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22 薬草香る、菓子の店 開店前夜 

話し合って、店の開店日は11月の初旬に決まった。




バートさんのところで俺は初めて薬草の販売価格を知った。

薬草は単価の高いものがあるので、そこは今は使わず、軌道に乗ったら徐々に販売価格を調整しながらやっていこう。


薬菓は苦いイメージがあるということも分かった。

そもそも薬菓自体なじみがないようなので初めからたくさん品出しして売れ残るのも困る。


ある程度客が付くまではお菓子やケーキをメインにやっていった方がいいと思う。


このように、店に並べる商品の種類について彼女と議論を重ねた。



彼女は薬菓やお菓子を味見をさせてくれる。

そのどれもがおいしい。


うまく言葉にできないが、とにかくめちゃくちゃおいしい。


もともと俺はお菓子より酒の方が好きだから、お菓子に関しては今までこだわって食べていなかった。でも、昔食べたことのある高級なお菓子と同じくらいおいしい。


「材料、普通のものしかなかったよね?」

何回か聞いてもやはり企業秘密だとそれ以上は教えてくれない。


薬菓の方は、ほのかに薬草の香りがするがそれ自体が妙な癖になるというか…。


文句のひとつもないくらいおいしい。


この人、こんな腕持っていてなんで今まで引き抜きされたりしなかったんだ?と不思議なくらいだ。



俺がひとりで味わっていても仕方がない、彼女に頼んで薬菓や焼き菓子を小さく切ってもらった。


それを一つずつ袋につめていく。


「この袋、どうしたの?」と彼女が聞いてきた。


しまった、言おうと思って忘れていた。


俺は経費削減のため、文字だけなら安くできるということで店名のスタンプを作ってもらっていた。

それを包装用の袋に押したものを大量に作っていたのだ。


「印刷所に頼むと高いからスタンプをオーダーして押してみた。文字だけなら安くできるし。手間はかかるけどオリジナル感あってよくない?…あ、相談しないで勝手に決めちゃった…ごめん」


勝手に決めて怒るかな?



「全然。いつもいろいろ考えてくれてすごいなって思ってるわ」

と静かに微笑んでくれた。


ああ、良かった。



さて、これを商店街にこれから配り歩くのだ。


まずはお針子のメアリー、彼女には若い女の子の集客を頼みたい。


牛乳屋のマルクスさんのところも老若男女が集まるからそこで噂を広げてもらいたい。


ここに住み着いてから交流のあったおしゃべり好きの人をピックアップして試食を配り歩いた。

うまくいけば小さい町だ、商店街に降臨した御子様の噂と共に自然と話は広まっていくだろう。



夕方には隣のベーカリー【麦の風】に試食ではない、きちんとした商品を詰め合わせて開店の日を報告した。

この日、初めて隣のパン職人のジョージさんに会った。

いかにも職人という感じで口数の少ない寡黙そうな人だった。

アンナさんが明るくよく喋る人だから店がうまく回っているんだろうな。


俺と彼女が逆転したみたいだと思った。


帰り道、「ジョージさんってパンみたいな人だったね」とこっそり言ったら彼女もそう思っていたみたいでクスクス笑っていた。



その他、いろいろと走り回って俺も彼女も夕食時にはぐったりしてしまう日があった。


疲れているなら無理しないで買ってきて食べようと、提案したこともあったがそれを彼女は拒否した。


無理はしていない、自分は作りたいのだと言った。


俺は外で食べるより彼女の料理の方が断然おいしいのでそれ以上は文句は言わない。


それでも申し訳ない気持ちがあるので、食後の片づけは俺がするようにしている。


その間に彼女がお茶の準備をしてくれる。


昼間作った薬菓や、ケーキなど。

今日はリンゴを使ったケーキを出してくれるようだ。



気ままに土地を変えながら生活していたころには想像できない普通の生活だ。

ほんの数か月前なのに遠い昔のようだ。



あの時、彼女に声を掛けていなければこの生活はなかったんだなとしみじみ思う。


よく、あの提案を受け入れたなと彼女に対して思う。

俺が言うのもなんだけれど、もう少し警戒心を持った方がよいのでは。


いや、最初会ったときは結構警戒心むき出しだったな。


初めは表情が硬く、何を考えているか分からないことが多かったが、最近は口数も増えてきたし、表情のバリエーションも増えてきたと思う。



そんな穏やかな夜を何度か過ごしているうちに、いつの間にか店の開店の前夜になっていた。











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