75 リーゼさんの訪問、謎の言葉 E
怒涛のバレンタインが過ぎ去り、やっと休日がやってきた。
ダニエル君の依頼と通常の業務をこなすには睡眠時間を減らすしかなかった。
お店の方は頑張った成果で大成功だった。
でも、ダニエル君と私のバレンタインは散々だった…。
でも、明日は、やっと定休日。
早めにお風呂に入って、ベッドに入ると、明日は休日という安心感もあってかあっという間に夢の中に落ちていった。
カランカランカラン。
ベルの音で一気に意識が浮上した。
お店の方じゃなく、居住スペースの玄関のベルだ。
とっくに日は昇っている。
今、何時だろう。
彼も同時に目を覚ましたようだった。
「俺が出るから」
そう言って、上着を羽織って一階に向かった。
誰だろう。こんな朝早く(と思いきやもう10時だったけれど)、緊急の用事なのだろうか。私は階段の途中で、彼の背中を見送りながら気配を伺った。
私は階段の途中で気配を伺った。
「私よ私!いるわよね!」
元気な声が響き、リーゼさんだとすぐに分かった。
彼が玄関に招き入れて何かを話しているがよく聞こえない。
なんの用事だろう。
そう、聞き耳を立てていたら
「エイラちゃんいる?頼まれたやつ持って来たわよ!」
リーゼさんの元気な声が響いた。
その瞬間、私はすべてを理解した。
リーゼさんが首都の実家に里帰りすると聞いて、どうしても食べてみたかった有名パティスリーのお菓子を買って来てくれるように頼んであったのだ。
「あれですね!」
私は寝間着だったのも忘れてリーゼさんの前に飛び出した。
バレンタインの忙しさですっかり忘れていたが、とても楽しみにしていたものだ。
リーゼさんから渡された紙袋を受け取った。
さすが、紙袋までおしゃれだ。
「ありがとうございます!今、お金持ってきますね!」
私はすぐにお財布を取りに戻った。
今日のおやつはこれに決定だ。
忙しいのを頑張った甲斐があった。
これは自分へのご褒美だ。
ウキウキしながら私は財布を持って玄関に戻ると、何やら二人は楽しそうに話していた。
彼は少し顔を赤くしているように見える。
「何話してたんですか?楽しそうに」
そう、尋ねたらリーゼさんが「大したことじゃないわ。仲良いわねって話」と、ニヤリと私を見て笑った。
「?」
意味が分からなくて彼の方を見ても、彼は私と目を合わせない。どういう意味だろうか。
「邪魔してごめんなさいね~」
そう言って意味ありげな笑みを残してリーゼさんは去っていった。
「何話していたの?」
もう一度、彼に聞いてみた。
彼は少し困った顔で、ぼそっと言った。
「…少なくとも、偽装で夫婦やっているのはリーゼさんにはバレていないって話」
確かに、勘が鋭いリーゼさんだったら私たちの嘘を見破る可能性がある。
そうなれば、ここでの生活も、お店の存続も危うくなるかもしれない。
「リーゼさんにばれたら一巻の終わりだものね」
私は深く頷いた。
私は深く頷いた。彼の言葉に、緊張感が走る。
でも、今のところは大丈夫そうで、ほっと胸をなでおろした。
「それより、そのお菓子美味しいの?」
彼が、私の持っている紙袋を覗き込むように聞いてきた。
「雑誌で見て、一度食べてみたかったの!」
私はそっと箱を開けた。
中身は、まさに雑誌で見た通りの、色とりどりのマカロンだ。
まるで宝石箱のようだ。
雑誌で見たことはあっても食べたことがなかったので、レシピは知っていても作ることができなかった。
「今日のおやつはこれに決まりね」
私は、この小さな贅沢が、疲れた心にどれほどの癒しをもたらすか、想像して微笑んだ。
彼も興味深そうにマカロンを見つめている。
このマカロンを一緒に食べるのが、とても楽しみだ。




