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第19話 「フルフィリング・リアル」


 今日は金曜日。

 昨日は色々と大変だったが、昨日は昨日。今日は今日。俺はいつも通り冒険者ギルドに行き、ヴォルクはいつも通り道場へ行く。じゃないとあのじじいに真っ二つにされちゃうからね。



 冒険者ギルドに入ると、どうもいつもと雰囲気が違う。


 この感じ……っ!


 等と、言ってみたいセリフBEST30には入るようなセリフを独りでボソッと呟いてみるが、なんて事はない。ストーンボアを倒した翌日と似ているだけだ。視線が集まりこそこそと噂をされている。


「おい、来たぞ!」

「あいつが小鬼殺し……」

「……いや、小鬼王殺しだ」

「少しはやるようだが、所詮は下らんトリックだ」

「あのガキが?」

「奇術師じゃないのか?」

「俺はゴブリンダンスマニアって聞いたぜ」

「えぇ? あいつは臆病者のニッコルだろ?」

「馬鹿言ってんじゃねえ。500以上のゴブリンを一撃で叩き潰したらしいぞ。お前なんかあっという間にグゥレイトさ」

「惨劇の魔道士……か……」


 また好き勝手言ってくれてる……つーか小鬼殺しって。凄いんだか凄くないんだか良く分からないだろ。むしろ弱い者いじめをしてそうじゃないか。

 そして、最後の奴、そんな痛々しい二つ名はやめてくれ! ヴォルクが聞いたら喜んで飛びつくだろうが。

 まったく……勘弁してほしいよ。…………まぁいいや。昨日の報酬を貰いにロングさんの所へ行こう。


「ロングさん、おはようございます」


「おはようございます。

 昨日は色々大変だったようですね。冒険者に危険は付き物とはいえ、やはり心が痛みますよ。

 ですが……不謹慎かもしれませんが、依頼を紹介した身としては、エルさん達が無事でホッとしました。それと同時にエルさんにお願いして良かったとも思っています。生還された方々は皆エルさんに感謝していましたよ」


 相変わらず禿げた頭をテカらせているロングさんは複雑な表情をしている。


「はぁ、そうですか。褒められるのは、あまり柄じゃないんですがね」


「何言ってるんですか。もっと自信を持って下さい! 凄い魔法も使えるんですから」


「凄い魔法ですか……。面倒な事になりそうなんで隠しておきたかったんですけどね」


「ああ……それで手品という事にしてたんですね。

 でしたら、一応は安心して大丈夫だと思いますよ。

 エルさんも冒険者ギルドのマークはご存知ですよね? あの鐘は自由と独立の鐘と呼ばれてまして、何者からの干渉も受け付けないという事を表してるんです。そのマークの通り、冒険者はどんな組織からも、それが例え国であろうとも、何かを強制される事はありません。それは冒険者ギルドの総力が1国を優に超すためです。なので、利用はするが干渉はしないという暗黙の了解があるのです」


「ええ!? そんなに凄いんですか? 冒険者ギルドは」


「まあ、世界中の冒険者を集めればの話ですけどね。それに、あくまで表向きの話です。あの手この手でちょっかいを出してくる手合いもいますから……。

 はい、これが報酬です」


 さらりと冒険者ギルドの力を伝えてきたロングさんは、報酬として丸い金貨を2枚渡してきた。依頼書の通り20,000円だ。結構大変な事になったのだから増やしてくれても良さそうな気もするんだけど、どうなんだろう。


「ロングさん。予定外の大群やキング・ゴブリンがいたのに報酬は変わらないんですか?」


 疑問に思ったので、報酬について聞いてみると、ロングさんは困ったような表情で話し始めた。


「ええ変わらないですね。

 私としては追加報酬として上乗せしてあげたい気持ちは山々なんですが、運も実力のうち、という言葉がありますように、ギルドの過失でない限り、予定外の事が起こっても、それも冒険者の実力だという判断がされてしまいます。

 今回の場合、ゴブリンの集落を発見したという報告を受けて調査したのですが、その際は集落には100匹もおらず、キング・ゴブリンの姿も無いという結果でした。なので、森に出没するゴブリンの討伐は継続的な冒険者の仕事として適度であると判断して一月程は集落の掃討は行われませんでした。

 ですが最近になって、ゴブリンの群れを森の外で頻繁に見かけるという報告が多々あったため、掃討依頼がだされたのです。

 なので……事前に調査をしていたギルドには……過失が、無い……という事になります…………」


 そんな馬鹿なっ!? 再調査してから依頼にしろよっ! 明らかに過失だろうが!

 ってロングさんに言ってもしょうがないよなぁ……。明らかに辛そうな顔してるもん……。心なしかいつもより毛も薄くなってる気がするし。ギルドの中でギルドの批判なんか出来ないよ。俺は基本的に小心者だからな。


「なるほど、そういう事情があったんですね。

 あ、今回亡くなった方や、そのご遺族にもなにも無いんですか?」


「大変心苦しいのですが、こちらからは何もありません。

 ただ、伯爵からご遺族の方にはいくらかの報奨金がでるとのことです。命を懸けて街を守ったという名聞で」


「はあー、粋な事をしますねー。伯爵は」


「そうですね。さすがはランドベック伯爵です。

 そういえば、その粋な伯爵からお呼びがかかってますよ。どうも昨日の事も関係してるようです」


「昨日の事ですか。じゃあ、これから行きますよ」


 伯爵からの雑用依頼の受付を済ませた俺は、まだざわざわしている冒険者ギルドを皆に注目されながら出て行った。



 相変わらず御立派な伯爵の屋敷に着くと、すぐに案内してもらえた。度々訪れるため門番も既に顔見知りなのだ。


「よく来たな、エルザム!

 まずは礼を言おう。私が愛する民、そしてこのランドベックの街を救ってくれた事に!

 正直な話、この街がいくら堅固な壁に囲まれているとはいえ、突如500もの魔物に襲われたらそれなりの被害はでる。君はそれを防いでくれたのだ。この街を治める者として、いや、友として、私は本当に嬉しい。この気持ち、まさしく感謝だ!」


 ……相変わらず大げさで、熱い人だな。


「いえ、伯爵こそ亡くなった方のご遺族に支援していただけたようで、ありがとうございます」


「ああ、そのことか。君が気にする事でもない。

 私は情に弱く、理想を追求しがちな男なのさ。しかも、理不尽な真似をする輩が大の嫌いときている。

 あれは本来ならば冒険者ギルドがするべきことなのだが……彼らがやらないのだ。この地に住まう者に対しては私がする他あるまい」


 やべえ、かっけぇ……なんだこの人。なんて出来た人なんだ!


「……冒険者ギルドも昔はああでは無かったと聞いている。長い歴史の中、ゆっくりと腐敗してしまったのだ。独占的な組織がその身に余る力を持ちすぎたのだろうな。

 なんとかしたいという気持ちはあるのだが、私のこの手はいささか小さすぎる……」


 伯爵は真剣な面持ちで、握った拳を凝視している。伯爵ですらどうにもできない程、冒険者ギルドとは大きな組織なのだろう。

 決して冒険者を否定するわけではないが、ファンタジーな世界に冒険者ギルドがあり、それだけで興奮して後先考えずに冒険者になった自分が情けなくなってくる。


「おっと、暗い話になってしまったな……。

 そうだ! 実は昨日、あの後私の手の者を調査に向かわせたのだが、何故あれ程多くのゴブリンが現れたのかは分からなかったのだよ。そこで現場に行った君の意見を聞いてみたい。どうか?」


「かまいませんが……。うーん……調査で何か分かった事ってありましたか?」


「ああ、不自然な事が3点あった。

 まず、キング・ゴブリンが集落の外に住んでいたと思われる痕跡が見つかった。集落の中にいたのならギルドの調査で判明しているはずだからな。周りを入念に調べさせたのだよ。

 次に、1月程前に調査した時点では集落には100匹もいなかったにも関わらず、600ものゴブリンがいたという点。この短期間でこれだけ増えるというのは異常だ。

 最後に、集落の中央にコクーンベリーが実っている樹が大量に見つかった点。コクーンベリーが大量に今の季節に実るというのはおかしいだろう?」


 コクーンベリーとは夏にしか実らない栄養満点の黄色い果実で、ゴブリン達の大好物である。今の季節は秋なので、確かにおかしい話だ。


「……成る程。そういう事であれば、一つの仮説が立てられますね。

 キング・ゴブリンは特殊な能力を持っていると聞いた事があります。今回の場合、その能力というのは、成長を促進させるようなものだったのではないでしょうか。

 俺は最近ゴブリン討伐の依頼を毎日請けていましたが、メスのゴブリンは見かけたことがありませんでした。そのメスが集落では皆身篭っていた。それをキング・ゴブリンの能力で成長させ、産めよ増やせよでその数をどんどん増やしていったのでしょう。コクーンベリーが季節外れにも関わらず生っていたというのもその能力によるものではないかと。

 集落の外にキング・ゴブリンが住んでいた理由については……分かりません」


 キング・ゴブリンが<成長促進>の能力を所持していた事は知っているが、それを堂々と言うのは憚られるので、多少無理やり感はあるがこじつけた様な理論を説明してみた。


「そうか、そういう可能性もあるか!

 エルザム、やはり君の識見には光るものがあるな! 是非私の下でその力を振るって欲しいものだ!」


「それはいつもお断りしてるじゃないですか……」


「うーむ……身持ちが堅いな、エルザム!

 ……まあいい。昨日の件はこの辺にしておこう。

 次は競馬についてだ。前々からの懸案事項であった参加者等についてがようやく決まった。

 出走・観戦共にまずは貴族のみを対象とする事にした。

 賭博も行うつもりだからな。しっかりと管理するためにも、小さな規模から始めて、徐々に大きくして大衆へと開く予定だ。

 それについて、何かあるか?」


「まあ、妥当ですね。いきなり大衆が詰め掛けても混乱を招くだけになりそうですし。

 それと、大事な事があります。対象を貴族とするという事ですが、決して爵位や金による圧力に屈しないこと。つまり八百長は厳禁です。これをしてしまうと、競技の意義は無くなり、唯のいかさま賭博に成り果てますから」


「望むところだ、と言わせてもらおう! このアルフォード・フォン・ランドベック、それが例え皇帝であろうと神聖なる勝負を汚させはしないっ!」


 伯爵は急に立ち上がると、熱意溢れる眼差しで天を仰ぎ、両手を広げて、その決意を高らかに表明した。


 もの凄い意気込みだな……。皇帝まで引き合いに出すとは。というか、実際問題皇帝が馬を出走させたとしたら、勝たせなくても大丈夫なのだろうか? 器の小さな皇帝だったら機嫌を損ねたりしそうなのだが。まあ、その辺の事は詳しくないから俺が心配しても仕方がないか……。


「素晴しい心意気ですね。このエルザム・ラインフォード、感嘆の極み!」


「なぁに、当然のことさ!

 それと、もう一つ。来月には競馬場の建設に着工出来そうなのだが、その際、君に建設地を均してほしい。

 私の手の者の報告によると、東の森の手前に随分と迷惑な穴を開けたそうじゃないか。それに関しては不問とするが、その穴の底は非常に平らだったと聞いた。そのような事が出来る君にはピッタリの仕事だと思うのだが?」


「た、確かにそうですね! 是非私にお手伝いさせていただきたく!」


「よくぞ言った、エルザム! その時には存分に働いてもらおう!」


 また両肩をガッシリと掴み、期待のお言葉を頂いた。だがとても顔が近い。


「近い! 近いですよ、伯爵。

 ……全く、そんなんだから嫁が来てくれないんですよ」


 伯爵は25歳で、貴族としてはとっくに結婚していても良さそうな年齢なのだが独身である。見た目は貴族らしくスラッとしていて二枚目風なのだが、この貴族らしく無い熱い性格が原因なのだと俺は思っている。こんなに顔を近づけられて熱い言葉を言われたら、貴族のご令嬢は引いてしまうのではなかろうか。


「ほお! 言うようになったな、エルザム。

 しかし……嫁の事などはどうでもいいのだ。私には民が、馬が、競馬があるからなっ!」


 ほぼ馬じゃないか……。


「いやいや、跡継ぎの問題とかあるんじゃないですか?」


「それなら心配無用。私には弟がいてね。アレもなかなか貴族らしくない男だが、女性には不自由していない様だからな」


「伯爵には弟がいたのですか。初耳ですね。しかもかなりの男前な様で」


「顔はそれほどでもないのだが、アレは貴族には珍しく冒険者をやっていてね。立派な体格と相まって頼れる男というやつらしい。今もどこかでフラフラとしている。

 まあ、もし会う事があったら仲良くしてやってくれ。レイシェルという」


 そうか。こんな時代だからな。顔よりも頼りになる男のほうがモテるのか? だとしたら頑張って筋トレしてそっちの路線に進むべきか。


 その後も、競馬について細かい話をして、昼を過ぎた頃に伯爵との相談は終わった。



 昼食を食べに宿へと戻る。

 途中すれ違った街の人達は当然の事ながら昨日のゴブリンの件等知らず、至って平和で、楽しげに話をしている。そんな彼らを見ると、あの凄惨な光景を作り出した自らへの恐怖も多少は薄れる気がしてきた。多くの人々を守ったのだという大義名分がそうさせるのだろう。

 あまり深く考えるとどつぼに嵌りそうなので、思考を切り替え、可愛い女の子はいないかなー等と不審者丸出しであちこちに視線をやりながら歩いていた。


「いた! エルさーん!」


 後ろから聞こえるこのババ臭い声はモニカちゃんだ。声の感じからすると、随分と元気になったのではないだろうか。

 振り返ると、モニカちゃんとイッちゃんが流れる人々の歩みに逆らいながら走って来ている。


「おお、モニカちゃんにイッちゃん。こんにちわ。昨日はどうも」


「あ、こんにちわ。こちらこそ、昨日は本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 モニカちゃんは大勢の人がいる前で深々と頭を下げ、イッちゃんもそれに続いて頭を下げた。

 流石に気まずいので、早々に頭を上げてもらい用件を聞くことにした。たぶん、ガイさんの件だろうが。


「えっと、今日は兄の件でお話があったんです」


 やはりそうだ。というか、それしか俺に対する用事なんてないし。しかし、こんな道端でするような話でもないよな。


「こんな所で話すのもアレなんで、俺が滞在してる宿に行きますか。もうすぐそこなんで」


「あ、それもそうだな。お願いするよ、エル」


 いつもの調子を感じさせるイッちゃんの表情は昨日よりも明るい。良い方向に話がまとまったのだろう。



 少し歩くと宿に着いたので、二人に一応紹介しておく。


「ここがいつも俺が滞在してる宿、夢幻の冠亭。料理が美味しいんだよ」


「あ! 知ってます。最近話題のレーツェル料理の発祥の地ですよね! 一度食べてみたかったんです」


 やはり女の子は美味しい食べ物の話に敏感なのは何処も同じらしい。


「まずは、話を聞いてからにしようか。部屋に案内するよ」



 部屋に通すと、二人はキョロキョロと中を見渡し始めた。他人の部屋というのは誰でも気になるものらしい。


「俺達の宿に比べると、高そうな宿だな。なんか凄そうな絵も飾ってあるし」


「うん。食堂からの匂いもすっごく良かったし!」


 匂いは関係ないと思うが、お腹が空いているんだろうと思うことにしてスルーしておく。

 イッちゃんは壁に掛けてあるフェルメルトさんの作品を見て、この青の色使いがいいなぁ、等と知った風な口を利いている。


「その絵は貰い物だし、宿の値段もそれ程高くはなかったはず。といっても、他の宿を知らないからなんとも言えないけど」


「えっ!? 貰い物? エルってもしかして貴族かなんか?」


 なぜ貴族? 一般人が美術品を貰うって事はあまりないからか?


「いやいや、俺は一般人だよ。それは雑用依頼で仲良くなった画家に貰ったんだ」


「えぇ!? どうしてエルさん程の人が、雑用依頼なんて?」


「そうだよ。エルみたいに凄い魔法使いがどうして……」


 なんでこんな話になってるんだ。ガイさんの話はどうしたんだ? まあ、良い方向に行ったから焦って無いのかな?

 ……ならば、雑用依頼の重要性を叩き込んでやりますか。


「おいおい、何を言ってるんだね。君達は?

 確かに雑用依頼はあまり金にならないだろうけど、討伐系での依頼では得ることの出来ない大事なものを得ることが出来るんだぞ」


「大事なもの?」


「そう…………好感度だ。つまり街の人達からの評判。

 冒険者ってのは荒くれ者が多いからな、雑用依頼で一般の人に丁寧に接するだけで好感を持ってもらえる。まあ、仕事を確りとこなした上での話しだけど。

 そうやって沢山の雑用依頼をこなす事で、街での評判が上がり、色々と良い事があるのさ。

 美味しい食事をご馳走してもらったり、その絵についてもそうだし、この宿もただにしてもらえてる。ちょいちょい力は貸してるけどね。

 さらに、俺の場合はここの伯爵とも知り合えて、今では友達だよ。ついさっきも会ってきたし」


「は、伯爵と!? ……友達? そんな事があるんですね……。

 イッちゃん、私達も雑用依頼を請けてみようよ!」


「そ、そうだな! 今まで馬鹿にしてたけど、エルが言うなら良い事なんだろうな」


 俺の話を聞いた二人は、目に力を宿して意気込み始めた。そこまでやる気になられても困るので釘を刺しておく事にする。


「何も無くても、文句は言わないでよ。

 というか、俺の場合は多くの人と交流を持てるのが楽しくてやってるってのが一番の理由だからね」


「なるほどー。そういう考えもあるんですねぇ。

 エルさんって変わってますね。あ、良い意味でですよ」


「良く言われるよ。

 というか、大分話がそれちゃったけど、本題の方はいいの?」


「あ! そうだ! エル、ガイさんの腕はやっぱり預かってて欲しい!

 あの後、ガイさんを説得して当面の目標はガイさんの腕の治療って事になったんだ。

 今まで俺達を引っ張ってくれて、昨日は命を賭けてまで守ってくれた。そんなすげえ人を切り捨ててなんか行けるはずないからなっ!」


「うん。お兄ちゃんは当分動けないけど、私達二人で頑張るって決めたんです!

 だから、エルさん。時間はかかるかもしれないけど必ず受け取りにいくので、それまでお兄ちゃんの腕をよろしくお願いします!」


 二人の表情は明るく希望に満ち、体からも活力が溢れているように感じる。この二人ならきっと大丈夫だろう。根拠はないがそんな気がする。


「そっか。それまでは俺が責任を持って大事に預かっておくよ。

 あまりガイさんに心配かけないように、頑張ってね」


「はい!」

「任せろ!」


 二人とも頼もしい表情をしているな。昨日の事が嘘のようだ。気丈に振舞ってるだけかもしれないけど……。まぁこれなら、そう遠くないうちにガイさんの腕も治るのではいだろうか。

 ……そうだ! 前から気になってた事を聞いてみよう。


「そういえば、三人ってどんな関係なの? ガイさんとモニカちゃんが兄妹ってのは知ってるけどさ」


「あれ? 言ってなかった?

 モニカは幼馴染で、俺の婚約者だよ」


 ……


 ……


 ……


 ……幼馴染で婚約者。そんな事がリアルにあって良いのだろうか。いや、良くない。


 いつの間にか力強く握っていた右拳がわなわなと震える。俺はその拳から人差し指と中指を伸ばすと、勢い良く天に向けて突き上げた。


――クンッ!





 ……別に何も起きないけどね。



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