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84 逃げ腰な私の隠した理由


「ねえ、なんか町長がエイラさんに会いに来てるけどなんかした?」



彼の問いに、私はびっくりした。


「え?!してないわよ。…いや、してないわけでもない…かも…」



年末に酒に酔って大立ち回りしたことを思い出したのだ。

そんなことを町長に知られていたらどうしよう。


「年末のアレとか?今更それ、蒸し返す?」


彼の言葉に、私は少しだけホッとする。


「そ、そうよね。思い当たらないわ…」



偽装でこのお店の賃貸契約をしたことがバレた?どうしよう。

思い当たることが多すぎる。初めて見る町長さんだが、ニコニコしているのが逆に怖い。

まるで、何か裏があるかのように思えてしまう。






「おまたせしました…」

私は、内心の動揺を隠して、そう挨拶をした。




「おお!何度か遠くからお見かけしたことはありましたが、こうしてお会いするのは始めてですな!私、この町の町長をしております」


私は少し戸惑った。警戒心が自然と湧き上がる。



「あの、どんなご要件でしょうか」



「5月にある町のお祭りで、ぜひ今年は奥様に御子様役として出ていただきたいのです!祭りの実行委員会も満場一致であなたを推薦しているのです!」


私がお祭りに?その言葉に、思考が停止した。


「いつもは町の住人が代わる代わる務めているのですが、あなた異常にふさわしい人はいないと思っております。そして今年は御子様役の衣装も新調する年でして、町でも気合が入っているのです!」


そう、興奮気味に説明をしてくれた。町長の言葉に、私に向けられた町の皆の温かい視線を思い出した。


この銀の髪と赤い瞳は、この町では「御子様」の象徴として受け入れられている。


そのことは、とても嬉しかった。


しかし、それとこれとは話が違う。




「…お断りさせてもらっていいですか…」


せっかくこうして声を掛けてくれて申し訳ないとは思うが、答えは決まっていた。


傍で聞いていた彼も、町長も「え?!」と思わず声が出ていた。



「エイラさん、ちょっと考えてみたら?」

固まってしまった町長を助けるかのように彼がそう、促した。


「でも…」




確かに、いきなり断るのは失礼だったかもしれない。

「そ、そうですよ!ご主人とも相談してみては?」


そう言って、町長は店を後にした。



厨房に戻る私を、彼は心配そうな顔で見ているのは分かっていた。


その日の晩私は彼になぜ断ったのか理由を聞かれる覚悟をしていたが、彼は何も聞かなかった。






次の日、どこから漏れたのかお客さんが彼に「エイラさん、御子役に決まってんだって?」と聞いているのが耳に入った。



彼が当たり障りなく返事を返してくれるが、みんな口々に「お似合いなのに残念だ」と言ってくれる。





今日はだいぶ短い…

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