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〚第四十五話:酒場と、メタと、リーダーの流儀〛


スフィンクスとの死闘、そして因縁の決着。


極限の緊張から解放されたぼくたちは、泥のような疲れと、それ以上の空腹を抱えてイラブラティスの街へと戻った。


向かった先は、脂の焼ける匂いとエールの香りが漂う大衆酒場だ。


「……ぷはぁっ! 生き返るぜ」 「こっちももう一杯、お願い!」


 ウィルフレッドとハンスさんは、まるで乾いた砂に水が染み込むようにエールを次々と飲み干していく。


友の仇を討ち、心のおりを吐き出した彼らの表情は、心なしか出会った頃よりも晴れやかだ。



ウィルフレッドとハンスさんはエールを次々と飲み干す。友の仇を討った溜飲を下げるとも言うのだろうか。


そして、ぼくたちも食事を取っている時——


---

賑やかな喧騒の中、イリスが手元に置いた細身の剣を不安そうに見つめた。


「ねぇ……この剣……どうしよう?」


イリスが手元のフルーレを見つめながら尋ねる。


「私が最後につかったまま、そのまま持ってきちゃったけど……」


「当然イリスがつかえばいいよ。アドナンさんには、ぼくが言うさ」


「……つかえるのかな。それに……お母さんに買ってもらったステッキもあるし……」


イリスが不安そうに呟く。


「つかえる。フルーレというのは刺突武器だ。女の腕力に最適とも言える」


ウィルフレッドが説明を始めた。


「剣を振り回すというのは腕力に由来する部分が大きいが、"突く"という攻撃は少ない力で大きな威力を発揮する。剣聖イラブラティスも女だったと聞いている。その時からなんとなくレイピアかフルーレだろうと思っていたが……」


「フルーレは片手武器だ。逆手にステッキを握っていたとしても問題はない。むしろ敵の攻撃を受けるのにつかえばいい」


「なるほどね。イラブラティスって女性だったんだ……」


ぼくは感心する。


「ところで……以前から疑問だったんだけど、剣聖ってどうしたらなれるの?」


「剣聖というのは"なるもの"じゃない。"認められるもの"だ。功績、強さなどで人々が勝手に言うものだ」


「じゃあ……同じ時代に何人もいたりするの?」


「そういうことだ。オレは私闘しないが……剣に自信があって挑んでくる奴はいる」


ウィルフレッドは少し疲れた表情で続けた。


「それを弾き返しているだけだ。アドナンの使用人が話しかけてきた時、少し警戒してる様だったのもそれが原因だ。どう見ても剣の世界に生きてる風貌じゃなかったが、人は見かけによらん。イラブラティスも華奢な女だったと聞くしな」


---


ぼくたちが剣について話してるとき、横でネコが何やら難しそうな顔をしてブツブツと独り言を言っていた。


「むむむ……いや……まてまて……」


(このパターンは…まためんどくさいやつだ……)


(しかし、思っていることを吐き出させてガス抜きも必要か……リーダーって大変なんだなぁ……)


ぼくは心の中で溜息をつく。


「どうしたの? フレイちゃん」


「いや今日のスフィンクス戦でな……ワシの活躍がなかったじゃろ?」


「でも、フレイちゃんのバリアのお陰でぼくたちはスフィンクスの火球にやられることがなかったんだよ?」


「……フン、そういうのは『行間を読める高度な読者』にしか伝わらんのじゃ!」


 フレイがテーブルを叩く(肉球なので音はしないが)。


(また出たよ。読者問答。乗ってあげるか……リーダーって大変なんだなぁ)


「理解力のある読者って?」


「ワシは今、どんな状態か? マリオよ、言ってみい」


「え…っと。大魔王との戦いで時空結界に本体がいる状態で、仮の姿の現在は限定的な力しか使えない……」


「それじゃ!! じゃがな、読者というものは愚かでの。なんだよw英雄とか言うくせにバリア張ってるだけじゃん、とか言う愚か者がいたりするわけじゃ。ワシの境遇も察せずにな」


フレイが憤慨している。


「ま、まぁ……言いたい人には言わせておけばいいんじゃないかな?」


「たわけめ! いま人気投票をやってみい! どうなるか……」


フレイの声が熱を帯びる。


「ぐふふw 美少女、金髪、魔法剣士で大活躍したイリスちゃんに入れちゃおっと。こんな愚か者どもがいるわけじゃ!」


「そ、そうなんだ……」


「ワシは世の編集部長などに言いたい。人気投票だけを信じるな!と」


フレイは語気を強める。


「このような読解力がない愚か者たちの票も集まっているということをな」


「今度は読者批判に編集部批判?」


「ちがう! そうではない。キチンとワシの境遇を察したうえで評価をせい!と言いたいのじゃ!」


フレイが熱弁を振るう。


「よく人気投票と作者の好みのキャラに相違があるというのはこういうことじゃ!」


「か、考えすぎだって。みんなフレイちゃんが大好きだよ。たぶん……」


「まぁよい。今後のことを考えていたのじゃ……」


フレイは少し落ち着きを取り戻した。


「さっきも言ったが……美少女はワシも負けておらんからいいとして……金髪、魔法剣士……イリスの属性が盛り盛りな現状をどうやって……しかも魔法剣士としては始まったばかりじゃ。伸び代の塊じゃ。これは大きく今後の人気に関する……ワシの立ち回りをどうやるか……」


「いや、ぼくから見たらフレイちゃんも大概……属性盛り盛りだけどね」


ぼくは呆れながら言う。


「中身おっさん、煽りカス、人気投票にこだわるキ◯ガイ……」


「誰がキ◯ガイじゃ! たわけめ!」


「ま、まぁでも……今回でも相手がスフィンクスってことを看破した。そして、直ぐさま対応をしたっていう賢者ポジは他にないんじゃないかな?」


「ほう! 賢者とな! おほほw」


フレイの機嫌が良くなる。


「そうだね。賢者だよ。これからもよろしくネ、賢者フレイちゃん」


ネコのフレイは鼻歌を歌いながらイリスの膝の上に乗っかかっていった


(ホッ。ようやく機嫌が治った。いつもチョロくて助かるぅ~)


(しかし、リーダーって大変なんだなぁ……)


---


食後、すっかり出来上がって動けなくなったウィルフレッドとハンスさんを宿へ運び込み、ぼくは一人(と一匹)でアドナン邸を再訪した。


借りたものは返す。あるいは、事情を話して筋を通す。それが今のぼくが考える「リーダーの流儀」だった。


「ほう……スフィンクスですか……やはり私が自ら取りに行くなどという愚かなことをしないで正解でした……」


アドナンは興味深そうにフルーレを見つめる。


「そして……それがイラブラティスの剣でございますか……」


「アドナンさん、申し訳ございません」


ぼくは頭を下げた。


「礼儀として報告にきたのですが……この剣は横にいるイリスに使わせることにしました」


「そのお嬢さんはウィザードではないのですか? そう見受けられるのですが……」


「それが……今回のスフィンクスとの戦いで魔法剣士として開花しまして……」


「魔法剣士ですか! それは素晴らしい。ほぼ、なれる人が居ないという希少な方でございます」


アドナンは驚きの表情を浮かべた。


「では……代わりと言っては何なのですが、そのお嬢さんのステッキをお譲りいただくことはできませんか? 剣聖ウィルフレッドさまと魔法剣士イリスさま……今後素晴らしい活躍を保証されてるようなものですし」


「申し訳ございません。これは亡くなった母に買ってもらった大切なもので……」


イリスが困った表情で答える。


「そうでございますか……それでは仕方ありません」


アドナンは残念そうに頷いた。


「また手に入れてほしい物があればお願いいたします」


「はい。その時はぜひ」


---


交渉を終え、アドナン邸を後にする。夜風が火照った顔に心地いい。


 ぼくたちはこうして、一つの依頼を完璧に完遂した。


 翌朝。


 黄金の朝日が差し込む中、ぼくたちは準備を整え、再び北へと歩き出した。


 腰に新たな輝きを携えたイリスと、吹っ切れた表情のウィルフレッドたち。


 かつては自分のことだけで精一杯だった。でも今は、この最強で、最高に面倒くさい仲間たちの未来を背負っている。その重みが、不思議と心地よかった

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