表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/90

67 運命は「人」か「場所」か。前編

昨晩しつこく追求したことを彼が怒っていないかと、私は朝食の間中、そっと彼の様子を伺っていた。

しかし、どうやらそうでもなかったようだ。むしろ、朝食に出した、チーズの入ったパンが彼の機嫌を良くしたようで、安堵した。


だけど、ぼんやりしている暇はない。昨日考えずに寝てしまった、しまったメアリーちゃんへの特別なお菓子を、いよいよ本腰を入れて考えないといけない。


バレンタインに向けて日持ちのするクッキーなどのお菓子はすでに準備を始めている。これらを並行してこなしていくのだから時間もない。


午後、私は彼から時間をもらい、リーゼさんの本屋さんに行くことにした。

何か参考になるものがあればよいのだけど。










「こんにちは」

店のドアを開けると、リーゼさんがカウンターに座りながら本を読んでいた。

お客さんがいないと、リーゼさんはこうして本を読んでいることが多い。


「あら、エイラちゃん久々ね。今日はどうしたの?」

「春用のお菓子のアイディアの参考になるものがないか資料を探しに来ました」

「あら、そう。自由に見ていって〜」


私は、書店の中を見て回った。料理本、恋愛小説、子どもの絵本、写真集。

どれもピンとくるものがない。頭の中で、ぼんやりとしたイメージはあるのに、具体的な形にならないもどかしさが募る。



「なんか良いのあった?」

リーゼさんが、優しい声で尋ねてきた。


「まだ全然イメージ固まってなくて……。何を参考にしたらいいかわからなくて。でも、春だからカラフルでかわいい感じにはしたいとは思っているんですが……」


「なるほど。春って言えばお花とかかな?」


リーゼさんの言葉に、ハッとさせられる。お花。そうか、お花!


「そうですね!」


「じゃあ、これとかどう?」


リーゼさんが差し出してくれたのは、表紙に美しい花々が描かれた、花言葉が書かれた本だった。

「花言葉……?」


「そう、花にはそれぞれ花言葉があってね。色や本数によっても意味が変わるの。たくさんあって私も全部は覚えられないけれど、よく恋愛小説の中では、その意味になぞらえて告白をしたりするようなのもあるわね」


花言葉!これだ!このアイディアは、今回のダニエルくんの依頼にぴったりなのでは?


「参考にします!」

「まいどあり〜」


リーゼさんはそう言って、会計をして本を紙袋に包んでくれた。


ふと、思った。せっかくだから、聞いてみたい。


「あの、リーゼさんは、旦那さんのオリバーさんが運命の人だと思ったから結婚したんですか?」


私の問いに、リーゼさんは意外にもあっさりと答えた。

「そうよ」


「え!」


あっさりとした返事に、思わず声が出てしまう。もっとこう、ロマンチックな話が聞けると思っていたのに。

「な、なんでそう思ったんですか?」


「首都で働いてた時は、本当に忙しくてね。唯一の趣味の本すらまともに読めなくて、かなりストレスだったのよ。本当はね、オリバーに求婚されるちょっと前に、別の男からも結婚を申し込まれてたのよ」


「それでもなぜ、オリバーさんを選んだんですか?」


私は、前のめりになって尋ねた。リーゼさんのような魅力的な人が、どんな理由で結婚相手を決めたのか、純粋に知りたかった。


「えー?だって、結婚する時、毎日本読んでていいからって言われたし」


「本……?」


私の頭の中には、はてなマークが浮かんだ。


「家業を手伝いながら毎日本を読んで生きていけるなんて、最高だと思ったのよ」


(あれ?なんか思ってたのと違う?)



私の想像していた「運命の人」との出会いとは、かけ離れた話に、拍子抜けしてしまう。もっとこう、小説のようなロマンスを期待していたのだけれど。



「オリバーさんが運命の人だと思ったからじゃないんですか?」

私が改めて尋ねると、リーゼさんはにこやかに答えた。


「うーん、厳密に言うと運命の人と言うか、運命の嫁ぎ先? みたいな。でも、オリバーは私の趣味を尊重してくれるし、それだけでよかったの。もう一人の求婚者はお金持ちだったけど、私が本ばかり読むのを嫌がってたから」



なるほど、人それぞれなんだなぁ。


「ちなみに、何人と出会ってオリバーさんに行き着いたんですか?」


私がさらに踏み込んで尋ねると、リーゼさんはにやりと笑って言った。


「3人。でも、オリバーには内緒ね」


私は、全力で頷いた。



「でも、なんでそんなこと聞くの?」


リーゼさんが、不思議そうに私を見た。


「カイさんが、運命の人は1人目で出会うこともあるし、一生出会えないこともあるって言ってたので。だから、カイさんに今まで何人と出会ったのか聞いたけれど、結局教えてくれなかったんです」


「なにそれ?」


リーゼさんは、まるで面白い話を聞いたかのように、笑いながら言った。


「あらあら、答えに困ることを聞いたのね。まあ、運命の人なんて、例えよ。仮に出会ってたとしても見逃してさよならしてる場合もあるだろうし。みんなが運命の相手と結婚しているとも限らないしね」


そんなパターンもあるのか!出会ってても気づかないとか、見逃してしまうなんて。


「難しいですね」


「あはは、とリーゼさんは笑った。


「あと、出会っていても、気付いてないとかね」


そう、リーゼさんは最後に付け加えた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ