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58 二度目の夜、極寒の選択 前編

「んん……」

冷え切った空気の中、ゆっくりと目を開けた。まだ夜が明けきらない薄暗い部屋。


身体に感じる温かさに、昨夜の出来事が鮮明に蘇る。

(私、何を……!)

隣には、彼がが眠っている。

まつ毛を一本ずつ数えられそうな近さだ。


彼の規則正しい寝息が、すぐ近くで聞こえる。毛布は五枚、ぎっしりと身体を包み込み、まるで繭の中にいるかのように温かい。


だが、その温かさとは裏腹に、私の身体からは血の気が引いていく。

昨夜、自分がどれほど大胆な行動を取ったか、全て覚えている。

コップ半分とはいえ、飲み慣れないワインのせいで、気が大きくなってしまったのだ。


彼をを力ずくで自分のベッドに引きずり込み、狭いベッドでぴったりと身体を寄せ合ったこと。


そして、彼が「明日後悔するのは君だからね!」と言ったことまで、全て。


(また、お酒で失敗した……!)


後悔の念が、じわじわと胸に広がる。せっかく、彼とは付かず離れずのいい関係でやれていたのに、こんなことで彼に嫌われてしまったらどうしよう。私は、心の中で頭を抱えた。



普段の自分からは考えられない行動ばかりだ。




私は、そっとカの彼の顔を盗み見た。彼はまだ、深く眠っているようだ。その寝顔を見ていると、彼の温かさがじんわりと伝わってくる。



そんな私の思考を遮るように、微かな動きがあった。彼が、目を覚ましたのだ。


「ん……」 小さく唸り声が聞こえた。


私は、身体を硬くしたまま、彼が何かを言うのを待った。

「……起きたのか、エイラさん」 低い声が、すぐ耳元で聞こえた


彼が、目を覚ましたのだ。私の身体は、ピクリと硬直する。

「か、カイさん……」




「……だから、お酒はダメだって言ってただろう」



私は、顔を真っ赤にしたまま、まともに彼の顔を見ることができない。



彼の声には、呆れたような響きがあった。だが、その声の奥には、どこか楽しそうな響きも混じっているように聞こえる。


私は、枕に顔をうずめた。

「うぅ……ごめんなさい」


「君が無理やり引っ張ったんだよ。俺は止めようとしたけど、エイラさんの馬鹿力には敵わなかった」


その通りだ。全て、自分が酔った勢いでやったことだ。


「……ごめんなさい……」

小さな声で謝ると、彼がふっと笑う気配がした。


「まあ、おかげで、凍えずに済んだけどね」


そう言って、彼は、私の頭をポンと軽く叩いた。その手の温かさが、私の心を少しだけ落ち着かせる。

だが、それでも、この状況の気まずさは変わらない。


「今日もさむっ。着替えて早く暖炉に火を入れよう」





寒い中着替えていつも通り朝食の準備をし、開店の準備を始めた。


時々彼を盗み見るが怒って…いない?

むしろ、いつもと変わらない、むしろ少し機嫌が良いようにも見える。

拍子抜けするくらいだ。昨夜のことを根に持っている様子もなく、内心、安堵する。



店を開けても、客足は依然として少ない。来店するお客さんたちが、口々に今年は様子が違うと話していく。


「ほら、あの山の山頂に分厚い雲がかかっているだろう?あれが晴れれば寒波はおさまるだろうけれど今年は全然動く気配がないよ」


と、常連さんが教えてくれた。私と彼は顔を見合わせた。皆が「備えろ」と言った意味を、今さらながらしみじみと感じている。

薪の配達は明日。多めに納入してもらって夜通し焚いたら何とかなるだろうと彼も言っていた。だが、それはあくまで明日からの話だ。



それでも、今夜はどうしようもない。

相変わらずの極寒が、今夜も続くのは確実だろう。

寒波の影響で客足も少ない。

午後の商品の追加分はなしにすることで私は時間が空いてしまった。


その時間を利用して、寝具店に毛布を追加で買いに行くことにした。一枚でも増えれば、今夜の寒さが少しは和らぐかもしれない。


「カイさん、私毛布を一枚買い足しに行ってくるから店番頼める?」


「いいよ。ついでに俺の分も買えたら買ってきて」


私はコートにマフラーを羽織って北風吹きすさぶ中、お店に走った。

足早に数軒の寝具店を回る。だが、どの店でも信じられないことに同じようなことを言われた。


「この寒波で手ごろなのは売れてしまったのよ」


「一昨日あたりまではあったんだけれど、売り切れてしまったの、ごめんなさいね」


ものすごく高級な毛布はあったけれど、あれはとても買える値段じゃない。

何件回っても状況は変わらず、がっくりと気を落として帰宅すると、彼が心配そうに尋ねてきた。



帰宅すると彼が「お財布忘れた?」と聞いてきた。



そう思うわよね、まさかど町のどこを探しても毛布が売り切れだとは思わないわよね。

私は、ほぼ売り切れで、あっても超高級なのしかなかったと報告するしかなかった。


「あー…」


彼もかける言葉がないようだ。


二人とも、完全にこの寒波を見誤っていた。



私は、再び重い溜息をついた。今夜もまた、あの状況が繰り返されるのか。










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