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〚第四十九話:黄昏の再会、あるいは友への引導〛


幼竜を救い、邪竜ロキとの対峙を辛うじて切り抜けたぼくたちは、街道沿いの風穴で一息ついていた。……けれど、安息は長くは続かなかった。


---


「――ぎゃああああああああああああっ!!」


静寂を切り裂き、夜の底から響き渡る絶叫。


 ぼくたちは跳ね起き、再び馬車を走らせた。


辿り着いたその場所には、先ほど別れたばかりの「ドラゴンハントツアー」の面々が、物言わぬむくろとなって転がっていた。


 その惨劇の中心に、悠然と佇む黒銀の影。ロキだ。


「む? お前たちか」


ロキの声が響く。


「なぜ殺した?」


フレイが静かに問いかけた。


「我の眷属を殺めようとした者たちを排除したまで。お前たちには関係ない」


「たしかにドラゴンハントツアーを募集し決行した商人に同情はせん」


フレイの声が震える。


「じゃが……参加者の冒険者たちは見るからに無力な者たちだったはずじゃ……幼竜を痛めつけた罪はあろうが、放っておいても害はなかったはずじゃろ?」


「フレイよ……まさかとは思うが、憎しみからは何も生まれない……などとつまらないことを言うために来たのか?」


ロキの声が低く響く。


「ならば、お前たちも容赦はせぬ」


「ロキよ……旧知であるから、今後はこのようなことをせんことを約束するなら見逃してやる」


フレイは必死に説得を試みる。


「それができぬなら……」


「できん。元々罪もない我々の眷属を殺し始めたのは人であるお前たちだろう!」


ロキが咆哮する。


「今後も我の眷属を狙う者どもは皆殺しにする。邪魔立てするならば、お前たちも排除する」


---


フレイは少し震えていた。


それは恐怖ではなく……泣いていたからだ。


「ロキ……覚えておるか?」


フレイが静かに語り始めた。


「ヌシが初めてワシのねぐらに来た日のことを……」


ロキは黙って聞いている。


「ワシは……ずっと独りじゃった」


フレイの声が遠くを見つめるように続く。


「赤子の時に捨てられた。そして母さま...神狼の娘として育った……じゃが、誰もワシに近づこうとはせんかった。恐れられておったのじゃ。幼き頃から、ずっと……独りぼっちじゃった」


---


**――回想――**


幼いフレイは、いつものように一人でねぐらの近くで遊んでいた。


他の獣たちは皆、フレイを恐れて近づかない。神狼の娘だから。


そんなある日、一匹の幼い竜が迷い込んできた。


「む? お前は……竜か?」


「……お前は誰だ?」


「ワシはフレイじゃ。お前は?」


「ロキだ」


それが、二人の出会い...いやフレイは忘れていたようだが2度目の邂逅だった。


ロキはフレイを恐れなかった。神狼の娘だろうと、関係ない。ロキにとってフレイは、ただの「遊び相手」そして...「命の恩人」だった。


「なぁ、ロキ! その長い尻尾……滑らせてくれんか?」


「尻尾を? 変わった奴だな」


ロキは少し驚いたが、すぐに笑って尻尾を伸ばした。


「ほれ、好きにしろ」


「わーい!」


フレイはロキの尻尾を滑り台のようにして何度も滑った。


笑い声が、ねぐらに響く。


初めて聞く、自分の笑い声だった。


「なぁ、フレイ。今度は我の背中に乗ってみるか?」


「本当か!?」


「ああ。お前は軽いからな」


ロキの大きな背中に乗せてもらって、フレイは初めて空を飛んだ。


眼下に広がる世界。風を切る感覚。そして何より……


「すごいな、ロキ! 世界がこんなに広いとはの!」


「ふふ、お前が喜ぶなら何度でも乗せてやる」


温かい背中。優しい声。


フレイにとって、それは初めての……そして唯一の友情だった。


日が暮れるまで、二人は一緒に遊んだ。


毎日毎日、ロキはねぐらに来てくれた。


「ロキ! 今日も来てくれたのか!」


「当たり前だ。お前は我の友だからな」


友達……


その言葉が、フレイの心を満たした。


もう独りじゃない。


自分にも、友達がいる。


**――回想終わり――**


---


「あの頃のヌシは……優しかった」


フレイの涙が地面に落ちる。


「誰よりも優しく……誰よりもワシを理解してくれた……ヌシはワシの……初めての友じゃった。そして……唯一の友じゃった」


「……」


ロキは何も言わない。


「じゃが……ヌシは変わってしもうた」


フレイの声が震える。


「人がドラゴンの子を殺し始めた時……ヌシの心に憎しみの炎が灯った。そして今……その炎はヌシの心を焼き尽くしてしもうた」


「フレイよ……」


ロキが重い声で言った。


「我が眷属の子供たちが、人に虐殺された時……お前は何もしなかった」


「……!」



ロキの声が冷たくなる。


「だから我は……自ら動いた。我の眷属は、我が守る」


「それは……」


フレイは言葉に詰まる。


確かに……自分は何もしなかった。


人とドラゴンの争いに、中立でありたかった。どちらの味方にもなりたくなかった。


だが、それは……友を見捨てることだったのかもしれない。


「どうしても……分かり合えないようじゃの……」


フレイの声が絞り出されるように小さくなる。


「ロキよ……もう此奴の心は憎しみの炎に燃やし尽くされてしまったようじゃ。もう……憎しみから解き放ってやろう」


「……そうか」


ロキは静かに答えた。


「ならば、来い。フレイよ……旧友よ。お前の手で、我を終わらせてくれ」


---


「マリオよ……」


フレイがぼくを見る。


その目は、涙で濡れていた。


「ワシは……ワシは……!」


「……わかった」


ぼくは決心する。


「ロキ……さま。あなたに恨みはない。でも……死んでもらう」


「人間ごときが我に敵うとでも? いいだろう!」


ロキが咆哮する。


そして……


戦いが、始まった。


---


**<次回、第50話「悲しき決戦」に続く>**

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