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36 お酒の失敗、二日酔いの朝、初めての贈り物 前編   

年末の慌ただしさは想像以上だった。

彼の包装技術が広まって贈り物用に品物を求める人が増えた。

それに加え、季節的に薬菓もよく売れた。

冷え性、免疫増強、あと飲み会なども多いため二日酔い改善などこの辺はある程度予想を立てられていたのでなんとかなった。


クリスマス当日にどれくらいお客さんが来るか分からない、というのが私も彼も悩んでいた。

とりあえず、今年は予約制にしてある程度数を把握しようとのことで当日はそれほどバタバタはしなかった。


最後の予約客を見送って今日のお店はお仕舞。

営業時間の延長も予想されたが以外にほぼ予定通りに閉店することができた。


周りに倣って明日は定休日だ。



お店の掃除や片づけは彼に任せ、私は本日のディナーの準備に取り掛かった。

数日前から準備していたものもあるから、意外と今日の作業は多くない。


憧れのチキンのロースト。

ソースにも凝ってみた。

パスタのカネロニ、これはチーズが好きな彼のためにたっぷりと。

サラダは柑橘の風味のソースを。

ここまでで手がいっぱいになってしまったのでスープは簡単に野菜のスープだ。


あとはドライフルーツのケーキ。これは少し時間を置いた方がおいしいので数日前にすでにできていた。


それらを食卓に並べていると彼が仕事を終えて戻ってきた。


「エイラさん、すごい豪華!準備大変だったでしょ?食べきれるかな?」

彼の驚いたような、そして心から喜んでいるような声に、私の胸は温かくなった。



完全に私の好みで作ったので口に合うか心配だったが彼はたくさん食べてくれた。

ケーキに至ってはお代わりもしてくれた。


彼の姿に、私の心は満たされていく。彼が、私の作った料理をこんなにも喜んでくれることが、何よりも嬉しかった。

すこし準備は大変だったがこんなにも彼が喜んくれるなら苦労も報われる。




さすがにあの量は2人でも食べきれず、残してしまったが明日は明日できっとおいしい。

2人で夕食の片づけをしていたら彼が、今日はお茶でなくてワインを一緒に飲もうと提案してくれた。


私は今までお酒を飲んだことがない。

意味は特にないが、そんな機会がたまたま今までなかった、という感じだ。


飲みやすいの選んだという彼の言葉に、私の好奇心は膨らむ。

お酒ってみんな飲むと陽気になったりするけれど、自分はどうなのだろう?



用意したグラスに彼がワインを注いでくれる。

深紅の美しい色がとても映える。


「カイさんってたまに飲みに行ったりウチでお酒飲んでるけど酔わないわよね」

なんとなく、いつも思っていることを聞いてみた。

たまに商店街の人に誘われてか飲みに行っているのも知っているし、自分で買ってきて飲んでいるのも知っている。

でも、酔っているのは見たことがない。


「そうだねー、酒には強い方だと思う」



「今まで酔ったことってあるの?」



「うーん、飲み始めた頃はあったけど最近はないかも?」


そうなんだ、お酒って飲み続ければ強くなるものなのかしら?




「あっついキスでなら酔うかもね、なんてね」



…キスで酔う?どういう意味?何を言っているのか彼の言葉の意味を測りかねて、グラスから顔を上げたけれど彼はごまかすように「乾杯」といってグラスを持ち上げた。


慌てて私もグラスを持ち上げて「乾杯」と返事をした。


恐る恐る一口飲むと、舌の上に甘さが広がる。お菓子ではない、初めての甘さだ。

美味しい。



いっぱい飲み終えるころには体が温まって、着ていたカーディガンを脱いでいた。

もう一杯飲めるとグラスを差し出すと、彼は少し驚いたような顔をしたけれど、ワインを注いでくれた。

私はそれを一気に飲み干した。


「えええっっ⁈エイラさん、大丈夫?お酒、初めてなんでしょ?」

なんだか、彼の声が少し遠い。

大丈夫じゃない、なんて言いたくない。

さっきより頬も熱い、気がする。


もっと欲しいと言ったのに、彼はボトルを私から遠ざけようとしている。手を伸ばしても届かない。


「…暑いだけです、酔って、ない」

そう言っても、彼はボトルを背中に隠してしまう。それでもあきらめられない私は彼をソファーの隅まで追い詰めた。


いつもは彼に見下ろされることが多いけれど、今日は私のほうが上から彼を見下ろしている。

なんだか、彼の顔がいつもより近くに感じる。


「…カイさん、酔わないの?」


私の問いかけに、彼は困ったように笑った。

「エイラさん酔ってるのにこの状態で俺まで酔ったら困るでしょ?ね?」


…キスでなら、酔えるんでしょ?

彼の冗談交じりの言葉が、なぜか頭から離れない。


彼はまた、困ったような顔で「あれ、冗談ね。ちょっとからかっただけ。ごめんね」と答える。

冗談? 私の両手は、彼の肩をがっちりと押さえつけていた。

言葉の意味が、まだよくわからない。



「…やってみる」


「…エイラさん、そーゆーの、したことある?」

聞かれたが、何を言っているのかよくわからない?

私、したことあるように見える?


適当に返事をした。



酔うようなキス。


それを、今、彼と… 頭の奥で、ぼんやりとした衝動が湧き上がる。



彼に、近づく。




時間にすれば、数秒…


でも、なんだかそれよりも長い時間がする…








…私の記憶はそこで途切れた。













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