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29 感謝と信頼:彼がくれた新しい視点

お昼前、彼が息を切らしながら帰ってきた。



「エイラさん!見て、今日、雑貨屋で面白いものを見つけたんだ」


そう言って見せてくれたのは見慣れない色とりどりの大小様々な紙だった。



「これ、店の商品を包装するのに使えるんじゃないかと思って」


彼の説明を聞きながら、私はその紙を手に取った。色はきれいだけれど、普通の紙だ。

彼はその紙を一枚取り、慣れた手つきでスルスルと折り始めた。あっという間に、一枚の紙が可愛い鳥の形になった。それはまるで、彼の指先が魔法を使っているかのようだった。


「こういうのもできるよ」


そう言って次に作ってくれたのは花の形になった。


「すごい…」


思わず声が出た。一枚の紙が、こんなに形を変えて美しい形になるなんて。



「あと、これ」


手近にあった魚の缶詰を大きい方の紙を使っと包みだした。


上の方をキュッと絞ってそこにリボンを付け、そこにさっき作った花を飾った。


「かわいい…」


「でしょ?今はただ紙袋や箱に入れて渡しているだけだけど、こうしたらエイラさんの薬菓をもっと華やかに見せられるんじゃないかなって。あんまりこういうのってこの辺ではやらないよね?きっと目を引くはずだよ」


確かに、今まで疑問に思わなかったが普段の紙袋よりこういったかわいい状態でもらったら嬉しさは倍増だ。


私が抱えていた「地味」という課題に対し、彼は具体的な解決策を、しかも彼自身のスキルを使って提示してくれたのだ。昨夜からずっと悩んでいた私には、まさに光が差し込んだようだった。


ならば、私も応えねばならない。


私はできたばかりの薬菓を持ってきた。


「これ、新作?」


「メアリーちゃんみたいな女の子だったらどんなのがいいかなって考えて。キラキラするようなもの好きかなと思って試してみたの」


そう言って差し出したのはオレンジ色のキャンディだ。

焼き菓子中心でこういったものはまだ出していなかった。


「味見をお願い」


彼はそう言ってオレンジ色のキャンディを口に入れた。


「ん?今までの薬菓より薬草の風味、しないね?ん?これってオレンジ?」


「オレンジ勝手にもらっちゃった。ごめんなさい」


「いいよ、今日また買ってきたし」


そう言って彼はもう一つキャンディをつまんで上に掲げる。


あ!


そう言って彼はちょっと出かけてくると言ってあっという間に出て行った。




息を切らして帰ってきた彼はガラス瓶をいくつか持っていた。


それをこのキャンディを入れたらいいという。


言われた通りキャンディを瓶に入れる。


ガラス瓶に入ったキャンディは光に透けてキラキラと輝く。

まるであの日メアリーちゃんが見せてくれたブレスレットのように。



そして彼が瓶にリボンとさっき作った花を飾った。


「綺麗…」

思わず声が出た。



瓶の中のキラキラを眺めていて私は、1つの答えが出た気がした。


今までは味や薬効ばかりに気を取られてきた。

これは非常に独りよがりだったのではないか。


お菓子はなくても生きていけるが、あると生活に潤いや楽しみをもたらすものだ。


誰かに贈りたい、喜んでもらいたい…この気持ちが私には欠けていたのではないだろうか。


見た瞬間の、嬉しいや楽しいという感情に味はないが、きっと食べた時に何らかの影響はあるはずだ。


そう思い至ったら、アイディアがいろいろ浮かんできた。



午後は彼も出かけてひとりだったので、私はキャンディのレシピと、思い付いたアイディアを書き留める作業をしていた。


ぽかぽかとした西日のせいか、だんだんとまぶたが重くなりいつしか眠ってしまったようだ。



はっとして目が覚めたら外はもう暗くなっていた。

いつの間にか体には毛布が掛けられている。


掛けてくれたのは彼だ。


その証拠にほんのり、彼がよく食べているオレンジの香りがした。

オレンジは彼のイメージそのままだ。

明るい鮮やかな色は、彼の明るい性格を表しているかのよう。

オレンジの香りは人を癒してくれる効果がある、まさに彼そのものだ。


この短い期間に、彼に何度救われ、励まされたのだろう。彼の存在が、私にとってどれほど大きな支えになっているか、改めて気づかされる。彼がいてくれるだけで、この生活が、どれほど心強いものか。


このまま、もう少しその香りを感じていたかったが、一瞬で現実に戻った。


今、何時?!


夕ごはんの時間!


私は急いで厨房に駆けていった。




「お腹すいたよね?」

と言って彼が夕飯の準備をしていた。


パスタを茹でて作り置きのトマトソースと合わせたものを準備してくれた。


「エイラさんみたいに手の込んだ物は作れないけど」

そう言って笑っていた。



1日走り回っていた彼を差し置いて夕飯作りまでしてもらうなんて。


謝ったら、「そこまで気にする?」と、軽い口調で笑ってくれた。



彼の優しさが、疲れた私の心に染み渡る。

彼が隣にいる安心感と、頼もしさが、私の心を温かく包み込んだ。

この人がいてくれたらどんな困難も乗り越えていける。


そう、強く思えた。


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