〚第二十五話:剣聖の残影、あるいは大人の事情による三ヶ月〛
ぼくとイリスは連日、冒険者ギルドに行き経験を積んだ。
もちろん汲み取り屋との二足のわらじは過酷だったが、それも基礎体力向上に役立ったようだ。
そして…そんな生活が3ヶ月ほど続いた――――――――――――――――――。
「ずいぶんと端折った…というか……また飛んだね」
「うむw イリスの修行編で作者はめんどくさいと思ったようじゃな」
「え? 作者? フレイは何を言ってるの?」
「修行編というのは作者にとっては考えたり想定したり大変じゃ。しかもちょっとしたことで読者がツッコむ」
「そのくせ読者にとっては退屈になりがちじゃ。どちらも得をしとらんではないか!」
「フレイちゃん? どうしたの?」
「修行を中心にやっている作品もあると聞いたが…その作者はきっとドMじゃな……」
「フレイちゃん? おーい!」
「…ああ。いや……こっちの話じゃ。気にするでない」
「大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫じゃ。大人の事情というものがある。察するんじゃ」
「フレイちゃん…子供だよね?」
「ええい! 細かいことをいちいち気にする奴じゃな! 察しろと言うんじゃ!」
フレイは続けた。
「一時期、日常系とやらが流行ったようじゃが…なるほど書いてみるとよく分かる」
「日常パートというのは頭をつかわんでいいから楽なんじゃ。誰よりも作者がな…」
「????」
―――いきなり猫は何事もなかったの如く淡々と語り始める
「さて、ヌシたちはこの3ヶ月間よくやった。マリオは冒険者レベル2に、イリスは冒険者レベル3になったの」
「はい」
「はい」
「手頃で優しい依頼を探してやってきたが、それだけでは成長せぬ」
フレイは真剣な表情で続けた。
「危険じゃがリスクを負うことで成長する。危険のない所から一方的にやってるだけではダメなのがわかるか?」
「わかるけど…ぼくたちはまだまだだよ?」
「うむ。ヌシたちだけでなく我々に足りないものがあるのが分かるか?」
イリスは少し考えた素振りの後、答えた。
「たぶん…ですが盾役ですか? 師匠さま」
フレイは頷き切り出す。
「うむ。まさにその通り。我々のパーティーは魔法使いのイリスとレンジャーのマリオ…」
「以前にワシは戦いにおいて魔法使いが真っ先に狙われる。つまりヘイトを買うとマリオには話したが…」
「やはり盾役というか前に出て圧倒的に暴れるアタッカーがいればヘイトはそちらに向く」
「それがいて初めてパーティーとしての連動性が出てくるんじゃ」
「……なるほど」
続けてフレイは語る。
「しかしワシのような完全ソロなどは特異な才能を持っている者だけじゃ」
「じゃが…イリス……ヌシはもう気にしてないかもしれんがトラウマにはなっておる」
「盾役でもある男騎士ヨハンのことがあったからの…じゃからワシも足りないと思いながら言い出せなかったのじゃ……」
フレイの心配りに一瞬で目に涙が浮かぶイリス。
「師匠さま………………」
フレイは全てを悟ってるかのような優しい眼差しで見つめ、続ける。
「しかし、ロングレンジから攻撃してるだけでは密かに近づいてきて近接攻撃をされたときヌシたちは脆い」
「大パニックじゃ。想像してみい。マリオが矢をつがってる間も剣や爪、噛みつきなどで襲ってくる」
「イリスも魔法を詠唱してる暇もなく致命的ダメージを受ける危険性がある」
「そんなときでもアタッカーがいれば時間を稼いでくれる」
「それが居なければヌシたちの…このパーティーに未来はない」
「盾役。アタッカーか。イリス誰か心当たりある?」
イリスは何も言わず首を振った……。
「そうだよね…ごめん。聞くほうが悪かった。フレイですら気をつかってたのに……」
「ワシですら…とはなんじゃ! パーティの気配り姫と異名されたワシを!」
「さっき完全ソロだって自分で言ってたじゃん!」
「てへぺろ」
「フレイちゃん…それ……死語だよ」
フレイはしまった!という表情を一瞬浮かべた後、下を向く。
「………………………」
「とりあえず所持金には余裕があるんだし、片っ端から聞き込みしてみるよ……」
「イリスの感情を考えると女性が良いのかな。女性でアタッカーもできる盾役」
ぼくは冒険者ギルド、闇市を行き来しながら聞き込みを続けた……。
もちろん冒険者ギルドで斡旋してもらう事もできたが…
イリスは慰謝料を稼ぐのと生きるために仕方なく体を売ってた時に関係性のある男もいる。
何よりも…ぼくが嫌だった。子供って思われるだろうけど……。
そうしてるうちに1つの有力な情報を聞き出すことができた。
幼い頃から剣の天才で剣聖と呼ばれるまで剣を極めて国王直属の親衛隊隊長として召し抱えられたが…
男色で親衛隊のみならず王族、貴族の息子にまで手を出してクビにされた男がいるらしい。
名前はウィルフレッド。
男にしか興味を示さないらしいから…ぼくの身には危険があるがイリスには大丈夫なはずだ。
ぼく自身…さっきの話じゃないけどイリスと関係のある男は嫌だから丁度いい。イリス…ぼくの彼女に男が近づいてほしくないんだ。
ぼくは日が落ちるまで聞き込みを続けた…
――すると以前に親衛隊に居たが今は冒険者をしているハンスという男に出会う事ができた。
「ウィルフレッド? 居場所か…アイツは元々ふらふらしててな。親衛隊隊長のときですら宿舎にほとんど居なかった」
「確か…現在も冒険者ギルドでは見たことがないな。理由は分からんが」
「しかし生きるためには稼がなきゃならねえ。闇市の斡旋人にでも聞いてみたらどうだ?」
「ありがとう。行ってみるよ! そうだ少しだけど」
そう言って5ファナン渡した。
しかし…こういった事も自然にやれるようになったんだな。そう思いながら歩いてると闇市に到着した。
「ごめんください」
「うん? なんだ? もう紹介できる仕事はないぜ明日にしな」
「元親衛隊隊長をやってたウィルフレッドって人を探しているんですが知らないですか?」
斡旋人は手のひらを、ぼくに向けて言い放った。
「……知ってても教えるわけにはいかねえな」
「どうしてですか!?」
「当たり前だ。ここは汚い仕事もたくさんある。当然の話だが恨みを買ってる奴もいる」
「だから誰もが偽名をつかってるし身元がバレないように気を使ってる」
「仕事終わったぜ。ほら」
何やら聞き覚えのある声が横でしたので見てみると…ロジャーだった。
「ロジャー!」
「あん? 久しぶりじゃねえか! まだ生きてたんだな」
ニヤリと笑うロジャー。
「ロジャーも元気そうだね。ところで人探ししてるんだけど元親衛隊隊長のウィルフレッドって人を知らない?」
少しだけ空気が変わった…ぼくですら、それは感じた。やや危険な香りだ。
ロジャーは訝しがりながら普段よりも低いトーンで聞いてくる。
「ウィルフレッド? ウィルフレッドに何の用だ?」
「ぼくは今、冒険者ギルドでパーティー組んでるんだけどアタッカーが居ないんだ。だから一緒にパーティー組んでくれないかなって」
少しだけ安堵の様子を浮かべロジャーは言った。
「報酬は?」
「え? まだそこまで考えてない……」
更に完全に安堵した様子でロジャーは言う。
「相変わらず頭に鳥でも飼ってるのか? お花畑すぎんだろうが」
「ごめん。でも…どうしてもウィルフレッドが必要なんだ」
「ふーん。オレがそのウィルフレッドだ」
……は? ぼくは、ロジャーの無精髭だらけの顔を凝視した。
マリオは、また嘘ばっかり言われてると思い、ぼくの事を馬鹿にするなと言わんばかりに顔の前で手を振りながら言った。
「はははw 冗談はいいって」
「冗談……か。じゃあな」
帰路につこうとするロジャーを引き止めて言った。
「ちょ、ちょっと待って!まさか本当にウィルフレッド…なの?」
「だからそう言ってるじゃねえか」
「じゃ、じゃあ……」
「断る。じゃあな」
踵を返して闇の中へ消えていく、ロジャーの背中。
その歩き方、肩の揺れ。……言われてみれば、死体を運ぶときも、決闘裁判で代理人をしたときも、彼は一度も「無駄な動き」をしていなかった。
(まさか……本当に、ロジャーが!?)
頭の整理がつかないまま、ぼくは立ち尽くした。
かつての剣聖が、なぜこんな泥溜めにいるのか。そして、彼は本当に「男にしか興味がない」のか。
ぼくの波乱万丈なパーティ勧誘は、予想外の方向へと転がり始めた。




