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19 彩るギンガムチェックと空色のランプ

例の演算器で何やら計算をしていた彼は私が食事を持ってきたのに気づいてテーブルを片付けた。


演算器をどうやって使うのか見たいと言ったら今度見せてくれるだろうか。


今日も彼はおいしいと言って食事を食べてくれた。

食後に剥いたりんごと、昼間の薬菓も喜んで食べてくれた。

今日はこれでお腹がいっぱいになってくれただろうか。


食後に材料の仕入れ先を早くも目処をつけてくれたと教えてくれた。


なんて仕事が早い。



そして、お店の名前も2人で話合った。



薬菓工房 月の光


その言葉を口にした瞬間、胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。


銀髪を「月の光みたい」だと表現されるのは、初めてだった。


私の姿は、何度も好奇の視線を浴びてきた。だが、そこに「美しさ」や「幻想的な魅力」を見いだし、名前にまで込めようとする人がいるなんて思わなかった。


彼が初めて自分を見たとき、そんなふうに感じていたなんて知らなかった。


まばたきをしながら、そっと彼を見上げる。


いつもの飄々とした態度とは違い、ほんの少しだけ照れたように口元を指で触っている。


――ふふっ。


小さく笑いが漏れそうになる。


「響きがきれいね、素敵な名前だと思う」


私は自分の言葉があまりにも柔らかくなっていることに気づき、わずかに頬が熱くなった。


それに、彼は気づいたのだろうか――?



「……エイラさん、太陽だめだもんね、ちょうどよくない?」


彼の言葉はいつも軽やかで、時にからかうような冗談も交じるけれど、その根底には、いつも私への細やかな配慮がある。彼の言葉の優しさに、私の心はいつもそっと包まれるようだ。




月の光


それは、太陽の光とは違いそっと包むような穏やかなもの。


店の名前に込められた意味と、その背後にある彼の気持ち――。


静かに言葉を紡ぎながら、私は改めてこの町の空気が心地よく感じられた。

確実に足をつけて一歩ずつ進んでいる実感ができた。




そこから数日の間は私が試作を繰り返し、彼はお店の外にペンキを塗ったり内装をアレンジして劇的に変化させてくれた。

そういうところに私は、全然頭が回らなかったので助かっている。

そして、彼はセンスがいい。


老若男女が集う場にしたいからと首都のような洗練された雰囲気より、親しみやすさを重視したいと言ってくれた。

でも、田舎臭すぎず適度に都会的な雰囲気を混ぜているようだ。


木目調の内装を生かし、安く譲ってもらったという空色のランプをいくつかぶら下げていた。

灯りを入れた夜もきれいだったし、昼は吹き抜けから入ってくる陽の光を反射して柔らかい光が店内に広がってそれもきれいだった。


そして、水色のギンガムチェックの布を商品棚やカウンターに敷いていた。


同じ布で作った三角巾を渡してくれた。

自分は同じ布でタイを用意したと。

近所の仕立て屋に頼んで作ってもらったのだそう。


「本当はエイラさんのワンピースとか、俺のシャツとかもこれで作れたら制服っぽくていいかと思ったけれど今はまだ資金がないから、そのうちね」


そう言って笑っていた。


いろいろと奔走してくれる彼には大感謝だ。




曇りの日を選んで彼は私をバートさんという人がやっているお店に連れて行ってくれた。


今日くらいの日差しなら目は大丈夫だが、あれ以来2人で出かけるときは必ず腕を差し出してくれる。


私も断らずに腕を取ってしまう。



簡素なテントのお店だったが店内は異国風の品物がたくさんあった。

お店のランプもここで買ったと彼が教えてくれた。


バートさんは私の姿をチラっとみただけで特に何も言わなかった。


彼があれこれ話しかけるのに短く返事をしたり頷いたりしている。


「エイラさん、薬草いろいろあるから見て良いって」


私は彼に呼ばれて店の奥に行った。

そこにはお馴染みの薬草から、なかなか出回らないものなどいろいろ取り揃えられていた。


希望のものがあれば次に立ち寄るまでに取り寄せておいてくれるとのことだった。


バートさんは各地を旅をしているだけあって薬草の知識も豊富だった。

安い時期のまとめ買いの情報も教えてくれた。

それを隣でカイさんがノートにメモしたり、演算器で計算をしている。

演算器を使っているのを見ても、あの球を動かすだけでなぜ数字を計算できるのかよく分からない。



とりあえず私はカイさんのアドバイス通り予算内で薬草を手に入れることができた。








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