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23 【薬菓工房 月の光】、いよいよ開店!


私はなかなか寝付けず、少し寝不足で開店の朝を迎えてしまった。

どうせベットに入っても寝付けないので私はそのまま起きて、少し早いけれど仕込みを始めた。


自分のお店がこんなに早く実現するなんて思ってもみなかった。


1人だったらここまでこれなかった。


彼がほとんどの開店準備をしてくれたおかげだ。


例の演算器を使い、夜遅くまで何か計算をしているのを知っている。

限られた資金の中でやりくりを一生懸命考えてくれた。


売り上げからお店の運営費、材料費、資材費などを分配し、さらに生活費、それで残った分をお互いに分配することになった。その分配した分は、彼は借金返済へ、私はお店の買取資金の貯金に回す、それがあまったらそれぞれのお小遣いになる、ということを取り決めた。


売り上げが増えればそれぞれの取り分も増える計算だ。



昨日のうちにできることはやっておいたので今日は開店に合わせていくつか焼き菓子を作る予定。


そう思っているうちに彼も起きてきた。


彼はちょっと寝起きが悪い、というのを最近気づいた。

朝食を食べるまでちょっとぼーっとしているようだ。



少し早いが朝食を食べるか聞いたらそうすると言ったので支度をする。


今日は忙しいので簡単に。


お隣で買ってきたブレッドに目玉焼きとベーコンを焼いたもの。


準備をしようとしたら彼は店の作業をしてていいと言ってくれたので、目玉焼きとベーコンは彼が焼いてくれた。


そうやって朝食を食べながら今日の最終打ち合わせ。


たぶん初日だからそこそこ人は来る、と。

午前の状況を見て、午後にどれくらい追加すればいいかを検討するとのこと。


接客は彼がやってくれるから私は作業に集中していいと言われた。

あと、手が空いたら袋詰めなども手伝ってくれると。


本日のメニューは


りんごとくるみのパウンドケーキ


かぼちゃのスパイスケーキ


栗の蒸しケーキ


ドライフルーツのブレッドプティング


サツマイモのカップケーキ


レーズンのブラウニー


紅茶のビスコッティ


全粒粉のビスケット


薬菓子は体を温める系、免疫系、美容系のものを数種。


数日前から作りおけるものはできだけ多く仕込んだ。



朝食後、開店時間まであとわずかとなった時、私はそっと窓の外を見つめ、深呼吸する。胸の奥に、期待と不安が入り混じった感情が湧き上がる。


彼がそんな私のの様子に気づき、

「大丈夫、エイラさん。俺たちが作った最高のお菓子と薬菓だ。きっとたくさんの人が喜んでくれる」


と、普段の飄々とした口調とは違う、真剣な眼差しで、私の肩をポンっとたたいた。

その温かさに、私の緊張が少しだけ和らいだ。


私はギンガムチェックの三角巾を、彼はタイを付けて準備は整った。





**********************************************

開店の時刻。

扉が開かれ、次々と客が訪れた。


彼が明るい笑顔で「いらっしゃいませ!【薬菓工房 月の光】へようこそ!」と声を上げ、流れるような接客を始める。


私も初めはお店の方にいたが商品の追加のため厨房に戻った。


その間、彼が商品説明や会計をテキパキとこなす。

ここ数日、使った材料や効能などを一生懸命覚えてくれた。


私は奥の厨房からその様子を伺い、彼のコミュニケーション能力の高さに改めて感心する。

「本当に、彼はこの仕事に向いている」と、彼の才能を再認識する。



美容系の薬菓などが女性客の注目を集め、次々と売れていった。

その間、試食をすすめたりしてまんべんなく商品が売れるように工夫をしてくれた。

「わぁ!おいしい!」と、お客さんから感嘆の声が上がる。

私は少し気恥ずかしかったが、自分が作ったものが認められる喜びに胸がいっぱいになった。


昼頃には、予想以上の客入りで、


「エイラさん、午後の追加、多めに焼けるかな?特にかぼちゃのスパイスケーキが人気だ!」と声をかけてくれた。


私は売れ行きへの驚きと、自分のお菓子が受け入れられていることへの喜びで、疲れを感じる間もなく、すぐに厨房で追加の仕込みに取りかかった。





忙しさのピークが過ぎ、少し落ち着いた午後の時間帯。


お隣のアンナさんが「おめでとう!とっても素敵なお店ね!」と温かい言葉をかけて来店してくれた。


私も彼もいっしょにお礼を言った。


アンナさんと一緒に訪れた女性に彼が声を掛けた。

「メアリーちゃん、宣伝ありがとね。リクエストの美容系の薬菓、いい感じに売れたよ」


「試食でもらった薬菓、おいしくてびっくりしましたよ!続けて食べたらほら、肌つるっつる!」とはしゃいで話している。

「ね、続けたらエイラさんみたいになれるよ」なんて言っている。


それを聞いて、誰に頼まれたんだろう?と思っていた美容系の薬菓は、このメアリーという人だったのかと分かった。

話を聞くと、メアリーちゃんはアンナさんの娘らしく、お針子修行のため近くに住み込みで働いていると話してくれた。アンナさん同様、メアリーちゃんも明るく周りをにぎやかにしてくれるような女の子だ。


「エイラさん、あなたに会ってみたかったんです!カイさんの言った通り本当にきれいな人!」

そう言って私の手を取り、両手でぎゅっと握った。


彼は外で何を言ったのだろう。

そして彼の交友関係は、どこまで広がっているのだろう。


そしてメアリーちゃんは薬菓をアンナさんは夫が好きだからと、りんごとくるみのパウンドケーキを買っていってくれた。



夕方になり、客足が落ち着き始めた頃、


「エイラさん、お疲れ様。大成功だったね」と、笑顔を見せてくれた。


私もそれにこたえるように「こんなに充実した日は、初めて」と返した。



まだ、明日の準備もあるからまだ作業はすこし続く。


体はクタクタだが心は興奮していてまだやる気が尽きない。



今日こそは食事の準備は簡単でいいから!と彼は朝のうちに買っておいた、というお隣のパンと昨日の残りのスープで夕食を済ませた。


その後、順番にお風呂に入って倒れるようにベットに入って開店初日は幕を閉じた。






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