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30 努力の実、店の成長 

その日の午後、俺は書店に出かけた。


この書店はこの町に一軒しかない。

古い店だが、なかなか品揃えがいい。



今日の店番は、首都から数年前嫁いできたという金の髪をした、お嫁さんのリーゼさんだった。

夫のジェームズさんが店番の時のはその視線が痛くて立ち読みしにくいが、リーゼさんは「本は少しでも、読まなきゃ買うか決められないものでしょ」と言う考えがあるらしく立ち読みには寛容だ。


この書店は新刊も扱うが、古本も充実している。

目的は紙折の本だ。


さっき彼女の前に披露した鳥や花以外は子供の時の記憶でだいぶうろ覚えだ。

彼女が喜んでくれたあれをもっと完璧に、多様な形で披露したい。今後の店にも必要な技術だ。

参考になる本があれば大変助かる。


あまりこの辺では一般的では無いので、案の定取り扱いはなかった。


俺はリーゼさんに新刊でも古書でも何でもいいので東国で出回っている紙折の本の取り寄せを頼んだ。

リーゼさんも興味を持ってくれて「面白そうね」と興味を持ってくれて、「後でちょっと見たい」と言っていた。



夕方、帰ると彼女はソファーで書き物の途中で眠くなったのか、猫のように丸まって眠っていた。テーブルにはレシピのようなノート、メモやスケッチなどが広げられていた。

おそらく、昨晩やっていたことをまとめているのだろう。



おそらく、ほぼ徹夜だったんだろう。

スースーと、規則的な呼吸が聞こえる。




そういえば、彼女は俺より朝は早く起きてる事が多く、大体は既に身支度を終えている。


眠っている姿は普段の、あの凛とした佇まいからは想像もつかない、無防備な姿だった。



普段はその切れ長の目で落ち着いて大人っぽく見えるが、今はその長い睫毛が伏せられ、普段よりだいぶ幼く見える。

思わず、その透き通るような白い頬に触れてしまいたくなった。



たぶん、彼女の生い立ちから想像するに、きれいなもの、かわいいもの、美しいものに触れる機会が少なかったのではないか。


銀の髪や赤い瞳、白い肌が好奇や蔑みの対象となり、「自分」を隠す孤独な生き方へと追いやったのだ。

だからこそ、自分を飾り立てることも、美しいものに囲まれることも、彼女にとっては遠い世界だったのだろう。


彼女の微妙なセンスは、きっと、そうした「知識の不足」が原因なのかもしれない。


しかし、それは決して欠点ではない。


足りないものはこれから、もっとたくさんのことに触れ、経験していけばいい。

彼女は学ぶことへの意欲も、それを吸収する素質をしっかり持っている。


俺は、彼女にもっともっとたくさんのものを見せてあげたいと強く思った。


この世界の美しさ、この人の温かさ、そして彼女自身の秘められた魅力。


さっきのように、俺が折った鳥や花を見て、心底感激した、あのキラキラした顔を、もっとたくさん見てみたい。

彼女の感動や喜びを、俺が引き出してやれたら。





まだ目覚める気配のない彼女が風邪を引かないように俺は自分の部屋から毛布を持ってきて掛けてやった。







彼女の努力のおかげで、店にはまた、活気が戻ってきた。


あのキャンディは店の、1番明るい棚に陳列した。陽の光が透けてきらきらと輝く。

いずれ色や効能を変えて増やしていく計画だ。


思惑通り、後日来店したメアリーちゃんは飛びついて例のキャンディを買い求めていった。


そして翌週、八百屋のおばちゃんが約束通り娘に送るというお菓子を注文しにきた。


以前よりもかわいさや華やかさが加わった店のお菓子に感嘆の声を上げてくれた。


いくつかのお菓子を詰め合わせ、箱にはカラフルな包装にリボン。

紙折はまだ上手にできないので彼女のアイディアでドライフラワーを小さく束ねて飾った。

「贈り物にぴったりだ」とたいそう、おばちゃんは喜んでくれた。


これからのクリスマスに年末の時期は、贈り物が求められる時期だ。


ますます忙しくなりそうな予感がする。



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