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14 それぞれの願いと共同戦線

御子様とやらのおかげで彼女は町の人々から歓迎される存在になった。

出だしは順調だ。


色々な人に引き止められ、帰宅が遅くなってしまった。本当はもう少し生活のものを見て回りたかったんだけどな。


彼女が夕食を作ってくれるということなので俺は掃除が済んだ休憩室兼リビングで昨日読もうと思っていた資料を確認していた。


不動産屋からもらった契約書に気づいていなかった一文を発見した。


これは今後の自分たちの生活に大きく関わる重大な問題だ。


食事が終わったら話し合わねば。


そう思っていたら彼女がが出来上がった食事を持ってきてくれた。


少しの材料しか買えなかったけれど彼女は工夫をして美味しく作ってくれた。


今日のことについて話しながら温かい料理を味わう。


町から町を定住せず生活をしてきた俺は久々に誰かと話しながら落ち着いて食事をした気がする。


「俺は御子様を手に入れたなんて幸運な男ってことになってるらしいよ」


と言うと彼女は


ふふって笑った。


そう、はっきりと笑った。


昨日から微笑んだ程度の表情はあったが今のはしっかり分かるような笑顔だった。


思わず「絶対いいから!笑った方が絶対かわいいから!」と言ってしまった。


言ってから気づいたが俺、昨日会ったばかりの人にかわいいとか軽すぎじゃね?


でも、かわいいとしか表現できない。

どちらかというと切れ長な目でクールな印象の彼女。

かわいいより美人系だが今のようにふんわり笑うとほんとうにかわいらしい。



今日は、少し恥ずかしがったり困ったりと彼女のいろいろな面が見えた。

少しずついろいろな感情や表情を出していってほしいと思う。


でも、彼女は「ここでは誰も見てないから外で私を褒めるようなこと言わなくても大丈夫」と言って空になった食器を持って逃げるように厨房に行ってしまった。




椅子の背に凭れて天井を仰ぐ。

あー、絶対軽い男だと思われた。

思ったことはすぐに口に出てしまう性格が恨めしい。




彼女は厨房で食器を洗っているようだ。手伝いに行きたいけれど「軽い男」認定された男が行っても気持ち悪がられるだけだよなぁ…。


そう考えていたら彼女が皿に何かを入れて戻ってきた。


「…男の人にはさっきの分だけじゃ足りないかなと思って…もらったパンはまだたくさんあるから」


「あ、ありがとう。エイラさんの分は?」


「…明日の朝の分足りなくなると困るから私はいいわ」


「え、そんな気、使わないでよ」


渡されたパンを半分にして彼女に渡した。


少し考えたようだったが素直に「ありがとう」と受け取ってくれた。


見ていると彼女は食べるのが好きだと思う。

いつもすごく味わって食べているような気がする。


「あ、甘い系のだね。柑橘かな?クリームおいしいね」


うんうん、と頷きながら食べている。



せっかくの和やかな雰囲気だがこれから作戦会議をしないといけない。


あー、これ言ったら彼女怒るかな…。





***********************************************


さてさて、見落としていた重大な問題とは。



不動産屋でもらった資料の最後の方に小さく書いてあった。



【夫婦物件で契約した場合、契約違反(離婚など)があった場合は違約金が発生する。】



そうだよなぁ、そもそもが人口減解決のための方策だもんな。

離婚しちゃったら子供どころかふたりとも町を出て行ってしまう可能性がある。


俺の借金はきちんと働いたらたぶん3~5年くらいで返せる、はず。


書類に目を通していたエイラさんに聞いてみた。


「エイラさんっていくつ?」


「22歳、カイさんは?」


「俺は25」


3~5年後、彼女は25~27歳か。


このへんの年齢で俺とこの生活を解消しても、こんなに美しく、かわいらしい人だ。きっと誰かと恋愛をしてすぐに結婚してしまいそうだ。


「…私、5年くらいを目途にこのお店を買い取れたらいいなと考えているの」


「え?そうなの?」


「うん、お店を長くやっていくためにはそれがいいと思っているの」


俺の借金もそれくらいあれば返せるはずだ。


「そっか、買取ができれば違約金は払わなくてよくなるね」


ということは約5年の偽装夫婦生活ということか。

この期間は決して短くはない。


この美しい人の人生を、仮とはいえ夫という立場で独占してしまうことに罪悪感が湧いた。



俺に出会わなくてもこの町にたどり着いた時点で御子様似の彼女はひとりでもうまくやっていけたのではないか。



とにかく、もう、後には引けない。


俺は借金返済のため


彼女は店舗買取のため


お互いの明確な目標を確認したところで今夜はお開きにすることになった。



寝る前、彼女が「あまり褒められると困ってしまう」と言った。



そうか、困っていただけか。


よかった、軽い男と思われていなくて。














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