2、絵里→一ヵ月記念
それから、一ヵ月がたった。
ケンか大ちゃんを選ばなくてはいけないと思いつつ、絵里はまだズルズルと二股恋愛を続けていた。
今日はケンと付き合い始めて一ヵ月記念日。 ケンがお祝いをしたいと言い、食事をする事になっている。
大ちゃんとケンの家は比較的離れていたが、いつばれるか絵里は不安になっていた。 二股を始めてから大ちゃんともケンとも外出はほとんどせず、彼らの家や近所にしか行かなかった。 しかし今日はお祝いだからケンは県内一オシャレなビルで食事をしようと言ってきた。 さすがにその周りにはバレる危険がたくさんある。 すこし苦しい言い訳だったが絵里は
「せっかくだから行ったことない場所行きたい!西新宿はオシャレなビルあるってママに聞いたの。行きたいなぁ」
と、ケンに提案した。 新宿は絵里たちの住む街から電車で一時間くらいかかり、平日に新宿で誰かに会う確率は0と言ってよかった。 絵里は渋谷はたまに行くけど、新宿は行ったことがなかった。
『マジで?』
ケンは驚いていた。 しかし、絵里が頼むと快く了解してくれた。
はじめは隠れる為の新宿デートだったが、絵里は次第に楽しみになり、授業中もなかなか集中できなかった。
学校が終わり、ケンに電話をする。
「今終わったぁー!迎えにきてぇ。」
するとケンは
『校門にもういるよ』
と言った。 電話を繋いだまま教室の窓から外を見ると、校門にケンの車が見える。 結香にバイバイを言い、ダッシュで校門に向かう。
コン、コン、
「おまたせ!」
車の窓を叩きながら、ケンを呼び、ドアのロックを開けてもらう。
車に乗り、軽くケンにキスをする。 そしてケンの車は走りだした。 国道を走り、高速に乗る。
『こんな遠くに行くのは初めてだね』
ケンが嬉しそうに言う。
「うん!楽しみぃ」
絵里も素直に答える。
『絵里さ、食事行くのに制服はヤバいじゃん?後ろに紙袋あるから中見ろよー』
ケンに言われたまま、後部座席の紙袋を手に取る。 お姉さん系で有名なブランドのショップの袋だった。
中を見ると、ピンクのファー付きワンピと、パンプスが入っていた。
『今日は西新宿行くんだし、大人っぽくオシャレしてけよ』
ケンが前をみながら言う。 このブランドは決して安い物ではなかった。 このワンピも結香が雑誌を見ながら『かわいぃけど買えないなぁ』と嘆いていたのを覚えている。 それに男一人で買うのは恥ずかしかっただろう。 買っている時のケンを想像したら、かわいく思えてきた。
「ケン・・・。
ありがと。」
絵里はケンに抱きついた。
『危ねぇって!知らない道だし恐いしやめろよ!』
そう言いながらもケンは絵里を振り払わなかった。 真っ赤になってテレながら、絵里に抱きつかれていた。
なんだかんだしてる内に車のナビが『目的地です』と告げた。
周りを見ると綺麗なイルミネーションや、最上階までは車から見えないほどに高いビルがひしめいていた。
『へぇー。すげぇな。』
「うん。すごい!」
二人で呆然とする。 こんなにすごい景色を何も見ず、慣れた風に歩くサラリーマンたちが不思議に思えた。
『取りあえず、駐車場いれるよ。』
ケンが車を駐車場にとめる。 人気はあまりなく、車ばかりがビッシリと止まっていた。
時間がなくて着替えれなかったと言っていたケンと二人で車内で着替える。 ケンも普段着ないような大人っぽい服に着替え、絵里もプレゼントされたワンピに着替えた。
『なんか、てれるな。』
「だよね。恥ずかしいかも・・・。」
二人で目を合わせ、照れ笑いをした。
やっぱり、ケンと付き合ってよかった。
絵里は再確認した。
着替えた絵里たちは、目的のビルへ向かう。 そして、ビルの中へ入り、エレベーターの50階というボタンを押した。 50階というのだから時間がかかると思ったのだが、あっとゆうまにドアが開き、50階に着いていた。
ケンが予約してくれたレストランは、壁がほとんどガラス張りになっていて、見たことがない程キレイな夜景が広がっていた。
案内された窓際の席に座る。
すごい。
宝石をちりばめたみたいってよく聞いたけど、ほんとそうだ。
ケンは慣れない仕草で二人分のオーダーを頼む。
「ねぇねぇ、ケン。
こんなオシャレなお店、よく知ってたねー。」
ケンは苦笑いしながら絵里に
『俺が知るわけないじゃん?!
実はここ、俺のアニキの紹介なんだよねぇ。』
ケンには二歳上で二十歳の兄がいる。 確か、東京の大学に通っているって聞いた事があった。
『すげぇ恥ずかしかったよ。
オシャレで女が喜ぶ店教えてって言ったら、そーとーからかわれてさぁ。
絵里の写メ送るの交換条件で聞いたんだよ。』
その時のケンを想像すると、思わず笑ってしまう。
『笑うなよ!』
ケンが絵里の頭をクシャっとなでる。
最近のケンは変わった。 絵里が不安にならないように、いつも自然で正直にいてくれる気がする。
寄りを戻して三日目くらいの日、絵里はケンの家に泊まった。 深夜まで起きて、二人でベッドの中で抱き合いながら恋愛の話をした。 そして、いくつかケンの本当の姿がわかった事があった。
ケンは、かっこつけでいい所だけ人に見せたいって事。 それは、嫌われたくなくて自然にでてしまうって事。 あと、ケンは淋しがり屋さんだって事・・・。
絵里と付き合ってた時も、嫌われたくなくて自然とかっこつけてたみたい。 それが絵里にはわからなかった。 本音が見えなくて不安になってばかりいた。
そしてケンも、嫌われたくなくてやった事で絵里を逆に不安にさせて他の男に逃げさせてしまった事を後悔していた。
それで、これからは自然に本音を出せるように頑張ってみると言われた。
絵里は、嬉しかった。
それ以来、絵里とケンの仲は急速に縮まっていった。
絵里は、最近大ちゃんを考える時間より、ケンを考える時間の方が長くなってきた。 メールの回数の多さも、寝る前に最後に聞く声も、ここ一週間はケンだ。
そして、今日のような優しさを感じると、絵里の気持ちは大ちゃんよりケンにだいぶ傾く・・・。
「ケン、ありがと。」
絵里はケンに心から感謝した・・・。
楽しい食事も終わり、車に戻る。 明日も学校がある為、急いでケンが地元へ車を走らせた。
その時、絵里の携帯が鳴った・・・
茜からのメールだ。
一ヵ月前の飲み会以来、茜とは連絡が取れなくなっていた。 電話もメールも応答がなく、何日かは連絡し続けたが結局音信不通のままだった。 家にかけると茜の母親にいつも『寝てるので・・・』と言われ、茜と会話はできなかった。 ケンも同じだった。 心配はしたけど、茜が連絡取れなくなる事はたまにあり、最近はあまり気にしていなかった。
久々のメールを開く。
そして絵里は絶句した・・・。
《連絡できなくてごめんね。
茜、ずっと精神病院にいた。
理由、絵里には聞いてもらいたいって思う。
電話できる?》
そう書いてあった。
ケンにメールを見せ、車のCDの音を消して車を近くのコンビニの駐車場に止めて茜に電話する。
トゥルルルル・・・
トゥルルルル・・・
二回コールすると茜が出た。 いつもの明るい声ではなくて、泣いているようだった。
『もしもし・・・絵里?』
「うん・・・」
そして、茜は話しだした。
『この前の飲み会の日、絵里が先に帰ったでしょ?
あれで優さんと二人きりになって、しばらくケンを待ってたんだけど、ケン帰ってこなくて・・・。
遅いから帰ろうとしたら優さんが車がある友達呼んで送ってくれるって言ったの・・・。
それで・・・。
・・・。』
茜が黙る。 嫌な予感がした。 少しの沈黙の後、茜がことばを続けた。
『それでね、二人の男が来て、居酒屋出て車に乗ったの・・・。
茜も酔ってたからボォーっとして、気付いたら車で寝ちゃってて・・・。
目が覚めたら知らないベッドにいたの。
周りを見たら、誰かの家っぽくて・・・。
ソファーに優さんと車の二人が座ってた。
それで・・・。
いきなり、押し倒されて・・・。
いきなり変な注射された・・・。』
絵里は言葉がでなかった。
ケンも心配そうに絵里を見る。
『恐いってきもちがすぐなくなって、体がへんになって・・・。
気付いたら、全裸で優さんとヤッてた・・・。
その後、他の二人とも・・・。
しばらくして冷静になった時、恐くて逃げようとしたら、捕まえられて・・・。
裸にされて、服を捨てられて、殴られた・・・。
逃げたり叫んだら殺すって・・・。
体をベッドに縛りつけられて、寝ても起きても犯されて、薬、うたれた・・・。
他に知らない奴も来て、何人もの人に、まわされて・・・恐くて・・・抵抗したらまた殴られて歯が折れて血が・・・。
そしたらおじさんが、助けてくれた。
そこ、優さんの家で、何人も男が来てて怪しいと思ったって・・・。
それで、家帰ったら、飲み会から四日も経ってた。
顔、ぐちゃぐちゃだし、いきなり頭おかしくなりそうだし・・・。
あんなに嫌だったのに、またあの注射したくなるし・・・。
恐くて、手首切った・・・。
毎日切って、家にある薬、毎日大量に飲んだ。
でも、死ねなかった・・・。
そしたら親に病院入れられたの・・・。』
「茜・・・」
絵里は茜が監禁されてる時、何も知らずにケンとイチャついていた・・・。
絵里が茜を置いて帰らなければ・・・。
ケンの家なんか行かないで、ケンを居酒屋に戻らせていたら・・・。
絵里のせいだ・・・。
『そぉいえば、ケンと連絡取ってる?
元気にしてるのかなぁ・・・。
ケンに会いたいなぁ・・・。 ・・・でも、無理だよね。 こんな汚くなって、ケンに会えないよ・・・。
すごく、好きなのに・・・。 どうして茜だけ・・・。
どうして・・・』
茜が泣く。 絵里は、罪悪感で胸がいっぱいになった。 自然と涙がこぼれる。
ケンが心配そうに絵里を見て、頬に流れている涙を拭いてくれた。
「絵里が先に帰らなければ・・・。
茜、ご・・・ごめっ・・・。
ふぇっ・・・ご、ごめんねっ・・・」
涙で言葉が・・・。
茜の気持ちを考えると、謝る言葉しかでない・・・。
私、何してるんだろう・・・。
大切な友達、裏切ってる。
『絵里は、悪くないよ・・・。
始めは絵里をうらんだ時もあったよ。
でも、仕方ないの。
絵里は悪くない。 茜の運と、茜が軽かったのが悪いの・・・。
それに気付いたから、絵里に電話したの。
責めたかったんじゃないの。
絵里、泣かないで・・・』
絵里は言葉が出ない・・・。 頭がまっ白になっていた。 茜と近々会おうと話し、電話を切る。
車内が静まり返る・・・
『何だった?
茜ちゃん、何かあったのか?
なんで絵里が泣いてんだよ!?』
「・・・」
絵里は黙っていた。
しばらく絵里を見ていたケンは
『話したくないならいいけど・・・。
つらかったら言えよ。』
そう言って車を走らせた。
深夜の高速はすいていて、絵里の地元にどんどん近づいていく。 その間、車内にはほとんど会話がなかった。
『今日、泊まるだろ?』
ケンは当たり前のようにきいた。
「今日は帰る・・・」
本当は一緒にいたかった。 でも、そんな気分にはなれない。 ただでさえ、茜に対しての罪悪感でいっぱいなのに、これからケンと一緒にいたら、幸せだけど苦しさに耐えきれなくなりそうだった。
『なんで?
てゆーか、あの電話のせいなんだろ?!
何なんだよ!』
ケンがイラついていた。 でも、絵里は何も言わなかった。
地元のインターが見える。
「着いたね・・・」
絵里が言うと、ケンは無視をしてインターを通りすぎた。
「え?!
ちょっと?!どこいくの??」
ケンはまた無視をする。 そして次のインターで降りた。 もう深夜になっているから、街全体が暗くなっている。 ケンはしばらく走らせて、何もない広場と林しかない所に車を止めた。
『ちょっと降りろよ』
ケンに言われるままに絵里は車を降り、付いていく。
ザザーー ザザーー と言う波の音と、潮の香りがする。
林を抜けると、目の前には海があった。
二人で砂浜に降り、並んで砂の上に座る。 沈黙の中、波の音だけが聞こえてくる。
『どぉしたんだよ・・・。
そんな顔してたら、やっぱ聞きたくなる。
精神病院って何だよ?』
ケンが絵里の手をギュッと握る。
「ケン・・・。
しばらく距離をあけたい・・・。」
絵里は静かにケンに伝えた。
ケンと一緒にいたい。 離れたくない。 今日のデートで再確認した。
でも、こんな状況で茜には会えない。 ケンといればいる程、罪悪感に潰されそうになる・・・。
『どうゆう意味だよ・・・。
何なんだよ! 言えよ!』
「茜、あの飲み会の日、優さんたちにレイプされた。
薬打たれて、監禁されて、自殺未遂して精神病院に入れられた」
絵里は淡々とケンに話した。 ケンはビックリして絵里を見つめる。 そして、ポケットから携帯を出す。
『優さんにかけるゎ。 何なんだよ、それ。 ふざけんなよ!』
ケンはイラついていた。
「やめて!」
ケンから携帯を奪い取る。
『何すんだよ!』
「茜に何かあったらどーすんの?!
逃げようとしたら優さんに殺すって言われたんだよ!
だから恐くて警察にも届けられないんじゃん?」
『でも、おかしくねーか!?
優さんほっといて、絵里と俺別れて、茜ちゃん変になって・・・。
何なんだよ・・・
てゆーか、何で俺ら別れんの?
茜ちゃんに話せばわかってくれんじゃねーの?』
「絶対話せない!!
だからケンと離れる!!」
『だから、意味わかんねーよ!おまえ!!』
ケンが何かを海に向かって投げつけた。 青っぽい何かが波打ち際まで飛んでいく。
『・・・もういい。
帰る』
ケンが林の方向に戻っていく。 絵里が後に続いた。 絵里は、今は言ってはいけない事だとわかりながらケンの背中に
「茜に電話してあげてほしいの」
と言った。
『しない』
ケンは言う。
そして立ち止まり、絵里の方へ戻ってきた。 そして絵里を砂浜に押し倒し、馬乗りになって両手を抑えつけた。
「ちょ・・・ちょっと!
何す・・・・」
無理矢理キスをされる。
「・・・い・・・いやぁ!!」
ケンをおもいきり蹴ってしまった。 ケンは痛そうにうずくまる。
「ごめっ・・・マジごめんっ・・・」
ケンに駆け寄って横にしゃがむ。
するとケンは意外な事を絵里に言った。
『おまえ、他に男いるんだろ?』
あまりにも急だった為、言葉が出なかった。
『ほんとは一ヵ月前から知ってた。
飲み会の時、茜に聞いたんだよ・・・』
・・・知らなかった。
ケンが知ってたなんて・・・。
『男いるなら、もぅ二度と絵里と会えないかもしれない・・・。 だから、少しでも長く一緒にいたいし、二人になりたくて、送ろうと思ってた。
でも、もしかして俺に戻ってくれるかもって期待しちゃって、絵里に彼氏いないか車で聞いた。
いるって言ったらあきらめる、いないって言ったら戻ってきてもらうように頑張ってみよーと思ったんだよね。』
ケンは下を向いていた。 落ち着きがなさそうに、小枝で砂をかきまぜながら
『絵里、言ったじゃん。いないって。
この一ヵ月、始めはあんま会えないし、彼氏優先なのはわかってた。
でもさぁ、後半はほとんど俺と一緒にいただろ?
でも、やっぱ彼氏に戻りたいから茜ちゃんをダシに使ってんの?
茜ちゃんに電話しろって・・・。
絵里と別れて、茜ちゃんと付き合えって事か!?』
「ちがう!!
そうじゃないの・・・。
そうじゃないけど、ダメなの・・・。 違うの。
絵里、ケンが好きだよ。
彼氏より、ケンが好きだって最近なんとなく感じてきた。
彼・・・大ちゃんには愛ってゆうか、友情だったのかも。
ケンに惚れまくって愛しすぎて苦しくて・・・そんなキツイ恋したくないって思ってた。
で、苦しくなくて楽しい恋ができる大ちゃんを愛してると思ってた。
でも、違った・・・
ケンに再会してわかったの。 逃げてただけだって事。
ケンに会ってから、大ちゃんを考える時間や会う時間が減っていった・・・。
絵里が好きなのは、やっぱケンなの。
今、離れて別れても、絵里はケンを想ってる・・・。
ケンを愛してるの・・・。」
『絵里・・・。
なら、なおさら離れる理由、聞かせて・・・。
俺、待つから。
約束する・・・。』
茜の気持ちを考えると、迷いもあった。 でも、ケンに話す。 絵里はケンを失いたくなかった。 茜も大切な友人で失いたくない。 絵里は愛情と友情で、悩んでいた・・・。
そして、絵里はケンを取った。 一ヵ月前、茜を裏切ったように、また裏切ってケンへの気持ちを話す。
話さないでケンと離れると、もう二度とケンと会えない気がして恐かった。
「茜、ケンが好きなんだって。」
『はぁ?!』
「ケンに会った日、茜から聞いたの。
それで、応援するって言っちゃって・・・。
嫌だって気持ちあったけど、彼氏いたし、またあの時のようにケンへの気持ちが出てくるのを押さえようとしてた」
『だから、か・・・』
ケンは納得したようにウン、ウン、とうなずいている。
「協力するって言ったくせに、ケンと抜け出したじゃん。しかも、それで茜が大変な事になって。
こんな状況作って、普通に付き合えないでしょ?
せめて茜の傷が癒えて、立ち直ってからじゃないと・・・。」
ケンが立ち上がり、波打ち際に向かった。 そして、ウロウロしたり、しゃがみこんだりしている。
「何してんのー??」
絵里が叫ぶと、ケンが何かを手に走ってきた。
『これ、俺の答えだから。
待ってる。』
そう言い、青い四角の箱を絵里に握らせた。
「あれ?これ、さっき・・・」
『そぉ。
ムカついて投げたやつ。』
箱を開けると、銀色に輝くリングが入っていた。
『絵里がすぐ心配するから、お守りだぞぐらいに考えてたんだけど・・・。
離れても一緒って深い意味になっちゃったな。
左でいいだろ?』
ケンは苦笑いしながらリングを絵里の薬指にはめる。
手を月にかざすと、月明かりをリングがキラキラと反射させている。
「きれい・・・」
思わず口にでた。
初めての指輪だった。
『左の薬指の意味、わかるだろ?』
「うん・・・」
抱き締められる。
ケンの腕に力が入り、ケンが耳元で囁いた。
『今だけは・・・
今日だけは、一緒にいれるよな?
茜ちゃんも、彼氏も全部忘れろよ。』
ケンは切なそうだった。
「うん・・・。
離れたくない・・・。
このまま朝になったら消えたいくらい。
明日からケンがいない生活なんて・・・。」
ケンをきつく抱き締めた。
ケンの暖かさ、
ケンの声、
ケンのにおい・・・
全部を感じたい。
覚えていたい。
こんなに愛して、こんなにも離れたくない・・・。
二人はどちらからともなく、唇を合わせ、砂の上で一つになった。
ケンのこの息遣い、一年前よりがっしりした胸、甘い声、激しさ、全てが愛しい・・・。
ケン・・・。
愛してる・・・。