41 年末の騒動 回し蹴りとジャスミンの香り、切ない予感。前編
クリスマスも終わり、町は一層せわしない雰囲気になった。
店の方もおかげさまでクリスマス後も客入りがよい。
忙しいながらも充実した日々を送っているとあっという間に年の瀬になった。
1年の終わりの12月30日、商店街の人々はそれぞれいくつかの飲み屋に分かれて1年の締めくくりとして打ち上げを行うらしい。
自由参加だが、彼女も行ってみたいというのでふたりで参加することにした。
俺も、飲みの席は好きだ。
今年最後の仕事を終え、明日からはしばらく休業た。
結構ギリギリの時間までお客さんが来てくれたので閉店時間はとっくに過ぎてしまった。
急いで片付けて、支度をして、メアリーちゃんがいるとあらかじめ聞いていた居酒屋に出かけた。
出かける前に「外でお酒は飲まない」を念押しした。今日はたくさんの人が集まっているのだ、その中でこの間のような状態を世間に晒したらエイラさんの身が危ない。
ここの居酒屋はメアリーちゃんをはじめ、割と若めのメンバーが集まっているようだ。
彼女は、すぐに若い女性が集まっているテーブルに連れて行かれた。
少し戸惑っているようだが、メアリーちゃんがいれば大丈夫だろう。
俺は俺で商店街の息子達が集まっているテーブルの仲間に入れてもらった。
普段は街を出ているが、帰省で戻ってきているという若者たちも多かった。
しっている顔と、知らない顔が半々くらい。
郵便配達員のダニエルもいた。
まあ、話題になるのはエイラさんのことだよね。
どこであんな美人を見つけてきたのだとかなんだとか。
普段何をしてるのとか、何が好きなのか、とか。
御子様に彼女を重ねすぎているためか、皆、なんか神聖化しすぎている。
いや、普通に人間だから。
なんなら、ごはんはいっぱい食べる方だし。
疲れてたらソファーで居眠りとかしてることあるし。
二日酔いにもなるし。
1番困った質問が、「夜はどうなのか」というやつだ。
うわー、答えられないやつ。
そうだよね、俺ら、新婚さんって設定だもんね。気になるよねー。
ワインで酔った時の、あんな感じの顔をするのかな?、とか、この間、屋根に上がった時見えた白い足とかを一瞬想像したがこれ以上はだめだ。
「そんなの、お答えできません」、で乗り切った。
周りの男どもは残念がったが、話題はすぐに次に移った。
そうしてどうでもいい話をしながら盛り上がってだいぶ酒が進んだ頃それは起こった。
「てめぇ、俺に逆らうのか!」
「当たり前でしょ、なんであんたなんかにお酌しなきゃなんないのよ!」
いかにも暴れん坊、な感じの男と、メアリーちゃんだ。
男が若い女の子たちの集まっているところに強引に入り込んで酌をしろと言ってきたらしい。
「女はよぅ、黙って男の言う事聞いてればいいんだよ!」
「あんたなんて男じゃなくてただの厄介者よ!」
酔っぱらいと頭に血がのぼったメアリーちゃん。
これはすぐには収集が付かない。
そう思っているうちに男は無理やりメアリーちゃんの腕を掴んで連れて行こうとする。
「痛い!離せ!」
これはまずい。
俺は極力刺激しないように間に入った。
「おにーさん、ほら、この子、痛がってるからさ、離してあげて?お酒はさ、楽しく飲んだほうがいいでしょ?」
「あぁ?てめえには関係ぇねぇだろ!」
そう言って男はメアリーちゃんは離したが、今度は俺の胸ぐらを掴んだ。
あー、これ、酔っ払ってて聞く耳持たないやつだ。一発殴らせたら気が済むかな、なんて考えていたら突然、
ドスッ
と乾いた音がした。
音がした先には食事用のナイフが壁に深く刺さっていた。
え、どこから?
しんと静まり返った店内に、誰もが息を呑んだ。
「…今はわざと外しました。その人を離してください。じゃないと次は当てます」
声の主はエイラさんだった。
目元が赤い、あれ?お酒飲んじゃった?
瞳は燃えるような色なのに、なぜか氷のような冷気を感じる。
手には2本のナイフが光っていた。
「あぁ?何言って…?!」
男が吠えるのを遮るように再びドスッと音がした。
一瞬の間のあと、男の頬から血が流れた。
またもや壁には2本目のナイフが深く刺さっている。
「今度は真ん中に当てます」
真ん中ってどこ?!
そう言って3本目のナイフを投げようと構えた瞬間、男は俺を離してあろうことが、彼女に近づき、胸ぐらを掴んだ。
これは本当にだめなやつ!
「いい加減にしろよ!」
俺はふたりに駆け寄って男に掴みかかった。
でも、圧倒的な力の差。
俺はあっという間に男に殴られたようで、そこから、
記憶が、
ない。




