17 まぶしい日差しと、寄り添うふたり
午後から私はいくつかの薬菓を作った。
久しぶりだったけれどちゃんとできた、とは思う。
ただ、まだオーブンの癖が把握できていないので焼き色にムラがある。
ここは今後じっくりと調整していく必要がある。
ちょうど焼きあがった頃、彼が2階から降りてきた。
「これが店の商品になるの?」と尋ねる彼に私は小さく頷いた。
そして薬菓を食べたことがないという彼に私はその特徴を説明をした
・薬ほど即効性はないが体に優しく効果が出ること
・基本は継続的に摂取することが望ましいこと
・薬のように苦かったり香りが強くないように作ること
・即効性が求められる時は需要に応じて調整していくこと
などを説明した。
感想を求めたらおいしい、何か特別なものが入っているかと目を輝かせた。
たいてい初めて食べた人はそういう感想を持つ。
もちろん薬草は入っているがそれ以外は薬菓師の企業秘密だ。
他にもいろいろ作ったので夕食のときに味見をしてもらおう。
少し早いが今日は薬菓作りはここまでにして、そろそろ夕食の準備をしたい。
昨日は思ったより買い物ができなかったから今日こそはいろいろ揃えたい。
「…私、夕食の買い物に行ってくるわ」
「え、1人で?俺も行っていい??」
まだもぐもぐと薬菓を食べていた彼がそう言った。
別に断る理由もないので私は了承した。
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昨日より出るのが早かったせいかまだ日差しが高い。
肌が焼けるほどではないが西日が目に刺さるようにまぶしい。
やっぱり頭巾をかぶればよかったかな…と少し後悔した。
自然と目が細まってしまい、なんだか足元がおぼつかない。
案の定、途中の店舗の看板にぶつかって転んでしまった。
少し先を歩いていた彼が慌てて戻ってきた。
「大丈夫?」
「うん、まぶしくて前がよく見えなかっただけ…」
彼に立ち上がらせてもらいながら、彼が太陽の方向を確認し、私が陰になるように位置を変えてくれた。
「掴まって」
そう言われたものの、どこをつかめばいいか分からずにいた私を見かねて、彼が私の腕を取り、自分の腕に掴まらせた。まるで腕を組むかのように。
突然のことに、私は思わず彼を見上げた。
「ごめんね、気づかなくて。これで大丈夫?」
私は頷いた。
「…ありがとう」
私、人とこんなに近づいたことないかも…。
ましてや男の人となんて。
服の上からも体温が感じられるくらい近い。
「まあ、いきなり昨日今日会ったような男と腕を組むなんて嫌かもしれないけれど勘弁して。他にいい方法思いつかないや、それに仲良し夫婦もアピールできてちょうどよくない?」
彼が私のために考えてくれたことなのに、嫌に思うわけがない。
そんな気持ちは今はうまく言葉にできない。
私は顔を横に振ることしかできなかった。
彼に掴まっているおかげで、その後は一度もぶつかることなく歩くことができた
今日は野菜や果物、缶詰類、卵などを買った。
初めて行ったお店でも私たちのことはすでに知られていて昨日のように「御子様だ」とか「仲良しだねぇ」と言われた。私は困ったように笑うしかできない。そもそも笑えていたのかも分からない。
そのたびに彼が気の利いたことを言って相手を笑わせている。
本当になんて社交的な人なんだろうか。
彼は今日も牛乳が欲しいと言った。
理由を聞いたら、「もうちょっと背が欲しい」と言った。彼の歳でまだ背が伸びるのだろうかと思ったが、口には出さなかった。
今のままでも十分なのでは?特別背が高いわけでもないが低いわけでもないと思うけれど。
いつかそういう効果のある薬草が手に入ったら薬菓でも作ってあげようと思ったが私の記憶ではそんな薬草はない。アガサ婆のレシピにならあるかな?
買ったものを頭の中に思い浮かべて今日は何を作ろうか考える。
帰宅し、手を洗い私は夕食の準備に取り掛かる。
彼は書き物をするとのことで食卓テーブルに何やら資料を広げていた。
今日はジャガイモのグラタン、ベーコンのスープ、そして最近野菜不足だったのでサラダを作ろう。
彼はチーズが好きみたいだから、グラタンにはたっぷりと乗せて、オーブンでこんがりと焼き色をつけよう。
香ばしいチーズの香りが食欲をそそるだろう。
ベーコンのスープは、野菜の甘みが溶け出した優しい味わいにしたい。
疲れていても、温かいスープで体が温まるはずだ。
サラダは新鮮な野菜をたっぷり使い、彩り豊かに盛り付けよう。
ドレッシングも手作りにすれば、より一層おいしくなるだろう。
彼が喜んでくれることを想像すると、自然と笑みがこぼれる。
今日の夕食も、彼は「おいしい」と言ってくれるだろうか。




