15 慣れない感情、褒め言葉と彼の優しさ
私は赤くなった顔が見られないように足早に食器を片付けるふりをして厨房に来てしまった。
今まではなるべく目立たないように息を潜め、自分の気持ちや感情は表に出さないように生きてきた。
いろいろ褒めてくれるのはうれしいがどこまで本気で、演技かよくわからない。
たくさん話しかけてくれるのもうれしいが、どう返したらいいかよくわからない。
食器を洗っているうちに顔の火照りも落ち着いたので戻ろう。
ふと、今朝もらったパンに気が付いた。
残り6個。
どれもおいしそうで、明日の朝が楽しみだ。
私は今朝2個食べておなかがいっぱいになった。
確か彼は3個食べていた気がする。
満足な材料のない、間に合わせの夕食で彼はおなかがいっぱいになったのだろうか。
ふと、考えて私はパンを一個選んで彼のところに戻った。
結局彼は私にパンを半分分けてくれた。
今度からは彼の食べる量はしっかり把握して十分な食事を用意しようと思った。
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彼から契約の重要な見落としがあったと言われた。
【夫婦物件で契約した場合、契約違反(離婚など)があった場合は違約金が発生する。】
慌てて流されるように契約してしまったからうっかりしてた。
格安な家賃には裏があった。
不意に年齢を聞かれた。
彼は私より4歳年上だった。
懐っこい笑顔が多いせいか、彼は実際の年齢より若く見えていたが世間知らずの自分よりしっかり大人だった。
私は今、考えていることを告げた。
5年を目途にお店を買い取り自分のものにすること。
厳しいだろうか。
でも、手を付けていない貯金とこれから貯める分を合わせたらどうにかならないだろうか。
彼の借金も同じくらいの期間で返していきたいとのこと。
その後、私が無事にお店を買い取れば違約金は必要なくなる。
少なくとも5年は目的のため一緒にいることになる。
その間、彼を困らせたり、呆れられないように気を付けないと。
おやすみのあいさつの時に、私は昨日彼が言ったことを思い出した。
【意志の疎通は大事】
だから今日の自分の態度は困ってしまってどうしたらいいか分からなかっただけだ、と伝えた。
彼は何故かほっとしたような顔をした。
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朝、私たちは朝食を食べながら今日の予定を話し合った。
オーブンが使えることも分かったのでそろそろ店に並べるものの試作をしたい。
日中の太陽光が苦手だということを話したら彼は代わりに買い物に行ってくれると言ってくれた。
小麦粉、卵、砂糖などその他食事の材料になる食材をメモにして渡した。
昨日の掃除の際、奥の方から以前この店で使っていたと思わし焼き型がいくつか残されていたのを見つけていた。
これで材料さえあれば作れる。
薬菓に使う薬草は自分がいくつか持ってきている。大量ではないのでこれもいずれ仕入れ先を探さないといけないが、試作程度なら十分だ。
あと、昼食と夕食の材料になる食材もいくつか頼んでおいた。
昼頃に戻ってきた彼が「昨日のアレをまた食べたい」と言ってお隣のパン屋から夕食で食べたのと同じバケットを買ってきた。
あんな簡単なものでいいのか。
彼が買ってきてくれた食材に今回はトマトがあったのでそれとチーズをバケットに乗せて焼いてみた。
「昨日より進化している」と喜んで食べてくれた。
今度はちゃんとトマトソースを作ってやってみようと思う。
厨房の掃除は完了した。
さっそく私は、午後から試作を始めることにし、彼は2階を掃除してくれることになった。
久しぶりに私は自分の薬菓が作れることに喜びを感じている。
覚えたことは今も頭に入っている。
森のアガサ婆がくれたレシピは今もなくさないで大事に持っている。




