28、絵里→最後に…
久々に逢ったケンは、少し髪が伸びていた。
でも、変わらない笑顔・・・。
笑った時に小さくなる目が絵里は大好きだった。
懐かしさに胸が苦しくなる。
そしてケンは、絵里と夏くんの方を見た。
二人の間の時が止まる―――。
絵里はゆっくりとケンの方へ向かっていった。
「ケン。
今までありがとう。」
ケンは下を向いて唇を軽く噛んだ。
これは少し困った時や動揺しちゃった時の無意識の仕草だ。
絵里は続けて言う。
「もう、苦しまないでいいよ。ごめんね。
東京で頑張ってね。
あ。あとね、これ、お守りにして。」
クリスマスに渡す予定だった指輪をチェーンに通したネックレスを渡す。
ケンと目が合う。
涙が出そうだった。
まだ好きなのって伝えたくなった。
でも、胸の中に押し込む。
よりを戻したって、お互いツライだけってわかるから・・・。
もう、戻れない。
後はいい想い出にして終わらせる。
『絵里、俺はまだ――』
「じゃあ、またね!
頑張ってね!!」
ケンが何か言おうとした言葉を遮った。 何を言うのかわかったから・・・。
その言葉を聞いたら止まれない。
お互いツラくても、一緒にいたくなる。
ケンが東京へ行くことも許せなくなる・・・。
ケンの幸せを願いたい。
東京で頑張る事を応援したい。
・・・その為には戻れない。
ケンは少し黙った後、いつもの笑顔で『これ、ありがとな』と言ってネックレスを付けた。
絵里はケンに背をむけて歩いた。 そしてドアを開ける。
外に出た瞬間、目の前がぼやけた。
そして頬を涙が伝っていく。
「頑張ったじゃん」
そう自分に言いたかった。
翌日、ケンは地元を離れていった。
胸には絵里が渡した指輪がキラキラ光っていた。