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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第一部:結界編
8/62

(7) ~ 魔族の本能

今回の話には、ちょっと残酷描写あります。

こういう展開はこれからも増えていく予定ですが……。


皆さん大丈夫そうな;

警告といっても、はい、初登場な人間がアレなだけです。

 しばらくの間、祭壇付近に集まってきた魔族たちとにぎやかな談笑をして、タイキはデルフェールやホロの他に、なぜかゼフィストリーとリッパーを引き連れて、散策を開始することとなった。


「なんっでぇてめぇがついて来るんでぇ!?」

「ああもううざったいだみ声ね。いいでしょ別に私がついていったって! ねぇタイキ~?」

「うん、まあ、そこで後ろからのっかられるとちょっと歩きづらいけど」


 タイキはデルフェールの右隣が定位置で、その反対側にリッパー、腕の中には大人しく抱えられているホロに、そんなタイキを後ろからゆるく抱きしめて、彼の頭頂部に顎をのせているという実に歩きづらそうな姿勢をしているゼフィストリーが並んでいる。

 デルフェールは先ほどから、ゼフィストリーがタイキに何か粗相をしないかとしょっちゅう眺めてくるのだが、彼女はタイキに軽くすり寄るか、怒鳴り声を上げるリッパーに反抗的な口を利くぐらいで。


(確かに、タイキに危害を加えるつもりは無いみたいですね)


 小さく頷き、彼女の腕の中にある少年の顔へ視線を向ける。頭上で飛び交う二人の口げんかに、うるさそうに口をひん曲げてはいるが、決して嫌悪とは結びつかない表情。


「タイキ、あそこが現在、ゼフィストリーが住処にしている森ですよ。よくここまで一人で来られましたね」

「え、こんなとこにあったんだ、ゼフィの森」

「あら、正確にはここもタイキの森なのよ? 私は借り受けているだけ。タイキが命令すれば、この永久墓地で私の居場所は簡単になくなっちゃうのよねぇ」

「しないしない、そんな命令」

「きゃーっ、ありがとタイキ!」

「ぐえっ、締まってる締まってるっ」

「蜘蛛女ぁ! てめぇいい加減タイキから離れたらどうでぇっ!? 見てる方が鬱陶しいわ!」

「うっさいっつってんでしょ、そっちこそ歩く度にガチャガチャとやかましいのよ!」

「んだとぉ!?」

「なによぉ!?」


 タイキを挟んで、ばちばちと火花を散らすゼフィストリーとリッパーの隣で、こほんと軽くデルフェールが咳払いをした。


「お二人とも、タイキにまで危害が及んだら……どのようにするおつもりで?」


 途端、ぎりぎりまで高められていた二人の殺気がしぼむ。リッパーはそっぽを向き、ゼフィストリーはタイキの髪の中に顔を埋めた。


「え、えーっと」

「タイキは気にしなくていいんですよ。ゼフィストリーがアンデットの面々とそれほど相性良くないというのは、まあ仕方のないことですし」

「え、なんで? なんでゼフィとアンデットって仲悪いのさ。デルは普通じゃん。あとホロも」


 ぽんぽんとゼフィストリーの二の腕部分を叩いて励ましながら、タイキはデルフェールに向けて質問する。デルフェールは軽く肩をすくめて、それに答える。


「以前申し上げたように、魔族はさらに四つの種族に分けられて、その四種族の間にもいろいろと複雑な事情やら何やらで、友好的だったり敵対視していたりと、魔族だからといって一括りに出来ない関係があります。アンデットとビーストは……あー、なんですか、その」

「なにか言葉を濁すようなことやらかしてるわけ?」


 いきなり歯切れの悪くなったデルフェールに対し、タイキは迷いながらもゆっくりと踏み込んだ問いかけを繰り返す。と、タイキの頭上で無感動なゼフィストリーの声が、デルフェールに代わって答えた。


「ネクロマンサーは、他の種族の最上級魔族よりも代替わりの時期が早いのよ。で、ビーストのリーダーであるバルバロイ様は、今はコールドドラゴンっていうドラゴンなのだけれど、もうずいぶんと期間が長くて……。昔は、とあるバルバロイ様がその任期を終えたとき、ネクロマンサーはすでに十回以上代替わりをしていたときもあったのよ。まあ、つまり、ビースト以外の最上級魔族は、リーダーとしての研鑚が足りないと、バルバロイ様はお考えになることが多くて」

「あー、それで一番代替わりしまくっているネクロマンサーが、一番魔族のなかで未熟者だと思われていると。なるほどね」


 あっさり納得して、それ以上は特に触れようとしないタイキの顔を、ゼフィストリーは恐る恐るといった風にのぞき込んだ。


「タイキは、怒らないの? 同じ魔族だって言ってても、こんなふうに完璧に隔絶されてて、頭から侮られてるのよ?」

「うん、だって俺、確かに未熟だし」


 さらりと答えて、タイキはホロを抱える腕の力を少しだけ強める。


「デルたちにはもうはっきりと言ったけど、……ゼフィやリッパーさんもうすうす分かってると思うけど、俺、こんな風にネクロマンサーになる前は、普通に人間だったんだよ。だから、魔族の生活にはまだ馴染めないし、リーダーとしての能力なんて今のところ『供給』くらいしか分からないし、ドラゴン相手なんて気後れしまくるし。みんながみんな、俺にとっては先生みたいなものだから。侮られてるとか、まだ、そう思えない」


 もといた世界から落とされて。

 いつの間にか若干体が人外になっていて。

 もとの世界にも帰りたいと、家族や友人たちに会いたいとも思うけれど。

 ここで過ごした時間も、とても居心地が良くて。


「うん、そんなんなら、俺の方のごたごたが落ち着いたら、会いに行ってみようか。そのバルバロイのコールドドラゴン? とやらにね」

「え!? ちょ、タイキっ!?」


 あからさまに狼狽する面々を見て、タイキはくすくすと笑い声を漏らす。


「何も、ちょっとお話ししに行く程度だよ。俺が失礼なことしなけりゃ、そう一発で俺のこと殺そうとか……多分、しないよね? ゼフィ」

「え、ええ……さすがに、多種族の最上級魔族をあっさり手にかけるようなお人じゃないわよ。でも、そんなことして一体?」

「いや、お友達の輪は大きい方が楽しいよってこと。単純単純」


 へらりと笑って、タイキはもう一度ゼフィストリーの二の腕を叩いた。


「どうして俺がネクロマンサーに選ばれたのかっていうのは皆目見当もつかないけど、もし、そういう理由で選ばれたんなら……俺、ゼフィやリッパーさんみたいに、魔族同士で喧嘩するっていうのが少なくなるといいなって思うから」


 タイキの言葉に、ゼフィストリーとリッパーは一瞬だけ視線を交差させる。だが、すぐにお互い仏頂面で、顔を背けてしまった。


「……でも、二人のやりとり見てると喧嘩っていうよりだんだん漫才に見えてきたしなぁ。うん、俺のいたところの変わった言い回しで『喧嘩するほど仲がいい』って言葉もあるし」

「そ、それのどこが仲がいいのよ!?」

「だよなぁっ! 喧嘩するってことは仲が悪いってことじゃあねぇか!?」

「この言葉の裏の裏の意味を、頑張って自分で見つけてください。はいこれネクロマンサーから二人に宿題ね。ちなみに、解答は各自が頑張って考えた分だけあるから」

「それって、解のない問いじゃないですか~」

「へへっ」


 また頭上で口論しつつ、タイキが言った宿題の内容を必死に考えている二人を見上げて、タイキはデルフェールの手を掴み、ホロの柔らかな羽毛に頬ずりした。


「ネクロマンサー、なんだか楽しそうですね」

「うん、いろんな知り合いができて、楽しいよ」

「それは、よかったですね。タイキ」


 ほのぼのとした会話を続けながら、タイキたちは次なるポイントへと歩いていった。



 ※ ※ ※



 最初に、異変に気付いたのはタイキだった。


「……?」


 先ほどまで意気揚々と歩いていたのに、突然減速して、ついには立ち止まってしまったタイキに、デルフェールが心配そうな表情を浮かべてかがみ込む。


「どうしました? タイキ」

「いや、なんか……臭う」

「臭う?」

「うん、これ、まさか……」


 少し離れたところで、まだ口論を続けていたゼフィストリーとリッパーも、タイキの様子がおかしいことに気付いたらしく、慌てて駆け戻ってくる。


「ねえデル、このへんってなんかある?」

「いえ~、特になにも目立つような……あ」


 眉をひそめながら、ゆっくりと思い出すように宙に視線を滑らせたデルフェールは、最後に小さな呟きを漏らす。そんな彼を見下ろしながら、ゼフィストリーが呆れ顔で続けた。


「この辺りは結界の出入り口でしょうに。ここからもう少し右手に進むと、何本かの柱が立っててね。その柱と柱の間が、それぞれ地上にある森への出口になってるのよー。まったく、デルフェールったら引きこもりだからすっかり忘れてたわねぇ?」

「あはは、はい、返す言葉もなく。と、そういうことですけど」


 ゼフィストリーの答えを聞いて、タイキの唇がうっすらと渇いていく。心拍数が上がったのだろうか、彼の腕の仲でホロが心配そうに「ネクロマンサー?」と上目遣いで尋ねてきた。


「どうしてぇ、一体」

「デル、その出入り口、近づくくらいならできるよね?」

「え、ええ。そりゃあできますけど、タイキはまだ結界の外に出たらダメですよー?」

「出ないよ。……うん、近づけるところまででいい、連れてって」

「はあ……あんまり、見るもの無いと思いますけどねぇ」


 首をかしげるデルフェールの案内で、結界の出入り口らしい場所へはすぐにたどり着くことが出来た。すると、タイキが感じていた異臭も、より強くなる。


「…………」

「あら、この臭い」


 顔をしかめて黙り込んでしまったタイキの横で、ゼフィストリーがすん、と軽く鼻を鳴らした。ついで、こぼれ落ちたため息。


「人間の血ね」


 瞬間、タイキが駆け出した。ホロがばさりと飛び立ち、駆け出した彼の後ろでデルフェールが何か叫んでいる。だが、今のタイキにそれを聞き入れる余裕はない。

 とある柱のそばに、それは転がっていた。そばにはデルフェールに似た姿のゾンビが二体と、全長がタイキの身長ほどもありそうな赤い体毛のコウモリ。彼らは、その転がっているものをどうするか話し合うのに夢中で、タイキが近づいたことにも気付いていないらしかった。


「―――あ、あの」

「あ? なんだ、ネクロマンサーの……タイキだっけ」


 彼らに声をかけようとすると、頭上から聞き覚えのある声がしてきた。思わず見上げて、白目のない赤い瞳とばっちり視線が合う。


「り、リジェラス……」

「お、俺の名前覚えてたか。なかなかイイ奴。……で、何? お前もそこの人間つまんでく?」


 空中で何にも触れないまま逆さまになっていたリジェラスは、一度悪魔の翼を羽ばたかせて、くるりと地上に降り立った。そのまま親指を立てた左手で、くいとゾンビたちのいる方を示す。そこで、ゾンビたちはタイキの存在に気がついた。


「あ、ね、ネクロマンサー! おはよう、ございます」

「ん~? あ、この方が今代のネクロマンサーかにゃ。なんとまー可愛らしいお姿で」


 ゾンビ二体は恐縮した様子で頭を下げ、デカコウモリは小馬鹿にしているんだか真面目に言っているんだかよく分からない口調で声をかけてきた。ただ、そんな彼らにも曖昧な返答だけをして、タイキはゆっくりと彼らが囲む、『それ』を見下ろす。

 手足はおかしな方向にねじくれ、指が何本か引きちぎられている。おそらく、体格からして男らしいのだが、右脇腹が完全に切り裂かれており、なかの臓物がずるりと完全にはみ出していた。頭蓋骨は半分以上潰れており、かなりな範囲の血だまりが広がっている。


「これがどうかしましたかにゃー? ネクロマンサー」

「……この、人……外で、拾って?」

「拾ってというか、結界付近をうろちょろしていて、どーやら霧にまかれて道に迷ったみたいだったのですけどねー、他のビーストたちに追い回されてぐったりしてたところを、ちょっと、お腹が空いたもので」


 無邪気な口調で、コウモリはすらすらと続ける。

 それは、魔族の常識。

 魔族にとって、人間とは。


「そこなゾンビも手伝ってくれましてー、今から山分けでもするかにゃ、と思ってたところですにゃ。あ、ネクロマンサーも入り用でしたら、ちょっとおこぼれをもらえたらなー、なんて」


 体大きいから食べれるところいっぱいですにゃ、と言われて、タイキはもう一度、ぐちゃぐちゃになったその死体を見下ろした。そして、


「っ!!!」

「ネクロマンサー?」


 目をカッと見開き、両手で強く口を塞いだタイキを見て、デカコウモリは訝しげに全身を傾けた。その隣で、リジェラスも興味津々と言った様子でタイキの表情をのぞき込む。

 そこへ、白い影が素早く飛び込んできた。思わず飛び退いたコウモリを威嚇するようにして、ホロはその翼を最大限まで広げる。その背に、主を庇いながら。


「ネクロマンサー、大丈夫ですか!?」

「タイキ!!」


 ホロの声に続いて、デルフェールも追いついた。だが、タイキからの返事がない。デルフェールは眉根を寄せて、そっとタイキの肩に手を置き、彼が凝視しているものに目を向けた。そして、顔色を変える。


「……少し、失礼します」


 やや遅れてやってきたゼフィストリーたちを置いて、デルフェールは素早くタイキを抱き上げると、ホロを引き連れてその場を離れてしまった。残された者は、そろって首をかしげるばかり。

 一方、彼らの目にもなるべくつかないような、ちょうどいい茂みを発見して、デルフェールはそこでタイキをゆっくりと下ろす。タイキはまだ、自身の口元をつかんだままだった。


「タイキ、タイキ、すみません、すみません……私の五感が鈍いばっかりに。私がきっと、この世界で一番タイキのことを知っていたはずなのに」


 すみません、と、デルフェールはタイキの肩をそっとつかんで、何度も何度も謝った。しばらくして、ようやくタイキは手を口元からどかした。手の平や口元は、彼の唾液でべとべとになっていた。


「デル」


 濡れた手の平を拭おうと、タイキと地味におそろいになっているポーチからハンカチを取り出したデルフェールは、名を呼ばれてすぐさま顔を上げる。


「はい、タイキ」

「……俺、やっぱり、魔族なんだな。なんか、やっと分かった、かもしんない」


 ぼろりと、タイキの目から大粒の涙がこぼれる。そこで、タイキの顔に浮かぶ表情を見て、デルフェールは理解した。この少年は、気持ちが悪かったから、男がかわいそうだったから、あんな状態になったわけではないのだと。



「俺、俺さ。喜んだんだ。あのコウモリさんに言われて。

人間を、死んだ人、美味しそうって思ったんだ」



 血の匂いが、不快じゃなかった。むしろ、その逆。

 飛び出た内臓が、不快じゃなかった。むしろ、その逆。

 いかがですかと勧められて、断れなかった。むしろ―――。


「俺とおんなじ人間だった!!! あのひっあの人も、俺、俺―――!!!」

「タイキ、タイキ」


 自分の耳を塞いで叫ぶタイキを、デルフェールは泥だらけの腕で抱きしめた。虫食いのシャツに顔を押しつけられて、それでもタイキは、必死にそれにしがみつく。


「魔族は、人を食らいます。転生し、もとは人間だったあなたも、魔族となった今ではそれが根源、本能なんです」

「でも、でも、でもぉ!!」


 昔ならば、あんなものを見たらすぐにでも吐いていた。あんなに長く他人の内臓を眺めるなんてできなかった。それをまさか、食べようと思うなんて!


「やだ、俺、食べたくない。人間、は、やだよ……なんで、俺、食べたいなんて……」

「人は人を食べませんけれど、牛や豚や鳥は食べるでしょう? 生きている世界が違うから。魔族も同じ、魔族同士で食い合うことは滅多にありませんが、魔族は人を食らう……これは、この世界に人間と魔族が生まれたときからの大原則なんです」

「お、俺、人間、だもん……」

「……はい、でも、タイキはネクロマンサーです。私たちの、大切なリーダーです」


 震えていたタイキの体が、デルフェールがゆっくりと背を撫でるごとに落ち着いていく。やがてシャツをつかんでいた手からも、必要以上の力が抜けて、タイキはデルフェールにしがみついたまま気を失った。

 しっかとタイキを抱きしめたまま、デルフェールは、まるで自身が傷ついたかのような表情を浮かべ、薄い唇を噛んだ。血が流れるわけでもなく、あっさりと噛み千切られた唇の肉が、口腔内で揺れる。


「これも、試練ですか? 私のように、タイキにも、魔族に近づくべく科せられた……」


 小さくつぶやかれた彼の言葉は、誰の耳にはいるわけでもなく、そのまま空中に溶けて消えた。


しばらくの間、タイキや彼の周りの魔族たちが悩む事件、発生しました。

もうしばらく、シリアスにお付き合いくださいっ;

次で一応、一段落というか、なんというか。


………


補足するならば。

タイキはもともと人間でしたが、今ではれっきとした魔族なんです。

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