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さよなら  作者: ゆり
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7、茜→健吾の存在

隣の車内には、ケンがいた・・・。 ケンっていっても健吾じゃなくて、本物のケン。

おもわず隠れてしまった。

『何してんの?』

健吾が不思議そうに聞く。 そして周りを見回し、意外な一言を言った。

『あ。ケンじゃん!』

「はぁ?!知り合い?!」

『ケンいたから隠れたのか?? 俺、ケンってゆーより、明とか正志とか優とか付き合い長いんだよね。

知ってる?』

優?! 優って、あいつ?! てゆーことは、健吾はあいつらの友達なの?!

寒気がした。

そう言えば、健吾も優と同じ19歳だ。 クスリをやる点でも共通する。

そして健吾は優たちとの思い出を楽しそうに語った。

嫌・・・

聞きたくない!!!

耳を塞ぎ

「嫌ぁ―!」

と叫ぶ。

ガタガタと体が震える。

健吾が近くに車を寄せて止まる。 いつのまにか信号は青になり、ケンの車も走り去っていた。

『どうしたんだ?

昨日の過呼吸もそうだし、茜に何があったんだよ』

茜は健吾に抱きついた。

「恐い・・・恐いの!

もう誰も何も信用できない!!

ケン、お願い、抱き締めてっ!」

健吾は震える茜の細い肩と腰をギューっと抱き締めた。

そして、茜は全て健吾に話した。 優の事、絵里の事、そしてケンへの気持ち・・・。

健吾は茜の話を悲しい顔をしたり、怒った顔をしたりしながら最後まで黙って聞いていた。

そして、話を聞きおわると健吾は誰かに電話をかけた。

まさか・・・電話の相手って・・・

『おい、優。

今日ティアラに来いよ』

予想通りだった。

健吾はそう言って電話を切る。 そして茜に心配するなと言って頭をなでた。

その手があまりにも大きくて、温かくて、胸の苦しみや不安がスゥーっと引いていく・・・。

その日ティアラで働いていても、頭の中はこれからの事でいっぱいだった。

優を見るのが恐い。

健吾に被害がいくのが恐い。

健吾に話した事を少し後悔し始めた頃、入り口のドアが開いた。

違う・・・優じゃない・・・

フゥと息をはく。

さっきからドアの開く音が聞こえるたび、体がビクッと震える。 緊張しすぎてバイト初日なのに、三つもグラスを割ってしまった。

そのたびに健吾は茜のそばにきて割れたグラスの破片を拾い、落ち着けよって声をかけてくれた。

またドアが開く。

『おぉ、健吾。どーしたんだよ?』

・・・聞き覚えのある声がした。

茜は今、入り口に背を向けている。 顔は見えないけど、優の声だった。

体が震え、恐くて振り返れない。 思わずカウンターの中にしゃがみ、隠れた。

『優、とりあえず座れよ』

健吾がカウンターに優を案内し、自分もカウンターに座る。

その時ティアラにはテーブル席に客が一組いるだけだった。 カウンターに腰掛けた優の声がよく聞こえてくる。

カウンターの裏に隠れている茜はばれないように必死に体を小さくさせた。

『一ヵ月半くらい前に、茜って子を拉致っただろ?』

健吾が言った瞬間、心臓が口から出るかもと思うくらい緊張した。 心臓がバクバクと鳴り、体中にその音が響く。

そして、優は笑いながら言った。

『もぅ話まわっちゃったのかぁー。

茜だろ? あいつ今もクラブですげぇらしいじゃん。

健吾もやったのか?』

『笑ってんじゃねーよ!』

健吾が叫び、バシッと音がした。

『いってぇ・・・

何なんだよ!健吾!』

優も叫ぶ。 見えないけど、たぶん健吾が優を殴っていたみたいだ。

そして、健吾が優をティアラの外に連れ出す。

テーブル席でカップルを接客をしていた祥さんも、あわてて健吾と優を止めようと外に出ていく。

テーブル席の客と、カウンターから出てきた茜だけが店内に残された。

『大丈夫ですか?』

カップルの女が茜に言った。

「え?・・・あ、はい。たぶん・・・。

あ、あの、すいません」

混乱した頭で茜は謝る。

カップルの客は

『健吾が優にあんなにキレたの、初めて見たよな』

『そうだね。

あの二人、すごく仲いいのに。』

『そうだよな・・・。

ちょっと様子見てくるかな。』

と、話している。 カップルの客は優の事も知っているようだった。

「あの・・・健吾と優さんは仲いいんですか?」

茜は尋ねる。

『そうだよ。あいつら中学からの付き合いだし、俺は健吾と同じ中学だから知ってるけど。

優はだらしないから面倒みてる感じで、健吾が優の兄貴みたいでさぁ。』

カップルの男が答える。

「そうなんですか・・・」

それからしばらく時間がたった。 茜はどうしたらいいのかわからないし、不安を紛らわすようにタバコを吸い続ける。

七本目のタバコに火をつけた時、祥さんが戻ってきた。

テーブル席に行き、カップルの男に『ごめん、ちょっと来て!』と言って、二人で慌ただしくまた外へ行った。

何が起きているの?!

不安で仕方なくなった。

健吾は優とそこまで仲がいいのに茜の為に優に話をつけてくれている・・・。

会って少ししか時間の経たないヤク中女なのに。

「ちょっとすいません!」

そうカップルの女に言い、茜は入り口のドアを開けて飛び出した・・・ドンッ!!!

「痛っ!」

『うわっ!』

ドアの前にいた誰かと思い切りぶつかった。

「すいませんっ」

茜は謝り、ぶつかった相手を見た。

目の前にいたのは健吾だった。

「け、健吾?!大丈夫なの?!」

健吾の頬は赤くなっていて、唇からは少し血がにじんでいた。

茜は着ていたニットの袖で唇の血を拭う。

健吾は少し苦笑いしながら、茜の頭をいつものように撫でて言った。

『もう大丈夫だから。

すぐ帰る。』

健吾の後ろを見ると、警察官が三人と、優と祥さんとカップルの男がいた。

優が茜に頭を下げて『ごめん・・・悪かった』と、小さな声で謝った。

そして健吾と優は警察官に連れられ、近くのパトカーに優は乗せられていった。 何がなんだかわからない・・・。

それから店内に戻り、茜と祥さんとカップルの四人でテーブルを囲んだ。 そして男たちは今起きた出来事を話した。

茜の様子からみんな原因は茜にあるとわかっていた。 でも、誰もふれずに話を聞き合う。

健吾が優を呼び出した事。 そして健吾が反省してない優に腹を立てて外でケンカになった事。 仲裁に入った祥さんにも止めれず、祥さんが近くの交番にかけこみ、警察官を連れてきた事。 その後祥さんがティアラに戻り夏くん(カップルの男)を呼びにきた事。

そして、実は今までに何回も優は茜にしたような事を繰り返していて、警察にマークされていた事も知った。 健吾や夏くんは何度も優に止めろと話したけど、優は聞かなかったらしい。

今はケンカと器物破損(看板を壊したらしい)で警察に連れていかれたけど、たぶん健吾はすぐ釈放され、優は余罪がたくさんあるからしばらく出てこれないだろうと男たちは言った。

「あっ。でも、尿検されたら・・・」

『そうだよな・・・』

みんな健吾がクスリをしている事を知っていた。

もし、それが警察にばれたら健吾もしばらく出れないだろう・・・

「私のせいで健吾が・・・もし・・・どうしよう」

涙があふれた。

その時、綾さん(カップルの女)が茜にハンカチを渡しながら言った。

『健吾くんにとって、茜ちゃんは大事な女の子なんだろうね。

自分も危険なのに・・・。

そうゆう人、大事にしなきゃダメだよ。』

「・・・はい」

綾さんのことばに余計に涙が流れた。

そして、自分なんかのためにそこまでしてくれた健吾に心が揺れた。

そういえば、昨日からケンの事をほとんど考えていなかったと気付く・・・。

もしかして、好きになりかけてるのかも・・・

その疑問は日が経つにつれ、確信に変わった。

優はもちろん、健吾も何日たっても出所してこなかった。 毎日、淋しい。

ティアラにはしっかり出勤して、健吾の分も働いた。 働いていると淋しさは薄れるけど、健吾の名前が出るたびに胸が痛かった。

面会に行こうとしたが、健吾は未成年だから身内しか面会できないと言われて会えない。

会いたい・・・

健吾に、ちゃんとお礼もしたいし、話したい。

その想いとは逆に、日にちだけどんどん経っていく。

出会ってからこんなに健吾と会わないのは初めてだった。

そして、健吾が逮捕されてから一週間が経った。

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