表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

〚第三十一話:第四の壁と、神の獣〛


 激闘のオーガ討伐から二日が過ぎた、穏やかな朝。


窓から差し込む柔らかな光を浴びながら目を覚ますと、部屋の隅で何やら小難しそうな顔をしたネコが、小さな前足をパタパタと動かしていた。


「むむむ……。仕方あるまいか。いや待て待て、それでは納得がいかぬ……」


 空中に見えない文字を書くようなその仕草に、ぼくは寝ぼけ眼をこすりながら声をかけた。


「……どうしたの、フレイちゃん。朝から熱心だね」


「おお、マリオよ! 起きたか」


フレイは深刻な面持ちで、ぼくの枕元まで歩み寄ってきた。


「いやな……少し、重大な問題に気づいてしまったのじゃ。ワシ、いつの間にかイリスに『ヒロイン枠』を奪われておるのではないかや?」


「……まだ言ってるの、それ」


 ネコは大の字に立った後、肉球をぼくの顔に突き刺すように向けて言い放った


「だ・か・ら! 女性読者には死活問題だと言っておろうが! このままではワシ、ただの『便利なネコ型解説役』になってしまうではないか!」


「だ・か・ら! 男性読者にはしつこいって思われるよって言ってるじゃん。それに、解説役だって立派なポジションだよ」


「むむむ! やはり男と女の価値観は平行線か……」


 フレイが不服そうに髭を震わせたところで、扉を叩く音がした。


「おはよう、マリオ! ……あっ、師匠さまも、おはようございます」


 迎えに来たイリスが、瑞々しい朝露のような笑顔で立っていた。そのあまりの「正統派ヒロイン」ぶりに、フレイがさらに唸る。


「……イリスよ。ヌシのその、隙のない礼儀正しさが一番の敵ではないかとワシは思うのじゃ」


「……師匠さま?」


 首を傾げるイリスに、ぼくは苦笑混じりに事情を説明した。すると彼女は、申し訳なさそうに、けれど真剣な顔でフレイに告げた。


「でも、私は師匠さまこそがヒロインだと思います。可愛いし、誰よりも博識で、本当はとてもお優しいですから。私なんて……さしずめ『金髪枠』がいいところです」


 その言葉に、フレイの目が一瞬で据わった。


「……イリスよ。以前にワシが煽った言葉を逆手に取って、絶妙な謙遜でマウントを取りおったな? 女の嫌な部分をようやく出しよったな!」


「ち、違います! 本当にそう思っただけで……」


「おほほw これで少しだけ好感度は下がったはずじゃw のうイリスや。悔しかろ?w人気投票をするなら今じゃ!いや、今でしょ!」


「フレイちゃん、そのセリフ……もう死語になりつつあるよ。おじさんしか言わない」


 フレイの動きが、ピタリと止まった。


「…………」


「前から思ってたんだけどさ……フレイちゃんって、中身はおっさんなの?」


「ば、ばかもの! 作者がおっさんなんじゃから、投影されるワシもしゃあないであろうが!」


「作者? また訳のわからないことを……」


「いや……薄々感じておらぬか? ワシらの言動が『天の声』ならぬ『キーボードを叩く音』に支配されておることを……。つまり作者こそが、ワシにとって最大の敵なのじゃ!」


イリスは師匠をフォローしてみた(無駄だと思いながら)


「で、でも・・・やはり師匠さまがヒロイン枠ではないでしょうか?なんだかんだセリフも一番多いですし」


「そこじゃ!!!」


「じゃが違う。違うぞ。イリスや。そうではない」


 ネコは腕組みをしながら難しそうな顔をして語る―

   

「どういうことでしょうか?」


「そもそも、データキャラとか説明キャラ、解説役というものは作者が良いように使い回す。そのくせどうじゃ?」


「人気投票で1位になったデータキャラや説明キャラ、解説役がいるのか?という話じゃ」


「たしかに一理ある。ジョジョの奇妙な冒険のスピードワゴン...DRAGON BALLのピッコロ」


「そうであろう? ところでマリオよ、ヌシもおっさんではないか? そのチョイス」


「し、仕方ないだろ! 作者がおっさんなんだから!」


「ふむ、やはりか。適当に言ったが当たったようじゃな。やはり...この世界はおっさん作者に支配されておる」


「いや、フレイに乗って言っちゃったけどジョジョやDRAGON BALLは若い人にも人気だよ。たぶん」


「だから20そこそこのぼくだけど、このチョイスは古くない...はずだ」


「では今の若者に人気の決めポーズとってみよ。マリオや」


「ずっとボッチで陰キャだったぼくが決めポーズなんて知るわけないだろ!」


「それもそうか。では行くとするか」


「なんかムカつく。」



 ―――ぼくたちは苦笑しながらギルドへと足を向けた。


  活気に満ちた冒険者ギルドに入ると、いつもと違う重苦しい空気が漂っていた。


 掲示板の前には人だかりができ、ベテラン勢までもが険しい表情で何かを見つめている。そこへ、既に情報を掴んだらしいロジャーとハンスが歩み寄ってきた。


「おはよう。ずいぶん騒がしいけど、何かあったの?」


 ロジャーは鼻で笑い、無造作に顎を掲示板へ向けた。


「ああ。無理難題だ。報酬は当分遊んで暮らせる額だがな……。まあ、お前らには関わりのない雲の上の話だ」


「もう、フレッドったら。相変わらず突き放すんだから」


 ハンスが艶然とした仕草で髪をかき上げ、解説を引き継いだ。


「冒険者ギルドにはね、たまに『緊急事態依頼』ってのが出るの。この世界に君臨する三柱の神獣……通称『三神』が絡む案件よ。力、生命、精神……それぞれが魔王にすら匹敵する絶大な力を司っているわ」


「神竜、神鳥……そして、今回問題になっているのが**『神狼』**よ」


 ハンスの声に、周囲のざわめきが一時的に静まった。その名の響きだけで、空気がぴりりと冷えるような感覚を覚える。


「その神狼が、隣国との交易の要である街道のど真ん中で寝そべって動かないの。排除という名目だけど、力ずくでなんて不可能。あの方は知性があり話は通じるけど、極めて気難しくてね……。受け答えを一つ間違えれば、その瞬間に命を散らすことになると言われているわ」


 ぼくは、隣にいるフレイを見た。フレイは神妙な顔で黙り込んでいる。


 フレイの母親。精神を司る、伝説の神狼。


「……それ、ぼくが受けるよ」


 ロジャーが、信じられないものを見るような目でぼくを睨みつけた。


「……正気か、てめえ。自分の弱さを知っているから生き残れるんじゃなかったのか?」


「だって、こちらにはフレイがいる。神狼はフレイのお母さんなんだろ? 話し合いの余地はあるはずだ」


 フレイは複雑な表情で首を横に振った。


「いや、マリオよ。母さまは自らの意思で世界を視る。ワシが娘だからといって、贔屓ひいきなど一切せぬぞ。出る幕はないかもしれぬ」


「それでも……話ができる可能性があるなら、行ってみる価値はある」


 ぼくはロジャーの瞳を真っ直ぐに見返した。


「ロジャーは、そこまでの警護をお願いしたい。神狼とは……ぼくが話をするよ。フレイの『家族』に会ってみたいんだ」


「……チッ。これだから世間知らずのガキは。」


 ロジャーは呆れたように肩をすくめたが、その口元にはわずかな笑みが漏れていた。


 神狼。


精神を司る神。


フレイが歩んできた孤独な時を、その母は何を見て、何を想っているのか。


不安よりも、不思議と胸の高鳴りが勝っていた。ぼくたちは未知なる神獣の待つ地へ、準備を整え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ