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87 報告書③ デザイナーを夢見るお針子メアリー

私、メアリー。

只今、お針子の修行中。


私が寝泊まりしているのは、実家からそう遠くない【洋品店 ロゼ】。

通える距離なのに、なぜ実家を出ているかって?

それは、夜中にミシンを使っても怒られないから!

実家はパン屋だから朝が早いんだ。


昔から家でミシンを夜中まで使ってると両親が眠れないって怒るんだよね。まあ、当たり前っちゃあ当たり前だけど。


【洋品店 ロゼ】は、昔からある商店街のお店。私はここのオーナー兼デザイナーのグレイシア・ロゼ、通称マダム・ロゼに弟子入りしているの。


師匠のマダム・ロゼは、こんな田舎から上り詰めて、今や誰もが知る有名デザイナーだ。師匠は今も自分が育ったこの町を大事にしていてる。拠点をこの町にして、親から受け継いだお店を守ってくれている。


私は服飾学校に行こうかとも考えていたこともあったけれど、憧れのマダム・ロゼの近くで学びたい! と頼み込んで通い詰めて、やっと弟子にしてもらえたんだ。


すでに師匠は数人を育てている。私はその一番下。お店は、五歳年上の姉弟子のサラ姉さんや他のスタッフと一緒に頑張っている。


普段はお店の接客や発注、洋服のオーダーを受けたりしているよ。

田舎な割に、首都の最新の服も結構仕入れているから、近隣からもたくさんお客さんが来てくれる。


師匠はいつもこの町にいるわけじゃないから、帰ってきた時にたくさんのことを教えてくれる。

時々出張にも連れて行ってくれるの。

そこで見たり聞いたりする最新のファッション情報は、私にとっては何よりの栄養だ。






エイラさんが今年の御子様役を引き受けたというのは、人づてに聞いた。

去年まで務めていた人が遠くにお嫁に行ってしまったから、「来年は誰になるのだろう」と去年の祭りが終わった頃から皆思っていた。


そんな時、昨年秋ごろに突如現れたエイラさんに町の人たちはびっくりしたよね。

赤い瞳に、発光しているかのような綺麗な銀の髪。子供の頃から親から聞かされる伝説の女神の姿そのものだったんだから。

切れ長の目の涼しげな美人さんだ。


エイラさんは旦那さんのカイさんと、私の実家の隣で【薬菓工房 月の光】というお店をやっている。

エイラさんは、控えめだけど、たまに笑った顔がすごく可愛い! 年末の騒動で知ったけれど、そこいらの男なんて目じゃないくらい強いんだ。


カイさんはエイラさんと違って、かなりおしゃべり。気さくに話しかけてくれるから、お店の前で立ち止まるお客さんも多い。

私にもよく話しかけてくれるから、本音を言うと、実の兄貴より兄っぽいんだ。なんだか性格も似ているせいか、すごく話しやすい。


【薬菓工房】のお菓子はとても美味しい。

あと、この辺では珍しい薬菓も扱っている。

体の不調に合わせた薬菓をたくさん扱っているけど、私のイチオシは美容系の薬菓だね。


季節の変わり目とかストレスが溜まると、肌が結構荒れるんだけど、薬菓を食べるようになってからものすごく調子がいいんだ。






今年は御子様役の衣装を新調する年だ。

なんと、師匠がその衣装の製作を引き受けたのだ!


これってすごいことなんだよ!


有名デザイナーのマダム・ロゼが手がける最新作! 公式には載らないけれど、これはものすごいことなの!


師匠は忙しいけれど、「この町のためになるなら」って引き受けてくれたんだ。


そして、それを私とサラ姉さんが手伝える。師匠のデザインしたものに関われるなんて、デザイナーを目指している者からしたら、めちゃくちゃ羨ましがられることなんだよ!


本当は私もいつか御子様役をやってみたいと思っていたけれど、エイラさんが選ばれたのなら、しばらくは回ってこないだろうな。なんなら、永遠に来ないかもしれない。


私は今年のお祭りは裏方。衣装の着付けとかメイクとかを、サラ姉さんと担当する予定だ。

師匠の衣装も楽しみだし、エイラさんがそれを着てお祭りに出るのを想像するだけでワクワクする。


うちのお母さんのアンナも昔、一度やったことがあるんだって。

それにうちのお父さんが一目惚れして、それがきっかけで結婚したと聞いた。

前の御子様役もお祭りを見に来た他の町の人に見初められてお嫁に行ったと聞いたし……。


カイさん、うかうかしてらんないよ。私たちが腕によりをかけて、エイラさんを史上最高の御子様に仕上げる予定だからね!




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