第8章:背く者たち
「私は……“理想”を選ぶ」
その言葉とともに、魔王会議室に響いた魔法爆音。
突如、ガラム将軍が円卓を破壊し、澪たちに襲いかかる。
かつて“秒刻みの鬼軍師”と恐れられた男は、かつてない苛立ちを顔ににじませていた。
「貴様らの甘い理想が、俺の“成果主義”を否定するというのかッ!!」
澪とトルテは即座に応戦態勢に入る。
黒魔法による結界と、トルテの光速の斬撃で、辛うじてガラムの猛攻をしのぐ。
その隙に、元秘書のレヴィが飛び込む。
「違うの……彼は、かつて“労働改革派”だったの。だけど、失ったのよ。信じた者に裏切られて、部下さえ――」
その言葉に、トルテの目が曇る。
“信じた組織に潰された”――それは自分自身の過去と重なる痛みだった。
一方その頃、ギルド組合本部でも不穏な動きがあった。
フリード・バイン――総務部の男が、かつて澪に敗れた悔しさを胸に、裏ルートから情報操作を画策していたのだ。
「奴らの“改革ごっこ”に踊らされた者たちが、今度は組織そのものを揺るがす。ならば粛清しかない」
ULA(ユグドラシア労働者連合)の拠点に、突如“ギルド査察部”が襲来。
「不正な活動証拠あり。本日をもって、組合は解体されます」
カリンたちメンバーは拘束され、資料はすべて差し押さえに――
「うそ……こんな……私たち、ちゃんとやってたのに」
混乱の中、遠くからひとりの人物が現れる。
――ジル=バレット
手には、かつて澪に拒否された“湯飲みと座布団”マークの原案ファイル。
優しく笑いながら、前に立つ。
「言ったろう、私は“大賢者”ではなく、“案山子”だったと。だが……案山子にも、盾にはなれる」
ジルは両腕を広げ、迫る査察部に向けて魔法陣を展開する。
《停止時空陣》――
時間を、一時だけ止める古代魔法。
その数秒の間に、カリンたちは脱出。そして、ジルは静かに言った。
「この時を、澪たちが乗り越えれば……この世界は、変わる」
魔王城では、澪たちとガラムの戦いが最終局面へ。
だが、戦いの只中で、ガラムはふと剣を下ろす。
「……本当に、理想で現場は動くのか?」
澪は頷き、手を差し伸べた。
「私たちはまだ小さな火。でも――誰かが最初に背かなきゃ、何も変わらない」
その手を、ガラムは……ゆっくりと、取った。
――そして、ジルの魔法は消えた。
「時間です。あとは、託しましたよ」
その場に残されたのは、湯飲み、座布団、そして、 ひと粒の笑顔。――




