ギルドに着き、まずはロングさんへと挨拶する。伯爵やミラ婆さんからの指名が入っていたりするので、最近はこうしているのだ。依頼を探してから行くと二度手間になったりするからね。
「おはようございます、ロングさん」
「おお、エルさん。おはようございます。
おや、今日はお連れがいるようで。えー、レオパデスのフィッシュさんでしたね」
「おう、ロングの親父! 俺は今日から兄貴の舎弟になったんだ。兄貴に舐めた真似してみろ。只じゃ置かねーからな!」
「しゃ、舎弟ですか? それはなんとも……。
そういえば、エルさん。ミュールさんからの依頼が入ってますよ」
「あ、来ましたか。分かりました。じゃあ早速行きますんで、それの受付お願いします」
「指名っすか!? さすが兄貴! そこにシビれる!あこがれるゥ!」
……全く、うるさい奴だ。
依頼を請けた俺は、慣れた足取りでミラ婆さんの家に向かった。相変わらずサルは付いて来ている。こいつは仕事をしなくてもいいのかと思って聞いてみたが、しばらくは俺の手伝いをして助けてもらった恩を返すんだと息巻いていた。殊勝な所もあるらしい。
「ミラ婆さーん。エルザムでーす。依頼の件で来ましたよー」
ミラ婆さんの家に着いた俺は、ドアをノックし、中に向かって声をかけた。
少し経ってミラ婆さんが出てきたが、相変わらず機嫌の悪そうな顔をしている。捻くれた人だ。
「なんだい。またあんたか。こんな依頼しか請けれないなんて情けない奴だよっ」
「なんだと、このババア! 兄貴を馬鹿にするんじゃ……」
「サル! お前は黙ってろ」
この二人は相性が悪そうなので、とりあえずサルには黙っててもらうことにした。納得が言ってない様子だったが。
「おやおや、こんな猿を連れて。とうとう冒険者やめて猿回しにでもなったか。ヒッヒッヒ。
じゃあ、ちょっと待ってな。今支度してくるよ」
その後、サルが散々に馬鹿にされ何度も爆発しそうになっていたが、その都度俺がフォローし、どうにか買い物を終えることができた。すると、またいつもの様に作りすぎた料理の処分をすることに。
「ちょっと作りすぎちまったんだ。ババアには食べ切れなくてね。食べていきな。そっちの猿にも特別食わせてやるよ」
「いつもありがとうございます。
サル、お邪魔していこうか」
「ぐっ……兄貴が言うなら仕方ないっすね。
おい、ババア! 食ってやるから、ありがたく思えよ!」
「ヒッヒッヒ。生意気な猿だよっ」
ミラ婆さんの作ったポトフは格別に美味しかった。文句ばかり言っていたサルも、食べ始めるとあっという間に平らげて何度もおかわりをしていた。一生懸命働くから、またいつでも呼んでくれ、なんて調子の良い事を言っている。手の平返しもいい所だ。
しかめっ面でおかわりを注いでいるミラ婆さんも、その表情に反して嬉しそうにしている気がする。意外と合うのかな? この二人は。
昼過ぎに冒険者ギルドに戻った俺達は、いくつかの雑用依頼をこなした。
日も暮れてきたので、宿へと戻ろうとするがサルも何故か付いて来ている。
「サル。なんでお前は付いて来てるんだよ? 今日はもう仕事は終わりだぞ」
「何を言ってるんすか、兄貴。俺っちも同じ宿に泊まるに決まってるじゃないすか! 舎弟なんすから」
そこまでするか。つーか舎弟ってそういうもんなの? 分からないから何も言えない。常識を知らない事が恨めしい!
「そ、そうか。もう好きにしたらいいさ」
宿に戻るとシャンさんが出迎えてくれた。
「おう、お帰り。って、そいつも一緒か。
ハハハハッ。随分と疲れた顔してるな」
「はい、精神的に疲れたのでもう部屋に戻りますね」
「そうか。ゆっくり休むといい」
さして会話をすることも無く、そのまま階段を登り部屋へと向かった。後ろからは宿泊の交渉をしている元気で陽気な声が聞こえてくる。
部屋へと戻った俺は、ヴォルクが帰ってくるまで一眠りしようかと思ったが、気分を変える為に体を動かすことにした。
師匠の動きを思い出し、一つ一つの動作をゆっくりと確認しながら一連の流れを繰り返す。オルレス流の体術の基本的な動きは全てこれに詰まっているらしく、とにかくこれを練習しろと言われているのだ。
「兄さん、ただいま」
自主練習を始めてしばらくすると、ヴォルクが帰ってきた。集中して体を動かしていたので、気分もいくらか晴れたようだ。お腹もだいぶ空いてきたので、早速ご飯を食べに行く事にした。
「おう、お帰り。……飯食いに行こうか」
「はい!」
素直で明るいヴォルクの返事に心が癒されたような気がした俺は、艶のある墨色の頭を撫でながら食堂へと向かった。
「兄さん、僕もお腹空きましたよ。今日は何がいいですかね?」
「お前はどうせコロッケだろ。知ってるんだよ」
「うっ……どうしてそれを……」
ヴォルクは二日に一回はコロッケを食べているのだ。分からないほうがどうかしていると言うものだ。
「まるっとお見通しだ。じゃあ俺は……」
「あ! いたいた! 兄貴ぃー!」
食堂のドア付近から、今日一日嫌と言うほど聞いたやや高めの声が聞こえてきた。……奴だ。
俺を見つけたサルは、真直ぐにこのテーブルへとやって来た。
「水臭いじゃないすか、兄貴。飯に行くなら一声かけて下さいよ」
突如現れた俺を兄貴と呼ぶおっさんにヴォルクは戸惑ってしまっているが、サルはそんなこと等お構いなしとばかりに、空いているイスへとずけずけと座った。
「に、兄さん……この人は、あの時の人じゃあ」
「にいさんって、兄貴には俺っち以外にも舎弟がいたんすか?!」
「舎弟じゃないですよ! 弟ですっ!」
「本当っすか! それは失礼しました。お名前を伺ってもいいっすか?」
「……ヴォルクリッドです。兄さんにはヴォルクって呼ばれてます」
舎弟扱いされてちょっとイラっとしたのだろうヴォルクは不機嫌そうにしながらも、素直に答えている。
「おお! 流石は兄貴の弟。強そうな名前っすねぇ。
俺っちは、サルウィン・リトル・フィッシュ。サルって呼んでください。これからよろしくお願いしますよ、ヴォルクの兄貴っ!」
……33歳のおっさんが12歳の子供を兄貴って。こいつにプライドは無いのだろうか? いや、無いんだろうな。
なんとも情けないというか……。竜ちゃんみたいだな。クルリンパでも教え込もうか。
「僕が……兄貴……っ!」
あ、やばい。乗せられそうになってる。
「サル、うるさいからお前はちょっと黙ってろ。
いいか、ヴォルク。こいつは突然俺の事を兄貴と呼んで付き纏ってきた頭のおかしい猿だ。あまり関わらないほうがいい。駄目な大人になるぞ」
「そんな、酷いっすよ! 俺っちは命を救ってくれた兄貴を尊敬して付いてきたんじゃないすか。それを頭のおかしいだなんて!」
「大体なぁ、俺はそんな大した人間じゃない。今日だってヘラヘラしながら雑用依頼ばっかやってただろ? そんなせせこましい奴なんだよ、俺は」
どうにか俺の印象を悪くしてやろうと、適当な事を言ってみた。
「何言ってるんすか、兄貴! あれだけ依頼人に信頼されてる冒険者は中々いないっすよ。今日ご一緒しただけでも、それがよーく分かったんす。兄貴はやっぱ只者じゃないっすよ。
もっと堂々と威張り散らして欲しいくらいっす」
「そうだよ、兄さん! 兄さんはすごいんだからっ!
もっとみんなに認められるべきなんだよ」
……なんでヴォルクがそっちの味方になってんだよ。ここはもっと俺を貶めるところだろうが。頼むよっ!
「そう! 良い事言うっすね、ヴォルクの兄貴!
よし、ここは俺っちに任せるっすよ!」
ヴォルクとの巧みな連携にてサルを撃退しようと思っていた矢先の裏切りに動揺した俺は、気持ち的に一歩退いてしまっていた。
そのせいか、急にイスの上に立ち上がったサルの不意をついた行動に対応が出来なかったのだ。これがまずかった。
イスに登った事で食堂にいる皆の注目を集めたサルは、両手を広げて声高に喋り始めた。
「やあやあ! 皆の衆! 聞いて驚け、見て驚け!
今宵は次代の英雄と言われる男の話を語ろうじゃないかっ!」
「なんだなんだ?」
「誰? あの人?」
「よっ! 待ってましたぁ!」
「いいぞー、猿っぽいのー!」
「英雄だぁ?」
「ハハッ、ワラエル」
冷たい視線を送る者、興味を示している者、酔っ払って乗ってくる者、周囲の反応は様々だ。
そんな中、俺はサルの突然の大胆な行動に驚くばかりで、口をポカンと空けて見ているしか出来なかった。
日本でうん十年と生きてきた中、俺の周りにこれ程アグレッブな奴はいなかったのだから。
「これはつい先日の話! 俺を含めた屈強な冒険者約20人でゴブリンの集落掃討へ向かった。近寄る魔物をバッタバッタと倒して進む俺達の前に敵はいなかった!
しかぁし! 森を前にしてゴブリンの大群が現れたっ! その数500! いや、1000にも届いただろう!
流石の俺達もこの大群には勝ち目はねぇ。そう判断したリーダーは撤退を指示した。
だが! ゴブリン共はそう簡単に逃がしてはくれねぇ。そこで殿として残ったのが、我らが兄貴! 男の中の男ぉ! 偉大なる魔法使い、エルザム・ラインフォードだぁ!
俺も震える足を押さえつけて兄貴に付いて残ったが、絶体絶命だと思ったね。迫り来るゴブリン共の茶色い波! 波・波・波だ!
でも、俺達の兄貴は違ったぁ! 少しでも兄貴の助けになれるよう杖を握り締めた俺の横で、詠唱を終えた兄貴は優雅にその手を振り下ろしたんだ!
するとどうだ!? 大地が揺れたかと思うと、見渡す限りのゴブリン共は一瞬で叩き潰されちまった! 後に残ったのはドデカイ穴とペチャンコになったゴブリン共。あれはまさに巨人の足跡! いや、神の鉄槌か!
感動したね! 興奮したね! 人智を超えた出来事に歓喜に震えたさっ! ド肝を抜かれるってのはこの事だ!」
な、何言ってんだコイツ……馬鹿か? 馬鹿なのか? そんな大げさな話じゃないだろうが! 早く止めさ……
「おおぉーー!」
「凄いわねっ!!」
「本当かよ!?」
「すげー男がいたもんだっ!」
「とんでもない魔法使いだな……」
「ホラ吹いてんじゃねーぞ猿!」
「そうだそうだ! ゴブリンがそんなにいるわけねーだろぉ!」
「3行でオッケー」
「おいおい、嘘じゃぁねえさ! 信じられないなら東の森に行ってみな。そりゃあそりゃあデカイ穴が開いてるぜ! さる大貴族が池にしたがってるって話もある位さ。ハッハッハ!」
「ああ! 私その穴見たわっ! 昨日見た!」
「俺も見たっ! 洒落にならねーデカさだった! 試しに降りてみたが、俺の目線より深かったぜ!」
「本当か!?」
「有力証言キタコレ」
「おおぉーー!」
何でこんなに盛り上がってんだよ! ヴォルクも目を輝かせて聞き入ってるし! お前は横にいたんだから嘘だって分かるだろうがっ!!
いや、そこそこ合ってるけどさ。
「よぉーし! 落ち着け! 落ち着け! 実はこの話にはまだ続きがあるっ!
邪魔者がいなくなり、そのまま集落へ進んだ俺達は、3方から包囲して奴らを殲滅することにしたんだ。兄貴の圧倒的な力を目の当たりにしてた俺達の気合は一入で、次々にゴブリン共を倒していった! 皆のあまりの暴れっぷりは、魔族を髣髴とさせたね!
しかし、集落の全滅もあと僅かという所で、とんでもない奴が出てきた! …………王だ!!」
「えぇぇっ!!」
「何ぃ!?」
「オワタ……」
「お、王だって!」
「あ、あんまりよ……」
「終わりだっ! もうお終いだぁ!」
「オウ、ジーザス……」
「どうかしてるぜっ!」
「……みんな、静かに黙祷を捧げようぜ」
なんでこんな訳の分からない話に引き込まれてんだよ! ここにコイツいるじゃん! 終わってねーじゃん!
「キング・ゴブリンの振るう剣は凄まじかった。速さもさることながら、大地を抉る程のパワーは圧倒的だった。ただの一振りで上下に泣き別れた奴もいた。皆必死で逃げ惑っていたが、一人、二人と減っていき、俺の周りには二人しかいなくなっていた。若い奴らだった。
俺はそいつらを庇いながらも必死の抵抗をしていたが、天は俺を見放したっ! 生憎の雨でぬかるんでいた地面に足をとられちまったんだ! 急いで体勢を整えた俺の正面には、笑いながら血に塗れた剣を振りかざす真っ黒な死神が立っていた…………。情けない話、恐怖で頭が真っ白になっちまった。死ぬと思った。
しかし! 天は俺を見捨てても、我らが兄貴は俺を見捨ててはいなかったっ!!」
「おおぉー!!」
「キャー! 兄貴ぃー!」
「アニキキターー!」
「さすが俺達の兄貴っ!」
「あにきぃぃーっ!」
「だーれにもー、やーさしーくー」
もういい、やめろ。俺のライフはとっくに0だ。
「キング・ゴブリンがその剣を振り下ろす瞬間、颯爽と現れた兄貴が俺の前に立ちふさがり、剣を受け止めたのだ! しかも素手でっ!
間一髪助かった俺は、すぐに他の二人を連れて下がった。俺が腰を抜かした二人を連れて行くまで、兄貴は何度も奴が叩きつける剣を体を張って受け止めていた!
俺達が下がったのを見た兄貴は、魔法で奴をふっとばしたが、敵もさるもの。平然と起き上がって剣を構えると、ホーンウルフも真っ青な勢いで飛び出して兄貴に突っ込んでいった!
あまりの速さにこれは流石にヤバイと思ったが、兄貴が軽く腕を一振りすると、キング・ゴブリンは音も無く真っ二つになっちまった!」
「うおおぉーー!」
「すげぇーー!」
「兄貴すっげぇ!」
「王を……一撃だと……っ!」
「キュンッ」
「キング・ゴブリン終了のお知らせ」
「やべー! 兄貴やべー!」
おいおい、どこまで喋るんだよこのサルは!? それ以上はやめろよ! 絶対にやめろよっ!!
「さあさあ、皆の衆! 心して聞けえぃ!
キング・ゴブリンを一撃で葬った我らが偉大な兄貴はそこでこう言ったのさ! 私に出会っ……」
やめてくれぇぇーーっ!!
俺は一目散に逃げ出した。




