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49 カイの挑戦、新たな看板商品

新年3日目。


体の痛みはだいぶ良くなった。

明日からの仕事には影響なさそうだ。


休暇最後の日、今日は彼女にドーナッツを教えてもらうことになっている。

薬菓はともかく、店の商品のほとんどは彼女が作っていて俺はその一部を手伝っている程度に過ぎない。

このドーナツは1から自分で作って商品として並べるという、俺にとっての新たな挑戦だった。


朝食を済ませ、厨房に立つと、彼女はすでに材料を並べて待っていた。

「材料はここに書いている通り。カイさん、計量は大丈夫でしょ?」


俺は言われるがままに計量し、ボウルに材料投入していく。

材料を混ぜる時のコツなどを教わり、型を抜いて揚げる直前まではできた。

ここからが問題だ。

揚げ物の経験がない。



恐る恐る、一つ目のドーナッツを油に近づける。

「あち!」

熱い油が跳ねて、思わず手を引っ込めた。


「そっと油に入れて。油が跳ねてやけどしちゃうから」

彼女の注意が飛ぶ。次は慎重に、ゆっくりと油の中に滑り込ませた。ジュワッと心地よい音がする。だが、すぐに異変に気づいた。



「うわぁ!なんか煙出てきた!」

「カイさん、火、強い!」


始めの数個は、見るも無残に焦げ付いて、中は生焼けという悲惨な出来栄えだった。


「大丈夫よ。初めてだもの」

そう言って優しくし励ましてくれる。



次は火力を弱めすぎたのか、油の温度が低すぎて、なんだかべっちゃりとしたドーナッツが出来上がってしまった。油を吸いすぎて、ずっしりと重い。


「はぁ、うまくいかないもんだな…」

思わずため息が漏れる。


「生地はちゃんと出来ているから、揚げるのさえ出来ればおいしいのができるわよ、早くおいしいドーナツ食べたいな〜」


「プレッシャー怖いよ」


そうやって励まされながらやっているが油の温度というのがよく分からない。手を入れてみるわけにもいかないし…勘でやるにはあまりにも無理がある。


「エイラさん、いまいち適温ていうのがわからないよ」


俺が正直に告白すると、彼女は「そうよね…私も一番最初は焦がしたりするもの…あ!」と、何か閃いたような声を上げた。




そう言って彼女はパンを持ってきた。

それを少しちぎって油の中に落とす。


ゆっくりと油の中に沈んでいく。そうして、しばらくするとゆっくり浮き上がってきた。


「これ、覚えててね」


そう言って少し少し火を強くした。

そうして同じようにまた油にちぎったパンを落とした。

今度は先ほどよりは早く沈み、細かい泡を出しながら浮きがってきた。


「違い、わかった?」


俺は頷いた。


「今のが適温。これより早く浮いてきたり、パンの色がすぐ色付いたらちょっと油の温度は高いかな?」


なるほど、なんとなくわかった…ような気がする。


適温と思われる油にそっと跳ねないようにドーナツを入れる。

カラカラと軽い音がして油の中でドーナッツが踊る。先ほどよりゆっくりと色付いていく。理想はこの間彼女が作ってくれたドーナッツのこんがりとした、食欲をそそる色だ。


このへんか?というところでドーナッツを油から上げた。


いい感じなのでは?


最後のドーナッツが上がった頃には1つ目が冷えて食べ頃になっていた。


「先生、味見をお願いします」



彼女はニコニコしながらドーナッツを手に取り、半分に割り、片方を俺にくれた。


2人同時にドーナッツを口に頬張った。


外はカリッと、中はふんわり柔らかく優しい甘さが広がる。


「おお!エイラさん、いい感じじゃない?!」

俺が興奮気味に言うと、エイラも目を輝かせた。


「おいしい!お店の看板商品になっちゃうわね」


「本当に、店に並べても大丈夫?」


「もちろんよ!あと何回か練習して、失敗を減らしたら新商品として出しましょう!

私、これにチョコとかナッツ付けたい!」


彼女目が、輝いている。その姿を見ていると、俺までワクワクしてきた。


「良いね。夢が広がるね」


「カイさんが、これをマスターしたら、次はふんわり中にクリームの入ったドーナッツの特訓よ」


「え?」


「カイさん、ドーナッツってこれだけじゃないのよ」


「…いや、知ってるけれど」


俺は過去に食べたことのあるドーナッツをいくつか思い出してみた。


「チュロスも食べたいし楽しみ〜」


そっちもか!



まあ、確かに1種類より何種類かできるようになるのは悪いことではない。


なんか、まんまとはめられた感はあるが。


まあ、彼女が喜んでるし、店のためになるならそれはそれでいいか。








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