65 奇跡の出会い、運命の人は何処に
ダニエル君からの相談で、メアリーちゃんにに特別なお菓子を提案することになった。
好きな人に送るプレゼント、責任重大だ。
夜になり、ベッドに入ると、いつか彼とバレンタインのメニューを相談した時のように、私はノートを広げた。メアリーちゃんのの好みそうなものを思案する。
彼女は甘いものが好きだけど、健康や美容も気にするタイプだから、甘すぎないものがいいだろうか。
バレンタインのチョコレートのように濃厚なものもいいけれど、どうしても色合いが地味になる。もう少しで春。春らしい明るい色合いで、見た目も華やかなものを作りたい。レモンやベリーを使ったタルトや、フルーツたっぷりのゼリーもいいかもしれない。悩みながら、私はふと、昼間メアリーちゃんが言っていたことを思い出した。
(だって、いろいろな人と出会わないと、運命の人って分からないじゃない?)
メアリーちゃんが言っていたその言葉が、私の頭の中でぐるぐると回る。
(確かに……)
私は、ペンを止めて天井を仰いだ。そもそも、運命の人って、会ったら分かるものなのだろうか。
何人に会ったら、そんな人に出会えるのだろう。
人付き合いを避けていた方の自分は、たぶん一生出会えないかもしれない。
「ねえ、カイさん」
隣で横になって本を読んでいた彼に、私は声をかけた。
寒波は去ったものの、薪の高騰で余分に買うこともできなかったため、夜は寒いままだ。
結局、いまだに狭いベッドに二人で寝ている。彼の体温が、すぐ隣から伝わってくる。
「何?エイラさん」
カイは、読んでいた本をそっと閉じ、私の方を見た。
「カイさんはさ、女の人とそこそこ遊んでも、運命の人には出会えなかったの?」
私の素朴な問いかけに、彼は「へ?」と間抜けな声を出した。
私は気にせず、言葉を続ける。
「だって昼間メアリーちゃんが言ってたじゃない。運命の人に出会うためには、いろんな人と付き合うのが大事だって。カイさんは、何人くらいと遊んだの?それでも見つからなかったの?」
私の問いかけに、慌てたように返す。
「ちょ、ちょっと、待って、エイラさん!」
「?」
私は、首を傾げて彼を見つめた。何をそんなに慌てているのだろうか。
彼は、身を起こし、私の方に向き直る。
「あのね、エイラさん。人数増やせば出会えるってもんでもないから!1人目で出会う人もいるし、一生出会えない人もいるから!それに、遊ぶって言い方も語弊があるっていうか……」
彼は、しどろもどろになりながら、言ってくる。
「そうかぁ……運も大事なんでしょうね」
さらに私は続ける。
「……カイさんでも出会ってないのなら、私なんて無理そうね。カイさんがいなくなったら、私も頑張って、少し男の人と遊んでみたりしたらいいのかしら」
その言葉に、
「やめてやめて!エイラさんそういうの似合わないから!」
と、叫ぶように返された。
「えぇー……」
彼の反応が面白くて、私はさらに続ける。
「で、結局カイさんは何人と遊んだの?参考までに教えてよ」
結局、一番知りたいのはここなのだ。
「今日のエイラさん、しつこいね!もう寝る!」
彼はそう言って、プイと向こうを向いてしまった。怒ってしまったか。
「やだ、まだ寝ないで!メアリーちゃんのメニュー、一緒に考えてよ!」
私は、彼の肩を揺さぶる。しかし、彼は頑なに背を向けたまま、聞こえないふりをしている。
「知りません」
と、拗ねたような声が返ってきた。
今日の彼はもうだめだ。もう本当に何も答えてくれなさそうだ。
私は、そっとノートを閉じた。
(運命の人か。人を好きになって、好きになってもらうのって、本当に大変なんだな……)
メアリーちゃんの言葉で、そんなことを改めて考えさせられた。
それこそ、奇跡みたいなものなんだろう。
温かい毛布の中で、隣の彼の体温を感じながら、眠気が襲ってきた。
メアリーちゃんの特別なお菓子を考えるのは明日にしよう。
私ははそっと目を閉じ、まもなく眠りに落ちていった。




