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18 銀髪の女神、名前に込めた想い


彼女は日差しを眩しく感じるため外出時間は今後考えないといけないと思った。

それか俺がお使いに行くか。


でも彼女は買い物が好きなようだ。

あれこれ手に取って眺めているのは楽しそうだ。

きっと頭の中では夕食のメニューをいろいろ考えているのだろう。




眩しそうに目を細めている彼女に影を作るように自分が立ったがこれで大丈夫だろうか。

また転んではいけないと思い、とっさに俺の腕に腕を組ませた。


密着したせいで体温以外にも柔らかな感触も腕に当たる。

思ったより…いや、なんでもない。


邪な感想が思わず出てしまうところだった。


近くなった距離のせいで体温がじんわり伝わってくる以外にも、さっき食べた薬菓の香り、花の香りもふんわり感じた。


女の人と初めて腕を組んだわけじゃないんだし、冷静になれ、俺。


彼女が上目遣いで見つめてくる。


…え、この角度すごくかわいい。


大丈夫かと聞いたら、ありがとうと答えてくれた。


俺は気持ちを落ち着けるように冷静になるように努める。

「まあ、いきなり昨日今日会ったような男と腕を組むなんて嫌かもしれないけれど勘弁して。他にいい方法思いつかないや、それに仲良し夫婦もアピールできてちょうどよくない?」なんて早口で捲し立ててしまった。


買い物に寄った店ではすでに俺たちのことはある程度知られているようだった。

そりゃ、こんな田舎町に突然女神さまが降臨したんだもんな。


「御子様」と拝まれたり、「仲良しだねぇ」といわれたり。


そのたびに彼女はちょっと照れたように静かに微笑んでいた。


「御子様」と「仲良し」のどっちに照れているのか俺には分からなかったが。




牛乳が欲しいと言ったら彼女は好きなのかと聞いてきた。


「この国の人って背が高い人が多いじゃん?俺ももう少し、背が欲しいんだよね。弟に抜かされそうだったし」

隠すほどでもないので答えたら彼女は何か考え込んでいるようだった。


やっぱり今からじゃ無理って思った?





帰宅後、俺は資料を広げて帳簿など細かい数字計算をすることにした。

店舗運営にかかる費用、設備投資、あと店の内装も古いままじゃいけないよな。


限られた資金でどうやりくりするか。

俺の腕の見せ所だ。


演算器を取り出してざっくり計算してみる。

一日どれくらい売り上げられるかも予想が立てにくい。

薬草の原価とかも知りたいな。

あ、バートさんのこと彼女に言うの忘れてた。


そろそろ店の名前とか看板とか考えないと、開店前の宣伝もどうするか。


うーん山のようにやることはある。




そうしているうちに彼女が食事を運んできてくれた。


今日はジャガイモのグラタン、ベーコンのスープ、そして感じていた野菜不足を補ってくれるようなサラダ。

こんがりしたチーズの香りが食欲をそそる。

あ、ドレッシングも手作りだ。


俺、ほぼ何にもしていないのに毎日偽装とは言えこんな美人な奥さんにおいしいごはん作ってもらってて罰が当たらない?


「今日もおいしいね、ありがとう」

と言ったら、はにかんだように笑ってくれた。


初めのころよりは笑ってくれるようになったと思う。

少しは打ち解けてきてくれたかな。



食後にはりんごを剝いてくれて、昼間作った薬菓と一緒に紅茶も出してくれた。

いつの間にか紅茶も買っていたようだ。


完璧すぎる夕食に大感謝だ。




**********************************************

食後は昼間あったことの報告をした。


材料の食材の仕入れ先は隣のパン屋さんが紹介してくれること、薬草関係はバートという人が詳しそうだったから直接聞いてみたらいいと伝えた。


薬草に関しては彼女もこの町で手に入れることは難しいと思っていたらしいから安心したようだ。



今日の重要課題。


店の名前だ。


「俺、役所の申請の書類に勝手に【薬菓工房】って書いちゃったんだよね。どうする?訂正した方がいいかな?」


「それでもいいとは思うけれど…。なんかちょっと物足りない気がする」


「だよねぇ、隣は 【ベーカリー・麦の風】で、お客さん入りそう!って名前だよね。どうする?」


彼女も考え込んでいる。


「あ。」


「…いいの思いついた?」


「エイラさんを前面に押し出した名前がいいと思う」


「?」


「エイラさんのその銀髪、俺初めて見たとき月の光みたいだと思ったんだよね。周りが薄暗かったから余計にそう見えた」


「…光らないわよ?」


「例えの話だよ。【薬菓工房 月の光】どう?エイラさん、太陽だめだもんね、ちょうどよくない?土地の女神様にも掛けて神秘的な感じも出るし」


「…月の光…響きがきれいね、素敵な名前だと思う」


彼女の目がそっと伏せられ、長いまつげが揺れる。





そう感想を言った声が優しくて、思わず胸が熱くなった。


俺はニヤけそうになる口元を見られないように手で隠した。



薬菓工房 月の光


エイラさんの神秘的な感じがイメージできて我ながらいい名前だと思う。



これで看板とか内装のイメージが湧きやすくなった。


よし、明日からの仕事がはかどりそうだ。





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