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〚第五十話:悲しき決戦、あるいは友への鎮魂歌〛

 

月光が凍てつく大地を白く照らし、吹き抜ける風が木々を悲鳴のように揺らしていた。


邪竜ロキ。その圧倒的な威圧感を前に、ぼくたちの決戦の幕が切って落とされた。



そして——


ロキは同時に黒い灼熱の炎を吐き出した。


---


「プラグマティック セブンス ウォール!」


フレイはもう戦闘は避けられないと見抜いていたようだ。


本来なら長く詠唱がかかる究極防御魔法を、陰で唱えていた。


 フレイの鋭い詠唱と共に、七色の魔力がドーム状に展開され、ロキが放った漆黒の猛炎を真っ向から受け止める。


黒い炎がドームに激突する——だが、魔法の壁はロキの灼熱の炎さえ受け付けない。


虹色の光が爆炎を弾き、周囲の土を焼き焦がしていく。そして焼け焦げた土の匂いが鼻をつく。


 ロキは防御魔法を意に介さぬ様子で、地響きと共に突進してきた。


その紅蓮の双眸には、もはや憎しみさえ消え、虚無だけが宿っているように見えた。



---


**その瞬間——**


ロキはウォールで受けるであろうダメージも意に介さずといった感じで突っ込んでくる。


地面が揺れる。ロキの巨体が迫る威圧感。


その眼には、もう何も映っていないようだった。


「アースクエイク!」


ハンスさんが呪文を唱えると、ロキの足元で地震が起きた。


地面が波打つように揺れ、亀裂が走る。


ロキの突進は止まり、その重心が大きく崩れる。


土煙が舞い上がり、視界が白く霞む。


---


**それを見逃さず——**


ウィルフレッドは鋭く距離を詰めた。


まるで疾風のように。


月光を反射するエリドゥーシュの剣が、一閃。


その斬撃は凄まじく、ロキの黒い鱗を斬り刻む。


金属を引き裂くような音が響き渡る。


黒い血が飛び散り、地面に落ちてジュッと音を立てる。


そして、ぼくも援護射撃をする。


クロスボウの矢が風を切る音。


間髪を入れず、何本も矢をつがえては放つ。


矢が次々とロキの体に突き刺さっていく。


---


「マジックミサイル!」


イリスの声が響く。


ほぼ時を同じくして、イリスはロキの顔面めがけてマジックミサイルを放った。


光の弾丸が夜空を切り裂く。


爆発。


閃光がロキの顔を包む。


そして距離を詰めて——イリスは数回の鋭い突きを入れた。


イラブラティスの剣が青白く光りながら、ロキの体に突き刺さる。


「ごおお!」


ロキが苦痛の声を上げる。



 視覚を封じられたロキが、狂ったように巨爪を振り回す。空気を切り裂く轟音が響き、岩が砕け、巨木がなぎ倒される。


**ブンッ! ブンッ!**


空気を裂く音。


そのあまりの激しさに、ウィルフレッドとイリスは慌ててウォールの中に退避した。


爪が地面を抉り、岩を砕く。


破片が飛び散り、木々がなぎ倒される。


---


「1分だ。1分だけ時間を稼いでくれ」


 ウィルフレッドが額に汗を浮かべ、剣を正座に構えて精神を研ぎ澄ます。


マリオは瞬時に...状況を整理した。


見ると、アースクエイクのお陰で地面は耕されたようにデコボコしていた。


土が掘り返され、石がむき出しになっている。


「イリス、ロキの足元に最大級の水の魔法を! ハンスさんはもう一度地震を!」


ぼくは叫んだ。


「うん。わかった。フラッド!」


イリスが魔法を唱えると、大量の水が現れた。


水が地面を覆い、土と混ざり合う。


ハンスはマリオの意図を熟練した魔導師としての経験でそれを理解した


「なるほど! アースクエイク!」


ぼくの叫びに二人が応えた。濁流が地面を泥濘へと変え、重厚な地震がそれを深き泥沼へと変貌させる。


ロキの巨体が自重に耐えきれず、ズブズブと地面に沈み込んでいった。


「ぐっ……!」


身動きが取れなくなったロキ。


---


その間——


ウィルフレッドは何やら全精神を集中させているのだけはわかった


そして……どんどんと身体全体が赤い炎……いやオーラに包まれていく。


まるで燃え盛る炎のように。


空気が震え、熱気が伝わってくる。


ウィルフレッドの周りで、草が焦げていく。


しかし——


「甘いわ!」


ロキの咆哮が響く。


神竜を始めとする最強竜の一角であるロキは、足を取られて動けないながら、最後の力を振り絞って巨大な翼を羽ばたかせた。


**バサァッ!**


凄まじい風圧が爆発し、ぼくたちは木の葉のように宙へ舞い、十数メートル先へと叩きつけられた。


---


「ぐわぁーーーーーーー」


「きゃーーー」


「おわっ……」


「くっ!」



**ドサッ! ゴロゴロゴロ!**


背中に激痛が走る。


深刻なダメージを負った。


「……ぐっ!」


体が動かない。


それはぼくを含めたパーティ全員だった。


視界が霞む。耳鳴りがする。


……いや……ウィルフレッドだけは剣を地面に突き刺して難を逃れたようだ。


しかし……ウィルフレッドも吹き飛ばされるのを食い止めた時に、腕に大きなダメージを受けたようで直ぐには動けないようだ。


血が滴り落ちている。


そして——


ぬかるみから這い出し体勢を整えたロキが、ぼくたちを射程内に収めた。


泥にまみれた巨体が、月光の下でゆっくりと近づいてくる。


一歩、また一歩。


地面が揺れる。


もうダメだ……


ぼくは死を覚悟した。


冷たい風が頬を撫でる。


---


**そのとき——**


振り下ろされるはずの爪が、止まった。


ロキは、悲しそうな瞳でぼくたちを見つめていた。その燃えるような瞳から、一粒の大きな涙が零れ落ち、泥の中に消えた。



「呼気は熱、血潮は逆巻くほむらと化す。我が魂を削り、この一撃にすべてを捧げん。……貫け、くれないの絶唱」


 ウィルフレッドの全身から、燃え盛るような紅のオーラが噴き出した。


「――【極技・緋王一閃ひおういっせん】!!」


放たれた衝撃波が、夜の闇を真紅に染め上げた。


 **ズドォォォン!**


轟音と共に、光の衝撃波がロキの胸を真っ向から貫く。


漆黒の血が夜空に舞い、邪竜の巨体が、ゆっくりと、永遠をかけるような速度で傾いていった。


ドサァッ……!  土煙が舞い、静寂が訪れる。


---

 月明かりが、倒れたロキを照らしている。


ぼくたちは、傷ついた身体を引きずりながら、事切れる直前のロキの傍らへ歩み寄った。


「ど、どうして止まったんだ……?」


ぼくの問いに、ロキは掠れた、けれど穏やかな声で答えた。


「もう……疲れ果てた……」


弱々しい声。


「思えば我が半生は憎しみだけの荒野であった……逝くなら、せめて旧知の……フレイの手で……」


「馬鹿者が……。ロキよ、ヌシは最初から、死ぬ気であったな」


 フレイの声は、ボロボロに震えていた。


「フレイよ……良き友を持ったな……羨ましい限りじゃ……」


ロキの瞳が、ぼくたちを、そして夜空に輝く月を見つめる。


「……幼き日のこと、忘れはせぬ。日が暮れるまで、遊んだ……あの日のことだけは……」


フレイの涙が止まらない。


「ロキよ……ヌシはワシの孤独を救ってくれた...初めての友じゃった……」


 フレイが、ロキの巨大な頭を抱きしめる。その涙が、ロキの鱗を濡らしていく。


「……友と、呼んでくれるか……。……冥土の、土産に……」


 ロキの声が、ふっと途切れた。


ゆっくりと、瞼が閉じられる。風が吹き抜け、木々が鎮魂の歌のように囁いた。


邪竜ロキは、最期に「友の愛」に包まれながら、その数百年におよぶ怨嗟の歴史を閉じた。



---


「勝っていたのはロキだったのに……」


 ぼくは、もう動かなくなった巨体を見上げて呟いた。


「どうして……」


イリスも涙を流している。


「同族のために、あえて憎しみを一身に背負っていたのかもしれないわね……」


 ハンスさんが、寂しそうに月の光を仰ぐ。


「ロキが人を殺めるからこそ……人と竜の全面的な戦いにならなかった……そういうのはあるかもな……」


ウィルフレッドも重く頷く。


「バカものが……バカものが……」


フレイはロキの巨大な頭を抱きしめて、泣き続けていた。


月が再び雲の間から顔を出し、静かな戦場を照らす。


風が吹き、木々が哀しげに囁く。


---


フレイは、一度も振り返ることなく歩き出した。


振り返れば、また涙が溢れてしまうから。


その背中には、親友をその手で送った者だけが背負う、誇りと深い哀しみが漂っていた。


空には無数の星が輝いていた。


その中に、新しく一つ、きらめく星が加わったような気がした。


ぼくたちは、まだ明けない夜の中を、重い足取りで再び歩き始めた。

50話まで、読んでいただき、ありがとうございました。


これで完結ではありませんが重いテーマなせいなのか求められてるものが違うって気づいてから著しくモチベを損なっているのも事実でして。

なので、続編は気長にお待ち下さい。


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