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7 あいさつは大切です

掃除をしていたところ、毛布やら鍋などの荷物を抱えて「ただいまー!」と彼は帰ってきた。


いきなりでびっくりして声が出なかった私に「あー、おかえりって言ってほしいな」と言う。

あわてて「お、お、おかえりなさい!」 と急だったから裏返って変な声が出た。


それはたいして気にしていないようで、どこからか買ってきた夕食を、一緒に食べようと広げ始めた。


かろうじて掃除が間に合った店のカウンターに向かい合わせに座り、彼の買ってきた食事を食べた。


私はとてもお腹が空いていたし、彼もそのようでもぐもぐと無言で食べていた。


時折彼の顔を盗み見た。

濃い茶色の髪の毛と瞳。目は二重でぱっちりとしていて、何よりくるくると表情がかわって懐っこい感じ。人受けするんだろうなと思った。

少しくるんとなった髪の毛は、少し長めでうなじをを覆っている。



今日の夕食は、薄焼きのパンにチーズとトマトソースを塗って焼いたものと串焼きの肉。

甘みのあるパンにトマトソースとチーズの塩気が合っていてとても美味しい。

串焼きは昨日の宿のものと同じ味がした。


食べ終わると彼は私が何の店をやるのか聞いてきた。

そういえばそういう話し合いもせず、偽装とはいえ夫婦になる選択をしてしまったのだと思った。


自分は薬菓の知識を持っていて、それを販売して生計を立てるとざっくりだか説明した。


彼は、うんうんと聞いていた。


私も気になっていたことを聞いてみた。


「あなたは店で何をするの?」、と。


うーんと考えてから腰にぶら下がっていたポーチから不思議なものを取り出した。


木製と思われるそれには球が無数についていて、シャカシャカ鳴っている。


見たことない。なんだろう。


ニヤッと笑いながら彼は自分の故郷で使っている演算器だと説明した。


計算をするものってことだろうか。


自分も日常的に困らない程度の計算はできるが、額が大きくなると計算に時間がかかる。

はっきり言って苦手だ。


彼店の売り上げ計算、事業計画、市場調査、接客、配達などをやってくれるという。


そうか。店をやるってことはそういうことか。


すごい。助かる。



「大事なことだから言っておくけれど、思ったことは隠さないで声に出してほしい。これから一緒にやっていくにあたって意思の疎通は大事だよ。揉め事があっても話し合いで解決していきたい」


ああ、言われてしまった。私が1番苦手としているところだ。


周りから迫害され、騙されたり、ろくな人付き合いしてこなかったから人との付き合い方がよくわからない、と正直に伝えた。


すると彼は「おはよう、おやすみ、ありがとう、ごめんなさいとかのあいさつちゃんと言おう」と呆れたりせず提案してくれた。



そのあと私たちは、お互いが不満なく効率的に暮らすためのルールについて話し合った。


まだまだ話し合わなければいけないことはたくさんあったが、各々資料を持ち帰り明日また続きを協議することにした。


2階の部屋は2部屋。

彼にベットのある方の部屋を譲ったが、彼は地面近くで寝る方がおちつくと言って、ベットのある部屋を譲ってくれた。


掃除はしていなかったがもう、今日はそのままでいい。


彼が「また明日ね!」と明るく言ってくれた。


一瞬戸惑ったが彼の言った言葉を思い出した。


思ったことは声に出すこと。

あいさつをすること。


「…夕ごはんおいしかった、ありがとう。おやすみなさい」


他にも伝えたいことがあったが今はこれで精いっぱい。



寝る前に少し読もうと思っていた不動産屋の資料や作った規約は、結局読めないまま疲れ果てた私はすぐに眠ってしまった。









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