63 限定お菓子でハートを射止めろ!バレンタイン大作戦 前編
毎日ドーナッツは飽きられるので曜日限定やゲリラ的にお店に出すことにした。
薬菓やケーキを買いに来たお客さんが意外と一緒に買ってくれる。
そこそこ売り上げに貢献できて一安心だ。
そんな中、郵便配達員のダニエル君が来店した。
私服のようだからプライベートで買い物に来たのか?
ちょうどいいタイミングだったから出来立てのドーナッツをすすめてみたら買ってくれた。
そういえばダニエル君がうちのお菓子食べるの、初めてじゃない?
年明けからできた店の隅にある喫茶スペースに座ってドーナッツを食べ始めた。
悪い子じゃないと思うんだけど、いまいち感情の分からない子だ。
メアリーちゃんの幼馴染と言っていたけれど、これでコミュニケーション取れてたのか?
エイラさんも初めの頃は表情も言葉も少なく感情の分かりにくい人だったけれど最近はだいぶ良く分かるようになった。
いつも郵便配達員の帽子に隠れている髪の毛は金色。しかもサラッサラだ。
だが、前髪が長くて表情がいまいちわからない。
彼女が淹れてくれたお茶を飲みながら何を考えながら食べているんだろう。
ちょうどその時、商店街のおしゃれ番長、メアリーちゃんが来店した。
今日ら赤いコートで可愛らしく着飾っている。
自分の店の配達の途中に寄ってくれることが多いが、最近はドーナッツの日を狙って来ているようだ。
「こんにちはー!今日、ドーナッツの日でしょ!カイさん、一個ちょうだい!」
元気よく注文してくれたが、隅にいるダニエル君には全く気付いていないようだ。
「ここで食べて行っていいでしょ?いいよね?」
ドーナッツを受け取り、有無を言わせず喫茶スペースに座った。
そこでやっとダニエル君の存在に気付いたようだ。
「あれー、ダニエル、久々!今日は休み?」
相変わらずのマシンガントークで捲し立てる。
それにダニエル君が頷いている。
コミュニケーション取れている…。
お茶を受け取りながらメアリーちゃんは「エイラさん、ありがとう、ドーナッツ評判いいみたいだね」と言う。
「メアリーちゃんが口コミで広げてくれたおかげだよ」
母親のアンナさん同様、この親子は噂話が大好きで交友関係も広いためあっという間に話を広めてくれる。うちのドーナッツが順調に売れているのは、彼女たちの広報活動のおかげでもある。
突然メアリーちゃんが予約のお菓子をキャンセルしたいと言い出した。
まぁ、まだ準備をしていないから全然問題はないが一応理由を聞いてみた。
「あー、彼氏の誕生日だったんだけど、付き合い始めで何がいいか分からなかったからとりあえず、お菓子とか食べ物ならいいかなーと思って予約したんだ。でも、別れたからもういいの」
「別れたの!?」
思わず声が出た。
いつも配達の途中でメアリーちゃんの勤める洋品店の前を通りかかるといつも気さくに話しかけてくれる。お菓子の予約もその時に受けたものだった。
人見知りしないところは自分とちょっと似ているなと思い親しくしている商店街の仲間の一人だ。
「うん、だってさ、デートの日と師匠が首都に出張連れて行ってくれる日が被ったんだもん。そんなの師匠の方選ぶの当たり前じゃん。でもそれ言ったらめっちゃキレてどっちが大事なんだって言われてウザかったから別れた」
メアリーちゃんはドーナッツを頬張りながら、あっけらかんと言い放つ。
…今どきの子ってこうなの?!
「イケメンだったけど理解がない男はだめね」
「メアリーちゃん、イケメン好きだもんね…。今度はじっくり選びなよ…」
前の彼氏も確かめちゃくちゃイケメンだったが性格が合わなかったとかなんとか言っていたような気がする。理想が高いなぁ。
「じっくりかぁ。だっていろいろな人と出会わないと運命の人って分からなくない?カイさんだってエイラさんに辿りつくまでそこそこ遊んだでしょ?」
とんでもない爆弾発言をした。店内に、一瞬の沈黙が訪れる。
慌てて「ちょっと!まるで見てきたように言わないで!」と声が出てしまった。
確かに、人には言えないような付き合い方をしてきた。来るもの拒まず、去る者追わず。
世間から言えば遊んでると言われても否定はできない。
でもここでは言われたくはない。
しかも彼女の前で!
ちらっと彼女の方を見てみるが「無」の顔をしていた。初め会った頃のような表情の読めない顔をしてこちらを見ていた。その視線に、俺の背筋が少しだけ寒くなる。
「エイラさん、本気にしないでね…」
というので精いっぱいだった。
そんな爆弾発言をし、責任も取らずあっという間にドーナッツを食べ終えたらメアリーちゃんは帰ってしまった。
そして残されたのは、俺と彼女と、あっけにとられたように隅に座っているダニエル君。




