第1章:コピー機の向こう側
「……また、終電逃した。」
ビルのガラスに映る自分の顔は、目の下に濃いクマを宿し、口角は死んだ魚のように垂れ下がっていた。
黒川 澪、28歳。某大手広告代理店勤務。
仕事は「やりがい」で回ってると信じ込まされ、週6勤務+残業80時間を数年間こなしてきた。
だが、本音はただひとつ。
(はよ帰りたい……寝たい……辞めたい……)
午前2時。誰もいないオフィスで、澪は最後の仕事――コンペ資料のコピーをしていた。
何十枚もの紙を吸い込んでいくコピー機が、ガコッ、と異音を立てる。
「え、詰まった……?ちょっと、今日だけはマジで――」
言い終わる前に、コピー機が爆発した。
といっても、実際の爆発というより、視界が真っ白になった瞬間、すべてが無音になり、ふわりと体が浮かぶ感覚がした。
目を開けると――
そこには、満天の星と巨大な月、そして不気味な石造りの部屋が広がっていた。
「……は?」
「目覚めたか、異界の者よ……」
暗がりから現れたのは、
黒ローブに身を包んだ長髭の老人。
手には杖、背には魔導書。
そしてお約束の台詞。
「そなたは《漆黒の才》を持ちし者。我が世界を救う伝説の“ブラックマジシャン”として、我らが希望となるのだ!」
「いやちょっと待って!ブラックって……それ、働かされるフラグじゃん!!」
こうして――澪の社畜スキルと黒魔法による、異世界の“労働革命”が幕を開けた。