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さよなら  作者: ゆり
4/29

4、茜→裏切り

その頃、茜は毎晩クラブへ通い、その日出会った見知らぬ男に抱かれるという日々を送っていた。

絵里が憎い・・・。

あいつのせいで、私の人生はボロボロにされた・・・。

時間があれば絵里の事を考え、くやし涙を流した。

茜は確かに前から男遊びが激しかった。 でも、好きな人がいる時、他の男と寝たことはない。

もちれん、レイプも薬も初めてだった。

あの日、絵里とケンが前に付き合ってたと聞いた時、いやな予感はした。 ケンはお酒の弱い絵里をからかったり、何かと絵里に話をふって、茜の前で見せた事のない笑顔を見せていた。

くやしかった。

絵里が電話で居酒屋の外に出た時、ケンはつまらなそうな顔でタバコを吸った。

そして、少し眉間に皺を寄せ、

『男かな?』

と茜に聞いた。 その時、私にはわかった。 ケンは絵里に気持ちがまだあるって事・・・。

そして

「うん、そうでしょ。

絵里は半年になる彼氏いて、すごくラブラブだし。」

と話してしまった。 そして、ケンは『そっか・・・』とつぶやいて、タバコを吸いながら出入口のドアをぼーっと見ていた。

そして帰りの遅い絵里を見てくるといって外に出て、すぐに絵里の荷物を取りにきた。

『あいつ、潰れてた!送ってくる』

そうケンは言った。

「タクシー呼べば?

ケン、飲酒になるよ?」

私は必死にケンを呼び止めた。 でも、ケンは聞かなかった。

「なら、一緒に茜も帰る」

そう言った茜にケンは

『戻るから。まだ早いし、優さん淋しいって』

ニコニコして言った。

そして、ケンは嘘をついた。

いくら待っても、戻らなかった・・・。


でも、絵里には大ちゃんがいるから、ケンが寄りを戻したがっても振られるだろうし・・・。 それは、安心できた。

そして、その後の地獄のような四日間。

優たちを殺してやりたいくらい恨んだ。

先にいなくなった絵里のせいでこうなったんだと絵里を恨んだ。

そして、ケンに会いたい気持ちは毎日募る・・・。

こんなに汚れた自分が気持ち悪い。

殺したい。

その時、たまたま部屋のテーブルの上にあったペン立ての中のカッターに気付いた。

「これで腕切ったら死ねるかなぁ・・・」

刃を出し、腕にあてた。

手に汗がジワッとしみ出てきた。刃を押しあてる。

「ふぅ・・・」

大きく息をはいて、カッターを横に引いた。

腕に赤い筋ができた。

でも、血は出てこない。

「中途半端だなぁ」

もっと強く引いてみた。


「キャッ」

ドクドクと血が流れる。

あっ!やばい、部屋のカーペットに血がたれちゃった・・・

変に冷静だった。

暖かい血液が腕をつたう。 なんとなく、安心して気持ちが落ち着いた。

でも、その血もすぐに止まった。

「あーあ。

もう止まっちゃった。」

傷口がズキズキする。

今になって痛みを感じてきた。

包帯を巻き、横になる。

自分が何をしているのか、よくわからなかった・・・。

翌日も、腕を切った。

その翌日も・・・。

なかなか死ねない。

恐くてパックリ切る事を躊躇してしまうのもあるのか、すぐ傷口はふさがって治っていく。

茜は死にたいのに、体は生きようとしている。

それがくやしかった。

そんな時、ネットで自殺願望がある人のサイトを見つけた。

飛び降り・首つり・練炭など、いろいろ死に方がのっていた。

その中で茜は薬を飲むという死に方に目がひかれた。

飛び降りてグチャグチャになるのは嫌だし、手首切ってもまた死に損ねそうだし・・・。

首つりと最後まで悩んだけど、薬に決めた!

幸い、うちにはいろんな飲み薬がいつもある。

もう茜の精神状態はボロボロだった。

リビングの薬箱をあけて、たくさんの薬の中から頭痛薬・風邪薬・腹痛の薬などを出し、どれにするか選ぶ。

ウキウキしてくる。

・・・その時、母がリビングに入ってきた。

『茜?何してるの?』

心臓がバクバクした。 今までの変な楽しい気分から、一気に現実に戻る。

今、私なにをしようとしてたの? 何で浮かれてるの?

頭から血の気が引いた。 薬を持つ手が震えた。

『茜、真っ青よ。

手首ばっかり切るから、貧血なんじゃないの?

ほんとに体を大事にしてよ!』

母は茜が戻ってきた日から、すごく茜に対して心配性だった。 手首を初めて切った日、茜の腕を見ながら何も言わず、涙を流した。 そして、茜を抱き締めて『ママがいるから』と泣き続けた。

そんな母を見ると心が痛む。 死ぬのを止めようかなってとまどう。

でも、生きていくにはつらすぎる・・・。

「あ。か、風邪っぽい」

それだけ言うと、適当に何箱か薬をつかみ二階の部屋に走った。

このまま母といると、死ねない気がした。

部屋に戻ると涙がでた。 母に申し訳ない気持ちで胸が痛かった。

そんな気持ちを静めるため、風邪薬を一錠口にする。 そして、また一錠・・・。

今、死ななかったら苦しさから抜け出せない・・・。

躊躇する自分を振り切るように、薬のビンに口をつけ、水と一緒にどんどん喉に流し込む。

切なさも、とまどいも、思い留まる気持ちも出てこないように、薬と一緒に流し込んでゆく・・・

視界がグルグルとまわり、意識がなくなった・・・。

気がついたら、知らないベッドにいた。

腕には点滴、体調は最悪だ。

また死ねなかった。

横を見ると、母がいた。

化粧もくずれ、クマがある。

『あ・・・茜っ!!』

茜の手を握り締め、声をあげて泣いている。

母の後ろには、父もいた。 茜の父は、アメリカに単身赴任中のはずだった。

『茜、大丈夫か?!

おい、先生を呼べ!』

父に言われ、母が病室を飛び出していく。

「パパ、なんでいるの?」

『おまえは三日も目を覚まさなかったんだぞ!

一時はもうこのままかと・・・』

そこまで言うと父は両手で顔を覆い、

『よかった・・・』

そう何度も繰り返した。

それから医師の診察があり、父と母に今までの話を聞いた。

昏睡状態の茜を見付け、救急車を呼んだ事。

意識が戻らず、父がアメリカから飛んできた事。

母も父も、真っ赤な目をしていた。 医師から『ほとんど飲まず食わずで茜に付き添ってくれた』と聞いた。


何をしてしまったんだろう・・・

後悔と、生きていて良かったという安心感が押し寄せる。

「パパ・・・。ママ・・・。心配かけてごめんね。」

茜は素直に謝った。

それからしばらく茜は入院した。 相変わらず食事と睡眠が取れず、点滴と入眠剤のお陰で生きている感じだった。

そして、しばらくするとまた死にたいという感情が出る時が増えてきた。

『そんなに茜を苦しめる男たちがほんとに憎い。

ママ、その男たちが目の前にいたら殺してしまうかもしれないくらい・・・』

母はそう言ってよく泣いた。

父は仕事の都合でアメリカに帰り、母は毎日茜のそばにいた。 離れている間に茜がまた変な事をするのを心配している。 でも一番は茜の傍にいて、淋しさから救いたかったんだと思う。

退院の日、母が言った。

『警察にやっぱり言わない?

茜が泣き寝入りなんてくやしい』

「それは・・・。

前にも話したけど、復讐が恐いし、みんなにレイプされて監禁されてた女って見られたくない。

だから、もういいの。忘れるの」

『でも・・・』

その時、頭の中であの日のあの光景がフラッシュバックした。 忘れようとして蓋をした記憶だったのに・・・ 蓋の隙間から、どんどんあふれ出る・・・

あいつらの顔、

あいつらの匂い、声、

そしてあいつらの・・・

「うわぁ――――っ!!!」

茜が叫び、細い体からは想像できない程の力でベッドの脇のテレビを棚から叩き落とす。

『キャァ!あ、茜?!』

母に抑えつけられたが、茜は暴れる。

テーブルの上のガラスのコップを壁に叩きつけ、カーテンを掴み、カーテンレールから引きちぎった。

「嫌!!!

いやぁ―――っ!!!」

頭の中から、あの光景が消えない。 いくら暴れても頭の中であいつらが笑ってる・・・・

床に座り、頭をかきむしる。 髪を掴んで引き抜く。

「消えて!!」

「消えてよ!!」

そう何度も叫ぶ。

病室の中はめちゃくちゃになった。

母は病室の隅で泣いている。

茜の声を聞きつけたのか、医師や看護婦が病室に駆け付けた。

暴れる茜を抑えつける。

『安心する薬ですよー』

そう言い、腕に注射をうつ。

もう茜は以前の茜ではなかった。

それから気が付くと、茜は違う病室にいた。 体のあちこちに痣や擦り傷がある。 何が起きたのかあまり記憶がない・・・。 テレビを叩きつけたのまではわかるんだけど・・・。

医師から薬を渡された。 今まで飲んでいた薬とは違う何種類かの薬。 そして、病棟が精神病棟に変わり退院が伸びた事を伝えられた。

それから茜はまたふさぎこんだ。 もう、母や父の優しさもよくわからなかった。

日数が経つにつれ、優や絵里への恨みも薄れた。 死にたくもなくなってきた。

茜は自分自身を責め、運の悪さを呪った。 そしてその内、全てどうでもよくなってしまっていた・・・。

精神病棟に移ってから二週間、茜に退院の日がきた。

母はまた茜が暴れるのが恐いのか、口数も少ない。

久々に家に帰り、部屋に入る。 血まみれだったはずの服やカーペットは、何もなかったかのようにキレイになっていた。

久々に携帯を見ると、すごい数の着信やメールがきていた。 みんなに心配されて連絡をしてもらっていた事が少し嬉しかった。

こんな私でも誰か必要を感じて連絡してくれたという事に、自分の存在価値を感じた。

ケンからも着信とメールがきていた。

胸が熱くなる。 もうケンには会えないけど、すごく嬉しい。 メールはすぐに保護った。

その中でも、絵里からの連絡が一番多かった。

絵里は小学校からの友人だ。 茜がいじめられた時、非行に走った時、いつも絵里だけは味方でいてくれた。

過去を振り返り、絵里を恨んだ自分を責めた。 そして絵里の声が聞きたくなる。

絵里にメールをした。

すぐ着信があり、電話に出る。 絵里はいつものように茜の話を聞いてくれた。

涙声になった。 絵里も、泣いている・・・。

やっぱり絵里は一番の親友だ・・・。

絵里との電話を切り、久々にタバコを吸いたくなった。 部屋にある吸い掛けのタバコはしけっていた。 久々にコンビニまで外出しよう。

外の空気はすがすがしかった。 茜は久々に笑顔になる。

コンビニまでは歩いて2分ほどだった。 タバコを買い、外に出て封をあける。 その場で一本吸った。 少し頭がクラクラする。

『あれ?!茜じゃん!』

プップーと車のクラクションが鳴り、振りかえるとサヤカが窓から顔をだしている。

サヤカは茜の遊び友達だ。 最近サヤカはクラブばかり行っていたので、あまりクラブが好きじゃない茜とは疎遠になっていた。

軽く手を振ると、サヤカが車から降りて走ってきた。

『久々じゃん!茜、痩せたねー。ビックリしたぁ。

最近何してるのぉ?』

サヤカはニコニコ笑い、茜の手を握る。

「ん・・・。ちょっとしたダイエットしたの。」

早くこの場を去りたかった。 今はスッピンだし、やつれた姿を見られるのは恥ずかしかった。 それにサヤカのようにテンションも高くなれない。

『今からメシ行ってクラブ行こうよー!』

そんな茜におかまいなしにサヤカは強引に茜の手をひっぱる。

「え?今日はちょっと・・・」

『聞こえないー』

断る茜を強引に車に乗せる。

まぁ、久々に遊びにいくし、気晴らしもいいかもね。

そう考えてみる事にした。

家に電話すると母は喜んでいた。 元気に遊んできなさいと笑った。

そして車内でサヤカと話したり、サヤカの化粧品で化粧をする内に、何かモヤモヤがすっきりしてきた気がする。

ご飯を食べ、いい時間になった位にサヤカの通うクラブに入る。

一ヵ月近く引きこもったり入院してた茜は、浦島太郎の気分だった。 初めてクラブに来た子のようにキョロキョロしてしまう。

サヤカは友達が多く、何人もの人がサヤカと話をしていた。 その中の一人とサヤカは話をして、何かを受け取った。 そして、茜にこっそり手渡す。

『やるでしょ?』

手のひらをみると、1錠の半分の錠剤みたいな物があった。 茜もこれが何かわかった。 ドラッグだった。

サヤカはこっそりその錠剤を酒で飲む。

茜は悩んだ。 今までドラッグはやってなくて、優たちに打たれたのが初めてだった。 あれも家に帰ってからしばらくの間に何回もやりたくなり、体が震えたり冷や汗がでたりして大変な思いをした。

「これ、ヤバいの?」

『平気じゃない?タマ、みんなやってるよ?』タマとはエクスタシーという麻薬だ。 サヤカの友達も『平気だよ』『やった方が楽しい』と、次々と茜に言う。

まぁ、一度だけなら・・・

今日は何もかも忘れて遊んでみたかった。 それに、タマという薬にも、前から興味がなかったと言えば嘘になる。

ゴクン・・・

飲んでみた。

「かわらないよ?」

『ちょっとたてばわかるって!』

サヤカは茜にウインクして、踊ろうと誘った。二人で踊っていたら、ジワジワ楽しい気分になってきた。 テンションがあがる。

『かわいーね』

しばらく踊っていると、誰かに声をかけられた。 知らない男。 顔はマァマァの中の上くらい。

「どーも」

茜も誉められて嬉しくない訳ではない。 サヤカがその様子を見て『ちょっとビップ行ってくるー』と人の波の中にまぎれていく。

しばらくその男と話していると、名前を聞いてない事に気付く。

「名前、なぁに?」

『あれ?言ってないっけ?

俺、ケンだよ!健吾。

よろしくな。』

心臓がバクバクした。

ケンという名前に反応してしまう。

「ケンくん・・・」

『ん?何だぁー?』

健吾が茜の肩を抱く。 ピクッと体が反応した。

久々に男の体温を感じたからかな。 ドキドキする。

『あれ?もしかして、何かくってる?』

茜のさっきの反応をみて、健吾はジーっと茜の顔を見る。

ヤバい、キマってるのがバレたかも・・・

冷や汗が出る。

茜が逃げ出そうとした時、健吾に腕を掴まれた。

そして、

『おれもー!』

と言い、健吾はニコニコしている。

「なぁんだ。」

ほっとした。 そして二人で隅に移動する。

健吾とタバコを吸ったりカクテルを飲んだりして休憩した。

健吾は茜の手を握ったり、ふざけて抱き締めたりしてきた。 いつもは馴々しい男は嫌なんだけど、今日は嫌じゃなくて、もっと体に触れてほしくなった。

健吾の指先や体温が気持ちいい・・・

「外、出ない?」

茜から健吾を誘う。

健吾は何も言わず、茜の手をにぎったまま出口に向かう。

外に出ると、健吾が茜の肩を抱き、ホテル行こって言った。 茜はうなずく。

ホテルに入ると健吾はいきなり茜を抱き締めた。

茜も健吾に身を任せ、二人でシャワーも浴びずにベッドに倒れこむ。

「け・・・ケン・・・」

『茜・・・』

健吾は少しケンに声が似ていて、目蓋を閉じるとケンに抱かれているように錯覚した。

名前も似てるから、ケンって呼んでも違和感はないし・・・。

茜は健吾をケンと思って抱かれた。

いつもより、体中が敏感に反応する。

こんなセックス、初めてだった・・・

「な、何・・・これ・・・」

『タマ食ってると、全然違うだろ?』

うつろになりながら健吾の声を聞いた。


それから、朝まで何度も抱かれた。 いつもは一度で満足するタイプだったのに、今晩は茜から何度も健吾にせがんだ。

もちろん健吾をケンと呼び、目蓋は閉じて、ケンのつもりで抱かれた。

シャワーを浴び、少し現実に戻る。

「何してるんだろ、私」

おもわず自分に笑ってしまう。

みじめだった・・・。

本物のケンに会いたい。

ケンの温もりを感じたい・・・。

涙がほほを伝う。

そしてシャワーを出しっぱなしにして、健吾に気付かれないよぅに泣いた。

泣き疲れてバスルームを出たら、健吾が『腹減らない?』と言った。 健吾はもう半日近く食事してないらしい。

ホテルを出て、近くの24時間営業のファミレスに入る。 遊び帰りらしい人もいれば、サラリーマンもいた。

そして、食事の後に健吾とDVDを借りてまたホテルのフリータイムに入る。 健吾はタマより楽しい事をしようといった。

茜は少し恐くなってきた・・・。でも、タマより楽しい事って何か知りたい。 期待が不安より勝っている。

ホテルの部屋に入ると、健吾は鞄から小さな透明な袋を取り出した。

「あっ・・・」

見たことのある袋だった。 その袋の中に入っている半透明っぽいよぅな小さな結晶みたいな物も、前に見た事がある・・・。

「これって、覚醒剤だよね・・・」

『あれ?やってるの?』

健吾がビックリした顔で茜を見た。

複雑だった。

あの日の嫌な記憶がよみがえる。 でも優たちから解放された後、何度もこのクスリの快感が欲しくなった。

もう二度と出会いたくないと思っていたはずだったのに、体が疼いた。

『やるだろ?』

「・・・」

健吾が鞄からアルミホイルを出し、少し切り取って長細く折っていく。

茜の鼓動が高まる。

頭ではダメだと思うのに、体は早く覚醒剤を血中に入れてほしいと欲する。

アルミホイルは小さな笹舟のような形になり、片側の端に細かい結晶を乗せる。

『俺がライター持つから、茜はこのストローで煙吸えよ。

もったいないからいっぱい煙吸っちゃえよ!』

「でも・・・」

腕が茜の意志を無視して勝手に伸びた。 そしてストローを健吾の手から受け取る。

不安そうな茜の表情を察したのか健吾は

『あぶりなら大丈夫だよ。

すぐ抜けるし、煙だから体にも影響ないし。』

と、言った。

「ほんと?!」

茜の顔が笑顔に変わる。

確かに煙だけだもんね。 タバコだって葉っぱを食べたら体に悪いけど、煙を吸うくらいじゃ死なないし、たいした害もないし・・・。

『やっちゃえば?』って頭の中で誰かの声がした・・・。

「うん。やるよ!」

アルミホイルを覚醒剤が乗せてある方を少し斜め下にして、健吾がアルミホイルを下からあぶる。

結晶が溶け、白い煙がでてきた。

『吸って』

言われるままに煙をストローで思い切り吸った。

『それで15秒くらい息を止めて、それから吐き出して』

いち・・

にぃ・・・

さぁん・・・・・

頭の中でカウントしていく。

じゅうご!

フゥーっと大きく息を吐いた。

『茜、吸い方うまいなぁ。

次は俺ね。』

ストローとライターを交換して、焦がさないように気を付けてあぶる。

三回交替しながら煙を吸っていると健吾が『キマってきたぁ』とニコニコし始めた。 でも茜は何も変化がない。

連続で三回吸った。

やっぱ注射とは違うな・・・。

少し期待はずれ。

「きかないー!」

茜はそう言ってベッドに寝転んでテレビを見た。 テレビではワイドショーをやっている。 ぼーっと見てると健吾が茜の足をなでた。 そして、トップスをまくりあげ、胸をもまれる。

『茜、絶対キマってるよ。 今からわかるって・・・』

そう言いながら茜を裸にしていく。

そして、茜は健吾の言葉の意味がわかった。

「あっ・・・

な、何?!」

下半身を触られると、異常なくらい敏感だった。

数秒で茜はイってしまった。

すごい・・・

昨日より、今日の方が全然すごかった。

そして、その日から茜は白い煙のとりこになった。

毎晩クラブへ行き、クスリをくれる男と寝る。

覚醒剤をすると、全然眠くならなかった。 食欲もわかないし、何かと集中することができた。 いい事づくめだ。

でも一人でいて優たちを思い出すとその事に集中してしまうみたいで何時間も考え続けてしまう。

健吾とホテルを出て別れて一人になった時、それを体験して恐くて車道に飛び出して死にたくなった。

それ以来、茜はクラブにいるか誰かと一緒にいるようにした。

ほんとはケンといたかった。 でも、会えない。 その淋しさを紛らわすのに、覚醒剤とセックスは欠かせなかった。

覚醒剤が抜けると、また入れるの繰り返し。

そんな中、絵里と久々に会う日がきた。 絵里はクサをやってた時があったから、これめ誘ってみよう。 絵里ときまりながらクラブで踊るのは楽しそうだ。

久々に家に帰ると母がゲッソリとした顔で茜を迎えた。

『茜、心配させないで・・・』

「大丈夫。

もう死ぬ気はないから」

そう言うと茜は部屋に向かおうとした。

その時、母が茜の腕を掴んだ。

そして

『茜、もしかして・・・。

変なクスリしてない?!

目がおかしいわよ!』

茜の目をみながら母は言った。

「ちがうよ、寝不足と二日酔いなの!」

そう叫び、二階まで逃げるように走った。

部屋に入り、鏡を見る。

確かに瞳孔は開きっぱなしだし、目がうつろかもしれない・・・。

サヤカはカラーコンタクトでごまかしていると言っていた。

抜けてきたから家に戻ったのに、バレバレな自分に少し笑えた。

ピーンポーン

ピーンポーン・・・

家のインターフォンが鳴った。 時計を見ると絵里が来る時間だった。

話し声がして、階段を昇る足音がする。 そして、部屋の前で足音は止まった。

茜から部屋の戸を開けた。 目の前には少しビックリしたような絵里の顔があった。 そして久々に見た絵里は痩せていた。

軽く話しをして、茜は絵里をクラブに誘った。 でも断られ、クスリも嫌がり、茜に止めろと言う。

だんだん絵里がウザくなった。 しかも、左の薬指に指輪・・・。 イライラした。

不幸な私に、幸せや真面目さを自慢しにきたの?!

なんかもう、絵里と一緒にいても苦しいだけだった。

絵里には帰ってもらった。 クスリはしないでと絵里は言い残して部屋を出ていった。

モヤモヤと後悔と色々まじった嫌な後味だけが残った。

「・・・あれ?」

指輪が落ちている。 たぶん絵里が薬指にしてた指輪・・・。

今日行くクラブは大ちゃんの日サロに近いし、たまには焼きに行くついでに届けてあげよっかなぁ。

それに、後から考えると今日は絵里に悪い事をした。 わざわざ来てくれたのに、やつあたり。 クスリが抜けてきていて少しイラついていたのかもしれなかった。

善は急げというように、茜はすぐ駅前に向かった。 そして大ちゃんの店に向かう。

店内に入ると、受け付けには大ちゃんがいた。

『茜ー!久々じゃん。

一ヵ月ちょい振りだよな?』 茜も前から大ちゃんの日サロに通っていたから、二人は知り合いだった。

「久々!

てゆうか、絵里さぁ」

茜が言い掛けた時、大ちゃんの顔色が変わって

『絵里が何?!あいつ、何かあったんだろ?!』

と茜に叫んだ。

茜は少しおどろきながら、指輪を大ちゃんに渡す。

大ちゃんは不思議な顔をして、茜を愕然とさせる一言を言った。

『らぶ・・・けん?

何、これ?茜の指輪??』

ケン?!

「ケンって何なの?!

大ちゃんが絵里にあげたんじゃないの?!

絵里が今日これを忘れて行ったの!」

『何なの?って俺が聞きてーよ!

俺、何日か絵里と連絡取れねぇし!

一ヵ月前くらいから絵里、様子おかしかったんだよ。 ケンってやつからよく電話やメールくるし・・・。

その指輪もそいつからなんじゃないのか?』

頭が真っ白になった。

一ヵ月前って、時期も合う・・・。

ケンが絵里に贈った左の薬指の指輪・・・。

気が付くと茜は店内から飛び出していた。 大ちゃんの『茜!おいっ!』って声は聞こえたけど、それどころじゃなかった。

涙が込み上げた。

いろんな感情がグチャグチャになった・・・

茜は好きな人と昔からの親友に裏切られた。

くやしい。悲しい。信じられない・・・

どんな言葉でも言い表わせないドロドロしたものが頭だけでなく体中をかけめぐる。

近くのビルの非常階段を駆け上がり、声を上げて泣いた。 涙が枯れるまで泣き続けた。

そして、夜になった。

涙でボロボロになった茜は、クラブに向かっていた。 携帯には絵里からの着信があった。 きっと指輪の事だろう。

「あの女・・・。殺してやりたい。」

そのくらい、絵里を恨んだ。 ケンもムカつくけど、嫌いにはなれない。 そんな自分がくやしかった。

クラブで踊り、またクスリを入れる。 そしてセックスをして朝を迎える・・・。

満たされた体と正反対に、心はどんどん枯れていった・・・。


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