第3章:ブラックマジシャン、就職する
翌朝、澪はジルに連れられ、王都フェルメンティアの中心部にある「王立魔法ギルド」へと足を踏み入れていた。
古びた石畳、空に伸びる尖塔、重厚な扉。
そこは異世界の“インテリ層”が集まる、由緒正しき魔法職のハローワークだった。
「このギルドでは、魔術師の登録・派遣・待遇改善まで、幅広くサポートしておる」
「待遇改善って……思ったよりちゃんとしてる!?」
しかし、受付窓口にいたのは、血の気が引くほど目元が死んだ女性職員。
名札には「シオン(試用期間6年目)」と書かれている。
「おはようございます、初めての方ですね。では、お好きな地獄をご選択ください」
「ご選択…地獄て。 」
ジルが申し訳なさそうに耳打ちする。
「このギルドも、上層部だけはホワイトでな……下に行くほど、研修という名の社畜制度が横行しておる」
――異世界、なかなか闇が深い。
登録を終えると、澪の魔法適性が「超Sランク:黒魔法特化型」と判明したことで一気に注目の的に。
あちこちの部署からスカウトの声がかかるが、やってくるのはとんでも案件
ばかり。
「闇の森のドラゴン排除、報酬は“感謝”のみ」
「魔法省の事務補佐、時給0リューク(昇給未定)」
「王族専属メイド(魔法使用OK)」
「もうブラックな匂いしかしないッ!!!」
結局、澪が選んだのは「魔法ギルド広報部」
――理由はひとつ。「昼食が支給される」からだった。
しかしこの部署もクセモノ揃い。
部署リーダーは“火魔法系女子力おばけ”のイグニス主任。
とにかくやたらノリが熱い。
「うちはね~、やる気があればなんでもできる部署なんよ!気合!根性!はい、魔法ポーズっ!!」
「……ブラック臭がすごい」
けれど、初めての同期たちとの会話や、簡単な業務魔術を覚える毎日には、どこか“普通の社会人ライフ”っぽい喜びもあった。
「……なんか、ちょっと楽しいかも」
そんなある日――ギルドに現れた“問題案件”が、澪の運命をまたしても大きく揺るがす。
「ブラック企業に乗っ取られた街がある。救援要請だ」
そこには、かつて勇者候補だった青年・トルテが関わっていた。