65.5 冷たいのに熱い感情
寒波は通り過ぎたが、まだまだ寒さは厳しい。風は骨身に染みるように冷たい。
日中、工房の暖炉を最大限に焚いても、夜になると芯から冷え込むのは変わらない。
その夜も、暖炉の火は落ち、部屋は静かに冷え始めていた。毛布の中で、彼女は俺に背中を向けて眠っていたが、ふと、俺の足元に冷たい感触が触れた。
「……エイラさん?」
俺がそっと声をかけると、冷たい何かが、俺の足にピタリとくっついてきた。
その冷たさに、俺は思わずびくりと体を震わせる。
これ、足?!
「っ、これ、エイラさんの足?!、冷たすぎないか!?」
思わず、そんな声が出た。
まるで氷のようだ。
一応確認のために手で触ってみる。
間違いなく彼女の足だ。
俺の手の中にまで冷たさが染みる。
「んん……何…?」
彼女は小さく唸り声を上げ、反応し、寝返りを打った。
足は、俺の足から離れる気配がない。むしろ、さらにぴったりとくっついてきた。
「冷え性なのよ、私…でも慣れてるから」
彼女の声が、眠たげに響いた。
彼女はそう言いながら、そっと自分の冷たい足を俺の足に寄せてきた。
カイは、反射的に体を硬くする。
だが、彼女の足は、温かさを求めて俺の足に絡みついてくる。
「ちょっと!冷たいってば!」
俺が思わず声を荒げると、彼女はくすくすと笑った。
「ふふふ、カイさんの足、すっごく温かいのね」
まるで、子供がじゃれつくかのように、二人の足が布団の中で絡み合う。
彼女も、その感触を楽しんでいるのか、自分足を、俺の足の甲にこすりつけるように動かした。
「くすぐったいって!」
「カイさんの足、あったかくて気持ちいい……」
彼女は俺の背中にぴったりと体をくっつけ、さらに足の絡みを深めた。
彼女の、微睡んだような声が耳元で聞こえる。
その声に、俺は全身の血が熱くなるのを感じた。
これは、ただ足を温めているだけじゃない。まるで、お互いの存在を確かめ合っているかのような、親密過ぎるじゃれつきだ。
彼女の足が、俺の太ももにまで絡みついてくる。
触れるたびに、ゾクリと背筋が震えた。
同時に、その冷たさが、俺の心に熱を灯していく。
冷たいのに熱くなる、言葉にできない刺激的な感覚だ。
俺は、もう足を温めることよりも、彼女の無意識の行動にドキドキしていた。
これ、半分寝ぼけているのか?
絡みつく彼女の足は、まるで誘うように、俺の足を離そうとしない。
いや、彼女は誘ってる気なんか微塵もないのは分かっている。
二人の足は、毛布の中でしっかりと絡み合ったままだった。温かい俺の足が、冷たい彼女の足に体温が移っていく。
彼女は俺の背中にぴったりくっついたままだ。
この状況で寝るのか。
無防備すぎないか。
もう眠ってしまった彼女の寝息を聞きながら、俺は困惑と少しの諦めを感じていた。
自分だけ翻弄されているようでなんだか癪だ。
この人、こういうことたまに自覚なしでやってくるから困る…。
結局絡められている足はふりほどけず、俺はため息をつくしかなかった。
どこかに入れたかったエピソード、無理矢理ここにねじ込むしかなかった。
今後の展開にはたいして関係ないです。




