37 お酒の失敗、二日酔いの朝、初めての贈り物 後編
翌朝、気づいたら、私は自分のベットにいて、服は昨日のままだった。
今、何時⁈
え?10時⁈
寝坊だ!お店!!
と、思ったが今日は休みだった。
我にかえったらひどい頭痛を感じた。
ガンガンする…。なにこれ…。
とても喉が渇いたのでとりあえず1階に降りた。
当然彼はすでに起きていて、新聞を飲みながらコーヒーを飲んでいた。
「エイラさん、おはよう」
彼はいつも通り明るく挨拶をしてくれたが私はその声すら頭に響いて挨拶を返せない…。
「大丈夫?」
私は入口のドアにもたれかかって
「頭、すっごく痛いです…」と、答えるだけで精いっぱいだった。
「それ、二日酔いだよ」
彼は笑って教えてくれた。
ああ、これがお酒の失敗ってやつなのね。
私は昨日のままのしわくちゃのままの服で、頭もボサボサ。
でもそんなのどうでもいいくらい具合が悪い。
彼がレモン水を持ってきてくれて一気飲みをしたら幾分らくになった気がした。
最悪だ…。
用意していたクリスマスプレゼントも渡せず。
おそらく、ベットまで連れて行ってくれたのも彼だ。
消えちゃいたいくらい居たたまれない…。
水分取って、寝ているしかない、薬があったら飲めばいいよとアドバイスをもらい、私はお店に置いてある薬菓を自分のために取ってくる羽目になった。
まさか自分がお世話になるとなんて。
その姿を見て彼も笑っていた。
そのおかげか、夕方にはだいぶ具合は良くなった。
明日まで治らなかっただどうしようと思っていたので良かった。
夕食は昨日のディナーの残りで済ませた。
今日はさすがに作る気力もなかったので昨日たくさん作っておいてよかった…と心から思った。
こんなはずじゃなかった。
本当は残ったチキンをパンに挟んで、分厚いサンドイッチにするはずだったたのに。
夕食を終え、お茶と一緒に昨日のケーキを食べていたら、ふと、思い出した。
クリスマスプレゼント!!
私は急いで自分の部屋に戻って昨日渡すはずのプレゼントを取って戻った。
「あの、本当は昨日渡すつもりだったんだけれど、私途中で寝ちゃって…」
そう言って私は手の平大の青い薬缶を差し出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
そう言って彼も自分の部屋から何か持ってきた。
「これ、俺から!」
そう言って目の前に差し出してくれたのは立派な装丁の本だった。
「え?私に?くれるの?」
「そう、クリスマスプレゼント!」
お互いなぜか気まずい雰囲気になったが彼が薬缶を、私は本を手にした。
「これ、花の図鑑?」
その本は装丁が立派なだけあってずっしりとした重みがあった。
おそるおそる一ページ目から開いてみると、「春」の記述があり、たくさんの色が目に飛び込んできた。
「すごい、きれい…」
見たことのある花、そうでないのまで、四季折々の花が鮮やかな色彩で描かれていた。
「古書でごめんね。でも、すごいきれいだったから思わず買っちゃった。エイラさんがこれからお菓子の新作とか考えるときの参考になるかなって」
そこまで考えて、私に贈り物をしてくれたってことに私の胸はいっぱいになった。
誰かが自分を思って贈り物をしてくれるだなんて…。
「ありがとう、すごくうれしい。私、誰かからプレゼントをもらったことって今までなかったから、すごく、うれしい」
「ええ?そうなの?だったらもっと考えればよかったー」
彼はそういうけれど、私はなんだか涙が出そう。
「ううん、これで十分、本当にうれしい、大事にするわ」
私の言葉に、彼は満足そうに頷いた。
「で、エイラさん、これって何?なんかいいにおいするね?」
彼が私が渡した薬缶のふたを開けて聞いてきた。
「肩凝るって言ってたでしょう?それ凝ったところに塗ると血行が良くなるから少しは楽になるかなって。香りは、好みがわからなかったから私の趣味でごめんなさい」
「これ、手作り?」
「うん、薬菓師は薬のことも勉強しているから…」
「俺、勝手に使ってたけれど、お風呂場の石鹸ももしかして手作り?」
「あ、別に構わないで使って。その辺は趣味みたいなものだから」
「最近、首も凝るんだよね。じゃ、さっそく塗ってみようかな」
そう言って薬を取って首の後ろに塗ろうとするが髪の毛が邪魔をしてうまく塗れないようだ。
私は彼の後ろに回って手伝おうとした。
「カイさん、髪の毛だいぶ伸びたわよね?」
「そうなんだよ、切りたいんだけれど、床屋のおじさんこの間からぎっくり腰で店休んでて困ってるんだよ」
そうだったんだ。
私は彼の髪の毛をかき分けて首筋に薬を塗ろうとした。
そこで初めて私は気が付いた。
彼の首に首飾りが付いているのを。
何気なく口から出てしまった。
「意外、カイさんってこういうの身に着けるタイプじゃないと思っていたわ」
はっとした。
いけないことを言ってしまったのではないか。
「確かにこれくらいしかアクセサリー類って身につけないね。大事なものは身に付けないとなくしちゃいそうで。あ、でももっと若い時はピアスとかしてたよ。最近してないから穴なくなっちゃったかもだけど」
彼は笑いながら何でもないように答えてくれた。
私は首飾りを避け、首の後ろに薬を塗った。
余った分を耳の後ろにも塗った。
「ここにもつけるとすっきりしてよく眠れるの」
「おおー、最初なんかスースーすしたけれど、あとからあったまってきた感じする。実用的で助かる、ありがとう」
彼にお礼を言われてうれしくなった私は最後に、サービスですと言って背中のマッサージをしてあげた。
こうして、この町での初めてのクリスマスは少しの失敗はあったものの、目的はすべて達成できて終わった。




