28 ガラス瓶に閉じ込めた、希望の輝き
俺は雑貨屋で買ったものを抱えて急いで帰ってきた。
早く彼女に見せたかったし、どんな反応をするかも気になった。
さっそく俺は雑貨屋のおばちゃんに見せたように鳥を、そして花も作った。
「すごい…」彼女はそう言った。
彼女は、素直な驚きを瞳に宿してそう言った。
その声は、まるで子供が初めて魔法を見た時のように、純粋な感動に満ちていた。その反応を見て、俺はしてやったり、と小さく笑みがこぼれた。
さらにこの紙の可能性を見せるために、手近にあった魚の缶詰を手に取って大きい方の紙で包んで見せた。
最後にリボンと紙の花も忘れずに飾る。
ただの缶詰は高級な贈り物のように変身した姿に彼女の目が大きく開かれた。
かわいいと、彼女も感想をくれた。
昔仕事をしていた時に身に着けた技術が、こんなところで役に立つなんて思いもしなかった。
この国ではあまり贈り物には手を掛けない印象だった。
リボン程度は飾るが、簡素なものが多い。
それはそれで合理的だが、特別な日や贈り物には物足りない、と個人的には思う。
俺も四角いものは包めるが、缶詰のような丸いものはちょっと苦手だ。
これから練習をしないと。
そう思っていたら彼女は厨房からあるものを持ってきた。
味見をお願いされ、ひとつつまんでみる。
差し出されたそれはオレンジ色のまるいキャンディだった。
そういえば焼き菓子中心でこういったものはまだ出ていなかった。
口に入れてみると、それは今までのもとは違っていた。
今までのものはほんのりスパイスや薬草の香りがするものばかりだった。
それがアクセントになってそれはそれでおいしかったのだがこのキャンディにはそれがない。
「ん?今までの薬菓より薬草の風味、しないね?ん?これってオレンジ?」
俺の言葉に、彼女は少しだけ視線をそらした。
「オレンジ勝手にもらっちゃった。ごめんなさい」
そう言って謝る彼女。
俺が好きで買ってあったオレンジを使ったらしい。
爽やかな風味と酸味が口いっぱいにひろがり、とてもおいしい。
これで薬菓なのか?
メアリーちゃんがよく買っている美容系の薬菓の形状を変えたと説明してくれた。
もうひとつ、つまんで上に掲げると光に透けて輝く。
そうだ、この間、この町のおしゃれ番長こと、メアリーちゃんが嬉しそうに見せてくれたブレスレット。キラキラしたガラス玉をつなげたような、日の光に当たってきらめくそれは、まるで小さな宝石のようだった。
日に当たってキラキラしてて…
と、あの光景を思い出していたら閃いた!
俺はロクに説明もせず飛び出した。
このキャンディ、アレに入れたら絶対映える!
そう言って雑貨屋にまた戻った。
「あら、カイくん、どうしたんだい?買い忘れかい?」
雑貨屋のおばちゃんは、俺の慌てた様子に目を丸くしている。
息を切らしながら、俺は迷わず窓際にあったガラス瓶の陳列棚を指さした。小さな保存用のガラス瓶が、キラキラと光を反射して並んでいる。
「コレ、頂戴!とりあえず10個!」
一番小さいサイズの瓶を指さし、焦る気持ちを抑えながら代金を払った。おばちゃんが首をかしげるのも気にせず、俺は再び急いで彼女のもとに戻った。
家に着くと、急に出て行った俺を不審に思っていた彼女が、突然帰ってきたことにさらにびっくりしているようだった。
「カイさん、あの…急にどうしたの?」そう言って息を切らしている俺に水をくれた。
差し出してくれた水をありがたく飲み干す。
息を整え、俺は手にしたガラス瓶をエイラさんに差し出した。
「コレ!さっきのキャンディを入れたらいいと思う!」
俺の興奮が伝わったのか、エイラさんはおずおずと、その小さなガラス瓶を受け取った。そして、彼女はゆっくりとキャンディを瓶の中に入れていく。
ガラス瓶に入ったキャンディは、光に透けてキラキラと輝く。
まるで、瓶の中に閉じ込められた小さな太陽の光のようだ。
それに、さっき使ったリボンと、俺が折った紙の花を瓶のふた部分に飾る。
「…綺麗」
彼女の口から、小さな感嘆の声が漏れた。その瞳は、キラキラと輝くキャンディと、それを飾るリボンと花を交互に見つめている。
その表情は昨日からの思いつめた表情から解放されたかのようだ。
思った通りだ。
こんなの女の子、好きじゃん!それに美容にもいいって言ったら、可愛さに加えて機能性まであるんだ。手に取っちゃうじゃん!
ガラス瓶だけでなく、この店の中にも、希望と期待に膨らんだキラキラとした光が差し込んでいる、そんな気がした。




