第01話 「凡人 が 転生した 日」
初めて小説を書きました。
ありきたりな異世界転生ものです。
誤字やマズイ表現などがありましたら、遠慮なく指摘してください。
更新ペースは遅いかもしれませんが、続けていけるように頑張りますので、よろしくお願いします。
夜の静けさと共に不気味さを発する広大な森。奥にそびえる山々は月の光に照らされ、幻想的な銀色の輝きを放っている。
そんな光景が遠くに広がる丘の上で、夜空の星々をじっと見上げていた。
「星を見ていたのですか?」
背後からかかる声に、期待を込めて芝居がかった返事をした。
「ああ、星はいい。……お前、また大きくなったんじゃないか?」
「この年じゃもう大きくなりませんよ。なんなんですか。普段星なんか見ないくせに」
「一度やってみたかっただけだ」
「また訳の分からないことを。
とにかく、もう夜も遅いんですから、さっさと戻って来てください。
夜行性の魔物にパックリやられちゃうかもしれませんよ。まあ、有り得ないでしょうけど」
「お、おう……」
ややかすってはいたけど……やっぱ、通じなかったか。
あの頃が懐かしい。友人同士、会話の中に様々なネタを含ませてニヤリとし合っていたあの頃が。
そもそも、こっちの人間にこんなネタ分かるわけないもんな。
しかし、いくら年月が過ぎてもやってしまうのは、あっちに未練があるからなのかなぁ。
そう、俺はこっちの人間ではない。もう遠い昔の話だが、ある日、どういう訳かこの世界にやってきていたのだ。
朝目を覚まし、着替えをして、電車に乗り仕事にいく。適当に仕事を終えて、電車に乗って帰宅し、寝る。
その日もそんないつもと変わらないサイクルが訪れるはずだった。
いつも通り仕事を終えて帰宅した俺は、真っ暗な部屋に入り、電気をつけようと手探りで壁にあるスイッチを押した。電気がつき部屋が明るくなったと思ったら、その光は徐々に強さを増していく。すぐに目を開けていられない程になり、俺は目を瞑って顔を背けた。
まぶしい光がおさまり目に入ってきたのは、見慣れた自分の部屋ではなく、ログハウスのように丸太で組まれた見覚えのない木製の壁だった。
あたりを見渡せば壁だけでなく床や天井、ドアも木目の美しい綺麗な木で出来ている。老朽化の跡や汚れは一切見えず、建てられてから間もないように思えるが木々の持つ独特の香りはない。せっかくの木造なのに一生懸命消臭したのか。
自分に起きた不可思議な現象に混乱しつつも、頭の片隅でそのようなことを考えていた。
さて、どうするか。一体何が起きたのか。なぜこんな所にいるのか。俺は帰宅して部屋の電気をつけただけのはずなんだが……。
よし、今の状況を整理しよう。
俺は自宅に帰り、電気をつけただけで、死んだりはしていないはず。
けど今は自宅ではなくログハウスっぽい一室にいる。
今いる部屋はだいたい8畳ほどの広さだ。
机や椅子などの家具は見当たらない。というか何もないな。
窓はないがドアが右手の壁に1つ、反対側の左手の壁には<転生の間はこちら☆>と書かれたプレートがかかったドアがもう1つある。
今分かるのはこれぐらいだ。
手がかりになりそうなものは何もないな。
……いや、ある。
あるにはあるのだが現実感に乏しいうえに、あの若干ふざけた感じがなんとなく認めたくない。
しかしずっとここにいても仕方ない。移動するしかないのだろう。
であれば、右から行こう。左手のドアは物凄く本命感が漂っているし、俺は全てを探索してからボスに挑む派だからね。
もしかしたらこの部屋から出て元に戻れるかもしれないし。
一縷の望みを胸に右手のドアへ向かい、ドアノブに手を掛けるが押しても引いてもビクともしない。
「まさかのスライド!? せい!」
素晴しい発想の転換だと自賛しつつ気合を入れて力を込めるが、浅はかな考えだと失笑するかのごとくドアに動きは見られない。
「…これは密室!」
不可思議な状況に混乱しているからなのか、妙に気分を高揚させ独り言をつぶやいた。
しかし不思議な空間だ。
今気づいたが密室で明かりとなる物は何もないのに何故か明るいし、新築に思われるログハウスっぽい部屋からは木々の香りはしないし。
そこにきて<転生の間はこちら☆>だもんな。これはもうアレなんだろうな。
人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……か。まあそんなに生きてないし、大した人生じゃなかったけど、友達には恵まれたな。皆いい奴等だった。家族もそうだ。あんな暖かい家庭を築くのが夢だったんだよな。なのに…………やめよう。思い出すと死にたくなる。……あ、もう死んだようなもんなのか?
なら心機一転頑張るべきか!? やり直すチャンスが来たと思うべきか! よしっ!
覚悟を決め、手を掛けていたドアノブに多少の無念を残しつつ振り返り、転生の間とやらに足を進める。
ふざけたプレートのかかったドアの前に立ち、恐る恐るドアを押し開けると、重量感のある木製のドアは予想を裏切り、まるで重さを感じさせなかった。
ドアを開けた先の風景は相変わらずのログハウス風だったが、部屋の中央には自分が部屋の主だと主張するかのように、淡い光を纏った直径30センチくらいの青い玉が鎮座している。
見るからに怪しいそれの様子をしばらく伺うが特に変化は見られない為、玉から視線を外さないよう慎重に部屋に入り、背後のドアをゆっくり閉める。
「ようこそー。転生の間へー」
やや間延びした明るい少年のような声がすると、青い玉は重力など関係ないと言わんばかりにピョンピョンと軽快に跳ねながら近づいてきた。
「はじめまして。僕はこの部屋の案内役です。短い間ですが、どうぞよろしく」
先ほどの軽い雰囲気とは異なり、居住まいを正したのか凛とした声で纏う光を明滅させつつ自らを紹介した。
「鉄人兵団!? ……あ、ど、どうも。はじめまして」
てっきり神的な存在に出迎えられるのではと思っていたが、無機物である謎の玉の挨拶という予想外の事態に動揺し、情けない返事をしてしまった。
「いろいろ疑問はあると思いますが、さっそく説明しますね」
うーん。この玉はおそらく神的な何かの何かなんだろう。一応下手に出ておこう。
疑問は色々あるけど、説明されるうちに分かることもあるだろうし。
「えー、あなたにはこれから元いた世界とは別の世界に転生してもらいます。
その世界はあなたの世界を参考に創られ、時を進めてきました。なので陸地には人間が住み、海には魚が、空には鳥が、といったことなど根本的にはあなたの世界と同じです。
言語や文字もあなたの世界のものですので安心してください。
が、そのままでは芸がない為、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界になってます。もちろん時代は中世です。
まあ、世界についての詳しいことは転生後に自分の目で確かめてください。いろいろ教えちゃうと面白くないと思いますので」
やはりきたかファンタジー。<転生の間はこちら☆>をみた時点でいくつか予想していた内の一つだが……夢が広がるな!
でも中世のファンタジーということはおそらく治安があまり良くなかったり、さらにはモンスター的なものまで出るのだろうか。
自分には武芸の経験もサバイバルの知識もない凡人なんだからかなりヤバイ気がする。モンスターに出会って即死亡な予感!
「続けますよー。いいですかー?」
「あ、お願いします」
ちょっと危機を感じて考え事に集中しすぎていたようだ。
ここでの話は最重要な話だからな。聞き逃したらまずい。
「次はですね、転生の前の準備について説明します。
せっかくの転生ですから色々と希望がありますよね。
最強の肉体をくれ! とか、なんちゃらの能力をくれ! とか、頼むからイケメンにしてくれー! とか」
チートきたぁー!! これで即死亡どころかハーレムまでいけちゃうぜ!
そして、ファンタジーならなんといっても魔法だ。極大呪文で軍隊だって一撃よ!
「ですが、あなたの希望をただ叶えたのでは面白くありません。
なので次の通りの手順で転生体のエディットを行ってもらいます」
なん……だと……!
……現実はそこまで甘くないようだ。
「まず始めに行うのがボーナス取得。
これは用意された様々なボーナスの中からいくつかボーナスを取得します。
次に性別選択。これはそのままですね。男性となるか女性となるか、好きな方を選択します。
そして年齢決定。これは基本的に自分の意思で決めることはできません。10歳~30歳のランダムです。
続いて名前の決定。この名前も基本的に自分の意思で決めることはできません。性別に合った名前からランダムに決定します。
そして、これが重要なのですが、外見は名前で決まります。名は体を表す、という言葉の通りですね。
つまり、基本的には自分で外見を決めることはできません。
以上の4つの手順を行います。
詳しいことは実際に行いながら説明します。疑問があったら遠慮なく質問してくださいね」
ボーナス取得! これに期待するしかないな。チートとまではいかないかもしれないが、それなりの能力は得られそうだ。
しかし、名前や外見を自分で決められないなら、別にこのままでもいい気がするんだが。
「年齢や名前を変更しないことは可能ですか? 自分で決定できないのなら必要性があまりない気がするのですが」
「変更は必ず行います。それは新しい世界用の体になってもらう為で、希望通りにできない理由は、それだと面白くないからです」
なるほど。その世界に合った体にすることに意味があるのか。でも面白くないって言うのは誰が面白くないんだろうか。転生者を見て楽しんでいる存在がいるってことなのかな。どうなんだろう。
この転生は誰かの遊びの一環なのか……などと、陰謀論を考えていると転生エディットの開始を告げられる。
「転生体エディットを開始しますけど、いいですか?」
「はい。お願いします」
すると自分の体が突然白く光りだした。
慌てて、胸元から爪先、首を目一杯回して背中まで確認するが、どうやら全身が白い光を纏っているようだ。
「まずはボーナス取得の説明……」
「いやいや、ちょっと待って。なんか体が光ってるんだけどこれはなんですか?」
自分の体が光っているのはちょっと不気味なので聞いてみる。
「あー、それはですね、転生体のエディットは今のあなたの体をベースに行うのですが、その結果を逐一あなたの体に反映するため僕とあなたをリンクさせてます。
まあ、特に害はありませんので、いつでも反映可能だよ。バッチ来い! って意味だとでも思ってください」
なるほどねー。ちょっとびっくりしちゃったよ。
というか、逐一反映されるってことは、もし肉体に変化があるような場合は勝手にグニグニ変化するのだろうか……。
外見も変わるって言ってたしな。害はないって言ってたけど、想像すると気味が悪いな……。
あ、でも第3の目開眼! とかはやってみたいかも。
「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」
「では、ボーナス取得の説明をします。ボーナス取得はポイント消費制になってます。
あなたに与えられるポイントは30ポイントで、それを消費してボーナスを取得することになります。
しかしこちらで用意しているボーナスの種類はとても多く、全部を参照することはとても難しいと思いますのでキーワードを指定してください。
こちらで検索して関連するボーナスの一覧を表示します。
では、試しにボーナス一覧を参照してみましょうか。何かキーワードを指定してください」
30ポイントというのは多いのか少ないのか分からないが、どうも中途半端な気がする。
あと、ボーナスの種類は多いらしい。まあ、漫画の能力とかを挙げていったらキリがないからな。
で、キーワードだったか……。
「じゃあ、オーソドックスに魔法でお願いします」
「了解です。こちらが魔法関連のボーナス一覧です」
すると、まるでSF映画にでてくるような青い画面が目の前に浮かび、たくさんのボーナスがズラッと表示されている。
<魔法Lv0:2>
<火属性適正:3>
<水属性適正:3>
<風属性適正:3>
<雷属性適正:3>
<土属性適正:3>
<光属性適正:3>
<空属性適正:5>
<精霊魔法Lv1:6>
<召還魔法Lv1:6>
<系統魔法:2>
<火系統:2>
<水系統:2>
<風系統:2>
・
・
・
「一覧の見方を説明しますね。
まず、画面右上に30と表示されてるけど、これはあなたの残りのポイントです。
そして一覧のボーナス名称の右の数値が消費ポイントです。
ボーナスの詳細を知りたい場合は、そのボーナスをタッチすることで詳細を参照できます。
また、ボーナスの取得状況を確認したい場合は僕に言ってください。取得済みボーナス一覧を表示しますので。
そこでは取得したボーナスの詳細を参照したり、キャンセルを行うことができます。
じゃあ、実際にいくつか参照してみてください」
言われたとおり、一番上にあった<魔法Lv0:2>をタッチする。
<魔法Lv0:2>
分類:才能
ちょっと魔法を使えますよ。という程度。
言わば魔法を使う資格があるだけ。
その魔力量は少なく、努力しても実力は3流にも届かない。
※各属性の適正が無い場合、魔法は使用不可。
微妙だな。まあ、精霊魔法とかが最初からLv1になってるのに、魔法がLv0というのは、説明どおり本当に資格程度のものなのだろう。
このLvが上がればチート魔法が可能なのかな。聞いてみるか。
「この魔法Lv0のLvっていうのはなんでしょうか?」
「はい。ボーナスの中には取得すると、より上位のボーナスが表示されるものがあります。
この魔法Lv0を取得した場合は、上位となる魔法Lv1のボーナスが右側に表示されて、取得することが可能になります」
なるほど。ボーナスで上げていくものなのか。
となるとそれなりに使えるようになるには結構ポイントを消費する必要がありそうだな。
しかも各属性適正も必要になるみたいだし……。
「あ、ちなみに詳細の下にある[取得する]をタッチするとそのボーナスを取得できます」
確かにそんな記述がある。まあ、今はまだ保留だ。
他のボーナスも参照しようと思い今度は<火属性適正:3>をクリックする。
<火属性適正:3>
分類:才能
火を操ることができる。
※才能:魔法Lv0以上が必要。
※適正度合は魔法Lvに依存。
見たまんまだけど、操るってことはよくあるファイアーボールはもちろん、火を吹いたり、火拳! とか、ある程度自由にできちゃうのかな。それだと色々応用ができそうだ。
他の属性適正も同じようなものだろうが、<空属性適正>というのがどういった属性なのか想像できない。
ちょっと見てみよう。
<空属性適正:5>
分類:才能
空間を操ることができる。
※才能:魔法Lv3が必要。
瞬間、全身に稲妻が走る!
これは! まさにチートじゃないか。これがあればあの手やあの刀、さらにはパンツみたいなポケットにピンクのドアまで! 色々再現できそうだ。
<火属性適正>には記載されていた適正度合の但し書きが無いのは魔法Lv3が最高だからかな。となると、必須となっている魔法Lv3がネックだな。そこに達するまでに相当ポイントが必要そうだ……。なんとしてでもこれを取得したいが、流石チートなだけはある。
あとは一応アレも見てみよう。
<系統魔法:2>
分類:才能
系統魔法を使用することができる。
使用できる系統が増えることでより強力な魔法が使用可能になる。
※各系統がない場合は口語魔法のみ使用可能。
モロじゃないか。しかしコストパフォーマンスに優れている気がする。10ポイントで最強クラスだ。ちょっと憧れないことも無いが、異世界に即した能力で勝負したいと思うので、やめておこう。
さて、ボーナスの取得をしてみますか。
「ボーナスを取得してみてもいいですか?」
「いいですよ。取得してもキャンセルできますので、遠慮せずに色々なボーナスを取得しちゃってください」
早速<魔法Lv0>を取得してみた。
すると、体の奥に今までには無かったぼんやりとしたものをうっすらと感じた。分かりにくいがこれが魔力なのだろうか。
一覧には<魔法Lv0:2>の横に<魔法Lv1:3>というボーナスが表示された。画面右上の残りポイントは28に減っている。
Lv1にあがることでどれくらい強化されるのかと思い、<魔法Lv1>を参照する。
<魔法Lv1:3>
分類:才能
学べばそれなりに魔法を使うことができる。
魔力量は多いが、あくまで人間としての範疇。
魔法使いとして大成できるだろう。頑張れば一流も夢じゃない。
※各属性の適正が無い場合、魔法は使用不可。
なんか大分レベルが上がった気がする。まあ、ボーナスなんだからこれくらいはして貰いたいな。
とりあえず上げられるところまで上げてみようと思い<魔法Lv1>も取得する。
すると今度は、魔力と思われるものが体に漲るのをはっきりと感じた。魔力量が増えたのだろう。ちょっとそわそわするが、そのうち慣れるだろう。きっと。
一覧には<魔法Lv2:4>が表示されたので参照する。
<魔法Lv2:4>
分類:才能
魔法使いとしての一流は約束されたようなもの。
努力すれば当代随一となり、歴史に名を残すだろう。
魔力量はとても多く、人間の域を超えることも可能だ。
※各属性の適正が無い場合、魔法は使用不可。
一気にチートくさくなってきたな。Lv3になったらどうなることか。
<魔法Lv2>を取得すると、体から溢れる程の魔力を感じた。
慣れないその力に溺れそうになる心を抑えて、一覧に表示された<魔法Lv3>をドキドキしながら参照する。
<魔法Lv3:5>
分類:才能
数百年に一人現れるかどうか。
超一流?当代随一?そんなもん鼻くそ以下。
魔力量は膨大で底知らず。それはもはや神の領域。
無詠唱や多重詠唱・常時展開もあたりまえ。
思うが侭に魔法を操れるだろう。想像は力だ!
※各属性の適正が無い場合、魔法は使用不可。
これはえらいこっちゃ。とんでもないな。まあこんぐらいしないと俺みたいな愚図は生きていけないかもしれないしな。チート万歳!
チート魔法の実現を目の前にして興奮しつつ、<魔法Lv3>を取得した。
取得した瞬間、暴れ狂う魔力が嵐の如く体から解き放たれる。これは押さえ込まなきゃ不味い思い、焦りながらも方法を考えていたが放出される魔力は一向に底が見えない。
とりあえず心を落ち着けて魔力が治まるように自らの体に願ってみると、すぐさま魔力は引っ込んだ。意外とあっさりできた事にホッとしつつ、流石はLv3の才能だと感嘆した。
魔法にこれ以上のレベルは無いらしく、次のボーナスは出現しなかった。
その後、目的だった<空属性適正>を取得すると、空間操作に関する知識や、周囲の空間の情報が大量に頭に流れ込んできた。突然のことに驚いたが頭はそれをすんなりと受け入れる。
とても自分の頭では処理しきれないような情報量だったと思うのだが、これも魔法Lv3のおかげだろうか。
しかし、これで残りポイントは一気に11ポイントと寂しくなってしまった。
魔法と属性で合計19ポイント! 約2/3は多いなー。まあ、それに見合った活躍はしてくれるだろうけど。
というか既に周囲の情報を極自然に認識できてる時点で素晴しい活躍だよな。今は周囲5メートルくらいだが、その気になればもっと伸ばせるだろう。4メートルさん残念。
さて、後は何を取得しようか。この魔法だけでどうとでもなる気がするけど。うーん……。ちょっと厨二的なものでも見てみるか。んでマジで第3の目とかやっちゃうか!?
「なんか魔眼的なボーナスってありますかね?」
「ありますよ」
<選球眼:1>
<邪気眼:1>
<透視:2>
<千里眼:3>
<真理の眼:3>
<邪眼:2>
<緋の眼:2>
<魅了の魔眼:5>
<直死の魔眼:5>
<石化の魔眼:5>
<白眼:4>
<写輪眼:4>
・
・
・
いやーこれも結構あるね。つーか邪気眼って。まああれも特殊能力なのかな。
さて、どうするか。<透視>や<魅了の魔眼>あたりはエロエロできて良さそうだけど、ちょっと負けた気がするしなぁ。
どっかで見たような能力にもそそられるけど、異世界に即せという自分ルールによりここは我慢だ。というより、最初見たときから気になってたものがある。
<真理の眼:3>
分類:特殊能力
あなたは世界の真理を知るだろう。
対象を意識して見ることで、その情報を知ることができる。
これであなたも物知り博士。
※使用中は瞳孔が異常に開く。
うん。瞳孔が異常に開くってのがちょっと気になるが良さそうだ。というか物知り博士ってレベルじゃないだろ。
でもこれから行くのは異世界なんだ。当然知らないものだらけだろうから大活躍してくれるはず。男の夢である<透視>も捨てがたいがこれにしよう。
取得すると、視界がぼやけて気持ち悪くなった。どういうことだと焦ったが、ふと気付き眼鏡を外す。
おおー! 見えるぞ! 私にも……
いやー裸眼っていいですね。しかも眼鏡をしていた時よりも視力が上がってる気がする。視界に違和感も無く、非常にクリアだ。視力も良くなるなんて取って良かった<真理の眼>。
どれ、試してみますかね。
この部屋に存在するものは俺以外ではこの青い玉だけだ。よって意識してこいつを見てみる。どんな存在か知りたいしね。
……あれ? なにも起こらないぞ。意識の仕方が悪いのか? うーん、自分を見てみよう。
やはり、何も起こらない為、素直に聞いてみることにした。
「あの、真理の眼を取ったんで、あなたとか自分を見てみたのですが、何も起こらないみたいです。なんか見方とかあるんですか?」
「あー、それはですね、私はこの世界の外の存在だからです。勿論あなたもまだ、この世界の存在ではありません。説明にあった世界の真理を知るっていうのは転生していただく世界に限定されてるんですよ。だから見えないんです」
意外と細かい設定があった事に多少驚きつつ納得する。
これで残りは8ポイント。あと、何がいいかね。俺自身は弱いまんまだけど、あのチート魔法ならなんとかなりそうだしなー。
でも一応接近戦の事を考えようかな。いくらチート魔法を使えても動きがズブかったらかっこ悪いし、なにか武器の才能とかあればいいかも。近接戦闘系の才能を表示してもらおう。
<剣術Lv1:3>
<槍術Lv1:3>
<斧術Lv1:3>
<弓術Lv1:3>
<棒術Lv1:3>
<体術Lv1:3>
<盾Lv1:3>
<投擲Lv1:3>
・
・
・
おお、色々あるね。細かくあるみたいだけど、レベル付がほとんどか。ちょっと見てみよう。
<剣術Lv1:3>
分類:才能
剣を扱わせたらなかなか凄い。
特殊な技も使えるよ。
上達も早く、努力すれば一流の剣士になれるだろう。
なるほど。魔法でもそうだったが、Lv1は一流レベルってことなのか。
この特殊な技ってのはなんだろうか? 聞いてみよう。
「この特殊な技ってなんですか?」
「これは、所謂スキルや必殺技のようなもので、剣を用いたそれらは剣術の才能が無いと使用することができないんです」
げっ。つまり、自分に才能が無いことを知らない奴はその技を覚えようと努力しても一切無駄ってことか。……えげつねぇな、異世界。
しかしこの才能、努力は必要らしいけど3ポイントで一流の剣士ってのはいいね。まあ、チート魔法があるからこれは不要だけど。
となると、あれだろう。
<体術Lv1:3>
分類:才能
身のこなしは軽く、殴る蹴るはお手の物。
特殊な技も使えるよ。
上達も早く、努力すれば一流の格闘家になれるだろう。
ちょっとコピペ感が否めないが、体を動かすことに長けてるっぽいから、これにしよう。目指せ、動ける魔法使い。
<体術Lv1>を取得すると、心なしか体が軽くなった気がする。ちょっと気分がいい。
残りは5ポイント。新しくでてきた<体術Lv2:4>に使うのは惜しいよな。そこまでのものは求めてないし。
どうしようか。ちょっと整理してみるか。
「ボーナスの取得状況を見せてもらえますか?」
了解の声と共にすぐさま画面に一覧が表示される。
残りポイント:5
取得済みボーナス一覧
<体術Lv1:3>
<魔法Lv3:14>
<空属性適正:5>
<真理の眼:3>
見直してみると、戦いに関しては問題無さそうな気がするな。何か補助的なボーナスを取得するべきなのだろうか。
といっても、あんまり浮かんでこない。
……そうだ! 困ったときの青狸。いや、青い玉に聞いてみよう。
「あのー、お勧めのボーナスってありますか?」
「お勧めですか。だと、このへんです」
<年齢指定:1>
<名前指定:1>
<外見指定:1>
<種族指定:2>
<完全健康体:2>
<身体能力強化:3>
・
・
・
なるほど。ボーナスで名前とか外見を指定できるようになるのか。でもちょっと勿体無い気もするな。
というかあれが気になるな。
<完全健康体:2>
分類:特殊能力
風邪や病気も怖くない。もう早朝の乾布摩擦は不要だ。
ついでに毒とかも効かないよ!
おお! 病気が怖いと思って見てみたが、毒も効かないとはありがたい。これにしよう。
ん? 呼吸がしやすいぞ? ……鼻づまりが治ったのか! やった! これで鼻呼吸して寝れる! 寝起きの口臭も和らぐはず!
あと、3ポイントか。さっきあった<外見指定>でのイケてるメンズも魅力的だが、<種族指定>も……うーん、悩む。
うーん、どうしようか。うーん、……うん? 運?
その時、本日2回目の稲妻が全身を走る。
「運が良くなるようボーナスってありますか? 3ポイントで取得できるような」
「えー、ありますよ。これですね」
<幸運:3>
分類:才能
あなたには幸運が訪れるでしょう。
シンプルだねー。だがそれがいい! 縁の下の力持ち的な役割を果たしてくれそうだ。
ラッキー、ゲットだぜ!
これでポイントは使い切った。いやぁ、なかなかの上出来なんじゃないだろうか。他にもっといいボーナスがあったのかもしれないが、全部なんて見てられないしね。めんどくせ。
俺なりにベストを尽くしたといってもいいはずだ。何より、すぐに死ぬということは避けられそうだ。 よし、終わろうか。
「えっと、ボーナス取得終わりました」
「はい。では一応確認しますよ。
以降のボーナス変更はできなくなるけど、表示の通りのボーナスでいいですか?」
残りポイント:0
取得済みボーナス一覧
<体術Lv1:3>
<魔法Lv3:14>
<空属性適正:5>
<幸運:3>
<真理の眼:3>
<完全健康体:2>
「よろしいです」
「では、ボーナス取得を終了します」
終了の宣言と共にさっきまでお世話になっていた画面がスッと消えてしまった。
「では次に性別選択を行います。
男性と女性、どちらがいいですか?」
「もちろん男で」
これは迷う必要はなかったな。女になって男を好きになるなんて恐ろしすぎるからな。俺は女の子が好きなのだ。
「男性ですね。了解しました」
「続きまして、年齢を決定します。こちらはくじ引きで決定します。
くじ引きの箱に10~30の数字が書かれた紙が入ってますので、1枚くじを引いてください」
――ポン!
軽快な音と共に煙が現れるという粋な演出。煙がはれた先には丸い穴の開いた箱が現れた。これがくじ引きの箱だろう。SFチックな画面から急にアナログな箱になり、やや戸惑うが、すぐに年齢のことに思いを巡らす。
やっぱり若い方がいいよな。残りの人生的に。ということで狙うは10! いくぞ。
勢いよく手を箱に突っ込み、ガサゴソと漁り、希望を託して1枚の紙を掴みあげる。
30は嫌だ。30は嫌だ! とドキドキしながら紙を開くと、そこに書かれた数字は15。
まあ、悪くは無いだろう。十分若い。というか今、視点が大分下がった気がする。年齢に合わせて背が縮んだのだろうか。
「年齢は15歳に決定しました。
最後に名前を決めます。名前と家名の2つになりますが、これもくじ引きでの決定になります」
先ほどの箱が消え、新たに2つの箱が目の前にポンと煙と共に現れる。
「左の箱が名前で、右の箱が家名となります。
中にはあなたの世界の人物の名前が書かれた紙が大量に入っています。
そして外見は名前で決まると説明しましたけど、それはここで引いた名前の人物と家名の人物を足したような外見になるということです。なので、悔いの無いようにくじを引いてください」
まじか! となると組み合わせによってはえらい事になるのでは。まずいぞ! いや、幸運が働いてくれるかもしれない。
……でも、怖い。怖すぎる。でももうどう仕様も無い。男は度胸! なんでもためしてみるのさ! 頼むぜ阿部さん!
左の箱には左手を、右の箱には右手を、それぞれ同時に手を入れて一気に両方のくじを引いた。
ブサメンは嫌だという恐怖心から目を瞑り、そっとくじをあけ、恐る恐る目を開けた。
<エルザム> <ラインフォード>
人物の名前って、そういうことか……。しかし、名前の響きはかっこいいが、阿部さんに祈ってしまったからなのか、ちょっと怪しい家名になってしまった。精神が名前に引っ張られるってことはないよな。さすがに。
「名前はエルザム・ラインフォードに決定しました。
それでは外見の変更を始めます」
開始の宣言と同時に、全身に纏っていた光が強く発光し辺り一面が真っ白になった。眩しくて目を閉じるが、だんだんと光が弱まるのを瞼越しに感じ、ゆっくりと目を開ける。
「外見の変更が終了しました。
鏡を出しましたので確認してください。最も、変更はできませんが」
鏡を確認すると、なかなかのイケメンが映っていた。
健康的に感じる程度に黒い小麦色の肌、ゆったりとしたウェーブのかかった濃い金髪は肩までかかっている。切れ長の青い目にスッと筋の通った鼻、口元はやや不敵だ。
うん。謎の食通と両刀御曹司を見事に足した感じだ。これなら将来も明るいだろう。
あと服装も変わっている。さっきまでは会社帰りのスーツ姿だったが、今は、上下共にボロイ造りの布の服だ。靴は革のビジネスシューズから何かの植物で編まれたようなサンダルになっている。もちろん、腕時計やポケットに入っていた携帯電話など、身に着けていたものもなくなっている。
完全に異世界仕様になった、ということなんだろう。
「確認しました。大丈夫です」
「ではこれで、転生体エディットを終了します。お疲れ様でした。
この後、異世界へ行ってもらうのですが……実はここはもう異世界です。
現在地は人里からちょっと離れた森の中の小屋です。
先ほどの部屋に戻り、反対側のドアを開ければ外に出ることができます。
一旦外に出るとこの小屋は消えてなくなります。また、僕もこの説明を終えたら消えますので、さっさと人のいる所を目指すことをお勧めします。
では、良い人生を」
さらっと別れを告げて、今まで会話をしていた青い玉は徐々に小さくなり消えてしまった。
なんかあっけなく終わってしまったな。落とし穴とか、殴られて意識を失うとかを期待していたのに、もう異世界だったなんて。
いつまでもここにいても仕方ないし、言われたとおり人がいるところに向かうか。
部屋を出て、以前は開けられなかったドアの前に立つ。巣立つ雛鳥を見るような視線をドアから感じているのは、ここが異世界だからだろうか。卒業証書を受け取るように丁寧にドアノブに手をかけ、ドアを押し開ける。
澄み渡る青空から降り注ぐ太陽の光は優しく暖かい。その光を反射し、青々とした生命力溢れる木々達はまるで異世界からの来訪者を歓迎しているようだ。
そんな光溢れる世界を目にし、気分を高揚させて第一歩を踏み出した。