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第10章(エピローグ):ブラックな世界にホワイトな朝を

あれから、半年。


世界は劇的には変わらなかった。けれど、ゆっくりと、確かに変わり始めていた。


黒川くろかわ みお


「部長室」と書かれた小さな部屋にて、彼女は毎朝きっちり定時に出勤し、“報告書の山”との静かな戦いを続けている。


けれどそこには――もう、ため息はない。

昼休みにはホワイトボードにこう書かれている。


> 「本日の差し入れ:トルテの手作りプリン(魔法不使用)」


> 「午後はちゃんと“残業しない会議”」

窓の外には、労働時間短縮で自由になった人々が、笑って歩いていた。


澪は静かに、湯飲みを口に運ぶ。


「……ああ、お茶が沁みるって、こういうことなんだな」


▷ トルテ


かつて勇者候補だった青年はいま、“EWM局・フィールド対策チーム”のリーダーとして、地方の小村を巡りながら改革活動を続けている。


「働くって、戦うことじゃなくて……信じることなんだ」


村の子どもたちに剣ではなく、“契約書の読み方”を教えている姿は、もう勇者というより教育係だ。


▷ カリン


ドラゴン運送を辞めてからの彼女は、すっかり組合の顔役に。


今ではユグドラシア全域の労働相談ホットラインの担当者として、膨大な魔法通話に明るく対応している。


> 「おつかれさまです、こちら“ホワイトな声”です!」


> 「はい、まずは深呼吸しましょう。それからで大丈夫ですよ」


声を聴くだけで癒されると、寄せられる手紙は山のよう。


▷ フリード・バイン

ギルドを去った彼は、どこかの山間の村で養蜂業を始めたという噂がある。


「……働き方って、選べるんだな」と呟いたその背に、かつての“統制課”らしさはもうない。


ただ、蜜の香りがそこにあるだけ。


▷ そして、ジル=バレット


その姿は、もう澪たちの前に現れなかった。

けれど、澪の部屋の壁には飾られている。


湯飲みと座布団が描かれた、“幻のロゴマーク”。


今では、そのデザインが“働くことのやさしさ”の象徴となって、ギルドの一部で使用されるようになっていた。


澪は、ふとつぶやく。


「……やっぱり、あなたのおかげだよ」


あの世界は、まだまだ完璧じゃない。


でも、“ブラック”の時代が永遠じゃないことを、 “ホワイト”の朝は、どんな世界にもやってくると証明してみせた。


だから今日もまた、誰かが働きに行く。 誰かが、働く仲間の背中を支えている。


そのすべての人に、ひとことだけ――

> 「おつかれさまでした。」


― Fin ―

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