17、絵里→ボロボロな心
お腹の赤ちゃんとケンの事を考えてるうちに、駅前の並木道まで歩いてしまっていた。
カラフルなイルミネーションも、今の絵里にはモノクロ映画の1シーンにしか見えない。
「さむい・・・」
ずっと外にいた絵里の体は冷えきっていた。
近くのカフェからコーヒーの香りが漂ってくる。 その香りに引き寄せられるように、絵里はそのカフェのドアを開いた。
中から暖かい空気が流れ、少し心も暖かくなった気がした。
「ココアください。あったかいの。」
サンタの格好をした店員に声をかけ、空いている席に座る。
携帯を開くと、茜からも着信がきていた。 連絡しようかなと少し悩んだけど、茜の幸せなクリスマスを壊したくなかったからやめた。
こんなこと、話せないよね。 茜は心配性だから、きっと絵里の話を聞いたら心配してクリスマスどころじゃなくなるってわかるもん。 だからといって、明るく何事もなかったように話せるほど、絵里の心に余裕なんてない。
しばらく携帯とにらめっこして、絵里は携帯をバッグにしまった。
・・・それからどれくらい時間が経ったんだろう。
2杯目のココアが冷めきった頃、頭をポンとたたかれた。
目の前に茜がいた。
茜は少し困ったような笑顔を見せている。茜に『何してんの?』と聞かれ、
「一人になりたくて・・・」
としか言葉が出なかった。
あと一言話せば、涙が溢れてきそうだった。
黙る絵里に、茜は何も言わなかった。 そして絵里の頭をなでた。
「ふぇ・・・ふぇっ。
ぐすっ・・・。
あ、茜ぇ〜っ・・・。」
こらえきれなかった。 次から次へと涙があふれていく。
「も、もう、嫌ぁ・・・。」
涙と鼻水でまともに話せない。
周りの人たちが変な目で見ているけど、もう止まらない。
それからしばらく泣き続け、落ち着いてから茜にケンの浮気を話した。妊娠した事も話そうかなとすごく悩んだけど、この話は胸に閉まった。
『ケン、ひどいね。
でも浮気はしてないんじゃない? ケンは絵里の事が大好きに見えるけど。』
茜はそう言って、ケンがティアラに来た話をした。
そして、昨日一緒に飲んだ女との話も聞いた。
「今、ケン何してんのかなぁ・・・。」
『明さんと一緒だと思うよ。 そんな感じだった。』
最近ケンは明さんと一緒に出かける事が多い。
昨日も明さんだったし。 絵里に『四人で飲む』って話をしなかったり帰りが遅いのは、やましい気持ちがあったからじゃないのかな。
それにケンが茜にした話だって、嘘かもしれない。 一緒に飲んでた女と最初から二人きりで会ってたのかも・・・。
明さんと会うって絵里に言って、実はその女と浮気していたのかも。
そうだったら最低!
絵里は悪いほうにしか考えられなくなっていた。
ケンを信用できなくなってしまった・・・。
「もう別れようかな・・・。」
『とりあえず、連絡とりなよ。心配してたよ。』
「言い訳聞くのも嫌なんだもん。」
『そんな事いわないでよー。
このままバックレちゃうの?』
ケンの肩を持つような茜の言葉にカチンときた。
おもわず絵里は声をあらげて
「もう信用できないの!
明さんの付き合いで女の子二人と飲んだって話も嘘かもしれないじゃん!
茜や健吾さんに嘘ついて、ほんとは最初から明さんなんていなかったんじゃない?
きっと浮気してたんだよ!」
と、叫んでしまった・・・。
ただの八つ当りだ。
茜にキレたって仕方ないのはわかってるのに。
もう何もかも嫌。
その時、カフェに健吾さんが入ってきた。
『絵里ちゃん、心配したよ。
茜の帰りが遅いから来たんだけど・・・。
もしよかったら、絵里ちゃん車行かない? ここだとあんまり話せないだろ?』
確かに周りの人たちはチラチラこっちを見ている。
号泣したりキレてた絵里の姿は確かに普通じゃなく、クスクス笑う客もいた。
「あ、でも、クリスマスだし・・・。
大丈夫です、茜の事借りてごめんねっ。
もぅ、帰ります・・・。」
健吾の登場で少し冷静になり、周りの視線が恥ずかしくなった。
顔が真っ赤になる・・・。
「茜、ごめんね。
帰って一人で考えるね。
ほんとごめんっ!」
『待って!』
引き止める茜と健吾を振り切って会計をし、外に出て逃げるように走った。
火照った頬に冷たい風が気持ちいい。
なんかもぅめちゃくちゃだよね。
彼氏に裏切られて、友達に八つ当りして・・・。
しかも、妊娠しちゃってるし。
もうボロボロ。
このまま消えてしまいたい・・・。
絵里は行くあてもなく、クリスマスムード一色の街を歩き続けた―――