表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/90

70 花言葉と特別なカップケーキ

昨日も、一昨日も何もできずに寝てしまった。

しかも、夢見が悪くて少々寝不足だ。


このままではダニエル君のバレンタインが間に合わない。今日こそは何かしらアイディアを出さなくては。

そう思って、私はお昼休憩中に、クリスマスに彼からもらった図鑑と、昨日買った花言葉の本を照らし合わせて花言葉を調べていく。


たんぽぽ、菜の花、マーガレット、ルピナス、すずらん……。

定番の春の花を順番に見ていく。


「真実の愛」「小さな幸せ」「心に秘めた愛」「あなたは心の安らぎ」「幸福の再来」


うーん、どれもこれも良いような悪いような。

正直、メアリーちゃんのイメージじゃないような気がする。メアリーちゃんは本当にオシャレで、いつも髪飾りを変えていたり、コートの色が日替わりで違っていたり。

いつも違う顔を見せてくれる彼女に、たんぽぽや菜の花の黄色、すずらんの白といった「固定」のイメージの花では、なんだかかけ離れている気がするのだ。



「エイラさーん、休憩交代してもらっても良い?」

店の奥から、彼の声が聞こえる。ああ、そろそろ休憩が終わって私が店に立つ時間だ。

急いで調べ物を片付けようとすると、朝のうちに作っておいたサンドイッチをモグモグ食べながら、彼が近くに来た。


「いいの思い付いた?」

「相手がメアリーちゃんだと思うと難しいわ」


私は思わずため息をついた。

そばにメモしてあった私の紙を覗き込んで、カイさんが言った。


「チューリップないじゃん」


「え?」



「春の花の定番じゃん、チューリップって」


彼の言葉に、ハッとさせられる。

「あ、見落としてたわ……」


急いで図鑑をめくると、春の花の最後のページに、鮮やかなチューリップが載っていた。


「へー、チューリップってこんなに色があるんだ。俺、赤と白と黄色とかしか知らない」


そう言いながら、カイさんが図鑑を覗き込んできた。


「そうね。ピンク、オレンジ……紫なんてのもあるのね」


私は、読み上げていく。


赤:「愛の告白」

ピンク:「誠実な愛」

紫:「不滅の愛」」

黄色:「明るい子」


「特に、赤なんて告白にぴったりね」


私が呟くと、彼が面白そうに尋ねてきた。

「本数にも意味があるんでしょ?」


「3本は『私はあなたを愛しています』、4本は『一生あなたを愛し続けます』って意味なんですって」


私が本を読み上げ、彼を見上げる。



「熱烈!こっちが照れちゃうや」

彼は少し照れたように笑った。


彼の言葉に、私もつられて笑ってしまった。


そして、ふと思った。このカラフルなチューリップのイメージは、日替わりでおしゃれをするメアリーちゃんそのものだ。

これなら、彼女のイメージにぴったりだ。


「……カップケーキとかどうかしら、4つセットにして」


色とりどりのチューリップに見立てたカップケーキ。


「あ、この間エイラさんが自分のおやつ用に作ってたやつ、美味しかったよね」

彼が、思い出したように言った。彼もあのカップケーキを気に入ってくれていたんだ。


「うん。色のついたクリームで上に飾り付けして、アイシングしたクッキーとか飾って……」

私の頭の中で、具体的な形がまとまっていく。


「メアリーちゃん、もらったらすぐ中身確認しそうだな」


確かに、彼女ならすぐに包みを開けて中を確認するだろう。


「そしたら、ダニエル君一緒に食べてくれると良いわ」


「そうだな。で、その時、ちゃんと花言葉の意味も伝えられれば完璧じゃん」


これで、かなり形がまとまってきた。いい感じだ。

これなら、きっとダニエル君の気持ちも、メアリーちゃんに伝わるはずだ。


その時、お店の方から「すいませーん」と、お客さんの声が聞こえてきた。


まずい。私が店番だった。焦って本を閉じ、立ち上がろうとする。

「ごめんなさい、私行くわ」


その瞬間、彼のほうが素早く動いた。




「はーい、今行きまーす!」

そう彼が叫んで、コップに残っていたお茶を一気飲みして返事をした。


「忘れないうち、考えまとめてて!俺が行くから」

そう言って、彼は私の代わりに、急いでお店に走っていった。


「あ…ありがとう!」


(こういうとこ、大人だし、頼りになる……)


私は、彼の背中を見送りながら、そう思った。

私が集中できるように配慮してくれる。


お陰で、メアリーちゃんへのお菓子のアイディアが、なんとか形にまとまってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ